2015年10月10日土曜日

「一億総活躍社会」ーEngagement of All Citizens


安倍首相が打ち出した「一億総活躍社会」の構想。文字通りは、一億人の国民すべてが活躍する社会、という意味だが、問題は国の政策として「活躍」が何を指しているのか、である。

官邸の英語版ホームページには、「一億総活躍相」を“Minister in Charge of Promoting Dynamic Engagement of All Citizens”と翻訳していた。ここでも、Dynamic Engagement が何を意味するのか、engagement の動詞形は engage だが、一体何に engage するというのか?

政策としての engagement ですぐに思いつくのは、米国の外交政策の engagement policy。「関与政策」と訳されるが、この engagement は、a synonym for a wider range of more specific practices of contact between an international actor and a foreign public, including public diplomacy, communication and the deployment of international aid.(国際的に活動する主体と外国の大衆との間の接触において、より広い範疇に及ぶ、より特別な行為と同義で、大衆外交、コミュニケーション、国際援助の実施を含む)という。これは、冷戦時の敵対政策に代わるものとなった。

では、Engagement of All Citizens(すべての市民の関与)とすると、関与の対象は何であるのか?安倍首相は経済優先を今後の施政方針の中心に据えて、GDP(国内総生産)600兆円を打ち出したので、この目標に向かって engage(関与する)ということになりそうだ。つまり、GDPを現在の464兆円から600兆円に押し上るため、全国民が総出で働くというのが、「一億総活躍社会」の中身というわけであろう。

これに対して、野党側からは「戦前の国家総動員法のようだ」との批判が聞かれた。国家総動員法は1938年(昭和13年)に、戦争における勝利は国力の全てを軍需へ注ぎ込み、国家が「総力戦体制」をとることが必須であるという認識から生まれた。英語では National Mobilization Law と訳される。実は、この National Mobilization の方が「一億総活躍」にぴったりの翻訳だと感じる。

TPP 発効後、経済戦争に勝ち抜くために、老いも若きも、男も女も、果ては子供まで mobilize(動員する)され engage(関与する)させられる。しかもDynamicに。合言葉は「挙国一致」(National Unity)、「尽忠報国」(Loyalty and Patriotism)、「堅忍持久」(Dogged Patience)、「滅私奉公」(Selfless Devotion) だ!


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