2012年12月30日日曜日

roil アメリカを読む辞書が選んだ Word of the year

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 カタカナ読みは「ロイル」。たとえばジュースなど沈殿物のたまった液体をかき混ぜると濁った状態になることを指す動詞であり、名詞。比喩的にも用いられ「かき乱す」「乱れる」「混乱する」などと訳される。
 「アメリカを読む辞書」はroilを2012年のword of the year に選んだ。今年もっともよく世界情勢を表した言葉と考えられるからだ。
 米国議会では、fiscal cliff(財政の崖)をめぐり、民主・共和両党が年末まで折衝を続けた。〝財政の崖〟とは、2001年から始まったブッシュ減税が2012年末に失効するとともに、膨大な連邦財政を削減するため2013年1月1日から自動的に歳出の削減が発効することを指す。
 AP通信(12月28日付)は、米金融市場が12月21日以降28日まで下げ続けていることに触れて、“The erratic performance underscored how the "fiscal cliff" can roil the market.”(常軌を逸した相場は、〝財政の崖〟がいかに市場を混乱させるかを裏付けている)と述べた。31日に交渉が決着しなければ、年明けからさらなる混乱が全世界を巻き込むことになるだろう。 
 欧州においても金融市場混乱の火種は尽きない。ウォールストリート・ジャーナル(2011年5月23日付)が、“Debt fears roil European markets”(債務への恐れで欧州市場は混乱)と書いたが、国家の債務危機に揺れる欧州の金融市場は、今年もギリシャやスペイン、さらにはフランスの国債の格付けの引き下げなどがあり、投資家の懸念は強まる一方でroilは止まない。来年も「混乱は続く」との見方が根強い。
 さて、目を中東に転じてみよう。ワシントン・ポスト(2012年12月6日付)は、“Protests roil Egypt”(抗議デモでエジプトは混乱)と報じた。この国は、2011年1月に反政府抗議デモによって、大混乱の末にムバラク前大統領が辞任に追い込まれた。だが、モルシ新大統領になっても、年の瀬まで憲法改正などをめぐり抗議デモは止まず混乱し続けた。新憲法は国民投票によって承認されることになったが、このまま混乱が収束していくとは思えない。
 一方、タイムズ・オブ・インディア(2012年11月13日付)は、“The Generals and the Labyrinth: Scandals roil end of Obama first term”(将軍たちと迷宮:オバマ大統領の1期目最後はスキャンダルがかき乱す)と報じた。これは、米CIA(中央情報局)のペトレイアス前長官が不倫問題で辞任した一件。オバマ政権は騒動の末に、何が何だか訳が分からないままで幕引きとなった。スキャンダルの火種もまた尽きることはないようだ。PS: ご意見、ご感想をお待ちしております

2012年12月29日土曜日

outbreak ノロウイルスが世界的に猛威

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 元になるのは動詞形でbreak out(爆発する、勃発する)。outbreak(アウトブレイク)は「爆発」、戦争の「勃発」の他に、cholera outbreak(コレラの流行)など感染症の発生、流行の意味で使う。
 AP通信(2012年12月28日付)は、“19 ill in suspected norovirus outbreak on liner”(定期船で19人が発症ノロウイルスの疑い)と報じた。この定期船は、ニューヨークからカリブ海を12日間かけて周遊するクイーンメリー2号で、2613人が乗船していたが、食中毒のようだ。
 また、英ガーデイアン(同日付)は、“Norovirus outbreak may have exceeded 1 million, says health agency. Confirmed winter vomiting bug cases soar to 3,538, shutting schools and forcing evacuation of North Sea oil rig”と報じた。英国ではノロウイルスの感染者は100万人を越えていると保健局が推定している。そのうち、学校閉鎖や北海油田の強制避難など確認された感染者だけで3538人に上るという。
 このシーズンは、世界中でノロウイルスが流行しているのだ。
 ところで、この夏、世界に衝撃を与えたのはアフリカ・ウガンダのエボラ出血熱の流行。ウォールストリート・ジャーナル(2012年7月29日付)は、“The world's first major outbreak of Ebola hemorrhagic fever since 2009 has killed at least 14 of 20 people infected in a remote area of midwestern Uganda.”(ウガンダ中西部の遠隔地で2009年以来、世界初の大規模なエボラ出血熱の流行で、20人の感染者のうち少なくとも14人が死亡した)と報じた。ウイルス性感染症で高熱・頭痛などカゼのような症状に始まり、歯肉や鼻から出血が起こり数日で死亡する。現状では治療法が確立していないだけに、恐ろしい。もっとも、英BBC(8月11日付)は、“Uganda's deadly Ebola outbreak under control, says MSF”と報道。MSFはMedecins Sans Frontieres(フランス語)で「国境なき医師団」を指す。それによると、ウガンダの致死的なエボラの流行も制圧された、という。
 感染症の発生は人為的にも引き起こされる。米医師会のニュース(8月10日付)によると、“Hepatitis C outbreak raises public health concerns in 8 states”(C型肝炎の発生が8州で公衆衛生上の懸念を引き起こしている)と報じた。実は、この流行は犯罪によるものだ。“A former New Hampshire medical technician is the suspected source of the outbreak, and he was arrested in July.”(元ニューハンプシャー州の医療技師が大量発生の感染源との容疑がかけられ、7月に逮捕された)。技師は州内の病院に勤務していた当時、30人の患者にC型肝炎を感染させた疑いがもたれる。以前に勤務していた6以上の州でもC型肝炎が発生する恐れがあり、米疾病予防管理センター(CDC)が調査を進めているという。
 感染症のoutbreakに国境はない。明日は我が身と考えて、注意を怠らないことがグローバル時代の心得だ。













2012年12月25日火曜日

glocal これからの金儲けはこれだ!

Illustrated by Kazuhiro Kawakitaka


 カタカナ読みは「グロウカル」。global(グローバル、地球的)とlocal(ローカル、地域的)を組み合わせた造語。オックスフォード辞典(ネット版)によると、reflecting or characterized by both local and global considerations(地域的であるとともに地球的な考えを反映しているか、それらによって特徴付けられる)と定義。すなわち、「地球的かつ地域的な」ということ。
 この意味を解くカギが、“Think globally, act locally”、または“Think global, act local”(地球的視野で考え、地域に密着して行動する)という語句。1970年代から環境問題に関して使われたが、その後、経済やビジネスの分野でも盛んに使われるようになり、glocalization(globalizationとlocalizationの合成語で、カタカナ読みは「グロウカライゼイション」)という言葉まで生まれた。
 その例としてよく挙げられるのが、ハンバーガー・チェーンのマクドナルド。その経営は世界中に広がり、globalizationの典型。だが、インドでの代表メニューはチキン・マハラジャ・マックで、他地域での牛肉ベースのビッグマックではない。つまり、牛は神聖な動物であるので食べない、というインドの地域性を考慮してlocalizationをしているというわけ。
 タイム誌(2012年8月20日号)は、“The Economy’s new rules: Go glocal”(経済の新たなルール:グローカルで行こう)との特集記事を掲載した。これまで一本道を歩んできた米国経済のグローバル化は、イラク戦争、住宅バブルの崩壊、世界金融危機の連鎖で急ブレーキが掛かり、“Local is looking better and better.”(ローカルがますますよく見える)という状況。その理由は、“As finance fades into the backdrop, manufacturing takes center stage.”(金融が背景に後退、製造業が表舞台に登場)して、地域経済が好転していることだ。これだけドル安、円高が続けば、米国の製造業が息を吹き返すのは当然だろう。その分、日本の製造業は海外シフトを余儀なくされており、新たなgo glocalを模索しなければならない。
 ところで、英ガーディアンのブログ(2012年12月4日付)に、“Film-makers start thinking 'glocal'”(映画制作者はグローカルを考え始めた)との記事が出ていた。
 “There are signs that regionally-inflected versions of the same stories offer a way ahead for world cinema.”(同じストーリーで地域を変えたバージョンの映画が世界の映画界に先んじる兆しがある)と指摘した。
そういえば、「巨人の星」のインド版がテレビ放送を開始し、野球をインドの国民スポーツ、クリケットに変えた筋が結構受けているそうだ。物語の筋はglobalに、設定はlocalにがミソなのだ。






