2014年12月2日火曜日

big data と small data

 

 
 small dataは「小さなデータ」で、いわゆるbig data(ビッグデータ)に対する言葉。
 では、ビッグデータとは何か?というと、総務省のHPには開口一番、「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」とした上で、ビッグデータビジネスという新事業に言及し、「ビッグデータを用いて社会・経済の問題解決や、業務の付加価値向上を行う、あるいは支援する事業」と定義の例を引用している。何のことかさっぱり分からない。
 そこで、ランダムハウス辞書を見ると、“data sets, typically consisting of billions or trillions of records, that are so vast and complex that they require new and powerful computational resources to process” (データの集合、とくに何十億、何兆もの記録からなるもので、あまりにも膨大で複雑なために新たな強力なコンピューターによる処理が要求される)と定義、限りなく大きなデータということだけ、やっと分かった。そこで、巨大なデータを利用して商売に結びつけようという、上記の定義も何となく分かったような気もする。
 だが、実は、small dataの集合こそがbig dataなのだ。すなわち、small dataは“the data generated by an individual or small company”(個人や個々の会社が生み出すデータ=Word Spy) で、その特徴は“Small data typically provides information that answers a specific question or addresses a specific problem.”(スモールデータは、特別な質問に答えたり、特別な課題に対処する情報を提供する)ということなのだ。このデータは本来、個人や個々の会社に帰属するものであり、privacy(プライバシー)の観点からすれば、第3者が利用することは法律的に容認されない。
 例えば、スモールデータには、“metadata about you: your cookies, your web search history, your Amazon clicks and so on”(あなたに関するメタデータ:あなたのウェブ検索履歴、アマゾンのクリックなど)が含まれるが、企業としてはこれをそのまま活用したい、というのが本音なのだ。しかし、プライバシーの壁があるので、“Small data consists of usable chunks.”(スモールデータは活用できるかたまりからなり立っている)という理屈をひねり出し、これを集めてビッグデータと銘打って大々的に使おうという考え方が、ビッグデータビジネスであると言える。

 data leak、data spill(情報漏洩)やdata theft(データの窃盗)が日常茶飯事となった今日、ビッグデータを解放したアメリカは、もはや個人のdata privacy(データのプライバシー)を守ることができない社会になっているのだ。それは、big dataの活用に名を借りたsmall dataの乱用だからである。
 *「アメリカを読む辞書」を再開します。

2014年1月4日土曜日

dessert stomach 「別腹」と睡眠障害の意外な関係!


dessert は食後の「デザート」で、通常甘いお菓子が出る。この語源は16世紀に遡り、desservir というフランス語で、本来の意味は des- = “undo” + servir = “to serve”。つまり、これで出される食事は最後で、“clear the table”(テーブルを片付ける)というわけ。stomack は「胃袋」なのだが、dessert が入る stomach という意味で「別腹」となる。

別腹とは、お腹いっぱいの状態でも好きな食べ物、とくに甘いものは食べられることを意味する言葉。「ケーキは別腹だから大丈夫」などという。同じことを英語でも表現する。“No matter how stuffed you are after the main course you always have room for a little dessert.”(メーンのコースの後でどれだけ腹が一杯でも、いつでもちょっとしたデザートの入る余地がある) その通り。だが、“Why do you always have room for dessert?”(なぜ、いつでもデザートの入る余地があるのか)

ScienceNordic(2011年12月19日付)によると、ノルウェーのLovisenberg Diakonale Hospitalの Arnold Berstad 医師は、この別腹現象を研究した結果、“The sugar in sweet foods stimulates a reflex that expands your stomach.”(甘い食物の中の砂糖が、胃を拡張させる反射神経を刺激する)と指摘している。胃袋は伸び縮みする構造であり、一杯になったと感じる場合でも上部の壁面には緩む余地がある。“It appears that three factors collaborate in triggering the relaxing reflex.”(反射神経を緩める作用の引き金を引くのは、3つの要素が関与しているらしい)と Berstad 医師はいう。

“First of all, the sight and smell of food and the process of chewing and swallowing it have an effect. Secondly, the pressure of food against the stomach has its important impact. And thirdly, the duodenum “tastes” the components of the food.”(まず第一に、食物の見た目や臭い、それを噛んで飲み込む過程が影響する。二番目に食物が胃にあたる圧力が重要なインパクトとなる。そして、三番目に十二指腸が食物の成分を“味わう”)

これらの情報が神経細胞を通って脳細胞に伝達される。そして、脳は砂糖、あるいはグルコースを良しと判断、胃を緩めるという。では、このとき脳細胞ではいったい何が起こっているのか。実は、orexin(オレキシン)というホルモンが関係しているのである。最近の研究によると、こうだ。

“When you are getting a piece of cake or even begin to think about eating something sweet, the hormone levels of orexin skyrocket leaving you unable to control your urge to eat cake.”(ケーキを一切れもらうか、あるいは何か甘いものを食べることを考え始めただけで、オレキシンのホルモンのレベルが急上昇して、ケーキを食べたい衝動を抑えられなくなる) そして、オレキシンは胃の壁を緩めてケーキのためのスペースを作るというわけ。

オレキシンは、hypocretin(ヒポクレティン)とも呼ばれ、視床下部から分泌される神経伝達物質で覚醒、意識、食欲を統御する。これを分泌する神経が破壊されると、睡眠障害の一種である narcolepsy(ナルコレプシー症状)を引き起こす。睡眠サイクルが正常にコントロールされず、寝るとすぐ(5分くらい)でレム睡眠状態に入り、中途で覚醒が起こる一方、脳の一部はなお眠っており、sleep paralysis(金縛り)の現象や幻覚、幻聴などの症状が発生する。また、異常な喜びや幸福感の後で脱力を引き起こす cataplexy(情動脱力発作)をともなうケースが多いという。

ナルコレプシーは、症状だけを見れば精神障害とも誤診されかねない。だが、1998年に櫻井武(現・金沢大学大学院医学系研究科教授)と柳沢正史(テキサス大学サウスウェスタン医学センター教授)らのグループによって、オレキシン遺伝子を破壊したマウスにはナルコレプシー症状が現れることが明らかにされ、その欠乏によって発生することが突き止められた。(ウィキペディア)

テキサス大学サウスウェスタン医学センターのグループは、オレキシンの名称を、その作用である食欲促進である orexigenic から思いついたそうだが、今やこのオレキシンは、様々な病気の鍵を握ると思われる注目のホルモンなのである。