2011年12月1日木曜日

recession chic


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 recessionは「景気後退」「不景気」。chicはフランス語から入った言葉で、「粋」「上品」という意味。recession chicは「不景気の粋」、つまり不景気で予算が限られる中で、追求する「粋」「上品」ということ。カタカナ読みは「リセッション・シーク」。
 ニューヨーク・タイムズ(2008年10月26日付)は、“A Label for a Pleather Economy”(〝合成皮革〟経済のレッテル)の記事で、“Welcome to ‘recession chic’ and its personification, the ‘recessionista,’ the new name for the style maven on a budget.”(ようこそ「リセッション・シック」へ。そして、その擬人化である「リセッショニスタ」、つまり限られた予算でのファッションの達人へ)と書いた。ここで、pleatherは、ポリウレタン・フィルムの頭文字のpがleather(皮革)の上に付いたので「合成皮革」。見かけは皮革で豪華だが、実は値段は安い、というわけ。
 辞書編纂者のグラント・バレット氏は、recession chicについて、“The idea is, because they are spending less or getting more value, it is still O.K. to shop.”(出費を抑え、よりよいものが手に入るなら、買い物をするのも、なおOKだという考え方)と看破する。
 recessionistaは、recession(不景気)とfashionistaを組み合わせた言葉。後者はfashion(ファッション)にスペイン語で「人」を表す連結形-ista(英語の-ist)が付いたもの。意味は、リセッション・シックを実践する人。
 どちらの言葉も1990年代から2000年初めに登場したようだが、昨秋以降にわかに脚光を浴びて、今や新たなトレンドとなった。
 では、具体的にはどんなファッションか?
 タイム誌(2008年3月27日付)は、“Recession Chic”の記事で、“Fashion trends and tastes often serve as early harbingers of economic change.”(ファッションの傾向と嗜好がしばしば経済的変化の予兆を示す)として、“back to black”(黒への回帰)と書いた。景気の悪い時には黒が流行するという。今回の不景気は世界規模だから、確かに、われわれの周囲にも昨秋以降、黒のファッションがあふれた。
 もっとも、不景気が長引くにつれて、この限りでなくなる。ワシントン・ポスト(2009年3月15日付)には、ケリー・マラゲス記者が“I’m Not Buying Recession Chic”(私はリセッション・シックなんて買わない)と書いた。生活費をどんどん切り詰めなければならない人も大勢増えている。そんな人たちには、recession chicでさえ高嶺の花。
 だが、言葉は使い方一つだ。デパートの店員に高価な品物を押し付けられそうになったとき、“I can’t afford it.”(それは買えない)などというのはしゃくだから、“I’m a recessionista.”(リセッショニスタよ)と軽くかわそう。The Sankei Shimbun (April 27 2009)

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