2012年12月24日月曜日

scrooge Merry Cliffmas なんか真っ平だ!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 カタカナ読みは「スクルージ」。「守銭奴」「けちんぼ」などを指す名詞。語源は、英国の作家チャールズ・ディケンズが1843年のクリスマスに発表した名作“A Christmas Carol”(クリスマス・キャロル)の主人公で守銭奴のEbenezer Scrooge。
 米CNN(2012年12月1日付)は、“Obama warns of ‘Scrooge’ Christmas without tax-cut extension”(オバマ大統領は、減税の延長がなければ〝けちんぼ〟のクリスマスになるだろうと警告)と報じた。この発言は、米国が直面するfiscal cliff(財政の崖)を回避するため、野党共和党に協力を呼びかけたもの。
 〝財政の崖〟とは、2001年から始まったブッシュ減税が2012年末に失効し、さらに膨大な連邦財政を削減するために2013年1月1日から、自動的に歳出の削減が発効することを指す。それによって、財政は切り立った崖から転がり落ちるように〝均衡財政〟に向かう一方、財政支出で支えてきた景気が一緒に転がり落ちて、不況が一段と厳しくなると予想されているのだ。
 オバマ氏は、ペンシルベニア州内の玩具会社で演説。その内容は“If Congress does not extend soon-to-expire tax breaks for the middle-class, it will be like receiving a ‘lump of coal’ at Christmas.”(議会が間もなく期限切れとなる中産階級への減税措置を延長しないならば、クリスマスに石炭の塊を受け取るようなものだ)。a lump of coalは、かつて悪い子供にクリスマス・プレゼント代わりに与えたもので、とても惨めな “Scrooge Christmas”になるというわけ。まさに、Cliffmas(崖っぷちのクリスマス)か?
 英米では“Santa or Scrooge”(気前のいいサンタクロースか、けちんぼのスクルージか)と、よく言われる。『クリスマス・キャロル』はこの時期のエンターテインメントの定番で、小説だけでなく劇や映画でもおなじみ。もっとも、原作では守銭奴のスクルージは、クリスマス・イヴに超自然現象を体験して改心することになるのだが・・・。
 ところで、USA TODAY(2012年12月23日付)は、“Party on! Non-Christians don't Scrooge on Christmas fun”(パティーだよ。キリスト教徒じゃない人たちもクリスマスの楽しみをケチることはない)と述べている。
 “Although 27% of Americans have no religious tie to Christmas, many atheists, Jews, Muslims and Hindus are in full swing with Christmas trees, lights, gifts and more. Why Scrooge on joy?” (米国人の27%はクリスマスに宗教的な結びつきを持たない人たちだが、多くの無神論者、ユダヤ人、イスラム教徒やヒンドゥー教徒もクリスマスツリーを立てて、明かりを飾り、プレゼントをして目一杯楽しむ。なぜ喜びをケチることがあろうか?)




2012年12月22日土曜日

setback Everyone has setbacks.

Illustrated by Kazuhiro Kawakita
set backは、物事の進行を「遅らせる」という動詞句。setbackと続けると、その名詞形になる。「後退」「つまづき」「失敗」などと訳される。
 2012年末、米国では新たなsetbackが浮上した。ワシントンポストの12月30日のBreaking newsは、"Talks to avert the fiscal cliff suffered a 'major setback' Sunday, Democrats said, when Republicans demanded significant cuts to Social Security benefits in exchange for President Obama's request to extend emergency unemployment benefits and cancel deep cuts to the Pentagon and other agency budgets."と報じた。
(財政の崖を回避するための民主・共和両党の交渉は日曜日に、〝大きく後退〟した、と民主党関係者は語った。というのは、オバマ大統領が臨時の失業保険金給付を拡大し、国防総省や他の省庁の予算削減を中止した見返りに、共和党が社会保険金給付の削減を要求したためだ)
 こちらを立てれば、あちらが立たず。交渉は難航している。
米ウィークリー・スタンダード(2012年11月19日号)は先日の米大統領選挙の結果に関して、“A setback, not a catastrophe”(後退ではあるが命取りではない)と述べ、共和党の敗北を論評。“The Democrats’ success was Obamacentric.”(民主党の成功は〝オバマ中心〟だ)として、オバマ人気頼りの選挙と分析。一方、“The last thing Republicans need is an identity crisis.”(共和党はアイデンティティの危機などまっぴら御免だ)と指摘した。確かに、今回の選挙でも共和党のアイデンティティは、さらに鮮明になった。だが、それはいかにも時代遅れなもので、〝愚かな失言〟がさらに保守のイメージを傷つけた。
 AP通信(2012年12月10日)は、“Former tea party leader blames GOP for setbacks”(ティーパーティの元リーダーは、共和党の敗退をなじった)と報じた。共和党の下院の多数派のリーダを務め、最近までFreedomWorksを率いたDick Armey氏は、“Republicans have a lot of candidates who did "dumb things" during their campaigns.”(共和党は、選挙戦で〝馬鹿〟をやる候補者が多い)と嘆息した。たとえば、米インディアナ州から上院選挙に出馬した共和党のリチャード・モードック氏は選挙の直前の10月23日に、妊娠中絶反対を訴えて、「レイプというおぞましい状況から始まった命ですら、神のお導きである」と口を滑らせて、落選した。ロムニー大統領候補は、モードック氏の意見は個人的なものだと逃げたが、ダメージは避けられなかった。
 米国では「小さな政府」を期待する世論が根強く、保守の地盤を支えてきたが、「こんな馬鹿なことをいうやつがいる限り、選挙に勝つことはできない。教育をやり直せ」とDick Armey氏は憤懣やるかたない。
 さて、ウォールストリート・ジャーナル(2012年11月10日付)は、“Malaria vaccine suffers setback”(マラリアのワクチンが頓挫を来たす)と報じた。マラリアは今も世界で猛威をふるう感染症で、2010年には全世界で2億人以上が感染し、子供を中心に65万人以上が死亡。そこで、英大手製薬会社のグラクソ・スミスクラインは、マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏らの財政援助でワクチンの開発を進めている。
 だが今回、生後6~12週間の赤ちゃん6500人を対象にした臨床実験で、ワクチンの効果は31%に止まったと報告。生後5~17カ月の場合では半数まで効果を上げたのに対し、より幼い赤ちゃんでは、まだまだというわけだ。優れたワクチンが早くできることを祈りたい。
 ブレード・ランナーOscar Pistorius 氏はいう。"Everyone has setbacks. I'm no different. I happen to have no legs. That's pretty much the fact." (誰しもつまづきはある。私だって違いはない。たまたま両足がなかった。それが事実なんだ)
 

2012年12月20日木曜日

senior moment ど忘れって?

