2012年3月26日月曜日

hidden hand


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 hiddenは動詞hide(隠す、隠れる)の過去分詞形で形容詞。handは「手」。hidden handは「隠された手」で、カタカナ読みは「ヒドゥン・へァンド」。両手の場合は、hidden handsと複数形になる。その意味は、いわゆる「黒幕」。昔ながらの表現にpull the strings(裏で糸を引く)という慣用句があるが、この場合にも糸を引く手が隠れていると考えると、hidden handである。
 米国のメディアは「黒幕」が好きだ。2008年4月20日付けのニューヨーク・タイムズは、“Behind TV Analysts, Pentagon’s Hidden Hand”(テレビのアナリストの背後に、国防総省の隠された手)との記事を掲載。“Hidden behind that appearance of objectivity, though, is a Pentagon information apparatus that has used those analysts in a campaign to generate favorable news coverage of the administration’s wartime performance.”(軍事アナリストを使ってブッシュ政権の戦争行為に好意的なニュースを生み出すキャンペーンを行っている国防総省の情報機関は、外見では客観性を装っている)と批判した。実際、記事で名指しされたアナリストのほとんどが元軍人で、中には米軍から受注する業者とのつながりが指摘される人も含まれている。
 この記事に対し同紙は2008年5月1日付けで、元軍人アナリスト5人連名の手紙を掲載。彼らは“We will continue to speak out honestly to the American people about national security threats. Like our military service, we consider it our duty.”(われわれは米国民に対し、国家の安全危機ついて正直に述べ続ける所存である。軍務と同様に、それがわれわれの義務だと考える)と回答している。なるほど、モノは言いようだ。
 さて、hidden handがいつ頃から登場したのか明らかではない(何と言っても隠れているから)。だが、19世紀の半ばには“Hidden Hand”という書名の本が出版され、その後はそれをテーマにした出版が相次ぐ。思うに、事件の背後に黒幕がいる、というconspiracy theory(陰謀論)は、それが事実かどうか別にして空想力をかき立てるので、読み物の格好のネタなのだ。
 ところで、よく似た言葉に“invisible hand”(見えざる手)がある。これは、英国の経済学者アダム・スミス(1723~1790)が、著書「国富論」(The Wealth of Nations)のなかで使った言葉。個人の利益追求が、その意図しない結果として、社会の公共的な利益を増進させることになるというもので、一般的には、自由主義の市場原理を賞賛したものと解釈されている。
 そこで、おそらく鋭い読者諸氏から質問が出ることだろう。1バレル当たり120ドルを超える最近の原油相場は、果たしてinvisible handによるものか、あるいはhidden handによるものか、と。That’s what I want to ask you! The Sankei Shimbun (May 25 2008)

2012年3月25日日曜日

celeb

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


celebは日本語でも「セレブ」。マスメディアをにぎわす有名人のことでcelebrity(カタカナ読みで「セレブリティ」)の略。名前が知れ渡るからbig name(ビッグネーム)などとも呼ぶ。
Hollywood celeb gossip (ハリウッドのセレブ・ゴシップ)は、ドル箱ニュース。2008年5月15日のNBC放送で流れたのが、“Jolie expecting twins”(ジョリーが双子を妊娠)というもの。ジョリーはもちろん、アメリカで最もsexy and hotな女優アンジェリーナ・ジョリー。双子を無事出産すれば、男優ブラッド・ピットとの第5・6子になる。ジョリーは「Mr.&Mrs.スミス」(2005年)でピットと共演後に同棲。女の子を出産したほか、カンボジア、エチオピア、ベトナム生まれの3人の子供をJolie-Pitt のlast nameで養子にしている。
妊娠しただけでマスコミが騒ぐのが、celebたるゆえん。コトがcelebrity hookup and breakup rumors(セレブの〝くっついた〟〝離れた〟のうわさ)となると、もっと騒ぎは大きくなる。ゴシップ雑誌は飛ぶように売れ、Tシャツから香水まで〝セレブ商品〟は引っ張りダコ。ついでにギャラも上がるから、恋愛も破局も仕事のうち。結局“Celebrities are marketing products.”(セレブはマーケティングの産物)である。
オックスフォード英語辞書(OED)によると、celebrityが「有名人」の意味で最初に使われたのは1839年、ヴィクトリア時代の英国社交界である。現代のセレブは、マスメディアに乗って登場、さらにインターネットで身近な存在となる。とくに、セレブのブログはceleblog(セレブログ)と呼ばれて大流行。“We might never meet them face to face but, in the virtual world, rubbing shoulders with the rich and famous is easy.”(面と向かって会えないけれど、バーチャル世界では、金持ち・有名人と肩寄せ合うのも簡単)というわけ。
そうした影響で、Celebrity Worship Syndrome(CWS=セレブ崇拝症候群)と呼ばれる、有名人に対する一種の偏執的症状が21世紀に入って現れた。CWSは3段階に分けられる。まず、Entertainment social(社交上の楽しみ)は、セレブの話をするのが好き、という段階(これは普通)。次がIntense personal (個人的熱狂) 。“Brad Pitt is my soul mate.”(ブラッド・ピットは私の心の友)などと考える段階(考えるだけなら害はない)。そして、Borderline pathological(ほとんど病気)。“When he reads my love letters, Brad Pitt will leave Angelina Jolie and live happily ever after with me.”(私の愛の手紙を読んだら、ブラッド・ピットはアンジェリーナ・ジョリーを捨てて、私と末永く幸せに暮らす)などと考え、ストーカーになりかねない段階。ここまで来ると、“Are you serious?”(マジかよ)と言いたくなるが、こんな人が増えているのはアメリカだけではないようだ。The Sankei Shimbun(Jun 1 2008) 

