2012年3月24日土曜日

fist bump


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 fistは「こぶし」とか「拳骨」。bumpは「ドン」とか「バン」と突き当たること。fist bumpは、お互いにこぶしとこぶしをゴツンと突き合わせるあいさつ。スポーツ選手らがよくやる仕草としておなじみ。カタカナ読みは「フィスト・バンプ」。
 このfist bumpが2008年6月3日、テレビ放映されて全米で注目を集めた。ワシントンポスト(2008年6月5日付)は、“It was the fist bump heard ‘round the world.”(世界に響き渡ったフィスト・バンプ)と報じた。すなわち、当時民主党大統領候補となったバラック・オバマ氏が、3日夜にミネソタ州セントポールの演説会のステージに上がり、妻のミシェルさんと抱擁したあと、お互いの目を見詰めて微笑みを交わし、こぶしとこぶしをやさしく突き合わせたのである。
 あるコメンテーターは“It thrilled a lot of black folks.”(それは多くの黒人をわくわくさせた)と述べた。このあいさつはアフリカン・アメリカンの間では非常にポピュラーで、“He wears his cultural blackness all over the place.”(オバマ氏は、どこにいても黒人文化を身につけている)ことが共感を呼んだ、と分析した。
 タイム誌(6月5日付)も、オバマ夫妻のfist bumpを受けて、“A Brief History of the Fist Bump”(フィスト・バンプの略歴)との記事で由来を解説した。それによると、起源はhandshake(握手)というのが有力。それが後に手のひらと手のひらをパチンとあわせる〝ハイタッチ〟に発展したという。ハイタッチは英語ではhigh-five。fiveは5本の指を広げた手を意味する。これを高く掲げてタッチするからhigh-five。低いところでタッチするのはlow-five。これが、さらにfist bumpになったという。
 言語学者のジニーバ・スミザマン女史は、著書“Black Talk”(「黒人の話し言葉」1994)で、high-fiveは単にfiveとも呼び、西アフリカ起源のあいさつ方法で、“put your skin in my hand”(私の手のひらに触れる)が元の意味だという。この手のひら同士のパッチンは1950年代から流行し始め、ベトナム戦争に従軍した黒人兵士の間でdapと呼ばれて、一般にも広がった。dapは“Dignity and Pride”(威厳と尊厳)の頭文字をとったものという。1980年代が流行の頂点となった。
 ところで、オバマ夫妻のfist bumpに対して、視聴者の多くは黒人文化の伝統よりも、むしろ2人が示した夫婦の絆に共感を持ったようだ。オバマ氏は、後にNBCテレビでこう説明している。“It captures what I love about my wife that for all the hoopla I’m her husband and sometimes we’ll do silly things.”(こんな大騒ぎの中でも僕が彼女の夫であることに変わりなく、時々は2人でバカをやってしまうのは、僕が女房のことを愛しているからだよ)。なるほど、「仲良きことは美しきかな」である。The Sankei Shimbun(Jun 22 2008)