Illustrated by Kazuhiro Kawakita
seniorは「シニアの」「老年の」で、momentは「瞬間」。senior momentは、文字通りでは「シニアの瞬間」だが、a momentary lapse in memory(瞬間的な記憶の欠落)を指す。すなわち、高齢者によくある「一時的な物忘れ」や「ど忘れ」である。
 NPR(米公共ラジオ放送・ネット版)は2011年4月11日付に、“Senior moments: A sign of worse to come?”(度々物忘れをするのは、より悪くなる兆候か)との特集記事を掲載した。その中で、“They can’t retrieve a once-familiar name.”(前に知っていた名前が出てこない)、“They stride into a room with purpose and then forget why.”(何かするつもりで部屋に入り、何故かを忘れる)などの現象を挙げている。
 怖いのはa symptom of dementia(痴呆の兆候)。例えば、“If an older person goes to a convenience store where she frequently shops and cannot remember how to get home, we are more likely to suspect dementia.”(高齢者が日頃よく買い物に行くコンビニに行って、家に帰る道を思い出さないとしたならば、私たちは痴呆=認知症を疑うことになるだろう)という。
 ところで、senior momentは比喩的にも使う。米ネット新聞のハフィントンポスト(2012年8月16日付)は、“The Romney campaign has a senior moment”と報じた。米大頭領選挙のロムニー共和党候補は、Medicare(高齢者医療保険制度)の抜本改革として大幅な削減を打ち出しているが、同党支持を貫いてきた多くの高齢者の反発を招いている、と指摘。見出しは、つまり「ロムニーの選挙キャンペーンは〝ど忘れ〟している」というわけ。
 政治の世界では、この種のsenior momentは実によくあることだ。
  最後に、老人ぼけのジョークを一つ。
 A Little Hard of Hearing
  Three old guys are out walking. 
  First one says, "Windy, isn't it?"
  Second one says, "No, its Thursday!" 
     Third one says, "So am I. Let's go get a beer."     
 
 「ちょっと聞き取れないね」
 3人の老人が歩いている。
 最初に1人が「風が強いね」といった。
 2人目が、違うよ。Wednesdayじゃなくて、木曜日だといった。
    3番目が、僕もだ。thirsty = 喉が渇く。ビールを飲みに行こうぜ。









 
 

2012年12月19日水曜日

bikelash

Illustrated by Kazuhiro Kawakita
bikeは日本でいう「バイク」ではなく、bicycle(自転車)の短縮形。lashはrush(殺到、ラッシュ)ではなく、backlash(急激な反動、反発)の意味のlash。そこで、bikelashは「自転車に対する反発」で、自転車に乗るcyclistsのマナーの悪さが歩行者や警察当局の反発を招いていることを指す。
 この言葉は、原油価格の高騰と世界的な景気後退が顕著になった2007年ごろから、英国で使われ始めた。ガソリンの節約に健康志向も加わり自転車の愛好者が増加するなかで、信号、道路標識の無視など交通法規を守らない乗り手が問題になっているというわけ。
 米国の大都市でも自転車ブーム。ニューヨークでは、市民の健康を重視するブルームバーグ市長が積極的に市内の道路に自転車専用レーンのネットワークづくりを進めており、2010年の調査では、25万人以上が通勤に自転車を使用しているという。
 だが、わがもの顔で道路を走り回る乗り手が後を絶たず、自転車による交通事故が増加。ニューヨーク・ポスト(2011年1月5日付)は“Bikelash! Cops to crack down on two-wheelers”(自転車への反発。警察が二輪の取り締まり)と報じたが、最近では観光客向けにレンタル自転車も増えて、bikelashは一段と激しくなっているという。
 日本でも自転車の利用が増加するにともない、子供を乗せる3人乗り自転車が登場。その一方で、マナーの悪いcyclistsを取り締まる条例が各地で制定されているが、これもbikelashといえよう。世界は同じ方向にペダルを踏んでいるのだ。The Sankei Shimbun (September 24 2012)


2012年12月16日日曜日

The global mourning "We have wept with you," said Obama



 米東部コネティカット州ニュータウンのサンディフック小学校で2012年12月14 日起きた銃乱射事件について、AP通信は、“Sympathy over US school shooting stretches globe”(米国の学校での銃撃事件への同情が地球に広がる)と報じた。
 実際、一報を聞いて誰しもやり切れない気持ちを感じたであろう。オバマ大統領が声明文で述べているように、“Our hearts are broken today."と表現できる。
 事件は、男が校舎に押し入り銃を乱射、子供20人と学校長を含む教職員8人の計28人が死亡という。“School massacre”(学校の虐殺)という言葉を口にすることさえ、やり切れない。
 それだけに、事件のニュースは衝撃的に全世界を駆け巡った。オーストラリアのJulia Gillard首相は、“senseless and incomprehensible act of evil”(全く訳の分からない意味不明の悪の行為)と呼んだ。
 オーストラリアでは、1996年南部タスマニアで男が35人を銃殺する事件が起きて、政府はセミ・オートマテイック・ライフルをはじめ銃の所持を規制したのだ。
 欧州共同体のJose Manuel Barroso委員長は、 “Young lives full of hope have been destroyed” (希望にあふれた若い命が奪われた)と嘆いた。
 英国のDavid Cameron首相は、“It is heartbreaking to think of those who have had their children robbed from them at such a young age, when they had so much life ahead of them.”(前途に豊かな人生を控えた、こんな若い子供たちを奪われた親御さんを思うと胸がつぶれる思いだ)と語った。
 ドイツのAngela Merkel首相は、“Once again we stand aghast at a deed that cannot be comprehended. The thought of the murdered pupils and teachers makes my heart heavy.”(またしても、私たちは理解を超えた出来事に立ち向かわねばならない。殺された生徒や先生のことを考えるとやり切れない)と述べた。
 フランスのFrancois Hollande大統領は、“horrified”(震え上がった)という。ロシアのVladimir Putin大統領は、“particularly tragic”(何とも悲劇的だ)という。イスラエルのBenjamin Netanyahu首相は、“savage massacre”(野蛮な虐殺)と呼んだ。日本の野田首相は、“The sympathy of the Japanese people is with the American people”(日本国民の同情は米国民とともにある)と述べた。
 さらに、多くのコメントがネットには寄せられているが、世界はコネティカット州の小学校で起きた悲劇を共有しています。

2012年12月15日土曜日

Women rule 女性支配

Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 Womenはwoman(女性)の複数形で、ruleは「支配する」。Women ruleは「女性が支配する」。キャッチフレーズとしては、「女性支配」。
 USA TODAY(2012年8月12日付)は、“American women rule the London Olympics - now what?”(米国女性がロンドン五輪を支配したが、さあ今後はどうか)と報じた。米国は46の金メダルを獲得し世界1位だったが、そのうち女性選手が獲得したのは29で過半数を超えた。それだけに、”Women were the big winners.”(女性が大勝利だ)というわけ。確かに、日本をはじめとして女性選手の活躍が目立った。
 タイム(2012年10月1日号)は、クリントン元米大統領が、“5 ideas that are changing the world for the better”(世界を改善する5つの考え)と題する寄稿文で、Women ruleを取りあげた。“I see evidence all over the world that women are gaining social and economic power that they never had before.”(全世界で女性がかつてないほど社会的、経済的な力を獲得しているという証拠がる)とクリントン氏は指摘、女性が世の中を変える大きな力になるだろうと述べている。なるほど、彼の奥さんのヒラリー・クリントン国務長官は、ポスト・オバマの最有力候補の1人だ。
 Inter-Parliamentary Union(列国議会同盟)によると、2012年には世界の議員の20%を女性が占め、15年前の2倍近くになったという。中東のイスラム諸国でも21世紀に入り女性の参政権が認める動きが加速している。政治の世界もWomen ruleとなるのは、遠い先の話ではないようだ。
 では、“When Women Rule the World”(女性が世界を支配するとき)、どうなるのか?同名のタイトルのリアリティ・ショウをFOXが2007年春に制作した。その内容は、12人の美女と12人の“macho, chauvinistic guys”(筋骨隆々、男尊女卑の男たち)が登場、They’ll have to obey every command from the women(男たちは女の命令すべてに従わねばならない)という結構サディステック趣向だ。これは英国を初め欧州などでは放映され評判となったそうだが、依然として男性優位の米国ではついにお蔵入りに終わったという。日本ではどうだろうか?
 しかしながら、ボブ・ディランこう言う。
 “I think women rule the world and that no man has ever done anything that a woman either hasn't allowed him to do or encouraged him to do.”(僕はこの世を支配しているのは女性だと思う。どの男も女が許してくれないことや、励ましてくらないことをしたためしはない)。それも一理あるのだ。 

2012年12月13日木曜日

insider attack “green-on-blue attack”とは何か?