exoskeleton


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 この単語の後ろのskeletonは「骸骨」あるいは「骨格」。そして、前にあるexo-は「外部」「外側」を意味する。「外骨格」と訳される生物学の専門用語。人間の骨が体の内部にある「内骨格」であるのに対して、外骨格はカブトムシやカニなど節足動物に特徴的な体の外側に発達した骨格のこと。カタカナ読みは「エクソスケルトン」。
 この単語をよく知っているのは、大人よりもむしろ子供たち。“powered exoskeleton”(強化外骨格)は、あこがれのマトなのだ。これを装着すれば、弾丸や猛火も何のその、百万馬力の怪力が出せる―という、日本のSFアニメでは毎度おなじみの〝パワードスーツ〟。別の英語では、robotic suit(ロボット・スーツ)ともいう。
 “Robotic suit could usher in super soldier era”(スーパー兵士の時代を告げるロボット・スーツ)とのAPの記事(2008年5月15日付)は、パワードスーツがいよいよ実用化段階に入るという内容。ロボット技術のSarcos社が米軍との契約で開発したのが、アルミ製で電子回路が組み込まれた重さ約68㌔のexoskeleton。人間の筋力を20倍にまで高めるという。“The suit works by sensing every movement the wearer makes and almost instantly amplifying it.”(そのスーツは、来ている人のすべての動きを感知して、ほとんど瞬時に力を増強する)。Sarcos社は、この点の技術的な壁をクリアしたという。着用すれば、まさに“Iron Man”(鉄人)に変身できるわけ。
 米軍の“Future Combat Systems”(未来の戦闘システム)の開発プロジェクトの1つに、“Future Force Warrior”(未来戦士)計画がある。上記のパワードスーツも、その一環として研究開発が進められている。だが、“The power issue is the No.1 challenge standing in the way of getting this thing in the field.”(これを戦場に送り出す上で立ちふさがる第1の課題は〝パワー〟の問題)。電力の消費量が大きいだけに、供給源をどうするかが残る課題だ。
 “powered exoskeleton”の将来性は大きい。軍事利用だけでなく、医療分野、とくに脳卒中などで身体の麻痺した患者のリハビリ用や、身体障害者のサポート用、介護の現場で働く人々のための補助用“wearable robot”(着用可能ロボット)として広く活用が期待されている。
 フィクションの世界では、アメリカのSF作家、E・E・スミスが1937年から始めたレンズマン・シリーズに“power armor”(パワーアーマー)として登場。ロバート・A・ハインラインが1959年に刊行した“Starship Troopers”(宇宙の戦士)で一躍脚光を浴び、その後は世界中のSF小説や漫画、アニメで〝実用化〟された。“Everybody likes the idea of being a superhero.”(誰しもスーパーヒーローになってみたい)。exoskeletonが、そいつを可能にするのだ。The Sankei Shimbun(Jun 8 2008)

