2011年12月31日土曜日

cut the cheese


Illustrated by Kazuhiro Kawakit


 cutは「切る」という動詞。cheeseは「チーズ」。文字通りでは「チーズを切る」だが、熟成チーズのかたまりに付いた堅い皮(rind)をナイフで切ると、ぷーんとにおう。そこでアメリカ人が連想するのはfart(屁、おなら)。cut the cheeseは「おならをする」の婉曲表現で、カタカナ読みは「カッザ・チーズ」。
 ランダムハウスの米俗語歴史辞書によると、1811 年にcheeserをstrong-smelling fartの意味で使い始めた。1959年にニューヨークの学生の間で、おならをした〝犯人〟をとがめて“Who cut the cheese?”と言ったのが、熟語表現の始まりという。学生俗語だったのが、1960年代には米軍で流行。今では日常的に使われる。ちなみに、臭気ではなく「ガス」に焦点を当てた婉曲的な言い方は、break wind(風を吹かせる)、もう少し上品にするとpass air(空気を出す)。
 ジム・ドーソン著“Who cut the cheese?”(1999年)は、“A Cultural History of the Fart”(おならの文化史)の副題がつく労作。古今東西の話題を満載しているが、それによると、fartの語は古英語(700~1150年)の時代からあるが、卑語として蔑まれ、長い間辞書に取り上げられなかった。1755年にサミュエル・ジョンソンが「英語辞典」で動詞として掲載、“to break wind behind”(後ろに風を吹かせる)と定義したのが画期的であった。米国では、ウェブスターのNew International Dictionary(新国際辞書)で、第1版(1909年)と第2版(1934年)までは無視されて、第3版(1961年)でやっと認知されるに至った、と解説している。
今でもfartはfuck(ファック)、shit(糞)、piss(小便)などと並ぶfour-letter word(4文字で綴る下品な言葉)とされる。辞書においても厚遇されているとは言いがたい。そこで辞書に載っていない用法を上記の本から紹介する。fartは名詞、動詞であるが、“One doesn’t just fart.”(人は単におならをするのではない)。“One lets, leaves, lays, cracks, claps, cuts, or rips a fart.”(どの動詞を使っても「おならをする」)。
 ところで最近、医学の分野でfartが注目を集めている。ライヴサイエンス(2008年10月23日付)は、“The Stink in Farts Controls Blood Pressure”(おならの臭気が血圧をコントロールする)との記事を掲載。ジョンズ・ホプキンス大学のソロモン・スナイダー博士(神経科学)の研究によると、おならの不快臭の原因は腸内バクテリアの作り出すhydrogen sulfide(硫化水素)だが、実はこの硫化水素には血圧を制御する働きが認められるという。博士はこの結果を、ネズミを使った遺伝子の実験によって突き止め、今後、高血圧症の薬への応用が期待できる、と語っている。〝屁のようなもの〟とバカにすべきではない。The Sankei Shimbun (November 30 2008)

blooper


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

                       
blooperは「へま」や「ドジ」。とくに公衆の面前で恥をかくような失敗。ウィリアム・サファイア氏の「政治辞書」(2008年)では、反対派からヤリ玉に挙げられる政治家のslip of the tongue(失言)やunthinking comment(うっかり発言)を指す。カタカナ読みは「ブルーパー」。
政治家のblooperは、日本でも枚挙に暇がない。たとえば、麻生首相が「(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い」と発言して、言葉が不適切だったと謝罪したのもblooper。
米国ではブッシュ大統領が、歴代大統領の中でも群を抜いてblooperを連発。インターネット上には“Funny Bush Quotes and Bush Bloopers”(おもしろブッシュの引用句とブッシュの失言)などのサイトも開設され、“Bushisms”(ブッシュ語)という言葉も生まれた。
ブッシュ氏のblooperは、大統領就任前から始まる。“They misunderestimated me.”(2000年11月発言)。これは、misunderstand(誤解する)とunderestimate(過小評価する)をごちゃ混ぜにして使ったもので、「かれら(批評家)は私を、間違って過小評価した」と言いたかったようだ。
教育者から問題視されたのは、“Rarely is the question asked: Is our children learning?”(2000年1月)。ブッシュ氏が言いたかったのは、「この質問はめったにされない。つまり、子供たちは学習しているか?」だが、childrenはchildの複数形だから、動詞はareになる。確かに、isで受けるこの質問はめったにないだろうが…。
大統領になっても“Border relations between Canada and Mexico have never been better.”(カナダとメキシコの国境の関係は決して好転していない=2001年9月)と発言。そりゃそうだ。カナダとメキシコは国境で接していないから。
blooperの語源はbloop。電波障害によって、ラジオの音声が乱れて変に聞こえることをさす。この音の連想から、野球でテキサスヒットをblooperという。
ブッシュ大統領は、2008年11月11日付のCNNのインタビューで在任8年間を振り返り、“I regret saying some things I shouldn’t have said.”(私は、言うべきでなかったことを言ったのを後悔している)と述べた。大統領が自ら挙げたbloopersは、9・11中枢同時テロ直後の会見で、オサマ・ビンラーディンを主犯だと名指しして、“There’s an old poster out West that said, ‘Wanted, dead or alive.”(西部の古いポスターにあるように、「生死に関わらず、指名手配」だ)。もう1つは、2003年7月にイラクで米兵への武装勢力の攻撃が激化したのに対して、“Bring ’em on.”(かかってこい)と感情的になったこと。「家内から、『大統領は発言に気をつけないといけない』と注意された」と明かした。Bush Bloopersは、数々の笑いを提供した。The Sankei Shimbun (December 7 2008)