Illustrated by Kazuhiro Kawakita
insiderはinsider trading(インサイダー取引)というように、「内情に通じた人」を指す。attackは「攻撃」。insider attackは「内部の者による攻撃」で、身内の犯行である。
 英BBC(2012年9月18日付)は、“What lies behind Afghanistan's insider attacks?” (アフガニスタンの内部攻撃の背後に何があるのか) と報じた。イスラム原理主義武装集団タリバンと戦闘を続けるNATO(北大西洋条約機構)軍で、共同戦線を張ってきたアフガニスタン治安部隊のinsider attackによって死傷兵が続出する事態だという。
 この内部攻撃は、rogue Afghan soldiers(ならず者のアフガン兵)による犯行で、“green-on-blue attack”(青に対する緑の攻撃)とも呼ばれる。それぞれの色は何を意味するのだろうか?実はblueは味方、greenは味方の協力軍、さらにredが敵を意味するのだ。そこで、red-on-blueは味方に対する敵の攻撃で、blue-on-blueは同士討ち。すなわち、friendly fireである。
 AP通信(2012年12月11日付)は、この事態を受けて米軍が、“Insider Threats Afghanistan, Observations, insights and Lessons Learned” (身内の脅威、アフガニスタン、観察と洞察、学んだ教訓)と、題する70㌻の冊子を部隊に配布した。
それによると、2007年5月から2012年10月1日までのinsider attackによる死者は320人以上に上るという。そして、注意事項として、もっと文化の違いを理解せよと指摘している。
 “Troops should not blow their noses, put their feet up on desks, wink, spit, point fingers at Afghans or use the "ok" hand signal, which some Afghans interpret as an obscene gesture.”(戦闘員は、アフガン人を前に鼻をかんだり、デスクに足を上げたり、ウインクやつばを吐いたり、指差してはならないし、手でOKの仕草をしてもならない。ある人たちにとってはわいせつな行為を意味するのだ)
  ところで、治安部隊にタリバンが〝浸透〟しているとみられ、治安部隊を訓練するNATO軍兵士にいつ銃口が向けられるか分からない。それがinsider threat(身内の脅威)なのだ。実際、こんな状態では、戦闘どころの話しではない。記事は米軍の士気は低下する一方であると指摘している。
 さて、insider attackは、コンピューター・ネットワークのセキュリティー用語としても使われる。ハッカーが企業ネットワークへの侵入した場合、“The intruder is someone who has been entrusted with authorized access to the network.”(侵入者がネットワークへの正当なアクセス権を認められた者である)とすると、攻撃はいとも簡単になるのだ。
 「獅子身中の虫」という言葉通り、最も怖いのは身内の攻撃なのだ。







2012年12月10日月曜日

zinger 政治家は口のうまさだ!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita
カタカナ読みは「ジンガー」。意味は「当意即妙な言葉」「とげのある言葉」、あるいは「落ち」。これが政治用語では、討論などで相手に与えるverbal jab (言葉によるジャブ)。ウイリアム・サファイアの政治辞典によると、blast(突風、爆発)。“Give him a zinger in the debate and see if he comes apart.”(討論で一発食らわせて、ばらばらにしてやれ)などと使う。
 米大統領選挙は2012年11月6日の投開票を控え、民主党のオバマ大統領と共和党のロムニー大統領候補がテレビ討論で直接対決した。有権者やメディアが期待したのは、決まり切った質問ではなく、zinger。だが、想定外の展開が起こることもある。
 米フォーブス(2012年10月5日付)は、“Zinger from the President stings business aviation”(大統領の不意の発言がビジネス航空業界を一刺し)と報じた。オバマ氏が10月3日の最初の討論で、社用飛行機を所有する事業家に言及し、もっと税金を納めるべきだと発言したのだ。全米ビジネス航空協会にとっては、まさに寝耳に水の指摘。税金が上がれば、飛行機の売上げは減少してしまう。そこで、緊急に大統領宛の手紙を出して、「この業界は100万人以上を雇用し米国経済を支える産業で、社用機を所有している大半は地方の中小企業だ」と訴えた。
 ところで、オバマ大統領がロムニー候補に、決定的な一発を食らわしたのは3回目の討論だった。AP通信(2012年10月23日)によると、ロムニー氏が米国の軍事支出について、海軍は1917年以来もっともship(戦艦)の数が少ないと批判した際に、オバマ氏はこう答えたのだ。
“Governor, we also have fewer horses and bayonets. We have these things called aircraft carriers, where planes land on them. We have these ships that go underwater, nuclear submarines.”(知事さん。われわれはまた、馬や銃剣の数も少なくなりました。われわれは空母と呼ばれるものを保有しています。そこには飛行機が着陸できます。これらの船は海底を進む、原子力潜水艦です)
 さて、演説の草稿を作るスピーチ・ライターにとって、zingerはa moment of uplift in a speech(演説の盛り上がりの瞬間)とか、観衆が沸き立つようなpunch line(落ち)を指す(政治辞典)。とにかく政治家は口が達者でなくては勤まらない。





























2012年12月4日火曜日

omnishambles The world is a global omnishambles!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita
omni-はall(すべて)を意味するラテン語の接頭辞。shamblesは、単数扱いの名詞で「大混乱」。たとえば、“His desk is a shambles.”(彼の机はメチャクチャだ)などと使う。そこで、omnishamblesは「すべてが大混乱」という意味になる。
 オックスフォード英語辞典(OED)は、2012年のWord of the year(年の言葉)にomnishamblesを選んだ。 その定義は、“a situation that has been comprehensively mismanaged, characterized by a string of blunders and miscalculations”(一連の失敗と誤算によって特徴付けられ、全体として管理を誤った事態)という。
 この言葉は、2009年に英国BBCの風刺コメディ“The thick of it”(まっただ中)で、“You’re a fucking omnishambles.”(お前らみんなメチャクチャだ)というフレーズで使われたという。その後、流行語になった。
 OEDのWord of the yearは、その年のムードを最も象徴する言葉が選ばれる。omnishambles を造語したBBCでは、誤報で会長が辞任するなどomnishamblesに。さらに、欧州では金融危機の挙げ句にEurogeddon(Euro+Armageddon=欧州ハルマゲドン)という新語を生むほどの大混乱に終始した。
 夏のロンドン五輪開幕直前には、米共和党のロムニー大統領候補が現地を訪問し、五輪成功を危ぶむ発言をしてRomneyShambles”(ロムニー大混乱)という言葉も登場した。
 さて、わが国を顧みると、政治はまさにomnishamblesの末に、衆院解散、総選挙に突入したのであった。The Sankei Shimbun (December 3 2012)