2012年3月24日土曜日

hocus-pocus



 hocus-pocusはカタカナ読みで「ホウカス・ポウカス」。手品師やマジシャンが観客の目をそらすために唱える呪文。そこから、マジックそのものも指し、転じて、「まやかし」とか「インチキ」を意味する。
 最近話題になったのが、米国の人気プロレスラー、ジョン・“ブラッドショー”・レイフィールド氏が発売した精力強壮ドリンク“Mamajuana Energy”(カタカナ読みで「ママジャワナ・エナジー」)。いかにも魔法の呪文のような商品名で、「液体のバイアグラ」と銘打った。彼はプロレスで大成功を収め、金融アドバイザーとしてメディアで大活躍。“Have More Money Now”(もっと金をつかめ)というベストセラーの著者でもある。ニューヨークタイムズ(2008年4月21日付)は、“Selling Chat on Fox, and a Sex-Enhancing Potion on the Side”(Foxテレビでチャットを売りながら〝セックス強化薬〟の副業)との記事で、“Is Mr. Layfield a 21st century snake-oil salesman?”(レイフィールド氏は21世紀の〝スネーク・オイル〟売りか)と問いかけた。snake-oilは、20世紀初めまでアメリカで横行した〝万能薬〟と称するインチキ薬の代名詞。
「ママジャワナ」はもともとドミニカ共和国に伝わるハーブ酒で、レイフィールド氏はこれをノン・アルコールの「精力強壮ドリンク」に作りかえたという。だが、セクシャル・ヘルスの専門家、ニューヨーク大学のA・マッカロー博士は、「ED(勃起障害)には効果はない」と断言、“marketing hocus-pocus”(マーケティングのマジック)と指摘した。それでも、男らしい強さとたくましさに憧れるプロレスファンらは、この1本約5㌦のイチゴ味ドリンクを愛飲し続けることだろう。
 hocus-pocusの出現は17世紀の初め。オックスフォード英語辞書(OED)によると、中世の魔術師が唱えたニセのラテン語という。カトリックの儀式で、ワインとパンをキリストの血と肉体に見立て、“hoc est(enim)corpus(meum)”(これはわが肉体)とラテン語で唱えるそうだが、それがなまった、との説もある。
 これと似ているのがabracadabra(アブラカダブラ)。起源は古いが、英語の世界に登場するのは17世紀末。「ハリー・ポッター」にも出てくる魔法の呪文だ。この文字を逆三角形に並べて書いた羊皮紙を首にかけると、熱病が治るというまじない。さらに、もう1つの呪文がpresto(プレスト)。これも元はラテン語で、「急いで」という意味。
 金儲けに縁のない者には、大金を稼ぐ人たちがマジシャンのように見えてくるものだ。もっとも、冷凍のフライポテトと半導体チップの事業で米国の億万長者となり、このほど99歳で死去したJ・R・シンプロット氏は、現実主義がモットー。“I don’t believe in hocus-pocus.”(私はまやかしを信じない)と断言しているのだが…。The Sankei Shimbun(Jun 15 2008)

fist bump


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 fistは「こぶし」とか「拳骨」。bumpは「ドン」とか「バン」と突き当たること。fist bumpは、お互いにこぶしとこぶしをゴツンと突き合わせるあいさつ。スポーツ選手らがよくやる仕草としておなじみ。カタカナ読みは「フィスト・バンプ」。
 このfist bumpが2008年6月3日、テレビ放映されて全米で注目を集めた。ワシントンポスト(2008年6月5日付)は、“It was the fist bump heard ‘round the world.”(世界に響き渡ったフィスト・バンプ)と報じた。すなわち、当時民主党大統領候補となったバラック・オバマ氏が、3日夜にミネソタ州セントポールの演説会のステージに上がり、妻のミシェルさんと抱擁したあと、お互いの目を見詰めて微笑みを交わし、こぶしとこぶしをやさしく突き合わせたのである。
 あるコメンテーターは“It thrilled a lot of black folks.”(それは多くの黒人をわくわくさせた)と述べた。このあいさつはアフリカン・アメリカンの間では非常にポピュラーで、“He wears his cultural blackness all over the place.”(オバマ氏は、どこにいても黒人文化を身につけている)ことが共感を呼んだ、と分析した。
 タイム誌(6月5日付)も、オバマ夫妻のfist bumpを受けて、“A Brief History of the Fist Bump”(フィスト・バンプの略歴)との記事で由来を解説した。それによると、起源はhandshake(握手)というのが有力。それが後に手のひらと手のひらをパチンとあわせる〝ハイタッチ〟に発展したという。ハイタッチは英語ではhigh-five。fiveは5本の指を広げた手を意味する。これを高く掲げてタッチするからhigh-five。低いところでタッチするのはlow-five。これが、さらにfist bumpになったという。
 言語学者のジニーバ・スミザマン女史は、著書“Black Talk”(「黒人の話し言葉」1994)で、high-fiveは単にfiveとも呼び、西アフリカ起源のあいさつ方法で、“put your skin in my hand”(私の手のひらに触れる)が元の意味だという。この手のひら同士のパッチンは1950年代から流行し始め、ベトナム戦争に従軍した黒人兵士の間でdapと呼ばれて、一般にも広がった。dapは“Dignity and Pride”(威厳と尊厳)の頭文字をとったものという。1980年代が流行の頂点となった。
 ところで、オバマ夫妻のfist bumpに対して、視聴者の多くは黒人文化の伝統よりも、むしろ2人が示した夫婦の絆に共感を持ったようだ。オバマ氏は、後にNBCテレビでこう説明している。“It captures what I love about my wife that for all the hoopla I’m her husband and sometimes we’ll do silly things.”(こんな大騒ぎの中でも僕が彼女の夫であることに変わりなく、時々は2人でバカをやってしまうのは、僕が女房のことを愛しているからだよ)。なるほど、「仲良きことは美しきかな」である。The Sankei Shimbun(Jun 22 2008)