2011年12月26日月曜日

formula


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 formulaはカタカナ読みで「フォーミュラ」。数学や化学では「公式」。Formula 1といえば、「F1」の自動車レースのこと。ところが、この前にinfant(乳幼児)が付いてinfant formulaとなると、アメリカ英語では液状のベビーフードを指す。今日では主に、溶かして使う「粉ミルク」のこと。
 ニューヨーク・タイムズ(2008年11月26日付)は、“Melamine Traces Found in U.S. Infant Formula”(米国の粉ミルクにメラミンの痕跡発見)と報じた。粉ミルクへのメラミン混入は中国で発覚、日本をはじめ世界各国でメラミン入りの牛乳を使用した食品が出回り、グローバルな社会問題となった。ところが、米食品医薬品局(FDA)は、米国の大手メーカーが製造した粉ミルクにもメラミンが混じっていたと発表した。
「アメリカよ、お前もか」とメディアは一時、騒然となったが、FDAの説明によると、製造過程での混入か、ミルク缶に施されたコーティング剤の影響というもので、意図的な混入ではない。また、見つかったメラミンの量も〝痕跡〟程度ということだった。
 さて、数学の公式と自動車レースと粉ミルクが、なぜ同じformulaなのか?
 語源は、字面から連想できるようにform(形式)を指すラテン語formulaで、オックスフォード英語大辞典(OED)によると、1638年ごろには、儀式・典礼で述べる式辞を意味した。それが転じて「公式」となり、method(方法)、prescription(処方箋)、recipe(レシピ)などを指すようになった。
 “Infant formula is an artificial substitute for human breast milk, designed for baby consumption.”(粉ミルクは、赤ちゃんのために作られた母乳の人工的な代替品)ということで、母乳の成分を詳しく分析し、非常に近いものが作られている。その成分の割合が一定のformulaで、FDAはガイドラインを設定しており、メーカーはそれ以外の成分を勝手に混入してはならない。混入すれば、罰則が科せられる。
 また、F1はFormula Racingで、文字通り「公式レース」の1つ。その意味は、エンジンからタイヤまで車両の仕様が逐一規定されているだけでなく、ドライバーの行動までルールが設けられている。ルール違反にはペナルティだ。
 さて、数学の公式と言えば、勉強嫌いにとっては、ろくろく理解せずに丸暗記するものとして、あまり評判がよくない。
 そこで、偉大な物理学者アインシュタインの唱えた「成功の公式」を披露しておく。
 “If A equals success, then the formula is A equals X plus Y and Z, with X being work, Y play, and Z keeping your mouth shut.”(Aが成功に等しいとすれば、AはXとYとZを足したものに等しい。Xは仕事、Yは遊び。そしてZは、口をつぐんで要らないことはしゃべらないこと)The Sankei Shimbun (December 14 2008)「グローバル・English」はこちらへ

2011年12月24日土曜日

Toys for Tots


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 toyは「おもちゃ」でtotは「小さい子供」。Toys for Totsは「子供たちにおもちゃを」という意味。貧しい家庭の子供たちにクリスマス・プレゼントを贈る、United States Marine Corps Reserve(米海兵隊予備軍)の慈善事業を指す。カタカナ読みは「トイズフォトッツ」。
 Toys for Totsは、1947年にロサンゼルスで、ビル・ヘンドリクス少佐が地域の子供たちのために約5000個のおもちゃを集めたのが始まり。その後、海兵隊予備軍の事業として全米各地に広まった。
“The mission of the program is to collect new, unwrapped toys during October, November and December each year, and distribute those toys as Christmas gifts to needy children in the community in which the campaign is conducted.”(その使命は、毎年10・11・12月に包んでいない新品のおもちゃを集め、クリスマス・プレゼントとして、キャンペーンが行われる地域の恵まれない子供たちに配ることである)
 ところが、2008年の金融危機以降の大不況で、過去3年間に渡って恵まれない子供が増える一方、おもちゃの寄付は激減。Toys for Tots suffers donation shortageが続いている。2011年12月に入っても各地のToys for Totsの保管所は空きが目立し、関係者は声をからして寄付を呼びかけた。
 さて、米国では昔からクリスマスが近づくと、貧しい家庭の子供たちはサンタクロースに宛てて「うちにも来て」と手紙を書いた。だが、それらの行き着く先は、サンタではなく郵便局の宛先不明ボックス。1920年代に、その手紙を見たニューヨークの郵便局員たちが、金を貯めてプレゼントを買い、差出人の子供たちに届け始めたという。これは後に“Operation Santa Claus”(オペレーション・サンタクロース)と呼ばれ、人々の善意に支えられて全国に広がっていく。今では米国郵政公社(USPS)が、各地の郵便局で〝サンタ志願者〟を募集。サンタ宛の手紙を数通ずつ受け取ってプレゼントを用意し、子供たちに配るシステムが出来上がった。今年はイブまでに、ニューヨークだけで75万通の手紙が来ると見込んでいる。
 そこで、往年のジャズ&ポップ・シンガー、ペギー・リーと、ジャズの大御所、ナット・キング・コールの“Toys for Tots”をどうぞ。
 The joy of living is in the giving
  So let’s give lots of toys for tots
  Toys, toys, toys for tots.
  You can be a Santa if you will lend a hand.
  Yessirree, there never will be an empty stocking in the land.
(生きる喜びは与えることにある。
だから、子供たちにたくさんおもちゃをあげよう。トイズ、トイズ、トイズフォトッツ。
 あなたも手を差し伸べれば、サンタになれる。
 そうさ、この地に空っぽの靴下はなくなるだろう)The Sankei Simbun(December 21 2008, Update Dec 23 2011)「グローバル・English」はこちらへ

2011年12月23日金曜日

go green


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 goは一般的には「行く」だが、ここではcome to be in a certain condition(ある状態になる)という意味。たとえば、go mad(激怒する)といった使い方をする。greenは「緑の」という形容詞だが、ここでは「自然環境」としての緑色を指し、「環境保護の」「自然回帰の」という意味。go greenは「自然環境を守る」「環境にやさしくする」。カタカナ読みは「ゴゥ・グリーン」。
 米国の環境保護庁(EPA)は、“America is shifting to a ‘green culture’  where all 300 million citizens are embracing the fact that environmental responsibility is everyone’s responsibility.”(アメリカは〝緑の文化〟にシフトしつつある。そこでは3億人の市民が環境への責任は個々の責任であることを認める)と述べて、“Go green!”を提唱している。
 ビジネス重視で、地球温暖化を防ごうというKyoto Protocol(京都議定書)からも離脱したブッシュ政権から、環境保護を重視するオバマ政権へ交代。EPAの“Go green!”のキャッチフレーズが、実質をともなうことが期待された。(注:だが、オバマ政権もブッシュ政権と結局同じだった。2011年12月に南アフリカ・ダーバンで行われた国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)でも、米国は京都議定書から離脱したままで、何一つ積極的な動きは示さなかった)
 オバマ大統領は、今後2年間の経済刺激策として、“building wind farms and solar panels; fuel-efficient cars and the alternative energy technologies that can free us from our dependence on foreign oil.”(風力発電基地や太陽光パネル発電、燃費効率のよい車、代替エネルギー技術の開発を進め、海外への石油依存から自立できるようにする)と述べた。(注:これも巨額の財政赤字のために頓挫する危険がある)
 これに対して、ウォールストリート・ジャーナル(2008年11月22日付)は、“Trying to Go Green as Gas Prices Fall”(石油価格下落でも、あえてゴー・グリーン)で、原油価格が1バレル50㌦を切った今、“Is the momentum lost for solving the nation’s energy problem?”(国家的なエネルギー問題解決の弾みは失われたのでは)と書いた。つまり、ここでのgo greenは、エネルギー対策の意味である。
 ところで、greenの語源は、成長を意味するgrow。つまり、“Green is life.”(緑は生命)で、春の芽生えといった良い意味で使うことが多い。だが、日本語の「青い」と同じで、 immature(未熟の)とかinexperienced(経験不足の)など悪い意味にも使う。さらに、green-eyed(緑色の目をした)となるとjealous(嫉妬深い)という意味になる。シェークスピアの造語と言われ、『オセロ』には、“O, beware, my lord, of jealousy; It is the green-eyed monster which doth mock the meat it feeds on.”(お気を付けなさいませ。ご主人様、嫉妬こそ〝緑色の目をした怪物〟。その身を餌食にしてもてあそびます)とあって、今でもよく使われる表現。実は、この怪物は獲物をおもちゃにするネコを指しているという。なるほど、自然や生命は時として残酷である。The Sankei Shimbun (January 11 2009)「グローバル・English」はこちらへ

