2012年5月29日火曜日

mommy makeover


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 mommyは幼児語で「おかあちゃん」、makeoverは「作り変えること」。つまりmommy makeoverは、「おかあちゃんのイメージチェンジ」。出産して、「おかあちゃん」と呼ばれるようになった女性が、美容整形によって出産前の姿を取り戻すことをいう。
 mommy makeoverはニューヨーク・タイムズで、2007年に流行した“Buzzwords”(難解語?)の1つに挙げられた。mom jobとも言うそうだが、こちらは文字通り「ママの仕事」。
 米国形成外科学会(ASPS)によると、2006年、mommy makeoverの施術は全米で32万5000件以上に上り、2005年より11%の伸び。対象は20~39歳の出産を経験した女性で、一般美容整形の5倍の伸び率を示した。つまり、出産後の女性の〝若返り志向〟が強まっているというわけだ。
 どんなことをするのか?日本語に「たらちね(垂乳根)」という母につける枕言葉があるが、英訳するとsagging breastsで、これを蘇らせるのが、breast augmentation(豊胸術)。さらに、protruding tummy(出っぱった腹)をヘこますのがtummy tuck (腹のしわの縫い上げ)。また、unwanted fat around the hips(臀部についた不要な脂肪)を取り除くのが、日本でも流行のliposuction(リポサクション)。lipo-は「脂肪」を意味する接頭辞で、suctionは動詞 のsuck(吸う)から来る名詞。つまり、皮下脂肪を真空ポンプで吸引すること。これらの美容整形をセットで行うのが、mommy makeoverだ。
 シカゴ・トリビューン(2007年12月16日)によると、「20年前は、こんなことができるとは思いも寄らず、女性は慎重に服を選んで隠す以外になかった」。だが、今では「産後の身体のoverhaul(整備)に必要な手術」がそろったという。
時代とともに雇用環境が大きく変わり、女性であっても男性と対等に働かねばならなくなった。キャリア・ウーマンでなくても、働く女性にとって出産は一大事。とくに職場復帰のためには“post baby tune-up”(出産後の調整)が必要である。男女平等社会とはいえ、男の揶揄(やゆ)の視線を跳ね返して仕事をしていくためには、外見のシェイプアップは欠かせない。 
通常のmakeoverは、new hairstyle(新しいヘアスタイル)とかmakeup(化粧)。フィットネス好きで意志の堅固な女性は、ダイエットと運動に励む。だが、そんなことでは追いつかないのが、“the severe physical trauma of pregnancy, childbirth and breast-feeding”(妊娠、出産と授乳による著しい肉体的ダメージ)だという。“to go back to hourglass figure”(ウエストのくびれを取り戻すため)には、hourglass(砂時計)の時間を逆戻りさせなければならないが、mommy makeoverはそれを可能にするかも・・・。The Sankei Shimbun (February 10 2008)