2012年3月19日月曜日

texting


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 textは「文章」や「教科書」のほかにコンピューター用語のテキストファイルを指す。これを動詞として使うと、〝テキストする〟といったニュアンスになる。日本語では「ケータイメールする」に当たる。
 携帯電話のメール送信は、to create and send text messages using a cell phone’s keypad(セル・フォンのキーパッドを使ってテキスト・メッセージを作って送ること)。これを簡略化してtext messagingという。“texting”は、これをさらに縮めた形。口語では短い表現の方が話しやすく好まれる。カタカナ読みは「テキスティング」。
 アメリカでもケータイメールはすっかり日常生活に入り込み、日本と同様にいろいろな問題が現れている。最も危険なのが“texting while driving”(運転中のメール)。最近の全米の調査によると、ドライバーの5人に1人が「運転中にメールを送受信したことがある」と回答。これが18歳から24歳のヤング層では、5人に3人を越えるという(US News and World Report)。ニューヨークでは2007年、高校卒業したての若者5人が乗る乗用車がトレーラーと正面衝突して全員死亡。乗用車を運転していた17歳の女子が、衝突の直前まで何度もメール送信していた記録が見つかった。こうした事故がきっかけで、運転中のメールを禁止する動きが昨年から全米に広がり始めた。
 もうひとつの問題が、“texting during class”(授業中のメール)。小中高校を問わず、授業中にメールする生徒と注意する教師の間で、イタチごっこが繰り広げられている。生徒側の言い分はこうだ。“I text in class because I’m bored and talking to my friends is more fun.”(授業中にメールするのは退屈だから。友達と話す方が楽しい)。各学校では授業中の“No texting”policy(「メール禁止」方針)を掲げるが、生徒の側は余計にスリルを感じるだけ。“My students are addicted to texting. They cannot stop.”(わたしの生徒はメール中毒。止めることができない)と教師の側もさじを投げる。
 業を煮やしたニューヨーク市では、ブルームバーグ市長が2005年秋に、1400以上ある公立学校で生徒のケータイ持ち込みを禁止した。ケータイはカンニングやいじめの温床にもなると指摘。違反した場合は、警察がケータイを没収するという厳しい措置で、かなり効果が見られた。
 ところが、今度は生徒の親が、「ケータイ持ち込みを禁止して、子供と連絡が取れないようにするのは、憲法違反だ」と訴訟を起こした。授業中のメールには親とのやり取りも結構あるのだ。結局、裁判所は4月下旬にケータイ禁止を支持したが、親たちは納まらない。子供と常に連絡が取れないと不安で仕方がないという。親の方も“Texting is a new addiction.”(ケータイメールは新たな〝中毒〟)である。The sankei Shimbun (Jun 29 2008)「グローバル・English」はこちらへ