2011年12月21日水曜日

freedom


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 freedomは「自由」。カタカナ読みは「フリーダム」。形容詞はfree。自由を表す一般的な語で、アメリカ人が最も好きな言葉の1つだ。
 オバマ新大統領の就任式が2009年1月20日ワシントンで開催された。そのテーマが、“A new birth of freedom”(自由の新たな誕生)。2009年はリンカーン大統領(1809~65)の生誕200年に当たり、南北戦争で北軍の勝利が決定的になったゲティスバーグで、1863年11月19日に行った演説からの引用だ。原文では“This nation, under God, shall have a new birth of freedom.”(この国は神の下に、自由の新たな誕生を迎える)とあり、その後、“Government of the people, by the people, for the people, shall not perish from the earth.”(人民の、人民による、人民のための政治を地上より消滅させてはならない)という有名な一文に続く。
 freedomの大義名分は、アメリカ人の琴線に触れる。一般市民向け勲章の最高位が、Presidential Medal of Freedom(大統領自由勲章)。トルーマン大統領が1945年に制定し、第2次大戦の戦争功労者に授与した。その後、ケネディ大統領が1963年に復活させ、「米国の安全保障、国益、世界平和や文化に貢献した人」を対象とした。授与式は、毎年7月4日の独立記念日前後である。
 独立記念日はIndependence Day。アメリカ合衆国が1776年に大英帝国からfreedomを勝ち取った日である。その100周年を記念して、フランス人が募金を集めて制作、1886年にニューヨークの港湾に完成させたのがThe Statue of Liberty(自由の女神像)。libertyも「自由」を意味するが、この語はフランス語のlibertéが起源。“the power of free choice”(自由な選択権)を強調する。自由の女神像は2001年の9・11中枢同時テロ以降、内部への立ち入り禁止措置が取られてきたが、オバマ新政権は、これを解除する意向という。
 さて、アメリカ英語では、independenceはfreedomの類義語と見なされる(ランダムハウス辞書)。つまり、freedomとはin-(否定を表す接頭辞)dependence(依存すること)で、「依存しない」ということが基本。逆に言えば、独立していないものに自由はない、というのがアメリカ人の根本的な考え方である。そこで、individual freedom(個人の自由)にとって最も重要なのがself-reliance。日本語では「独立独行」と訳される。
 米作家のサム・レべンソンは5歳の誕生日に父親からこう言われたという。“Remember, my son, if you ever need a helping hand, you’ll find one at the end of your arm.”(憶えておくのだよ。もしも手助けが必要になったなら、それはお前の腕の先についている手だということを)。
“The more people in America become self-reliant, the freer America becomes as a nation.”(独立独行の人が増えれば、アメリカは国としてより自由になる)-米国民の意識である。The Sankei Shimbun (January 18 2009)「グローバル・English」はこちら

2011年12月17日土曜日

netroots


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


netはinternet(インターネット)。rootsはgrassroots(草の根、複数形)のroots(根)と同じ。netrootsはgrassrootsのネット版で、「ネットの草の根」。カタカナ読みは「ネットルーツ」。netroots movementはネットを使ったgrassroots movement(草の根運動)で、ネットの一般ユーザーを対象にしたPRや勧誘、資金集めなどの活動を指す。
ナショナル・ジャーナル(2009年1月6日付)のブログに“The Netroots Heart Panetta”(ネットの草の根支持者らはパネッタ氏を〝心に留める〟=heartは「心」だが、dここでは動詞として用いる。ちょっと古臭い表現)と出ていた。パネッタ氏は、クリントン政権時代の大統領主席補佐官で、オバマ大統領がCIA(中央情報局)の長官に指名した人物。だが、諜報分野の経験はゼロ。なぜ、そんな人物を指名したのかというと、民主党の草の根支持者らが、ブッシュ政権下のテロとの戦いで、イスラム系の容疑者をwaterboarding(板に縛り付けて水責めにするプロの尋問方法)などの拷問にかけて自白を迫ったCIAの幹部の一掃を求めているからだ。そこで、パネッタ氏の登用で、上記の見出しの表現が登場したわけ。(注:結果的には、パネッタ長官の指揮下で、米軍は2011年5月1日、パキスタンでウサマ・ビンラーディンを殺害。その後、パネッタ氏は国防長官に就任した)
オバマ政権にとって、netrootsは大統領選挙の勝利をもたらした大切な支持母体の1つ。ワシントンポスト(2008年12月28日)は“Will He Bring Change.gov We Can Believe In?”(オバマ氏は、信頼できる政府の変革をもたらせるか)の記事で、“He can also look to the netroots movement that helped turn the tide against conservatism over the last six years.”(彼は、過去6年間保守派の一掃を手伝ったネットの草の根運動に再び期待できる)と述べている。
ウイリアム・サファイア氏の「政治辞典」(2008年)によると、grassrootsが政治用語になったのは1912年ごろ。この言葉が脚光を浴びるようになったのは、民主党のルーズベルト大統領(1882~1945年)を引きずり降ろそうと、共和党が大衆動員を掛けたことから。呼びかけには、当時のニューメディアであるラジオが効果を挙げたという。
netrootsは、もちろんインターネットの普及と密接な関係があるが、1993年が初出という。こちらは、民主党が圧倒的に先行。2004年の大統領選挙のときに、ハワード・ディーン氏が、ブロガーを動員して多額の選挙資金を集めたことで、一躍政界で注目されるようになった。
さて、ここでいつものPL(punch line=落ち)の替わりにPR。このコラムは2006年6月からスタート、netrootsの読者から多数の意見や感想をいただきました。今回、それらを参考にして、2008年11月までの掲載分に加筆、修正。産経新聞出版から「アメリカの今がわかる本、Today’s English Usage」(定価、税込み1500円)として発売しました。カワキタ・カズヒロ氏のイラストも満載。楽しい1冊になりました。The Sankei Shimbun (January 25 2009)