2012年5月26日土曜日

recession


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 recessionは「景気後退」「一時的な不景気」の訳語が当てられる経済用語。動詞recede(後退する)の名詞形。マクロ経済学の教科書に出てくる初歩の定義では、GDP(Gross Domestic Product=国内総生産)が2四半期(6カ月)以上に渡ってマイナス成長になること。新聞に出てくるrecessionはこの意味で使われることが多い。
 ウォールストリート・ジャーナル(2008年1月31日付)は、“Fed Moves to Curb Risk of Recession”(Fed=Federal Reserve、連邦準備制度理事会が景気後退のリスクを抑制するために動く)との見出しで、1月に2度矢継ぎ早に金利引下げが行われたニュースを報じた。米国の“housing bubble”(住宅バブル)の崩壊で、金融機関などがマネーゲームを繰り広げてきたsubprime loan(サブプライム・ローン)市場が混乱、その影響で株式市場まで大きく値を崩し、「底が見えない」(Market hasn’t hit bottom.)という状況。しかもconsumer spending(消費者支出)などの主要経済指標にも減速が見られる。これら一切をrisk of recessionと表現した。
 もっとも、上記のrecessionの定義は最低条件で、満足する経済学者はごく少数。unemployment rate(失業率)もconsumer confidence(消費者信頼感)も考慮に入れていないなど欠陥がある。
もう1つよく知られている定義は、全米経済研究所(NBER)のBusiness Cycle Dating Committee(景気循環日付判定委員会)の定義。景気にはboom(山)もあればbust(谷)もあるという経験に基づいての観察の指標で、business activity(経済活動)のdownward trend(下降期)としている。
 ところで、よく似た経済用語にdepression(不景気、不況などと訳される)がある。語源はラテン語のdepressare。de-はdown(下方)を示す接頭辞でpressareはpress(押すこと)だから、「押し下げること」を意味する。この言葉は、1929年から1930年代まで続いたGreat Depression(大恐慌)以降、recessionがより厳しく、長引く状態を指すようになった。大雑把な目安として、実質GDPが10%以上下落した場合がdepressionで、それより下げ幅が小さいとrecessionなどと言われる。“A recession is when your neighbor loses his job. A depression is when you lose your job.”(お隣さんが失業すれば景気後退。自分が失業すれば不況、あるいは恐慌)というジョークもある。
さて、米国経済は果たしてrecessionに突入するのだろうか?グリーンスパン前連邦準備制度理事会議長は、2008年1月に各地で講演した中で、「景気後退の確率(the odds for a US recession)は50%」と指摘したが、“There is as yet very little evidence that we have moved into one.”(まだ突入したという証拠はほとんどない)とも言った。The Sankei Shimbun(February 17 200)
 注:グリーンスパン氏の言説は、まったくのでたらめに終わった。世界経済は2007年12月にrecessionに突入、2012年5月現在、なお回復の兆しは見えない。かつて一世を風靡した同氏のご託宣に耳を傾ける人はもういない。
 The 2008–2012 global recession, sometimes referred to as the late-2000s recession, Great Recession, the Lesser Depression, or the Long Recession,is a marked global economic decline that began in December 2007 and took a particularly sharp downward turn in September 2008. The global recession affected the entire world economy, with higher detriment in some countries than others. It is a major global recession characterized by various systemic imbalances and was sparked by the outbreak of the 2007–2012 global financial crisis.

tree hugger


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 treeは「樹木」、huggerは動詞形がhug(抱く)で「抱く人」。tree huggerは文字通り「樹木を抱く人」で、樹木を抱いて守ろうとするようなenvironmentalist(環境保護派)を指す。
 ニュー・パートリッジの俗語辞書(2006)によると、tree huggerの初出は1977年。この何々huggerという表現は、親中国派の人をpanda hugger(パンダを抱く人)というように、軽蔑的な意味合いで使われることが多い。tree huggerも、当初は開発優先の風潮が強く、環境保護派に対する蔑称として登場。ところが、最近では環境保護が世界的な課題になり、tree huggerはむしろ〝正義の味方〟になりつつある。言葉自体も軽蔑的な意味合いが減り、中立性を獲得し始めた。
 米国には、“I’m a tree hugger.”と主張する人たちが増加している。ロッキー山脈の麓にあるコロラド州ボルダー市は、近年マラソン選手の高地トレーニングで知られるところ。ここには、earth-loving people(地球を愛する人々=地球環境保護派)が集まっている。地球温暖化問題がクローズアップされる中、2002年に市議会が率先して「京都議定書」が掲げる目標を採択。2012年までにgreenhouse gas emission(温暖化ガス排出量)を1990年代レベルより7%削減することを決め、2006年に、全米に先駆けて“Climate Action Plan Tax”(気候変動に対する行動計画税)を導入した。これは、carbon tax(炭素税)と呼ばれるもので、具体的にはenergy tax(エネルギー税)として電気代に加算される。一般家庭で月額1・33㌦(150円程度)の課税になる。市はこの税金で、2012年まで毎年100万ドルずつ環境対策の資金を積み立てていくという。
 ところで、本当に樹木を抱いて開発・伐採から守ろうとする運動が、1970年代にチベットに近いインド北部ウッタラーカンド州チャモリで起っている。この運動は“Chipko”と呼ばれ、原義はヒンズー語で「しがみつく」。文字通りのtree huggerだ。森の中で自然と一体の暮らしをしていた村に開発の嵐が押し寄せ、樹木の伐採が始まった。それに対して薪拾いを生活の資にしていた村の女性らが立ち上がり、手をつないで樹木を取り囲み、森林資源の保護を訴えたのだ。この運動は、商業目的の伐採に対する州政府の禁止を勝ち取った。その後も、インド全土に拡大し、自然破壊を伴うダム建設の反対運動などに発展。世界的な環境保護運動に大きな影響を与えている。
 tree hugger が目指すのは、“harmonious relationship between man and nature”(人間と自然の共生)というが、これこそ文明社会が直面しているジレンマだ。われわれは、文明的な生活のために開発を進め、自然を破壊してきた。だが、そのしっぺ返しがわれわれに降りかかるようになった今、自然との〝仲直り〟を模索しなければならない。The Sankei Shimbun (February 24 2008)