text talk


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 textはコンピューター用語のテキスト・ファイルを指し、動詞では「ケータイメールする」という意味。そこで交わされる言葉が“text talk”。つまり、「ケータイ語」。カタカナ読みは「テクスト・トーク」。また、インターネットのチャットでも使われるからchatspeak(チャット・スピーク)とも呼ぶ。
 textingの大流行にともないtext talkが議論の的になっている。ボストン・グローブ(2008年6月16日付)は、“Is language dead or evolving?”(言葉の死か、あるいは進化か)という見出しで、text talkが正統な英語に及ぼす影響についての賛否を紹介している。
 英語のケータイ語は、省略形に特徴がある。携帯電話のtext messageはSMS(Short Message Service)と呼ばれるサービスで送受信されるが、メッセージは短いほど料金は安い。しかも、早く打てるから、言葉はできるだけ短縮されるというわけ。たとえば、よく使われるのが“LOL”。これは“laugh out loud”のそれぞれの単語の頭文字をとった略号で、「大笑いする」という意味。日本語で、会話体の文章の後に(笑)とか「ハハハ」とか付けるのと同じ。
このほかにも、“Thanks.”(ありがとう)は“THX”。“Oh my God!”(おや、まあ)は“OMG”。さらに、see(見る、会う)はアルファベットのcの1字で表現する。youはuとなる。ateは数字の8(eightと発音が同じ)。だから、later(後に)は“l8r”と書ける。そこで、“cul8r”は“See you later.”(じゃ、またね)。“I love you.”(愛している)は、“i luv u”、または“ily”と書く人もいる。ちなみに、text talkは“txt tlk”と略される。
 こうしたtxt tlkは、〝ケータイ世代〟である10代の若者を中心に生み出されているが、今やケータイメールに止まらず、日常生活にまで波及している。とくに、学校の作文や宿題にtxt tlkで書く生徒が相次ぎ、年輩の教師が困惑するという事態を引き起こしている。正統英語を擁護する文法学者(多くは年寄り)は、これを敵視、“They worry that a language apocalypse is approaching, triggered by a new wave of technological pidgin.”(ハイテクが生んだ〝ゲテモノ英語〟の流行が引き金になって、言葉の〝終末〟がやってくるのを恐れている)という。一方、カナダ・トロント大学の言語学者らが最近、市内の71人の10代について調査した結果は、txt tlkに肯定的。「言語は変化するもの」と考えれば、“language renaissance”(言葉のルネッサンス)と評価できるという。
 さて、どちらに軍配を上げるかは別にして、知っているに越したことはない。“if u cn rEd ths, ur doin gr8.”すなわち、“If you can read this, you are doing great.”(もし、こいつを読むことができるなら、あんたはエライ)。The Sankei shimbun(July 6 2008)「グローバル・English」はこちらへ

2012年3月14日水曜日

squeeze


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 squeezeは「ぎゅっと握る」「搾り取る」という動詞。カタカナ読みでは「スクゥィーズ」。squeeze a lemon(レモンを搾る)などという。名詞にすると、a squeeze of lemon(レモンの搾り汁)となる。また、「無理やり入る」という意味もあり、野球のsqueeze play(スクイズ)でおなじみ。最近は経済記事に頻繁に登場、「圧迫」「緊縮」「引き締め」などの意味で使われている。
 世界的な経済への圧迫要因となっているのが、原油価格の高騰。AP通信は2008年7月1日、“Five-year oil squeeze predicted”(今後5年間の石油市場はひっ迫と予測)と報じた。IEA(国際エネルギー機関)は、世界の石油総需要は現在の日量8700万バレルから2013年までには9400万バレルに増加、価格高騰の影響でかつての予測よりブレーキがかかると見ているが、供給は需要をわずかに上回る程度という。つまり、相場が下がる可能性は少なく、先進国の経済成長は、このままでは息の根を止められることになりかねない。
 米軍への影響も深刻だ。NPR(米公共ラジオ)は同日、“Oil Prices Squeeze Pentagon’s Budget”(石油価格が国防総省の予算を圧迫)と伝えた。米軍の場合、“A $1 increase in the price of a barrel of oil translates into an increase for the whole department of $130 million.”(1バレル当たりの石油価格が1㌦上がると、全体で1億3000万㌦の負担増になる)という。この半年間で1バレル当たり50㌦近い値上げだから、その負担は推して知るべし。イラク、アフガニスタンでの軍事作戦にも支障が出始めており、米議会ではイラクからの撤退論議が再燃しそうだ。
 一方、ウォールストリート・ジャーナル(同日付)は、“Debt-Laden Casinos Squeezed by Slowdown”(借金を抱えたカジノは景気減速で〝火の車〟に)と報じた。石油高騰に加えて住宅バブルの崩壊で、ラスベガスのカジノ客が激減。ラスベガス行きを減便する航空会社も出ている。銀行はカジノへの融資を引き締めに、関係者は“This is the toughest environment we’ve faced.”(かつてない厳しい環境)と悲鳴を上げている。
 さて、squeeze a lemonには、こんな小話がある。ある田舎の酒場に力自慢のバーテンダーがいて、賭けをした。もし、バーテンダーの絞ったレモンからさらにジュースが搾れたならば1000㌦がもらえ、負ければ1000㌦取られるという。ある日、メガネをかけて背広を着たやせた小男が“I’d like to try the bet.”(賭けをしたい)と言った。観客が大笑いする中で、バーテンダーはレモンを搾り、ひしゃげたカスを小男に手渡した。小男がそれを握り締めた。何と6滴のジュースがグラスに落ちた。観衆はやんやの喝采。バーテンダーは小男に1000㌦を払い、仕事をたずねた。小男曰く、“I work for the IRS.”(税務署勤めだ)。最後の1滴まで搾るのがtax squeezeというわけ。The Sankei Shimbun (July 13 2008)