2011年12月12日月曜日

smart power


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


smartは「賢い」「利口な」という意味。powerは「力」であるが、ここでは「国力」としてのパワーを指す。smart powerは文字通りでは「賢明なパワー」。カタカナ読みは「スマート・パワー」。
オバマ政権の国務長官に就任したヒラリー・クリントン氏が2009年1月に、米上院外交委員会で承認を求める公聴会で、“We must use what has been called ‘smart power,’”(われわれは、いわゆるスマート・パワーを使う必要がある)と、今後の外交方針を述べた。その上で、“the full range of tools at our disposal-diplomatic, economic, military, political, legal, and cultural-picking the right tool, or combination of tools, for each situation.”(使えるあらゆる手段、つまり外交、経済、軍事、政治、法律、文化的な手段のことで、ケース・バイ・ケースによって適切な手段を選び、また手段を組み合わせて用いる)と説明した。
実は、この言葉は、ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の「スマート・パワー委員会」の造語。委員会の共同議長を務めるのは、日本でも著名なブッシュ政権の国務副長官だったリチャード・アーミテージ氏と、ハーバード大学大学院ケネディスクール教授のジョセフ・ナイ氏。smart powerとは、軍事力などのhard powerと、ナイ氏が提唱するlegitimacy(正当性)を核にした文化的、政治的な影響力などのsoft powerをミックスしたもの、と定義している。
だが、なぜ今smart powerなのか?
コラムニストのロジャー・コーエン氏は、ニューヨーク・タイムズ(2009年1月14日付)の“Magic and Realism”(マジックと現実主義)で、smart powerについて“It’s better than dumb power, of which we’ve had a large dose.”(それは、われわれが嫌というほど味わった〝ダム・パワー〟よりはましだ)と書いた。dumbは「バカ」の意味で、ダム・パワーを、「友人関係を壊し、軍事力をかさに来て、合衆国への信望を損ない、終わりなき戦争を宣言するもの」と〝定義〟した。
なるほど、ブッシュ政権は「悪の枢軸」(Axis of Evil)と対峙し、ゴリ押しのunilateralism(一方主義?)でイラク戦争に突入、ふたを開けてみれば大量破壊兵器はなく、国際社会におけるlegitimacy(正当性)を踏みにじってしまった。
CSISの報告書は、こう説明する。“America’s image and influence are in decline around the world. To maintain a leading role in global affairs, the United States must move from eliciting fear and anger to inspiring optimism and hope.”(アメリカのイメージと影響力は、世界中で落ち目になっている。世界的な問題でリーダーシップを発揮するためには、合衆国は恐怖や怒りを引き出すのではなく、楽天主義や希望を吹き込まなければならない)。どうか、クリントン国務長官がいつまでもsmartでありますように!The sankei Shimbun (February 2 2009) 「グローバル・English」はこちら

2011年12月11日日曜日

job security


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 jobは「仕事」で、security は「安全」または「安定確保」。job securityは、「仕事の確保」つまり“Keep your job.”(仕事を確保しろ)という意味。カタカナ読みは「ジョブ・セキュリティー」。
 2008年9月の金融危機以降の雇用情勢は生易しいものではない。AP通信(2009年1月26日付)は、“Job-killing Recession Racks Up More Layoff Victims”(〝仕事を抹殺する〟景気後退で、解雇の犠牲者が続出)と報じた。経営危機に見舞われたウォール街の大銀行をはじめ、大企業が相次いでlayoffを発表。エコノミストは今年200万人以上が職を失うと予測するだけに、“The recession is killing jobs.”(景気後退が仕事を殺す)というわけ。“The unemployment rate, now at a 17-year high of 7.6 percent, could hit 10 percent or higher later this year or early next year.”(1月時点で、17年ぶりに7.6%の高水準にある失業率は、今年末か来年初めに10%に上るだろう)という。(注:米国の失業率は2009年10月に10.1%に達し、その後2010年10月まで9%台の後半に高止まり。2011年11月になって8.6%まで回復した)
 自由経済では、景気がよいと、企業は利益を上げて投資を増やす。雇用は拡大し、仕事は増え、job securityは高まる。逆に、景気が悪くなると、企業はコスト削減のため従業員を解雇。仕事は減り、今度はjob insecurity(就業の不安定)が高まる。米国は企業利益優先の傾向が年々大きくなっており、業績低迷によるlayoffも頻繁になっている。とくに、昨今はblue-collar(ブルーカラー)だけでなく、white-collar(ホワイトカラー)も容赦なく解雇される。ウォールストリート・ジャーナル(同1月26日付)は、元バンク・オブ・アメリカ副社長の1人がブログで、“Nowadays, an M.B.A. Doesn’t Equal Job Security”(今日では、MBA=経営学修士の資格を持っていても仕事を確保できない)と告白していた。
 ところが、layoffを言い渡されるのは常に弱い立場にある従業員で、経営危機を招いた経営陣は〝お手盛り〟で多額の報酬を得ているという例が枚挙に暇がない。
 AP通信(2009年1月29日付)は、“Obama Calls $18B in Wall St. Bonuses ‘Shameful’”(オバマ大統領は、ウォール街の180億㌦のボーナスを〝恥ずべきこと〟と呼ぶ)と報じた。経営破たんした上に公的資金の注入を受けることになった金融機関の役員報酬が昨年、総額で180億㌦以上に上ることを受けて、オバマ氏は“the height of irresponsibility for employees”(従業員に対する無責任の極み)と批判した。また、政府の救済を求めているビッグ3をはじめとする企業トップの報酬も、危機が露見する以前の2007年には、800万~2100万㌦の高額に上る。バイデン副大統領ならずとも、“I’d like to throw these guys in the brig.”(こいつらを留置所にぶち込んでやりたい)と言いたくなるだろう。“We don’t need you anymore.”(わが社は君をこれ以上必要としない)と言い渡されるべきは、どちらか?従業員か、経営陣か?
The Sankei Shimbun (February 16 2009)
PS: Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)が2011年9月に勃発した原因はここにあるのだ。

