2012年6月17日日曜日

flip-flop


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 flip-flopは、カタカナ書きでは「フリップ、フロップ」。日本語では「パタパタ」という音、または動きを指す。サンダルを履いて歩くと、かかとの部分が当たってパタパタと音を立てる。そこから、サンダルを“flip-flop”とも呼ぶ。が、ここでは、政治家が政策に対する意見やスタンスをころころ変えるという意味で、ある種の軽薄さをともなう。見方によっては、変節、優柔不断である。名詞、動詞として使う。
 民主党の小沢一郎代表が、自民党との〝大連立構想〟に色気を見せ、それがもとで党代表の辞任を表明し、すぐに撤回して話題になったが、これなどもflip-flopの典型だろう。(注:小沢氏は2012年6月、flip-flopの典型ともいうべき野田政権の消費増税に反対し、正義の味方を標榜しているが、女房に「放射能が怖くて地元岩手から逃げた」と罵られ、離婚騒動に発展していると、週刊文春が報じた)
 だが、政治家にflip-flopはつきもの。とくに選挙が近付くと、各党候補ともに票を取り込もうとして、flip-flopは〝常態〟となる。
 ニューヨーク・タイムズ(2007年11月4日付)は、“Said That vs. Meant This, a Hot Matchup for ‘08”(ああ言や、こう言うで、08年の大統領選挙に向け熱い戦い)の記事で、いよいよthe season of the“flip-flop”(〝変節〟の季節)、と報じた。民主党の有力候補、ヒラリー・クリントン上院議員と、ジョン・エドワード前上院議員について、イラク戦争開始には議会で賛成票を投じながら、今では反対の急先鋒に変わったのは、米国民の広く知るところ。一方、共和党の有力候補のルドルフ・ジュリアー二元ニューヨーク市長は、銃規制論者で全米ライフル協会(NRA)と対峙してきたが、ここに来て9・11中枢同時テロの経験を引き合いに出し、銃所持に一定の理解を示し始めているという。また、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事は、中絶と同性愛の権利に対して、容認派から反対派に転じた。
 flip-flopは今に始まったことではない。奴隷解放の父と称えられる第16代大統領リンカーンは、南北戦争(1861-65)と奴隷解放政策をめぐってflip-flopを繰り返した。また、ニューディール政策で知られる第32代のフランクリン・ルーズベルトは、大恐慌に対して、やれることを手当たり次第にflip-flopしたに過ぎない。だが、彼らの場合、鋭い政治センスと徹底した現実主義に裏付けられて、ボストン大学のブルース・シュルマン教授が指摘するように、“One man’s flip-flop can be another man’s admirable flexibility.”(ある人の変節は、別の人にとっては賞賛すべき融通性となる)との好例である。
 ところで、flip-flopを解体すると、flipは「上に向かう動き」を表わし、flip a coin(コインを投げ上げる)などと使う。一方、flopは「下に向かう動き」を表わし、「落ちる」から「失敗」まで幅広い意味で使う。
 flip-flopが成功するか、失敗するか?いつの時代も政治は結果がすべてである。判断するのは選挙民であり、歴史はそのことを物語っている。The Sankei Shimbun (December 9 2007)

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