transgender


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 カタカナ読みで「トランスジェンダー」は日本語としても通用する。trans-は「乗り越える」「逆の方に行く」という接頭辞で、genderは「性別」。「逆の性別を求める人」という意味。狭義には、性同一性障害(Gender Identity Disorder)で、出生時の性別に違和感を持ち、それとは反対の性別での社会生活を望む人を指す。広義には、女性から男性に、男性から女性になることを望むtranssexual(性転換者)やtransvestite(異性の服装をする人)などを含める。
 ABCテレビは2008年7月3日、“‘Pregnant Man’Gives Birth to Girl”(〝妊娠男性〟が女児を出産)と報じた。その人はオレゴン州のトマス・ビーティ氏(34)。女性として生まれたが、乳房を切除し、ホルモン療法を受けて、法律的にも女性から男性に性別を変更したtransgender man。ビーティ氏はナンシーさん(46)という女性と結婚して5年になるが、子供が欲しくなることを見越して、自分の女性器を温存していたという。精子バンクから精子の提供を受けたビーティ氏は、4月に妊娠をメディアに発表。あごひげを生やした上半身はだかの男性の腹部が大きく膨らんでいる映像は、ついに出産した事実と併せて全米にセンセーションを巻き起こした。
 一方、米議会下院の教育労働委員会は6月末、初めて「トランスジェンダーに対する差別」についての公聴会を開いた。そこで“I am a transgender woman.”と証言したのは、退役陸軍大佐ダイアン・シュロアー氏。以前はディビッドという男性名で、25年間米軍に勤務し、対テロ特殊部隊の司令官として活躍。だが本人は、子供のときから自分が男性であることに違和感を持ち、女性になりたく思っていたという。ついに2004年、性転換する決意をして軍を退き、議会図書館の対テロ分析官に応募。いったん採用されるが、“I was in the process of my gender transition from Dave to Diane.”(ディヴからダイアンへの性転換を図っている)と告白、女性として勤務することを希望したら、採用を取り消された。シュロアー氏は、性差別であると主張、裁判を起こした。
 日本では、2004年7月に性同一性障害者に対する特例法が施行され、条件付きながらSex Reassignment Surgery(性別適合手術)によって戸籍の性別が変更できる。一方、アメリカではtransgenderは、法的には州政府の問題として扱われ、ほとんどの州で出生証明書の名前や性別を変更することが認められる。また、オレゴン、ニュージャージーなど十数州でtransgenderに対する差別禁止法が拡大しつつある。
 シェークスピアは、「ハムレット」の中でこう言っている。“We know what we are, but know not what we may be.”(われわれは今の自分を知っているが、これから何になるかは分らない)。激しい変化の時代を生きているのである。The Sankei Shimbun (July 20 2008)

2012年3月11日日曜日

capitulation



カタカナ読みは「キャピチュレーション」。16世紀からある古い言葉で、元は「合意文書」のこと。後に、合意は合意でも、服従、降伏文書の合意を意味するようになり、軍事用語として「降伏」そのものを指す。
ニューヨークタイムズ(2008年7月10日付)は、“Senate Approves Bill to Broaden Wiretap Powers”(上院が米政府の盗聴力増強の法案に同意)と報じた。法案は10日、ブッシュ大統領が署名し成立。これは、2001年の9・11中枢同時テロ以降、大統領権限でNSA(国家安全保障局)に対して、裁判所の令状なしで一般市民や外国人の電話などの盗聴を許可してきた〝既成事実〟を、改めて「外国情報監視法」の改正案として提出したものである。2005年末に盗聴の事実が明るみに出て、協力した電話会社に訴訟が殺到。今回の改正案は、電話会社への免責を与える条項を盛り込んだ点がミソだが、同時に、ほとんど無制限に盗聴できる権限を政府に与えている。
上院の投票結果は69対28の圧倒的多数で可決。これは、令状なしの盗聴行為を人権侵害と訴えてきた民主党議員の多くが賛成に回ったためで、その中には、直前まで反対していたバラック・オバマ氏(当時は上院議員)も含まれた。
この結果について、民主党のラッセル・ファインゴールド上院議員は、“This bill is not a compromise. It is a capitulation.”(この法案は妥協ではない。屈服だ)として、民主党の最も重要な主張を放棄したと批判した。 “This is one of the greatest intrusions, potentially, on the rights of Americans protected under the Fourth Amendment of the US Constitution in the history of our country.”(わが国の歴史上、憲法修正第4条=プライバシーの保障=で守られた米国民の権利に対する最大の侵害の1つになる)と、同議員は警告している。
さて、capitulationは株式市場では、安全を求めて市場から抜け出すため、前に得た利益まで放棄し、保有株を〝投売り〟することを指す。いわゆる“panic selling”(パニック売り)。民主党の“capitulation”について、“It’s presidential election-year cowardice. The Democrats are afraid of looking weak on national security.”(大統領選挙の年のビビリ。民主党は国家安全保障で弱腰と見られるのを恐れている)との分析があり、選挙を目前にした〝パニック売り〟ともいえる。共和党大統領候補のジョン・マケイン上院議員は、オバマ氏を“flip-flopper”(変節漢)と皮肉った。
建国の父であるベンジャミン・フランクリンはこう言っている。“The man who trades freedom for security does not deserve nor will he ever receive either.”(安全保障のために自由を売り渡す者は、そのいずれにも値せず、どちらも得られない)。The Sankei Shimbun (July 27 2008)