2012年11月26日月曜日

prodigy Children are great imitators!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita
カタカナ読みは「プラディジ」。語源は15世紀にさかのぼり、あっと驚くような兆候を指す。転じて「天才児」「神童」を意味する。child prodigyなどと、表現することもある。
 ニューヨーク・タイムズ(2012年10月31日付)は、“How do you raise a prodigy?”(どのように神童を育てるか)と報道。その中で、“Prodigiousness manifests most often in athletics, mathematics, chess and music.”(神童ぶりは、運動競技、数学、チェスや音楽で発揮されることが多い)と指摘する。
 確かに。ロンドン五輪を見ていても、馬鹿力を必要としない体操なんかの競技では、選手はどんどん低年齢化が進んでいて、もはやおじさんやおばさんの出る幕はない。チェスや将棋、囲碁なんかのゲームもそうだ。
 英国のインデペンダンス(2012年11月24日付)は、“I never wanted men's pity': Chess child prodigy Judit Polgar on the game's inherent sexism”(男に哀れみなんか乞わないわ、と。チェスの天才少女ジュディット・ポルガーは、ゲームの女性差別について)と報じた。ポルガーさんはハンガリー生まれの15歳でchess grandmasterになった。これは男女の別を越えて最年少記録だ。彼女は現在36歳で2児の母親としてブダペストに住む。
 実は、彼女の2人の姉はいずれもチェスをしており、一番上の長女は女性の世界チャンピオンで、次女は国際チェスマスター。いずれも女性だけのチェスだったが、ジュディットは男性の世界に〝殴り込み〟をかけて、見事栄冠を勝ち取ったのだ。男女における才能の格差など存在しないことを改めて証明したといえる。
 一方、米ABCニュース(2012年10月23日付)は、“Child prodigy writes opera at age 7”(天才児、7歳でオペラを書く)と報じた。英国在住のアルマ・ドイッシャーさんは、モーツァルトに勝るとも劣らぬ音楽的才能を示すと評判が高い。モーツァルトが3歳で音楽を演奏したのに対し、アルマさんは2歳で演奏。モーツァルトが5歳で最初の曲を作ったのに対し、アルマさんは4歳で作曲を始めた。そして7歳でオペラ、“The Dream Sweeper”(夢払い人)を作ったというわけ。 
 prodigyは世界中で注目を集める。だが、天才性を示す一方で、normal child(普通の子供)と違い、autism(自閉症)やattention deficit hyperactivity disorder(ADHD=注意欠陥多動性障害)などの症状を抱えることもあるだけに、養育や指導は普通の子供以上に困難を伴うとも。
 だが、prodigyにはひとつ教訓がある。“Children are great imitators. So give them something great to imitate.”(子供は偉大な模倣者だ。だから、彼らに立派な模範を示せ)ということ。どの子供の親も実に責任は重大なのだ。






2012年11月22日木曜日

metrosexual 僕の男らしさを見てくれ!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 21世紀のダンディズムを表す新語。metropolis(大都市)のmetroと性愛を表す接尾辞のsexualを組み合わせた形容詞、名詞で、1994年に英ジャーナリストのマーク・シンプソン氏が創り出した。「都会に住んで、一流のブランド店やヘアドレッサー、ジムに通う若い男性で、表向きにはgay(男同士の同性愛)、straight(同性愛でない)、bisexual(男性も女性も愛する)であるかを問わず、本心は自分自身を性愛の対象とするナルシシスト」と定義付ける。
 この言葉に当てはまる人物として、シンプソン氏はサッカーW杯・イングランド代表チームの主将、デビッド・ベッカムを例示。「Becks(ベッカムの愛称)は、サッカーの派手なプレーとともに、毎週のように違った髪形で登場し、雑誌の表紙で裸体を披露することで有名だ」(「Metrosexualに出会う」=2002年7月22日)と解説している。
 metrosexualは米国へ輸出されて、masculinity(男らしさ)の新たな表現形式としてメディアで論じられ、流行語となった。スポーツやボディービルなどで鍛えた肉体美を誇示することが要素のひとつで、俳優のトム・クルーズ、ブラッド・ピットや、アーノルド・シュワルツェネッガー・カリフォルニア州知事などが該当する。米国方言学会(ADS)は03年に、metrosexualを「Word of the Year」に選んだ。
 言葉の持つ意味は時間を追って変化する。この語のニュアンスについて、シンプソン氏は「よいこととは思っておらず、笑い物にするつもりだった」(2004年1月5日)と語る。だが、“生みの親”の意図とは離れ、metrosexualは一人歩きを始める。commercialism(商業主義)の波に乗り、都会暮らしのcool(カッコいい)な男のlife-style(生活様式)を表す言葉に変わった。
 「Metrosexual へのスタイル・ガイド、現代の男のハンドブック」も出版された。著者のマイケル・フロッカー氏は、AOLタイム・ワーナーの編集者で、「すべての男は自分を磨くことでよくなる。コンピューターをアップグレードするように、自分自身を新時代のmetrosexualな男性にアップグレードできる」と指摘。とくに服装は大切だとして、どんなシャツやズボンを身に着けるべきか事細かに指南している。時計のベルトは皮のほうが男らしいとか…。
 では、metrosexuality(名詞)は、男の自信の表れか、あるいは男の弱さの印か?
 シンプソン氏は「両方だ」と答える。「男としてのidentityへの不安が背景にあることは確かだが、一方で、男にとって性的な自信や性的解放を示す言葉になっている」。
 思うに、metrosexualityは、私流に訳すと「見てくれの男らしさ」。metrosexualは、「僕の男らしさを見てくれ」といわんばかりの目立ちたがりのことか。The Sankei Shimbun (June 18 2006)

PS:ここに出てくる男たちは、いまやみんなシニアモードに入ったが・・・

abs ニーチェの言葉を思いだそう!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 abはabdominal muscle(腹部の筋肉、つまり腹筋)の略。通常、複数形で使うのでabs。カタカナ読みは「アブス」。アメリカのテレビでこの言葉を聞かない日はない。“Flatten your abs.”(腹をひっこめろ)というのは、フィットネスの最大の目標だ。
 アメリカ人の6割以上がoverweight(体重過多)かobesity(肥満)と警告されるだけに、男女ともにbelly(腹)がpooch outした(出っ張った)人がやたらに目につく。いわゆる「ビール腹」は英語でもbeer belly。waist lineのあたりにfat(脂肪)が付いて垂れ下がっている状態をさすが、ビールの摂取とは関係なく、やはり高カロリー、高脂肪の食物の摂り過ぎが原因である。
腹回りに突出した贅肉は、俗語でlove handles(ラブ・ハンドルズ)とかspare tire(スペア・タイヤ)と呼ぶ。太っているのに無理して股上が浅いきつめのジーンズをはくと、それらがジーンズからはみ出して、上部が盛り上がったカップケーキのように見えるので muffin top(マフィン・トップ) などと表現。言い得て妙だ。
 夏場は薄着になるので、フィットネスの欲求が高まる。ジムは盛況で、ab exercise(腹筋運動)の専用マシンの販売にも拍車がかかる。
“How can I get six-pack abs or washboard abs?”(どうすれば6つに割れた腹筋、洗濯板のような引き締まった腹筋が獲得できるのか?)“You should work your abs.”(腹筋を鍛えろよ)
 筆者が知るなかで、最もすばらしい腹筋をしていたのは、映画俳優で拳法の達人、ブルース・リー。彼の鍛え上げた肉体は全世界の少年らを魅了した。妻のリンダさんの後日談によると、ブルース・リーはab trainingのマニアで、暇さえあればsit-upやcrunchなどの運動を続けたという。
  和英辞書を引くと、腹筋運動の項目にはsit-upが載っている。仰向けに寝た状態から上半身を起こす一般的な腹筋運動がこれだ。crunchは腰を浮かさないように頭を持ち上げ、背中の上方部だけを丸めるようにする。これは、腹部の中心にある腹直筋を鍛えることになり、効果が期待できる。
 もっとも、“You’ll never get sexy abs with crunches and sit-ups.”(腹筋運動だけではセクシーな腹筋にはならない)と、フィットネスの専門家は指摘する。そもそも、カロリー過多の結果、腹が出ることになったので、すでに全身が腹部と同じような状態にあると考えたほうがよい。腹回りをすっきりさせるためには、ジョギングやエアロビクスなど、全身を使った有酸素運動が必要だが、それ以前に飲み過ぎ食べ過ぎに要注意だ。
 ドイツの哲学者フリードリッヒ・ニーチェはこう言っている。“The abdomen is the reason why man does not readily take himself to be a god.”(この腹というものがあるために、人間はやすやすと神になれないのである)The Sanei Shimbun(June 25 2006)

