2012年11月20日火曜日

dude 俺は男だ、という表現

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 dudeには「デュード」と「ドゥード」の2つの発音があるが、後者の方をよく耳にする。英和辞書には、「気取り屋」や「しゃれ者」、あるいは「野郎」「やつ」などと説明がつけられているが、dudeは日本語にない概念だ。
 日本でも人気を博したディズニー・アニメ「ファインディング・ニモ」(2003年)で、ニモの父親のマーリンが息子を探す旅の途中で気を失い、海亀のクラッシュがそれを見つけて呼びかける。“Dude. Dude. Focus, dude.” 字幕では「おい、兄ちゃん、しっかりしな」と訳されていた。dudeは「兄ちゃん」だ。クラッシュはその後も“Dude”を連発。マーリンも“Dude”で応じる。
 語源は、ドイツ語方言の「バカ」であるとか、「ぼろ布」や「案山子」との説もあり、ロクな意味ではない。19世紀の米国で生まれ、1877年にはランダムハウスの米俗語歴史辞書に登場。その後、英和辞書にあるような一種の都会的ダンディズムを表す単語として使われたが、1960~1970年代に、黒人の間で男性に対する呼びかけ語として流行。さらに、サーファーやdruggie(麻薬常用者)などサブカルチャーの中にも現れた。
 ピッツバーグ大学の言語学者、スコット・キースリング助教授の調査(2003年)によると、近年ヤングの間でdudeの使い方に大きな変化が生じているという。若者の言葉が年配の世代に不可解なのは日本と同じ。dudeは、年配者にはinarticulate(意味が不明瞭)とされているそうだ。
 若い男性の間で挨拶の際、“Dude”と呼びかけられれば、“Dude”と答える。つまり、一種の〝合言葉〟となっているのだ。こうした使い方は、ときに女性同士の間でも見られるが、男女間や、上司と部下といった上下関係の中ではほとんど現れない。そこには、camaraderie(友情)とcool solidarity (クールな友達関係)を表す目的があるという。そして後者には、masculine solidarity(男らしい関係)と strict heterosexuality(異性愛者)であることが求められる。つまり、dudeを使うことによって、gay(男性の同性愛者)ではないことを暗示しているわけだ。
 米国のcivil rights(公民権)運動のなかで、同性愛者の権利が獲得されていった。gayの恋愛映画「ブロークバック・マウンテン」(2005年)が大ヒットしたのも、社会的に受け入れられつつあることを示している。だが、同性愛でない人たちの間では、homophobia(同性愛への嫌悪と恐怖)は依然として根強い。とくに、自分が同性愛者と間違われないかという不安感を持つ若い男性にとって、dudeの呼びかけは「俺は同性愛じゃない」という含みがあり、男らしさを強調するものだ。
「ファインディング・ニモ」でマーリンは、ついに大海を泳ぎ切ってニモと再会を果たし、男らしい父親の姿を印象付けた。dudeは〝男の中の男〟である。The Sankei Shimbun(July 9 2006)