culprit




カタカナ読みは「カルプリット」だが、「ル」はlだから、「カウプリット」と読むと、少しは英語らしく聞こえる。意味はズバリ「犯人」。刑事事件の犯人だけでなく、悪い出来事の原因について、比喩的に「犯人」という場合にも使う。
米国で2008年4月以降、懸命に「犯人探し」(tracking down culprit)が続いたのが“Salmonella search”(サルモネラ中毒の調査)。1200人以上の感染者が出て、FDA(米食品医薬品局)も対応に苦慮した。ワシントンポスト(2008年7月21日付)は、“Peppers Picked as Salmonella Culprit”(ペッパーがサルモネラ中毒の犯人に浮上)と報じた。このペッパーとは激辛のハラペーニョのことで、メキシコからの輸入品にサルモネラ菌の汚染が見つかったという。メキシコ料理の薬味の1つで、とくにサルサには欠かせない。その前に“culprit”にされたのが、これもサルサの材料になるトマト。ちょうど、4日前に、“The FDA gave the all-clear signal for fresh tomatoes.”(FDAは生トマトについては無罪放免した)。だが、トマトが犯人にされて以来、トマト生産者らの被害は“$100 million”(100億円以上)に上るといい、彼らにとっては後になって大丈夫だといわれても、“The damage is done.”(後の祭り)。
それでは、“the real culprit”(真犯人)はハラペーニョに間違いなのか?CDC(米疾病対策センター)は、なお「原因不明」であるが、“They recommend avoiding these peppers until they can pinpoint the main carrier.”(主な媒介が特定できるまで、これらのペッパーを避けるように警告している)という。つまり、ハラペーニョも“the latest possible culprit”(最新の犯人の可能性)に過ぎない。犯人探しに振り回される農家やメキシコ料理店には、殺生な話だ。
さて、VOA(ボイス・オブ・アメリカ)は2008年7月8日、石油の代替燃料として注目を集めてきたbiofuels(バイオ燃料)について“Savior or Culprit- Debate Goes On”(救世主か悪者か、議論が続いている)と報じた。つまり、石油価格が高騰する中で、トウモロコシやサトウキビから造られたエタノールなどを〝救世主〟と持ち上げて、各国でどんどん生産を続けた結果、今度は世界的に穀物価格が上昇。biofuelsはその〝犯人〟にされてしまった。ウォールストリート・ジャーナル(同7月14日付)は、“Ethanol: The Battle Continues”(エタノール:戦いは続く)との記事で、“Ethanol already is a culprit in the food-versus-fuel polemic.”(エタノールは今や食糧vs燃料論争の〝やり玉〟)と述べている。
culpritの語源は17世紀で、ラテン語由来のculpable(有罪の)とprest(準備ができる)が合体した言葉。裁判の初めに「有罪の証明の準備はできた」と、検察が発した言葉に始まるという。有罪の立証は、まさにこれからなのである。The Sankei Shimbun (August 3 2008)