2012年5月19日土曜日

racial divide


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 racialは「人種の」という形容詞で、元の名詞はrace(人種)。divideは「分ける」「分割する」という動詞だが、名詞形は「断絶」、最近ではdigital divide(デジタル・デバイド=情報格差)などとカタカナ読みのまま使われる。racial divideは「人種間の断絶」を意味する。
 2008年の米大統領選挙の民主党候補者の指名争いでは、当時黒人候補のオバマ上院議員とクリントン上院議員が接戦を繰り広げる中で、racial divideが大きな課題として浮上した。
 ワシントン・ポスト(2008年2月6日付)は、“Democrats’ Votes Display a Racial Divide”(民主党の票は人種間の断絶を示す)との記事で、African American(アフリカ系アメリカ人)はオバマ氏、Latinos(ヒスパニック)はクリントン氏支持が鮮明になった、と報じた。オバマ氏は黒人の多い州で勝利し、ヒスパニックの多い州はクリントン氏が制したことについての分析だった。ニューヨーク・サン(2月11日付)の見出しはさらに単刀直入で、“Hispanics’ Reluctance on Obama Highlights Black-Brown Divide”(ヒスパニックのオバマ嫌いは、黒と茶色の断絶を浮き彫りにする)といった。
 racial divideの根底にあるのはracism (人種的偏見)であり、肌の色の違いによる差別、対立感情。つまり“color divide”(ニューヨーク・サン)である。
 だが、ヒスパニックと黒人が対立する背景には、実生活において雇用をめぐって職の取り合いをするなど厳しいライバル関係にある事実が挙げられた。しかも、中南米からの移民によるヒスパニック人口の急増が黒人層を圧迫するようになり、対立に拍車を掛けている。危機感を深めた黒人層はオバマ氏を支持し、選挙戦の強力な推進母体になってきたが、他の人種からの反発も聞こえた。4月22日に予備選が予定されているペンシルベニア州では、クリントン氏の強力な支持者であるレンデル知事が、「オバマ氏に投票しない白人もいる。彼は黒人だから」と語り、それが現実である(AP通信)。
 もっとも、オバマ氏自身は、父親がケニア出身の黒人、母親が白人の混血である。だが、容貌が黒人であるため、アフリカ系アメリカ人として注目され、その中で政治家として頭角を現した。彼は、人種偏見と戦い、道半ばで暗殺された公民権運動指導者キング牧師(1929~68)の〝後継者〟として、カリスマ的存在にのし上がった。
 オバマ氏は、racial divideを乗り越えて、人種の融和を呼びかける。“There’s not a black America and white America and Latino America and Asian America; there’s the United States of America”(黒人のアメリカも白人のアメリカも、ヒスパニックのアメリカもアジア人のアメリカもない。あるのはアメリカ合衆国だ)。この言葉が、多くの米国人の心を打った。The Sankei shimbun (March 2 2008)
 注:だが、オバマ氏が大統領になった今も、残念ながらracial divideはなくならない。
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2012年5月17日木曜日