2011年12月10日土曜日

pot charge


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 potは一般的には料理用の「なべ」「ポット」だが、ここではmarijuana(マリファナ、大麻)の俗称。これをタバコのように吸うのがsmoke pot。chargeは「容疑」で、pot chargeは「大麻の容疑」だ。カタカナ読みは「ポット・チャージ」。
 AP通信(2009年2月3日付)は、“Pot Charge Possible After Phelps’ Pipe Photo”(フェルプスのパイプの写真で、大麻の容疑が出てきた)と報じた。北京五輪で史上最多の8つの金メダルを獲得した競泳のマイケル・フェルプス選手が、昨年11月にサウスカロライナ大学のパーティでマリファナ吸引用のパイプをくわえている写真が1日付の英国のタブロイド紙に掲載された。pot smoking(大麻吸引)の疑惑が浮上、警察が捜査を進めるという内容。
 疑惑が報道され、フェルプス選手は、“I engaged in behavior which was regrettable and demonstrated bad judgment.”(後悔すべき行動を取った。判断を誤った)とコメント。もっとも、容疑事実は直接の大麻吸引ではない。大学のあるサウスカロライナ州の法律に照らして大麻所持の容疑。初犯の場合、200㌦以下の罰金と30日の禁固刑に処せられるといが、結局、証拠不十分で立件は見送られた。
 さて、marijuanaのもう1つポピュラーな俗称は、grassで「草」。つまり、“It is a dry, shredded green and brown mix of flowers, stems, seeds, and leaves derived from the hemp plant.”(それは、大麻草の花、茎、種、葉を乾して刻んだ緑や茶色の混合物)だから。
 大麻を吸えば、どんな影響があるのか?国立薬物乱用研究所(NIDA)などによると、THCという成分が脳神経に作用し、一時的に高揚した気分になり、ストレスや不安感から解放されるという。しかし、常用した場合、記憶や思考、感覚器官に悪影響が出る。その度合いは個人差が大きい。若い人の場合、mental illness(精神病)を引き起こす危険性があると指摘されている。そのため、米政府は大麻を禁止薬物に指定し、毎年約77億㌦の費用をかけて取り締まっている。
 けれども、大麻の乱用は止まない。アメリカ国内では年間に推計220万人が吸引し、その6割以上が18歳以下の若者であるとされる。
 ABCニュース(2006年12月18日付)は“Marijuana Called Top U.S. Cash Crop”(大麻は、アメリカで最高の〝換金作物〟)と報じた。大麻は非合法であるだけに、〝闇市場価格〟が高く、全国的に栽培する人が増えている。その結果、年間生産高は金額ベースで358億㌦に達し、トウモロコシ(233億㌦)と小麦(75億㌦)を合わせたよりも高いという。
 そこで、大麻をタバコやアルコール並みに合法化してしまえ、という声もある。そうすれば、取締り費用が削減され、約62億㌦の“pot tax”(大麻税)が入る見込み。財政困難な連邦政府にとっては抗しがたい〝皮算用〟ではないか。The Sankei Shimbun (February 23 2009)

2011年12月9日金曜日

too big to fail


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


bigは「大きい」だが、too bigは「余りに大きい」「大き過ぎる」。“Big is good.”(大きいことはいいことだ)は遠い過去のキャッチフレーズになり、今やアメリカを代表する“big business”(大企業)に対しても“too big”という批判が巻き起こっている。
最初は勝ち組(winners)の話。ニューヨーク・タイムズ(2009年2月22日付)は、“Everyone Loves Google, Until It’s Too Big”(みんなグーグルが大好き、大きくなり過ぎるまでは)と報じた。Googleはサーチエンジンの最大手。アメリカではYahooやマイクロソフトのMSNなどを圧倒して、70%以上の市場シェアを占める。「ネットサーチ」の代名詞ともなり、まさに“big name”(大きな名前=有名という意味)にのし上がった。だが、ここで待ったがかかり始めた。同社とYahooの広告提携が反トラスト法(日本の独占禁止法)違反で流れたうえ、“street view”(ストリートビュー)によるプライバシーの侵害問題が多発した。
一方、負け組(losers)のtoo bigは、さらに問題が深刻化。2008年9月、米大手証券のリーマン・ブラザーズの経営破綻以来、アメリカを代表する大手銀行が相次いで経営危機に陥り、オバマ政権は発足以来、不良資産の買い取りや公的資金の投入など支援に乗り出した。90年代日本におけるバブル崩壊後の金融機関への公的支援と同じく、“The Too Big to Fail Policy”(「大き過ぎて潰せない」政策)である。つまり、問題の銀行を潰すと、金融市場や経済全体への影響があまりに大きい、と判断して、政府が支援に乗り出したわけ。
だが、ここでも待ったがかかった。どの銀行も儲けるだけ儲けて規模を拡大したくせに、経営が行き詰まると政府に助けを求めるとは、何とも身勝手な話だ、という反発。しかも、救済資金は巨額に上り、そのツケは税金でまかなわれるとあって、“They are too big to bail.”(救済するには大き過ぎる)との批判は絶えない。
さらに、かつて世界に威容を誇った大手自動車メーカー3社の“Big3”(ビッグスリー)まで“We are too big to fail.”(われわれは潰れるには大き過ぎる)と言わんばかりに、政府に泣き付いた。
これらのbig businessを支援するのにいったいどれだけの税金を投入しなければならないのか?最後に残されるのは“big deficit”(大きな赤字)だけということにもなりかねない。
オバマ大統領は就任式で“a new era of responsibility”(責任の新たな時代)を求めたが、実際にやって来そうなのは、“the era of big government”(大きな政府の時代)である、と共和党側は非難する。“Government is not the solution to our problem, government is the problem.”(政府はわれわれの問題の解決策ではない。政府こそが問題だ)と1981年の就任式で述べたのは、共和党のレーガン大統領である。The Sankei Simbun (March 9 2009) 「グローバル・English」はこちら