2012年11月21日水曜日

wiretap Walls have ears!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 wiretapはwire(線)にtapする(取り付ける)という意味。カタカナ読みは「ワイアータップ」。いったい何を取り付けるのかと言えば、concealed listening or recording device(隠れて聴取し、記録する機器)。つまりwiretapは「盗聴」を意味する。古い英語ではeavesdrop。本来の意味は、eaves(軒)からdrop(雨のしずく)が垂れるような所に立って、盗み聞きすること。現代の盗み聞きはtelephone tap(電話盗聴)が中心だが、これだけケータイが増えるとwirelessも無視できない。そこで、役所の正式の言い方はintercept(通信傍受)。
 2001年の9.11中枢同時テロ以降、ブッシュ政権は電話会社を通じて、国内外の電話の盗聴を続けてきた。国際テロ組織アルカーイダの脅威に対し、情報収集で先手を打つためだ。
 ニューヨーク・タイムズは2005年末に、NSA(国家安全保障局)が電話を勝手に盗聴していると、すっぱ抜いた。NSAはCIA(中央情報局)と並んで諜報活動を行う部局だが、NSAといえども盗聴するためには、裁判所の令状が必要。だが、大統領はwartime(戦時)との認識に立って、秘密裏にwarrantless surveillance(令状なしの監視活動)を承認した。
 中枢同時テロの翌月、米議会でPatriot Act(愛国者法)が成立。ブッシュ政権はDepartment of Homeland Security(国土安全保障省)を新設し、その下に諜報機関や捜査当局を統合、テロとの戦いのため、「国の安全は個人のプライバシーに優先する」と主張した。これに対し、無断盗聴は人権侵害であり憲法違反とする意見が、野党民主党だけでなく与党共和党内にも噴出。米自由人権協会(ACLU)などが2006年初めから、NSAの活動停止を求め連邦裁判所に提訴した。訴訟の対象は後に、盗聴に協力した電話会社にまで拡大された。
 米議会は、2008年に入って無断盗聴の〝既成事実〟を容認するとともに、〝お上〟の命令で協力してきた電話会社へ免責を与える条項を盛り込んだForeign Intelligence Surveillance Act(外国情報監視法)の改正案を提出。そして、7月9日には、“Senate Approves Bill to Broaden Wiretap Powers”(上院が米政府の盗聴力増強の法案に同意=ニューヨーク・タイムズ)。法案は翌10日、ブッシュ大統領が署名し成立した。この法律には、無制限に盗聴できる権限を政府に与えるというおまけが付いている。
“Our sovereignty may be dependent on our ability to eavesdrop on transmissions between our enemies on the outside and those on the inside with sympathies for them.”(われわれの主権は、外国の敵と彼らに同調する国内の敵との通信を盗聴するわれわれの能力にかかっている)と言ったのは、誰だかご存知であろうか?ブッシュ大統領の宿敵であり、2006年12月30日に絞首刑にされたサダム・フセイン元イラク大統領である。The Sankei Shimbun(July 16 2006)

PS:米国内外の電話やメールの盗聴は、オバマ政権に入ってからも継続されている。Walls have ears(壁に耳あり)ですよ。

2012年11月20日火曜日

Generation Y 米国の世代間格差・・・

lustrated by Kazuhiro Kawakita


  米国で第2次世界大戦後のベビーブームに生まれた世代をBaby Boomers (1946~64年)と呼び、その次の世代がGeneration X、つまり「X世代」(1965~76年)。さらにその次の世代をアルファベットの順に従ってGeneration Y という。カタカナ読みは「ジェネレイション・ワイ」。
「Y世代」の人は Generation Yer 、略してGen Yer(ジェン・ワイアー)。世代の期間については議論があるが、1977年から2000年までとして、20世紀最後の世代と位置づけるのが最も一般的。米国のY世代人口は7000万人を超えるという。
この世代の多くは、ベビーブーマーを親に持つEcho Boomersだ。コンピューターとインターネットが発達した時代に誕生したNet Generation (ネット世代)で、tech savvy (ハイテクに強い)。探究心や創造性に富む人も多く、IT関連企業などが、「会社の将来を担う存在」として注目する。
 米国で盛んなgenerational marketing (世代別マーケティング)からすると、Y世代の消費者はなかなか手ごわい。テレビでブランド名をPRするだけでは乗ってこない。物事にこだわりを持ち、ネットを使って自分で調べ、気に入ったものしか買わないからだ。もちろん、コンピューターは生活必需品。iPodなどデジタル音楽プレーヤーもこの世代に大当たりした。
 USA TODAY(2005年11月7日付)の特集記事 “Generation Y―They’ve Arrived at Work with a New Attitude”(Y世代の新人類が職場に入ってきた)によると、この世代の社員は現在30歳以下。smart (利口)でbrash(でしゃばり)。親世代がキャリア志向だったのに比べ、work-life balance(仕事と家庭生活の両立)を第1に考える。仕事は生活を楽しむためにするものと割り切って、気に入らなければ長居はしない。
 彼らにとって、2001年の9.11中枢同時テロが与えた精神的影響は大きい。“Life is short.”(人生は短い)と悟り、もっと人生を大切にしなければならないと考える。退職後の生活についても早くから予定を立て、用意周到に貯蓄を始めるという。もっとも、Y世代には、flip-flops (サンダル)履きで会社に出勤し、iPodを聞きながら仕事をする者もいると指摘される。こうした軽薄な態度が旧世代の社員との間にgeneration gapをもたらしているともいう。
 だが、かつてGeneration Xにも、ジーンズとTシャツで出社し、上司を困惑させた者もいた。「結婚する前に性交渉を持ち、親を尊敬せず、神を信じない」などと、旧世代から批判されたものだ。
“Each generation imagines itself to be more intelligent than the one that went before it and wiser than the one that comes after it.”(どの世代も前の世代より知的で、後の世代よりも賢明だと想像するものだ)とは、英作家ジョージ・オウエルの言葉である。The Sankei Simbun(July 2 2006)