pardon



 pardonは「許し」。許しを請うという意味で“I beg your pardon.”は、最初に習う英語のフレーズのひとつ。「ごめんなさい」「もう一度言って下さい」など状況に応じていろいろな訳が付く。が、ここでは「恩赦」、とくにPresidential Pardon(大統領の恩赦)。
 米国大統領は、海外に軍隊を派遣する権限や、連邦議会で可決された法案が気に入らなければ拒否(veto)する権限などのほかに、絶大な恩赦の権限を持つ。すなわち、弾劾(impeachment)以外、ほとんどどんな犯罪者でも赦免や減刑できる権限を合衆国憲法で保障されている。大統領への恩赦の陳情は絶えず、司法省には専門の“Office of Pardon Attorney”(恩赦法務官室)があり、審査を行っている。
 どの大統領も任期の最後の年には寛大になる傾向があり、ニューヨーク・タイムズ(2008年2月4日付)の“Begging Bush’s Pardon”の記事は、ブッシュ大統領の最終年に当たる今年も恩赦への期待が膨らんでいる、と報じた。
 ブッシュ大統領は就任当時、「恩赦は公正に行いたい。私の基準は高い上にも高い」と公言し、無闇に恩赦を与えないことを表明した。それだけに、戦後の歴代大統領の中では最も恩赦請願の却下件数が多い。これまで7年間の在任期間に5966件を却下、これはクリントン政権の2倍、レーガン政権の5倍という。2008年1月1日現在、2501件が未審査のままで、恩赦請願者からすれば「大統領はしみったれ」と評判はよくない。
 ブッシュ大統領は2007年7月、CIA(中央情報局)工作員の実名漏洩事件で禁固2年6カ月の実刑判決を受けたリビー元副大統領主席補佐官に対し、「実刑判決は重すぎる」として、禁固刑を免除する決定をした。この恩赦には、民主党から権力濫用だとの批判が続出した。
 米国史上評判が悪かった恩赦は1974年、ウォーター・ゲート事件で辞任したニクソン大統領に、後継者となったフォード大統領が赦免を与えたケース。この結果、フォード大統領は1976年の選挙で敗北したと言われている。
 評判が悪いのは、共和党大統領の場合に限らない。民主党のクリントン大統領は2001年1月、退任直前に一挙に140人を赦免したが、その中に脱税容疑で国外逃亡していた億万長者のマーク・リッチ氏が含まれていた。リッチ氏は、前妻を通じて大統領図書館に多額の寄付をし、ヒラリー・クリントン上院議員にも献金していた、という。このため、恩赦権限を濫用したと批判された。
 恩赦はもともと専制君主が行ったもので、恣意的になりやすく、濫用の危険性が指摘されてきた。大統領の恩赦もその弊害を免れない。だが、恩赦権限を制限するためには憲法修正という大手続きが必要だ。民主・共和両党とも自ら権力を手放すわけがないから、“Mr. President, I beg your pardon.”の陳情は続く。The Sankei shimbun (March 9 2008)

say on pay


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 sayは「言う」という動詞で、名詞としては「意見」。payは、動詞では「支払う」。日本語でも「ペイがいい」などというように、「給料」「報酬」という名詞でもある。そこで、say on payは、「報酬に関する意見」。問題は誰の報酬で、誰の意見か、ということ。ここでは、大企業の役員報酬に関して株主の意見を諮ることを指す。
 ウォールストリート・ジャーナル(2008年2月27日付)は“‘Say on Pay’Gets a Push, But Will Boards Listen?”(「報酬への意見」は後押しされるが、経営陣は耳を貸すだろうか)との見出しで、“activist shareholders”(モノ言う株主たち)の圧力が高まる中で、企業内でも役員報酬に関して株主の意見を聞こうとする機運が出てきたと報じた。
 大手通信事業のベライゾン社が、各社に先駆けて昨年5月の株主総会で役員報酬額の賛否を諮ったところ、賛成は50・18%と過半数をわずかに上回る程度だったという。この採決に拘束力はないが、ニューヨーク・タイムズ(2007年5月19日付)は、“Say-on-Pay Gets Support at Verizon”(ベライゾンで「報酬への意見」は支持)の記事で、“the clearest sign yet of investor irritation over chief executive compensation”(トップの報酬に対する投資家の苛立ちを示すこれまでの明らかな兆候)と書いている。 
これを受けてゼネラル・エレクトリックやIBMなどが、今年の株主総会で“say on pay”を検討しているという。
 実際、米国の大企業の役員報酬は、大リーグのスター選手の年俸並みに突出しており、しばしば批判されてきた。たとえば、ベライゾンのCEO(最高経営責任者)の報酬は年間ざっと2千万㌦(約22億円)、過去5年間で1億㌦に上ったという。大企業のCEOと一般社員の給与格差は200-300倍という大きなもので、ここ半世紀で10倍以上になったとの試算もある。ウォールストリート・ジャーナルは“Executive pay has been climbing at rates as high as 13% a year.”(役員報酬は、年率最大で13%の伸び)と「生産性や成長率を上回っている」と指摘。
 なぜ、こんな格差が生まれるのか?役員報酬を役員自身が決めるという〝お手盛り〟だからである。それだけに、誰かが監視の目を光らすべきだという意見が出てくるのは当然。“say on pay”は豪州、英国など制度化されてきたが、米国では昨年、〝経営者報酬監視強化法案〟として米議会下院で可決、上院で審議されることになった。
 “say on pay”が法制化されれば、corporate governance(企業統治)に変革が起こることは間違いない。だが、経営陣の抵抗は大きい。こんな法律ができたら、業績を上げるのはもちろんのこと、株主に対してこれまで以上にペコペコしなければならない。大企業のCEOなんかやるもんじゃない、ということにもなりかねないから…。The Sankei Shimbun(March 16 2008) 