2011年12月7日水曜日

grandparents scam


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 grandparentsは「祖父母」。scamは「詐欺」。そこで、grandparents scamは「おじいさんやおばあさんを狙った詐欺」となる。お年寄りに対して、あんたの孫だ、などと偽って電話をかけて送金を要求するという、日本の「振り込め詐欺」と全く同じ手口。カタカナ読みは「グランドペアレンツ・スカム」。
 アイオワ州のトム・ミラー司法長官は2008年12月、同州でgrandparents scamが頻発していることで警戒を呼びかけた。その被害例として“A southwest Iowa grandmother lost $2,900 to the scam last week.”(先週、アイオワ州南西部に住むおばあさんが詐欺に引っかかって2900㌦を失った)という。“She got a call purporting to be her grandson, who said he was in trouble with the law and asked ‘Gramma’ to send money.”(孫と称する男から電話がかかり、「法に触れることをしてしまった。おばあちゃんカネを送ってくれ」と言ってきた)。そこで、“She wired the money to Canada. It was a hoax.”(彼女はカナダに送金した。それは詐欺だった)と紹介している。ミラー氏は、「こうした詐欺の電話が最近アイオワ州で急増し、だまされる人が続出している」と警告した。
 実は、アイオワ州だけでなく、grandparents scamは全米で問題になっており、とくに、カナダから詐欺の電話がかかって、越境の送金を要求するケースが多いという。昨年の春以降、各州の司法長官やFBI(連邦捜査局)の支部も相次いで警戒を呼びかけている。
 興味深いのは、詐欺の電話のやりとり。“It’s your grandson.”(あんたの孫だよ)とか“It’s me.”(オレだよ)とか、詐欺師が曖昧な表現を使うのが特徴。“Is that you, Sam?”(お前、サムかい)などと問い返すや、“Yes, It’s Sam.”(うん、サムだ)と詐欺師は答え、様々な口実をもうけて送金を要求してくる。「振り込め詐欺」は、かつて「オレオレ詐欺」と呼ばれたが、そのやりとりと酷似する。「オレオレ詐欺」は、“It’s me! It’s me! Scam”と英訳されている。
  さて、grandparents scam は“granny scam”(おばあちゃんを狙った詐欺)とも呼ばれ、女性の被害者が多いのも特徴。ミズーリ州のジェイ・ニクソン司法長官は、“It attempts to play upon the love and generosity seniors have for their grandchildren.”(それは、お年寄りが孫に対して抱く愛情や寛容さに付け込むもの)で、“It does nothing more than take away the hard-earned savings they can not afford to lose.”(彼らが汗水たらして貯めた虎の子の金をむしり取る以外の何物でもない)と述べている。
 詐欺対策を呼びかけるScambusters.orgによると、この種の詐欺は日本を筆頭にニュージーランドやイギリスでも被害が報告されており、世界を席巻し始めている。The Sankei Shimbun (March 16 2009)
PS: ご意見、ご感想をお待ちしております。

2011年12月6日火曜日

great opportunity


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 great は「大きい」「偉大な」という形容詞。opportunityは「機会」「好機」、外来語の「チャンス」とも訳せる。そこで、great opportunityは「大きなチャンス」。カタカナ読みは「グレイト・オポチュニティ」。
 オバマ大統領は2009年3月7日のラジオ演説で“Time of crisis can be great opportunity.”(危機は大きなチャンスとなり得る=AP通信の見出し)と語った。オバマ氏は、深刻な経済危機の中で四半世紀ぶりに失業率が8%を超え、数百万人が住む家を失って、その日の生活にも困窮しているという厳しい現実を語った上で、こう言って国民を鼓舞した。“With every test, each generation has found the capacity to discover great opportunity in the midst of great crisis. That is what we can and must do today.”(様々な試練に際し、どの世代もこれまで、大きな危機の最中に大きなチャンスを発見する力を見出してきた。それはわれわれにも可能であり、今日やらねばならないことだ)
 では、どこにチャンスを発見すればよいのか。残案ながら、演説はそこで終わり。(注:その後も何も示されないままで、2011年の秋以降、Occupy Movementが全米で起こることになった)
 だが、歴史を振り返ると、ヒントがある。ケネディ大統領は1959年4月、冷戦の危機について演説した中で、こう述べた。“When written in Chinese, the word ‘crisis’ is composed of two characters-one represents danger and the other represents opportunity.”(中国語で「危機」という言葉を書くと、1つは「危」であるが、もう一方は「機」である)。1957年にソ連の人工衛星スプートニク1号の打ち上げが成功して、米国がショックを受けた後だが、彼はこのとき“The space age offers the opportunity for new voyages of discovery.”(宇宙時代は新たな発見への旅の機会を与えてくれる)と語った。その言葉通り、以後の宇宙開発競争が、アポロ計画と人類初の月面着陸成功につながっていく。
 ところで、アメリカのまたの呼び名は“land of opportunity”(機会の国)。16世紀に始まった欧州各国からの移民は、当時の王政・貴族制度でがんじがらめになった階級社会を嫌い、新大陸にopportunityを求めた結果である。移民たちの多くがゼロからスタートして一生懸命働き、多くの苦難と戦った。それを乗り切った人々が、アメリカ合衆国を建国したのだ。
 偉大な物理学者アルベルト・アインシュタインは、“In the middle of every difficulty lies opportunity.”(どんな困難の中にもチャンスがある)と述べている。チャンスを見出せるか否かは、各人に掛かっている。危機に遭遇してすぐに投げ出してしまう人もいれば、「なにくそ!」と歯を食いしばってがんばる人もいる。そういう意味では、“The economic crisis is a test of character.”(経済危機は、人の〝本性〟が試される機会である)と言えるだろう。The Sankei shimbun (March 23 2009)