dude 俺は男だ、という表現

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 dudeには「デュード」と「ドゥード」の2つの発音があるが、後者の方をよく耳にする。英和辞書には、「気取り屋」や「しゃれ者」、あるいは「野郎」「やつ」などと説明がつけられているが、dudeは日本語にない概念だ。
 日本でも人気を博したディズニー・アニメ「ファインディング・ニモ」(2003年)で、ニモの父親のマーリンが息子を探す旅の途中で気を失い、海亀のクラッシュがそれを見つけて呼びかける。“Dude. Dude. Focus, dude.” 字幕では「おい、兄ちゃん、しっかりしな」と訳されていた。dudeは「兄ちゃん」だ。クラッシュはその後も“Dude”を連発。マーリンも“Dude”で応じる。
 語源は、ドイツ語方言の「バカ」であるとか、「ぼろ布」や「案山子」との説もあり、ロクな意味ではない。19世紀の米国で生まれ、1877年にはランダムハウスの米俗語歴史辞書に登場。その後、英和辞書にあるような一種の都会的ダンディズムを表す単語として使われたが、1960~1970年代に、黒人の間で男性に対する呼びかけ語として流行。さらに、サーファーやdruggie(麻薬常用者)などサブカルチャーの中にも現れた。
 ピッツバーグ大学の言語学者、スコット・キースリング助教授の調査(2003年)によると、近年ヤングの間でdudeの使い方に大きな変化が生じているという。若者の言葉が年配の世代に不可解なのは日本と同じ。dudeは、年配者にはinarticulate(意味が不明瞭)とされているそうだ。
 若い男性の間で挨拶の際、“Dude”と呼びかけられれば、“Dude”と答える。つまり、一種の〝合言葉〟となっているのだ。こうした使い方は、ときに女性同士の間でも見られるが、男女間や、上司と部下といった上下関係の中ではほとんど現れない。そこには、camaraderie(友情)とcool solidarity (クールな友達関係)を表す目的があるという。そして後者には、masculine solidarity(男らしい関係)と strict heterosexuality(異性愛者)であることが求められる。つまり、dudeを使うことによって、gay(男性の同性愛者)ではないことを暗示しているわけだ。
 米国のcivil rights(公民権)運動のなかで、同性愛者の権利が獲得されていった。gayの恋愛映画「ブロークバック・マウンテン」(2005年)が大ヒットしたのも、社会的に受け入れられつつあることを示している。だが、同性愛でない人たちの間では、homophobia(同性愛への嫌悪と恐怖)は依然として根強い。とくに、自分が同性愛者と間違われないかという不安感を持つ若い男性にとって、dudeの呼びかけは「俺は同性愛じゃない」という含みがあり、男らしさを強調するものだ。
「ファインディング・ニモ」でマーリンは、ついに大海を泳ぎ切ってニモと再会を果たし、男らしい父親の姿を印象付けた。dudeは〝男の中の男〟である。The Sankei Shimbun(July 9 2006)

2012年11月18日日曜日

job spill 搾取工場て知っている?

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 jobは「仕事」でspillは水などがあふれて「こぼれること」。時間外の仕事を指す俗語。カタカナ読みは「ジョブ・スピル」。“If your boss calls you on the weekend, that’s job spill. If you boot up your laptop after supper, that’s job spill.”(週末に上司が電話してきたら、それはジョブ・スピル。夕食後、仕事用のパソコンを立ち上げるのもジョブ・スピル)とウェブスター辞書の編集者は定義している。
 “Imagine job tasks seeping from the office to the home in much the same way as oil can invade a body of water or a beach.”(あたかも〝油の流出〟が水域全体や浜辺に広がっていくように、あふれる仕事が会社から家にじわじわ入ってくる)という意味合いで、ジャーナリストのジル・アンドレスキー・フレイザーさんが著書“White Collar Sweatshop”(2001年)の中で最初に使った。Sweatshopとは「搾取工場」で、現代企業はホワイトカラーが搾取される工場に変わりつつあると警告。job  spillについて、“It’s the dirty secret behind many a corporation’s bottom line.”(多くの企業の業績に隠れた汚い秘密だ)と指摘する。
 1990年代以降、パソコンやケータイなどのelectronic gizmos(電子機器)は、ビジネスにとってtime-saving(時間的節約)の有力な武器に成長。サラリーマンはどこにいても仕事ができる環境になったが、逆に言うと、どこにいても仕事をさせられるようになった。以前はアフター・ファイブの通勤電車で、一杯引っ掛けて新聞を読みながらくつろぐ姿が見られたが、今では車中で気ぜわしくケータイで得意先と連絡を取ったり、メールをチェックしたりする姿が当たり前になった。もちろん帰宅しても、パソコンの前に座る。
 昔、新聞記者は24時間勤務で、事件が起ればすぐに駆けつけろ、と言われたものだが、今やすべてのサラリーマンが昼夜を分かたず働くclockless worker(時間制限なしの労働者)に変わってきた。
 合理化とリストラによる人減らしで、レイオフや解雇が情け容赦なく行われ、職場を去った前任者の仕事がghost work(幽霊の仕事)として残りのスタッフの肩にのしかかってくる。仕事は増えることはあっても減ることはないのだ。
 だが、働いた分だけ給料をもらっているか、といえば、それらの仕事はoff-the-clock work(時間外の無給の仕事、つまりサービス残業)と見なされ、答えはNo。アメリカでも、仕事が忙しいためvacation deprivation(休暇返上)は日常茶飯事になっている。ワシントン・ポスト(2006年6月25日付)の記事によると、米国人の年間休暇は平均2週間で、少なくとも4日は返上。夏休みは約6割の人が、家を離れて4泊5日程度の旅行をするmicrovacation(ミニ休暇)を取るのが関の山。休暇中も4人に1人はパソコン持参で仕事をするという。The Sankei Shimbun(July 23 2006)

2012年11月17日土曜日

fuck Most men are only interested in fucking you!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 fuckは、カタカナ読みは「ファック」。おそらく500年くらいに渡って、公けに禁句とされた猥褻語である。本来の意味は「性交」で、名詞・動詞・形容詞(fucking)、間投詞にも使う。
米連邦最高裁判所がThe First and Fourteenth Amendments(憲法修正第1・14条=言論・出版の自由と公民的権利)の下に使用を〝解禁〟したのが1971年。有力新聞・雑誌など〝お堅い〟出版物の中には今なお、“f***”、“f-word”、“f-bomb”などと遠慮がちに記しているところもあるが、解禁の流れは止められない。映画やテレビ、さらに日常会話で、これほど多様な意味を込めて頻繁に使われる言葉はほかにない。
 アメリカン・ヘリテージ辞書によると、最初に使用されたのは西暦1500年より前。ラテン語と英語を混合した詩の中に見えるが、すでに当時から猥褻語として直接表記するのが憚られ、アルファベットを置き換えて暗号化して用いている。こうした表記法は最近まで続き、ヘミングウェイが「誰がために鐘は鳴る」(1940年)の第35章でfをmに置き換え、“muck”として使用。D.H.ロレンスは「チャタレイ夫人の恋人」(1928年)の中でこの語を連発したために猥褻文学の烙印を押され、英米両国で30年以上も発禁処分にされた。
 現在では、この言葉は性交以外の意味で使うことが多い。“I was fucked by ~.”(~にはめられた)。“I guess I am fucked.”(困ったことになった)。“He fucks up everything.”(めちゃくちゃにしやがる)。“Fuck off.”(うせろ)。“Fuck yourself.”(ちくしょう)などは、比較的意味が明瞭な使い方だ。怒りの感情や罵りを表す場合が多いが、喜怒哀楽のすべての感情表現に用いられる。俳優のマット・デイモンとベン・アフレックが脚本を書き、アカデミー脚本賞に輝いた映画「グッドウィル・ハンティング」(1997年)では、若者たちの会話の中で90回以上も登場している。
 fuckを口にするのは、大統領といえども例外ではない。イラク戦争1年前の2002年3月、ブッシュ大統領は上院議員3人に自分の考えを説明するなかで、“Fuck Saddam, We’re taking him out.”と述べたと、タイム誌が“F***”と伏せ字で伝えた。このフレーズは、改めて大統領の単純な性格を浮き彫りにするとともに、当時のサダム・フセイン・イラク大統領に対する深い敵意を示すものだ。
 また2004年6月、チェイニー副大統領が上院でパトリック・リーヒー議員(民主党)と議論した際には、相手を“Fuck yourself.”と罵倒した。
こうした罵倒がすぐに口を突いて出るのは、“Most men are the same. They are only interested in fucking you and they don’t care whether you’re happy or sad.”(たいていの男は同じよ。あなたと〝する〟ことばかり考えているのよ。あなたの気持ちなんて関係ないのよ)。女優のキャメロン・ディアスが言うとおりかもしれない。The Sankei Shimbun(July 30 2006)

2012年11月16日金曜日

Ape Diet 究極のダイエットって?