 注 On July 31, 2009, H.R. 3269, the "Corporate and Financial Institution Compensation Fairness Act of 2009" passed the House of Representatives. The House bill included a section that allowed for a 'say on pay' for all public institutions in the United States. Additionally, it had a provision for a shareholder vote on golden parachutes. In the Senate, Senator Charles Schumer has introduced the Shareholder Bill of Rights. The House and Senate bills were reconciled in a final bill that was signed by President Obama on July 21, 2010 called The Dodd–Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act.

2012年5月15日火曜日

endorsement


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 
 endorseはカタカナ読みでは「エンドース」。元の意味は手形などに「裏書きする」という動詞。転じて「保証する」「支持する」という意味で使う。名詞はendorsement。
 米国の大統領選挙では、新聞などのメディアが特定候補者の支持を打ち出す慣行がある。例えば、On January 25 (2008), the New York Times endorsed Senator Hillary Clinton.(2008年1月25日にニューヨーク・タイムズはヒラリー・クリントン上院議員を支持した)。同日付の社説で“The Times’ editorial board strongly recommends that they select Hillary Clinton as their nominee for the 2008 presidential election.”(論説委員会は、2008年大統領選挙でヒラリー・クリントンを指名することを推薦する)と述べている。
こうしたendorsementは、どのように決まるのか?
“The New Republic”(2月28日付)が“Split Decision”(分かれた結論)と題する記事で一端を明かしている。ニューヨーク・タイムズはもともと民主党支持であるが、その中でも今回、20人いる論説委員がオバマ上院議員の支持に傾き、激しい議論になった。最終的に出版人のアーサー・サルツバーガー会長がクリントン支持を決定したという。それだけに、社説は含みを残し“By choosing Mrs. Clinton, we are not denying Mr. Obama’s appeal or his gifts.”(クリントン氏を選ぶことで、オバマ氏の訴えや才能を否定するものではない)と述べている。また、驚いたことに、今回はマケイン上院議員についても、“the best choice for the party’s presidential nomination”(共和党の大統領候補として最良の選択)と表明した。
 さて、ロサンゼルス・タイムズ、シカゴ・トリビューンなど全米の100以上の新聞が、オバマ氏への支持を打ち出した。共和党支持はウォールストリート・ジャーナルなど少数派である。では、多数の新聞を〝味方〟につけたオバマ氏が圧倒的に有利か、というと、そうとも言えない。米国では〝民主党寄り〟で、革新的な論調の新聞が売れる。だが、読者が選挙で民主・共和どちらに投票するかはまったく別問題である。
 USA TODAYは、どの候補者も支持しない立場をとり、3月6日付で“Is the media sold on Obama?”(メディアはオバマを選ぶのか?)との記事を掲載、民主・共和両党派の識者が特定候補支持のメディアに対して批判を行った。その中で、“It’s difficult for other papers to claim objectivity on one hand while, on the other, editorially endorsing candidates.”(それら他の新聞が、社説で候補者を支持しながら、一方で客観的な報道をすることは困難だ)と述べ、民主党候補への〝肩入れ〟がメディアの信頼性を傷つけるだろうと警告している。The Sankei Shimbun (March 23 2008)

