Illustrated by Kazuhiro Kawakita |
hiddenは動詞hide(隠す、隠れる)の過去分詞形で形容詞。handは「手」。hidden handは「隠された手」で、カタカナ読みは「ヒドゥン・へァンド」。両手の場合は、hidden handsと複数形になる。その意味は、いわゆる「黒幕」。昔ながらの表現にpull the strings(裏で糸を引く)という慣用句があるが、この場合にも糸を引く手が隠れていると考えると、hidden handである。
米国のメディアは「黒幕」が好きだ。2008年4月20日付けのニューヨーク・タイムズは、“Behind TV Analysts, Pentagon’s Hidden Hand”(テレビのアナリストの背後に、国防総省の隠された手)との記事を掲載。“Hidden behind that appearance of objectivity, though, is a Pentagon information apparatus that has used those analysts in a campaign to generate favorable news coverage of the administration’s wartime performance.”(軍事アナリストを使ってブッシュ政権の戦争行為に好意的なニュースを生み出すキャンペーンを行っている国防総省の情報機関は、外見では客観性を装っている)と批判した。実際、記事で名指しされたアナリストのほとんどが元軍人で、中には米軍から受注する業者とのつながりが指摘される人も含まれている。
この記事に対し同紙は2008年5月1日付けで、元軍人アナリスト5人連名の手紙を掲載。彼らは“We will continue to speak out honestly to the American people about national security threats. Like our military service, we consider it our duty.”(われわれは米国民に対し、国家の安全危機ついて正直に述べ続ける所存である。軍務と同様に、それがわれわれの義務だと考える)と回答している。なるほど、モノは言いようだ。
さて、hidden handがいつ頃から登場したのか明らかではない(何と言っても隠れているから)。だが、19世紀の半ばには“Hidden Hand”という書名の本が出版され、その後はそれをテーマにした出版が相次ぐ。思うに、事件の背後に黒幕がいる、というconspiracy theory(陰謀論)は、それが事実かどうか別にして空想力をかき立てるので、読み物の格好のネタなのだ。
ところで、よく似た言葉に“invisible hand”(見えざる手)がある。これは、英国の経済学者アダム・スミス(1723~1790)が、著書「国富論」(The Wealth of Nations)のなかで使った言葉。個人の利益追求が、その意図しない結果として、社会の公共的な利益を増進させることになるというもので、一般的には、自由主義の市場原理を賞賛したものと解釈されている。
そこで、おそらく鋭い読者諸氏から質問が出ることだろう。1バレル当たり120ドルを超える最近の原油相場は、果たしてinvisible handによるものか、あるいはhidden handによるものか、と。That’s what I want to ask you! The Sankei Shimbun (May 25 2008)