2011年12月5日月曜日

stem cell


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 stemは「茎」あるいは「幹」で、cellは「細胞」。stem cellは「幹細胞」。木の幹から枝分かれするように、そこから特別な細胞が分化していくので、その名がついた。カタカナ読みは「ステム・セル」。とくに、人間の受精卵から発達するのがhuman embryonic stem cell(ヒト胚性幹細胞=ES細胞)。
 ニューヨーク・タイムズ(2009年3月10日付)は、“Obama Lifts Bush’s Strict Limits on Stem Cell Research”(幹細胞研究について、オバマはブッシュの厳しい制限を緩和)と報じた。ここでのstem cellはES細胞を指す。オバマ大統領はブッシュ大統領が制限してきたES細胞の研究について、human cloning(クローン人間の製造)以外は〝解禁〟し、連邦政府の研究助成にゴー・サインを出した。この決定によって、ようやくオバマ政権とブッシュ前政権の違いが鮮明になった。
その結果、これまで水面下でくすぶってきたリベラル派と保守派の対立が表面化、ES細胞研究をめぐって激しい議論が巻き起こっている。
 USニュース・アンド・ワールドリポート(同年3月14日付)は、“Embryonic stem cell research is poised to expand. Could an array of treatments or cures come next?”(ES細胞研究はさあ拡大へ。治療方法に道が開けるか)と前向きの見方を紹介した。つまり、この研究が前進することで、パーキンソン病やアルツハイマー病など10に上る難病治療の可能性に期待が持てるという。
 ブッシュ政権下でES細胞研究が制限され、アメリカでのstem cellの研究は、世界の競争から著しく遅れてしまった。ES細胞に代わって、induced pluripotent stem cell(人工多能性幹細胞=iPS細胞)が注目を集めたが、本来、ES細胞とiPS細胞は、両方とも研究する必要がある。アメリカは今後〝追撃〟を開始すると、研究者は意気込む。
 これに対して、ニューヨーク・タイムズ(同年3月14日付)は、共和党が州議会の多数派をおさえている州で、大学での研究に州政府の助成を禁止する法案が可決される動きが出ており、“Some states are considering legislation that would define an embryo as a person.”(胎芽を〝ひとりの人間〟と定義する法律を検討している州もある)と報じた。
 これは、共和党のanti-abortion(妊娠中絶に反対)の路線と軌を1つにする。胎芽はやがて胎児(fetus)に成長するので、議論の争点は、“the value of human embryonic life”(人の胎芽生命の価値評価)をめぐる倫理。さらに、キリスト教右派は、“President Obama made the wrong move by opening the door to human cloning.”(オバマ大統領は、クローン人間製造に道を開くという誤った一歩を踏み出した)と非難している。
 だが、研究者サイドでは、リベラル、保守派を問わず、口角泡を飛ばす政治家の多くが、embryoとは何か、さらにstem cellとは何か、さっぱりわかっていないなあ、という批判もある…。The Sankei Shimbun (March 30 2009)

2011年12月4日日曜日

reassurance


Illustrated by Kazuhiro Kawakita
reassurance(名詞)は動詞形がreassure。re-(再び)の後ろに assure(make sure=確かめる)が連結したもので「再確認する」という意味。人は再確認し、大丈夫だとわかるとほっと安心する。そこで、「安心させる」「元気付ける」という意味になる。reassuranceは、大丈夫だという保証、結果としての安心。カタカナ読みは「リアシュアランス」。
 昨年来の経済危機でアメリカ人も、うちの会社は大丈夫だろうか、銀行の預金は、年金は、と心配の種は尽きない。そこで今、みんなが求めて止まないのが、reassurance。とくに、オバマ政権の景気対策への期待は大きい。
 だが、ワシントン・ポスト(2009年2月27日付)は、“A Limited Dose of Reassurance”(安心感は限定的)との記事で、“Obama’s rhetoric was reassuring. But on the economy, many of us are only partially reassured.”(オバマ大統領の美辞麗句は元気付けるものだったが、経済に関してわれわれの多くは、半信半疑である)と述べている。
 時間が経つにつれて、メディアの苛立ちが募り、その矢面に立ったのが、ガイトナー財務長官。南フロリダのサン・センチネル(2009年3月20日付)は、“No one is asking him to save the global economy in a month. What we’re asking for is reassurance that he can.”(誰もガイトナー長官に1カ月で世界経済を救ってくれと求めているわけではない。われわれが求めているのは、彼ができる、という保証である)。
 ところで、すでに失業したり、退職金で買った株式が暴落して貯えを失ったり、住宅ローンが払えずに家を追い出されたりして将来に不安を抱える人々は、どこへreassuranceを求めるのか?
実は、占い師に頼る人々が増えているという。USA TODAY(2009年3月15日付)は、“Psychics Make a Fortune during Uncertain Economic Times”(経済不安の時に霊能者が一儲け)と報じた。盛況なのはpsychic(霊能者)だけでなく、astrologer(占星術師)、palm reader(手相見)、tarot card shuffler(タロットカード占い師)まで、fortuneteller(占い師)全般。
 電話相談で〝占い〟をする予知能力者のネットワーク、「サイキック・ソース」のマリアン・フィードラー・マーケティング部長は、“We’re trying to ease their anxieties by offering ‘reassurance.’”(私たちは、元気付けることで、不安を和らげる)と話しており、再就職先や投資のアドバイスをするのではない、という。
 つまり、みんなが求めているのは、こういう言葉である。“Your life isn’t over. Things look really bad, but hang in there!Everything is going to be OK.”(あなたの人生は終わったわけじゃない。ものごとは本当に悪く見えるが、しかし、がんばれ!すべてうまく行くさ)The Sankei Shimbun (April 6 2009)

2011年12月2日金曜日

battery


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 batteryはカタカナ読みでは「バッテリー」。すぐに思い浮かぶのは、野球の投手と捕手。だが、ここでは「電池」を指す。
 電池は今や、科学ニュースの分野ではホットなトピックスの1つ。ロイター通信(2009年4月2日付)は、“Gene-Engineered Viruses Build a Better Battery”(遺伝子を組み換えたウイルスがより性能のよい電池を作る)と報じた。Gene-engineering(遺伝子組み換え)といえば、バイオテクノロジー。電池は素材科学など工学であるが、その2つの分野の技術交流によって開発された素材で作った電極を使って、“a more efficient and powerful lithium battery”(より効率的で出力の大きなリチウム電池)が作れたという。マサチューセッツ工科大学のアンジェラ・ベルチャー教授ら素材科学研究チームの成果である。
 こうした研究は、new clean-energy technology(新たなクリーン・エネルギー技術)として、オバマ政権のGreen New Deal(グリーン・ニュー・ディール=環境重視の経済再建計画)に位置づけられている。つまり、石油依存からクリーン・エネルギーである電気に転換していくためには、高性能の電池の開発がカギを握るというわけ。
 さて、その電池の材料として注目を集めているのがリチウム。タイム誌(2009年2月2日付)は、“Power Play”(攻撃的行動作戦)と題して、“Automakers need lithium for the next generation of battery-driven cars. That will mean talking to Bolivia.”(自動車メーカーでは、次世代の電池で動く自動車にリチウムが必要。それはボリビアとの交渉を意味する)と報じた。ボリビアは南米の最貧国だが、実はリチウムの産出量では、世界の約半分を占めるという。モラレス大統領は、この資源を国有化し、リチウム電池を生産する体制づくりを進めている。それだけに、世界の自動車メーカーは、その計画に何とか参入するために厳しい交渉を迫られているという。今後、エレクトロニクスや家電メーカーなども加わり、激しいリチウム争奪戦が繰り広げられるだろう。
 ところで、batteryの語源は、古仏語のbatterieで英語ではbeating。つまり、「打ち続ける」といった意味。戦争で砲弾を撃ち続けるためには、大砲を並べた砲列が必要であり、砲列、砲兵隊の意味で使うようになった。batteryの語を「電池」の意味で最初に使ったのは、米国建国の父であり、電気の研究で名声を博したベンジャミン・フランクリン(1706~90)。1752年には、稲妻が電気であることを証明するため、雷雨の中で凧を揚げて、落雷によって生じた電気を、「ライデンびん」と呼ばれる初期の〝電池〟に導いて蓄える実験に成功した。命がけの挑戦であり、電気の歴史の偉大な瞬間であった。フランクリンはこう言う。“Energy and persistence conquer all things.”(エネルギーと粘り強さがすべてを克服する)The Sankei Shimbun (april 20 2009)

