2012年7月24日火曜日

apple


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 appleはリンゴ。だが、最近「アップル」と言えば、すぐに思い浮かぶのは携帯型デジタル音楽プレーヤー、iPodの生みの親である米企業のApple Inc.であろう。1976年の創業以来Apple Computer, Inc.と呼んできたが、2007年1月に社名からComputerが抜けた。もはや主力製品がコンピューターだけではなくなったためだ。
 Apple Inc.のロゴマークの変遷を見ると、創業者のスティーブ・ジョブズ氏が最初に考案したデザインは、リンゴの木の下でアイザック・ニュートンが座っている図。リンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を発見した、という故事に因んだものだ。社名もそのリンゴに由来する。その後、マークは齧りかけの虹色リンゴになり、今は色がグレーになった。
 ところで、appleの起源はインド・ヨーロッパ語のabelで「木の果実」の意味。聖書でイブがアダムに勧めた“fruit of forbidden tree”(禁断の木の実)のことともいわれる。ちなみにAdam’s appleといえば、男性の喉仏のこと。
リンゴの原産地は中央アジアのカザフスタンで、16、17世紀にヨーロッパで栽培が盛んになった。米国に入るのは英国清教徒団「ピルグリムファーザーズ」の入植以降だ。開拓時代、普及に最も大きな役割を果たしたとされるのがJohnny Appleseed(リンゴの種のジョニー)。本名はJohn Chapman(1774-1847)で、マサチューセッツ州に生まれ、キリスト教の布教活動をしながら、リンゴの苗木を育てて売り歩いた。だが、ぼろ儲けをしたのではない。わずか数ペニーで苗を売った。現金がない場合には、食べ物や古着などと交換した。ジョニーはその古着をまとい、裸足で歩いたという。ジョニーの活動は、ニューヨーク、ペンシルベニアから、オハイオ、ミシガン、インディアナ、イリノイ州に及ぶ。リンゴの木は、どこの農家の庭にも見られるようになり、家庭で焼くapple pieは〝お袋の味〟になった。
 20世紀初めに登場した米俗語に「ごますり」を意味するapple-polisher(リンゴを磨く人)がある。学校の生徒が先生に取り入るために、ピカピカに磨いたリンゴを先生の机に置いたことに由来する表現。また、ニューヨーク市のことを“Big Apple”と呼ぶのは、黒人ジャズ・ミュージシャンが大都市をappleと呼んだことに由来する。ニューヨークは、その中でもとくに中心地であるから“the Apple”でありbigの形容詞がついた。このほかにも、appleにちなんだ俗語表現は数十に上る。
 言語学者のジョセフ・シプレー氏は「英単語の起源」(ジョンズ・ホプキンス大学刊)で、「リンゴは米国の起源ではないが、民衆文化にすっかり溶け込んでしまった」と述べ、“as American as apple pie”(アップルパイほどアメリカ的)という表現に、少しも違和感がないまでになったと指摘している。The Sankei Shimbun (May 27 2007)「グローバル・English」はこちらへ