sexual assault


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 
 assaultはカタカナ読みで「アソールト」。英和辞書では「強襲」「暴行」などと訳される名詞、動詞で、突然襲い掛かること。誰が誰に襲い掛かるのか、で意味は大きく違ってくる。近ごろは男性が女性に襲い掛かるケースを指してassaultという場合が多い。sexual assault(性的暴行)ともいう。だが、この言葉は日本語の「婦女暴行」と同様、役所やメディアが常用するあいまい表現で、“weasel word”(イタチ言葉=イタチはタマゴの中身だけを吸い取って食べ、殻を残すといわれることから、内容を明示しない言葉をいう)に属する。sexual assaultの主な実態はrape(強姦)である。形容詞としてbrutal (野蛮な)、indecent(下品な)を伴うことが多い。
 国防総省はこのほど、2006‐07年度の米軍内部での“the sexual assault reports”(性的暴行の報告)を発表した。そこではsexual assaultを、女性兵士・職員に対するrape(強姦)、indecent assault(強制わいせつ)、attempt(未遂)、さらに男性に対するsodomy(強制的男色)に分類。報告総数は2688件で、前年度の2947件に比べて約9%減少したという。内訳は陸軍が1516件、空軍が565件、海軍が394件、海兵隊が213件となっている。陸軍はざっと51万8000人いるから、1000人当たりで2・9件の報告で、あとは大体1000人に対し1~2件。この数字を多いと見るか、少ないと見るか、意見は分かれそうだが、あくまで報告に基づいて当局が調査した件数である。
 この報告が発表されるようになったのは、2005年に国防総省内に“Sexual Assault Prevention and Response Office”(SAPRO=性的暴行防止対策局)が設置されてから。米軍でもセクハラが大きな問題になり、これまで内部的に処理されてきた問題や事件を正面から取り上げざるを得なくなった。SAPROは、個々の事案を調査するとともに、“Prevention through training and education programs”(教育訓練プログラムによる防止)と“Treatment and support of victims”(被害者のケアとサポート)などを実施している。
 米軍だけではない。2006‐07年度の“Annual Report of Sexual Harassment and Violence at the U.S. Military Academies”(米軍士官学校でのセクハラと暴力に関する年次報告)によると、士官候補生に対するsexual assault も問題になっており、どういう状況で暴行事件が起こるのか、より具体的な内容が示されている。各士官学校の報告に共通するのは、“Use of Alcohol”(アルコールの使用)つまり〝飲酒〟。酒を飲んだ勢いでわいせつ行為に及び暴行事件に発展するケースが非常に多いという。
 それだけに、教育訓練で教えるのは、“Alcohol is never an excuse for unacceptable behavior.”(悪いことをして酒のせいにするな)で、自己コントロールができないのならば、酒を飲むなという教訓である。The Sankei Shimbun (March 30 2008)   「グローバル・English」はこちらへ

2012年5月2日水曜日

Get a life!



