2011年5月6日金曜日

earmark

Illustrated by Kazuhiro Kawakita
earは「耳」でmarkは「印」。2つ合わせて「耳印」、家畜の耳に付けて所有者を示す印のことで、「耳印を付ける」という動詞としても使う。これが政治用語になると、“As a verb, to set aside funds for a special project or purpose; as a noun, the money so designated.”(動詞としては、ある特別の事業や目的のために財源をとり置くことで、名詞としては、そうした金のこと)と、ウィリアム・サファイアの「政治辞書」(2008年)は定義する。カタカナ読みは「イヤマーク」。
政府の支出(government appropriation)は一般的にすべてearmarkされたものと言えるが、ここで問題になるのは「個々の議員が自分たちの選挙区の人々や団体、地域を利する事業や活動に、特別に向けさせた財源」を指す。何のことはない、政治家の人気取りのための利益誘導に使われる予算のことだ。日本でいう「ばらまき予算」で、米語ではとくにpork barrelと呼ぶ。この言葉は、“the pre-Civil War practice of periodically distributing salt pork to the slaves from huge barrels”(南北戦争以前に、黒人奴隷に大きなタルから塩漬けの豚肉を定期的に配給した慣行)に由来するという。「油の乗ったベーコンを食べさせるから、しっかり頼むよ」といったところか。
米上下両院は4月14日に、すでに始まっている2011年度(10年10月~11年9月)予算法案を半年遅れでやっと可決した。その遅れの背景にあったのがearmarkだ。昨年11月の中間選挙で大勝した共和党が、巨額の財政赤字の削減を求めてearmarkの廃止を下院で議決。オバマ大統領も共和党の主張に歩み寄り、年頭の一般教書演説では、 “He has threatened to veto any bill that included earmarks.” (〝イヤマーク〟を含む法案には拒否権を発動すると警告した)。
ニューヨーク・タイムズ(2月26日付)は、“How Budget Battles Go Without the Earmarks”(予算の分捕り合戦は、イヤマークなしにどう進んでいくのか)と固唾をのんだが、議会では歳出削減によって小さくなるパイをめぐって、相変わらずearmarkにこだわる議員らの激しいbudget battle(予算の分捕り合い)が展開され、一時は政府機関の閉鎖まで心配されたのである。
2012年度予算は、これから本格的な審議に入るが、“Earmarks have become a symbol of a Congress that has broken faith with the people.”(イヤマークは、有権者との信頼を壊した議会の象徴となった)という共和党のジョン・ベイナー下院議長の言葉は重い。The Sankei Shimbun (April 25 2011)