2011年10月10日月曜日

deep cover


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 coverは「覆い」「カバー」という名詞だが、ここでは諜報用語で、「外国で活動するスパイに提供される偽の名前や身分」(ボブ・バートン著『トップ・シークレット―スパイ・諜報辞典』)。形容詞のdeep(深い)を付ければ、「名前や身分を偽り、何年もかけて潜入する」という意味になり、そうしたスパイをdeep-cover agentという。カタカナ読みは「ディープ・カヴァー」。
 AP通信(2010年6月29日付)は、“The FBI has arrested 10 people who allegedly spied for Russia for up to a decade-posing as innocent civilians.”(FBIは、無辜の民間人になりすまして、10年間にも渡ってロシアのためにスパイ活動をしていた容疑で10人を逮捕した) と報じた。その中で彼らをdeep-cover agentsと呼び、“trying to infiltrate U.S. policymaking circles and learn about U.S. weapons, diplomatic strategy and political developments.”(米国の政策決定組織に潜入し、兵器や外交戦略、政治的進展について知ろうとしていた)と述べている。
  その後、事態は急展開。ワシントン・ポスト(7月10日付)は、“U.S. and Russia Complete Spy Swap”(米露がスパイ交換を完了)との記事で、“They were traded for four Russians who were jailed for years because of their contacts with the West.”(彼ら=10人のスパイは、西側と接触したために数年間投獄されていた4人のロシア人と交換された)と報道。この4人の内1人はKGBの役職にあって、米国のためにスパイ活動をしていたdouble agent(二重スパイ)だったという。
興味深いのは、ここに出て来る“the West”。これは冷戦時代に、共産圏に対する自由主義陣営を指した言葉だ。当時は、米国と旧ソ連のスパイ合戦が活発で、各国でのスパイ摘発も枚挙にいとまがなく、捕まえたスパイの交換も行われた。今回の一連の事件は、冷戦は終わったとされながら、国際社会では相変わらず厳しい諜報合戦が続いていることをあらためて印象付けた。
さて、マスター・スパイと呼ばれたアレン・ダレス元CIA長官は、著書“The Craft of Intelligence”(『諜報の技術』)で、スパイの心得をこう述べている。
 “Someone has to get close enough to a thing, a place or a person to observe or discover the desired facts without arousing the attention of those who protect them.”(欲しい事実=情報を観察あるいは発見するためには、それを守ろうとする人たちの注意を引くことなく、あるモノ、ある場所、ある人に十分に近づかなければならない)
 この言葉は、ジャーナリストとして取材する場合にも大切な教訓を含んでいるように思う。取材先の警戒心を解き、深い信頼関係をつくることができなければ、決して真実に近づくことはできない、と読み替えられないだろうか?The Sankei Shimbun (July 26 2010)