2012年3月4日日曜日

comfort capsule


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 comfortは「慰める」「励ます」という動詞で、名詞形は「慰安」。capsuleは一般的には「カプセル」だが、ここでは航空機、とくに軍用機の“sealed cabin”(密閉されたキャビン)を指す。comfort capsuleは、「慰安用のキャビン」。カタカナ読みは「カンフォート・キャプスル」。
 ワシントンポスト(2008年7月18日付)は、“Terrorism Funds May Let Brass Fly in Style”(テロ対策予算で幹部はぜいたく飛行か)という見出しで、「米空軍が1600万㌦(約17億円)の対テロ資金を使って、軍用機にcomfort capsuleを装備」と報じた。ここでbrassは“top brass”(高級将校)の略。では、何がin style(ぜいたく)なのか?
製造が始まったキャビンの第1号は2部屋からなり、ベッドやソファ、テーブル、ステレオスピーカー付き37インチ大画面モニター、等身大の鏡が備わる。さらに回転式のシートは、民間航空機のファーストクラス並みの豪華さ。途中で革張りの色を茶色から空軍を象徴する「青」に変え、ポケットを付けるように要求されたため、デザインの変更だけで最低6万8000㌦かかるという。
 ポストに寄せられた読者の意見には、“Typical officer’s abuse of power and money”(役人の典型的な権力と金の乱用)という批判から、“RHIP”(Rank Has It’s Privileges = 階級に従って特権がある)とする退役軍人の弁護まであった。
 ニューヨーク・タイムズ(2008年7月24日付)は、“I’m Comfortable. How About You?”(私は快適だが、君は?)という社説で、“The most offensive part of this project is that the Air Force has been pressing Congress for the last three years for permission to tap $16 million in counterterrorism funds to pay for this indulgence.”(この事案の最も腹立たしい点は、空軍が1600万㌦に上る対テロ予算を過去3年間にわたって議会に要求し続けた挙句、こんな道楽に使うことだ)と指摘。「慰安用のキャビンがアルカーイダを打倒するのにどう役立つのか、説明してほしい」と迫っている。
 さて、軍隊に関わるcomfortの付いた言葉に、Comfort womenがある。これは、第2次世界大戦中、旧日本軍に従属させられたという「慰安婦」あるいは「従軍慰安婦」の英訳。現在でも、中国や韓国サイドの被害を訴えるロビー活動が続いており、米議会ではしばしば政治問題として取り上げられ、日本叩きの材料にされる。
 さて、どちらのcomfortの議論を聞いていても、実にuncomfortable(心地よくない)のは、comfortという言葉がwar(戦争)とかmilitary(軍隊)と所詮相容れないからであろう。第2次大戦時の英国の首相、ウィンストン・チャーチルはこう述べている。“This is no time for ease and comfort. It is time to dare and endure.”(今は安逸や慰安を求める時ではない。勇気と忍耐の時なのだ)。The Sankei Shimbun (August 10 2008)

guilty pleasure


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 guiltyは「有罪の」という形容詞だが、「心にやましい」という意味がある。pleasureは「楽しみ」や「喜び」。この2つがくっついたのがguilty pleasure。「心にやましい楽しみ」といえば何だか犯罪めくが、実は「(やりすぎがよくないのは)わかっちゃいるけど、止められない(楽しみ)」という意味。カタカナ読みは「ギルティ・プレジャー」。
 “Everyone has at least one guilty pleasure.”(誰にも1つくらいは、わかっちゃいるけど止められない楽しみがある)。たとえば、どんなに禁煙ブームになろうとも、1箱1000円に値上がりしようとも、止められないタバコはguilty pleasure。酒やギャンブルも、もちろんこの類。
だが、時代が移ればguilty pleasuresも変わる。AOLのメッセージ・ボードには、アメリカ人の最近の〝告白〟が集められている。その1は“buying pet products”(ペット用品を買うこと)。心を癒してくれるペットへの執心は世界共通。“I have 11 fish, 9 rabbits, 3 birds and a dog. They have everything and more!”(11匹の魚と9匹のウサギ、3羽の鳥、1匹のイヌがいますが、彼らには何もかも与えています)という人がいた。
 その2は“plastic surgeries”(美容整形)。口元にヒアルロン酸を注入、高周波で顔の小じわやたるみを改善、目の周りはボトックス治療。“When I leave the office I look 15 years younger and feel great.”(医院を出るときは15歳も若返り、“やった!”という感じ)だが、半年ごとに4000㌦もの費用がかかり、“Being young isn’t easy.”(若さを保つのは楽じゃない)とか。
 その3は“computer games”(コンピューター・ゲーム)。われわれの生活は今やコンピューターにがんじがらめ。朝起きるや、コーヒーとともにパソコンに向かう。“It’s an online game I play with millions of people from around the world.”(私が世界中の何百万人をも相手にするのがオンライン・ゲーム)という人がいる。“I mostly play 4 hours a day.”(1日4時間はザラ)。
 そのほか、“eBay-ing”(ネット・オークション)、“car wash”(洗車)、“energy shots”(栄養ドリンク)、“lottery tickets” (宝くじ)など、〝はまりどころ〟は想像がつきそうだ。
 新聞の読者欄では“What’s your guilty pleasure?”(あなたの止められない楽しみは?)と、よく募集する。“Mayonnaise. It makes everything taste better, from French fries to hot dogs. Also, you can use it on your skin and hair; the possibilities are endless!”(マヨネーズ。すべての味をよくする。ポテトフライからホットドッグ。それに肌や髪に付けてもいい。可能性は無限!)という回答がUSA TODAYにあった。これにketchup(ケチャップ)を加えれば、これこそアメリカ人の “guilty pleasure tastes”(わかっちゃいるけど止められない味)である。The Sankei Shimbun (August 17 2008) 「グローバル・English」はこちらへ