 get a lifeは、カタカナ読みで「ゲッタライフ」、米語の慣用表現で、1980年代からよく使われるようになった。文字通りでは、a life(生命、生活)をget(得る)ことだが、to do something different(違ったことをする)という意味で使うことが多い。もっとも、ニュアンスは状況によって大きく変わる。
 たとえば、働かないでぶらぶらしている息子に“Get a life!”と親が言うときは、“You need to leave home and get a job.”(家を出て仕事を見つけろ)と続く。つまり、今までの生活を改めて、新たな生活を始めなさい、ということ。最もストレートな使い方だ。1990年から92年にかけて“Get a Life”というTVコメディが流行った。主人公は〝大人になるのを拒否〟した30歳の独身男。1話ごとにget a lifeを試み、誤って死んでしまう。が、次回の話では、再び生き返って登場するという、まさにget a lifeのストーリー。
 さて、彼女に振られて部屋に閉じこもり、くよくよしている友人に“Get a life!”といえば、“Stop thinking about your old girlfriend and get on with your normal life.”(昔の彼女のことはくよくよ考えずに、普通の生活に戻れよ)という意味で、励ましの言葉になる。
 ところが、この言葉を有名人が公の場で使うと騒動になる場合がある。米大リーグでサイ・ヤング賞7回の最多受賞に輝くロジャー・クレメンス投手。これまで、メディアに囲まれるのはヒーロー・インタビューが中心だったが、2007年12月にステロイド剤などを使用した薬物疑惑を指摘されて以来、メディアの態度はがらりと変わり、どこへ行っても薬物使用について追求されることになった。クレメンスはついに逆キレ、“You guys need to get a life!”と言い放った。
早速、ニューヨーク・タイムズ(2008年2月27日付)は“Clemens to Reporters:‘ Get a Life’”との見出しで記事にした。翻訳すると「クレメンス、記者らに『いい加減にしろ』」といったところ。ウエブサイトには、読者の賛否のコメントが寄せられた。“Why don’t you take his advice, ya parasites.”(彼の忠告を聞けよ、テメエら〝寄生虫〟め)としつこく質問するメディアに批判がある一方、“Wasn’t it their life to report all the great things he has done in his career? Now that he has achieved infamy, he tells them to get a life. What a crock!”(野球人生で彼が成し遂げた偉業を報道するのが記者のライフではなかったか?スキャンダルを巻き起こしながら、いい加減にしろだって、バカめ!)という怒りの声もあった。
 get a lifeには、もう一つto have fun(楽しむ)という意味がある。働き詰め、勉強詰めの真面目人間に、ちょっとブレーキを踏んで息抜きをしたら、と薦める場合も、また“Get a life!”である。The sankei Shimbun (April 6 2008)

tightwad






 tightwadはカタカナ読みでは「タイトワド」。米国生まれの英語で「けちんぼ」「しみったれ」などと訳される名詞。tightはぎゅっと締まっている状態を表す形容詞で、wadは「束」。語源は1900年ごろで、札束か何かを握りしめている様子を指したようだ。だから「締まり屋」でもある。
 tightwadの反対語はspendthrift。thriftは「倹約」「節約」という名詞だが、この場合は倹約して貯めたものを指し、それをパッとspend(遣う)ので「無駄遣い」であり「浪費家」を意味する。米国人は“Consumption is a virtue.”(消費は美徳)をキャッチフレーズに、消費生活を謳歌してきた。貯蓄率も低く、クレジットカードを使って、稼ぐ以上に買い物をする人が多く、spendthriftであると自他共に認めてきた。ところが最近、この傾向にブレーキが掛かり始めたという。
 サイエンス・デイリー(2008年3月17日付)は“Tightwads Outnumber Spendthrifts”(ケチが無駄遣いをしのぐ)と報じた。ペンシルベニア大学の研究者らが1万3327人を対象に調査したところ、tightwadとspendthriftの割合は3対2であったという。これは、予想外の結果であった。
 調査の中身を見ると、女性より男性の方がケチの割合が高く、“Males are nearly three times more likely to be tightwads than spendthrifts.”(男のケチは無駄遣いの約3倍以上)だそうだ。また、若い人より年寄りの方がケチで、70歳以上のケチは無駄遣いの5倍に上る。70歳以上の高齢者でジャンジャン稼ぐというのはまれで、不慮の事態に備えて、どうしても出費を抑えるようになるからだ。高齢社会では当然のことである。
 だが“Annual income differs little between tightwads and spendthrifts.”(ケチと無駄遣いの間で年間所得の差はほとんどない)。つまり金遣いは稼ぎに関係なしという。米国人は本当にケチになり始めているのだろうか?
 もしそうならば、背景にあるのはやはり住宅バブルの崩壊だ。クリントン政権のルービン元財務長官は公共放送ラジオ(NPR)のインタビューで“When home prices fall people feel less affluent.”(住宅価格が下がると、豊かさは実感できなくなる)と指摘しており、統計を見ても消費者心理に影響が出始めている。さらに、ドル安の影響でガソリン価格をはじめ物価は上昇しており、一部には“stagflation”(不況下のインフレ)を指摘する声も上っている。
 インターネット上では、“frugal life”(倹約生活)を推奨するサイトが注目を集めるようになった。“Frugal living means smarter spending.”(倹約して暮らすには、賢い金の使い方を)と、1㌣でも安い買い物をしようという人たちは増えている。“Do you hate to spend money? You’re not alone!”(お金を遣いたくない?あなただけじゃない!)が次のキャッチフレーズかも。The Sankei Shimbun (April 13 2008)