Illustrated by Kazuhiro Kawakita |
カタカナ読みで「トランスジェンダー」は日本語としても通用する。trans-は「乗り越える」「逆の方に行く」という接頭辞で、genderは「性別」。「逆の性別を求める人」という意味。狭義には、性同一性障害(Gender Identity Disorder)で、出生時の性別に違和感を持ち、それとは反対の性別での社会生活を望む人を指す。広義には、女性から男性に、男性から女性になることを望むtranssexual(性転換者)やtransvestite(異性の服装をする人)などを含める。
ABCテレビは2008年7月3日、“‘Pregnant Man’Gives Birth to Girl”(〝妊娠男性〟が女児を出産)と報じた。その人はオレゴン州のトマス・ビーティ氏(34)。女性として生まれたが、乳房を切除し、ホルモン療法を受けて、法律的にも女性から男性に性別を変更したtransgender man。ビーティ氏はナンシーさん(46)という女性と結婚して5年になるが、子供が欲しくなることを見越して、自分の女性器を温存していたという。精子バンクから精子の提供を受けたビーティ氏は、4月に妊娠をメディアに発表。あごひげを生やした上半身はだかの男性の腹部が大きく膨らんでいる映像は、ついに出産した事実と併せて全米にセンセーションを巻き起こした。
一方、米議会下院の教育労働委員会は6月末、初めて「トランスジェンダーに対する差別」についての公聴会を開いた。そこで“I am a transgender woman.”と証言したのは、退役陸軍大佐ダイアン・シュロアー氏。以前はディビッドという男性名で、25年間米軍に勤務し、対テロ特殊部隊の司令官として活躍。だが本人は、子供のときから自分が男性であることに違和感を持ち、女性になりたく思っていたという。ついに2004年、性転換する決意をして軍を退き、議会図書館の対テロ分析官に応募。いったん採用されるが、“I was in the process of my gender transition from Dave to Diane.”(ディヴからダイアンへの性転換を図っている)と告白、女性として勤務することを希望したら、採用を取り消された。シュロアー氏は、性差別であると主張、裁判を起こした。
日本では、2004年7月に性同一性障害者に対する特例法が施行され、条件付きながらSex Reassignment Surgery(性別適合手術)によって戸籍の性別が変更できる。一方、アメリカではtransgenderは、法的には州政府の問題として扱われ、ほとんどの州で出生証明書の名前や性別を変更することが認められる。また、オレゴン、ニュージャージーなど十数州でtransgenderに対する差別禁止法が拡大しつつある。
シェークスピアは、「ハムレット」の中でこう言っている。“We know what we are, but know not what we may be.”(われわれは今の自分を知っているが、これから何になるかは分らない)。激しい変化の時代を生きているのである。The Sankei Shimbun (July 20 2008)
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