2011年12月1日木曜日

recession chic


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 recessionは「景気後退」「不景気」。chicはフランス語から入った言葉で、「粋」「上品」という意味。recession chicは「不景気の粋」、つまり不景気で予算が限られる中で、追求する「粋」「上品」ということ。カタカナ読みは「リセッション・シーク」。
 ニューヨーク・タイムズ(2008年10月26日付)は、“A Label for a Pleather Economy”(〝合成皮革〟経済のレッテル)の記事で、“Welcome to ‘recession chic’ and its personification, the ‘recessionista,’ the new name for the style maven on a budget.”(ようこそ「リセッション・シック」へ。そして、その擬人化である「リセッショニスタ」、つまり限られた予算でのファッションの達人へ)と書いた。ここで、pleatherは、ポリウレタン・フィルムの頭文字のpがleather(皮革)の上に付いたので「合成皮革」。見かけは皮革で豪華だが、実は値段は安い、というわけ。
 辞書編纂者のグラント・バレット氏は、recession chicについて、“The idea is, because they are spending less or getting more value, it is still O.K. to shop.”(出費を抑え、よりよいものが手に入るなら、買い物をするのも、なおOKだという考え方)と看破する。
 recessionistaは、recession(不景気)とfashionistaを組み合わせた言葉。後者はfashion(ファッション)にスペイン語で「人」を表す連結形-ista(英語の-ist)が付いたもの。意味は、リセッション・シックを実践する人。
 どちらの言葉も1990年代から2000年初めに登場したようだが、昨秋以降にわかに脚光を浴びて、今や新たなトレンドとなった。
 では、具体的にはどんなファッションか?
 タイム誌(2008年3月27日付)は、“Recession Chic”の記事で、“Fashion trends and tastes often serve as early harbingers of economic change.”(ファッションの傾向と嗜好がしばしば経済的変化の予兆を示す)として、“back to black”(黒への回帰)と書いた。景気の悪い時には黒が流行するという。今回の不景気は世界規模だから、確かに、われわれの周囲にも昨秋以降、黒のファッションがあふれた。
 もっとも、不景気が長引くにつれて、この限りでなくなる。ワシントン・ポスト(2009年3月15日付)には、ケリー・マラゲス記者が“I’m Not Buying Recession Chic”(私はリセッション・シックなんて買わない)と書いた。生活費をどんどん切り詰めなければならない人も大勢増えている。そんな人たちには、recession chicでさえ高嶺の花。
 だが、言葉は使い方一つだ。デパートの店員に高価な品物を押し付けられそうになったとき、“I can’t afford it.”(それは買えない)などというのはしゃくだから、“I’m a recessionista.”(リセッショニスタよ)と軽くかわそう。The Sankei Shimbun (April 27 2009)

pink slip


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 pinkは「桃色」「ピンク色」、slipは「紙片」で、「ピンクの紙片」だが、実は“discharge notice”(解雇通告)を指す。“They are pink-slipped.”と動詞の受身形で使うと、「pink slipを渡された」、つまり“They are fired.”(解雇された)という意味になる。カタカナ読みは「ピンク・スリップ」。
 不景気で、lay-off(解雇)の嵐が吹き荒れる中、タイム誌(2009年4月20日号)は、“5 Tips Post-Pink Slip”(ピンク・スリップを受け取った後の5つの助言)を紹介している。まずは、“Cry, Scream and throw things at the wall…in the safety of your own home.”(泣き叫んで、壁に物をぶつける。ただし自分の家で安全に)そして、気持ちが落ち着いたら、解雇した会社と交渉する手立てを考えよ、という。
 交渉の対象になるのは、つまるところ“severance money”(手切れ金)。今後、告訴したり、会社の悪口を新聞社に言わない、と約束する代わりに受け取るカネだが、次の職の斡旋などの便宜も入る。泣き寝入りをしてはいけない、取れるだけのものは取れ、というサバイバルの指南である。さらに、交渉に際しては、“If you say you’ve got a lawyer, it’s almost like a threat, and the other party gets defensive.”(弁護士を呼んだと言われるならば、それは一種の脅しですな。それなら、こっちとしては自衛することになりますな)と、やんわりすごむように教えている。
 もっとも、実際の解雇に当たってpink slipが渡されたのは20世紀の初めのこと。当時、週給で働いていた労働者の給料袋にピンク色の明細書が入っていると、それは最後の給料を意味するとされた。実に情け容赦のない通告のし方であるが、最近の派遣社員の一方的な解雇などもpink slipと言えるだろう。
 さて、オックスフォード英語大辞典(OED)によると、pink の語源は1573年にさかのぼり、dianthus(ナデシコ)科の花の一般名称だったが、転じて美しい花や、その色彩の呼び名になった。アメリカでは、一般的に女性や愛情、健康を象徴する意味で使われるが、日本の「ピンク映画」のようなポルノの意味合いはない。たとえば、乳がんの早期発見、早期治療を訴える“Pink Ribbon”(ピンクリボン運動)も、1990年に米国から始まった。
 ピンクはまた、「最高」の意味にも使う。ジョギングですっかりリフレッシュしたような場合に、“I’m in the pink.”(元気一杯だよ)という言い方をするが、これはin the pink of health(最高の健康状態)という意味である。
 それでは、喫茶店などに入って“a black and pink”というと何を意味するでしょう?このblackはブラック・コーヒーのことで、pinkはピンク色の袋に入った合成甘味料を指す。生活習慣病が気になる方のダイエット・メニューでした。The sankei Shimbun (May 4 2009)