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 apeはゴリラやオランウータン、チンパンジーなどの類人猿。その食事がApe Diet。カタカナ読みは「エイプ・ダイエット」。健康のために野菜・果物・ナッツ類など、サルが喜びそうなものを食べようという「菜食主義的食事療法」のこと。生活習慣病の原因となる血中のコレステロール値を下げる効果があるとして、脚光を浴びている。
 Ape Dietの考案者は、カナダ・トロント大学の血管バイオロジー学者、デービッド・ジェンキンズ博士。高コレステロール血症の患者46人を対象にApe Dietの調査実験を行った。
 そのメニューの典型例を紹介すると、朝食はオート麦のシリアルやパン、豆乳、イチゴ。昼食は黒豆のスープ、オート麦のパンのサンドイッチ。挟んであるのは大豆製人造肉、トマトやレタス。夕食は豆腐ステーキにナス・タマネギ・ピーマンの煮込み。さらに、1日3回の間食はナッツや果物、豆乳。植物性のタンパク質とステロール、食物繊維が豊富だ。2003年の報告によれば、こうした食生活を4週間続けるとLDL(悪玉)コレステロール値が29%も下がり、抗コレステロール薬を用いた治療に匹敵する効果があるという。
 生活習慣病や肥満を招く食生活として、fat(脂質)の摂り過ぎが問題にされる。アメリカ生まれのハンバーガーやフライドチキン、さらにピザなどのfast foodは、脂肪分が多いだけでなく、transfat(トランス脂肪酸)など〝悪い脂質〟が使われているとヤリ玉に挙げられた。脂質の摂取を減らすためには、フライを控えるなどlow fat cooking(低脂肪料理)が長く奨励されてきた。
 ここ数年来の流行は、Atkins Diet(アトキンズ博士のダイエット)に代表されるlow-carbohydrate(低炭水化物)diet。パンや米など主食となる炭水化物を減らして、肉・野菜など副食を多めに摂る方法だ。理論的に炭水化物からのカロリー摂取量が減るために体内の脂質の代謝が進み、その分だけ減量できるという。また、良性の炭水化物と脂質を選んで摂るようにするSouth Beach Diet(サウスビーチ・ダイエット)も人気。両者とも、概して野菜や果物を多く摂るように勧めている。
 Ape Dietは、それらをさらに進めたものと言える。人類もゴリラやオランウータンの〝親戚〟であるから、彼らが常食するものは人間も食べられないわけがない、とジェンキンズ博士は確信しているようだ。菜食主義者もさらにエスカレートすると、「生(raw)」しか食べないrawistになる。こうなると、もうサルの食生活と変わらない。
では、“What is the ultimate diet?”(究極のダイエットは何?)
 “I recommend you Seafood Diet.”(シーフード・ダイエットというのはいかがでしょうか)
 “What is it?”(それはどんなの?)
 “You can just SEE food.” The Sankei Shimbun(August 6 2006)

2012年11月15日木曜日

Superman Clark Kent finally quits The Daily Planet.




Supermanは「スーパーマン」。20世紀アメリカン・コミックのsuperhero。ラジオ、テレビに登場し、その後も繰り返し映画化されている。1950年代には、日本でもTVドラマで人気を博した。
その言葉の由来は、ドイツの哲学者フリードリッヒ・ニーチェの著書「ツァラトゥストラはかく語りき」に登場する“Übermensch”(超人)を、1903年に英作家のバーナード・ショーがsupermanと英訳したのが、はじまり。
それがいつか、「空を見ろ」「鳥だ」「飛行機だ」「あっ、スーパーマンだ」になった。これは英語の原文では、“Look! Up in the sky!” “It's a bird!” “It's a plane!” “It's Superman!”である。
オリジナルはジェリー・シーゲル原作、ジョー・シャスター作画で、1作目がDCコミックス誌に登場したのは1938年。崩壊間際のクリプトン星から地球に逃れてきた赤ん坊のカル・エルが、ケント家に拾われてクラーク・ケントとして成長。架空都市メトロポリスで新聞記者として働きながら、スーパーマンとして活躍する。
“Faster than a speeding bullet! More powerful than a locomotive! Able to leap tall buildings at a single bound!”(弾よりも速く、力は機関車よりも強く、高いビルもひとっ飛び)は、最初のキャッチフレーズ。後には、宇宙を飛び回ったり、時間の流れを逆転させたり、核爆発に耐えて生き残ったりというように、パワーアップされる。
Supermanに見られる、正義を愛し、弱者に味方し、高潔で献身的、責任感が強いという「正義の味方」の人物像は、1940年代に確立された。世のため人のため、supervillain(超悪漢)と闘うために超人的能力を使う。
この性格は、その後のsuperheroに踏襲される。DCコミックスが39年に売り出したのがBatman。億万長者の実業家ブルース・ウェインは、スーパーマンほどの超人的能力はないが、架空都市ゴッサム・シティーのunderworldの悪漢と闘う。また、マーベル・コミックスに62年に登場したSpidermanや翌年デビューのX-Menも、映画やビデオゲームの世界で超人的能力を発揮する。子供向けコミックスが持つ「勧善懲悪」の道徳観は古今東西共通のものだが、米国でSupermanの行動基準となったのは、ボーイスカウトの規範であるという。それは、アメリカの伝統的な価値観と深く結びついており、今も国民の間に広く根付いている。米政府は、その辺の人情の機微をよく心得ていて、事を構えるときにはいつも敵をsupervillainに見立てて国民を扇動する。冷戦時代の旧ソ連は“Evil empire”(悪の帝国)だったし、イラクのサダム・フセイン元大統領は「中東のヒットラー」。イラクのほか米国に反抗するイラン、北朝鮮は“Axis of evil”(悪の枢軸)。そして、米国の役回りは、常に「正義の味方」のsuperheroなのだ。The sankei Shimbun(August 13 2006)

PS:2012年10月23日、Superman quits The Daily Planet – over the state of journalismと報じられた。クラーク・ケントは今のジャーナリズムがもはや正義を求める報道に値しないとしてデイリー・プラネット社を退社することになった。

2012年11月14日水曜日

chicken hawk 男はchickenと呼ばれたくない

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 chicken は「ニワトリ」でhawkは「タカ」。chicken hawkは「ニワトリのタカ」では何のことか分からないが、chickenには「臆病者」の意味がある。hawkはwar hawkで「軍事強硬派」。つまり「臆病者のタカ派」のことだ。
 chickenを「臆病者」の意味で使うのは、14世紀以前にさかのぼる。オックスフォード英語辞書(OED)によると、chicken-heart(ニワトリの心臓)は「怖がり」のことで、chicken-heartedと形容詞にもなった。20世紀半ばになると、米国でchicken gameが登場。2人のドライバーが車を運転して同一車線を真っ向から走ってくるゲームだ。そのままでは正面衝突。怖くなって先に車線を変更した方が負けで、chickenと揶揄される。「臆病な敗者」というわけ。負けず嫌いの米国の男に“Are you chicken? ”(怖気づいたか)などというと、それこそ大喧嘩になるから、要注意。
 そこで、chicken hawkとは、兵役を逃れた臆病者なのに、今では戦争を支持している者を意味し、「自分は戦争に行かないくせに、人を戦争に追いやる卑怯者だ」と、政敵を挑発する言葉として使われてきた。とくに民主党のdove(ハト派)が共和党の保守・強硬派を非難する常套語となった。
 1988年、先代のブッシュ氏が大統領に選ばれた際、副大統領になったダン・クエール(Dan Quayle)氏は、かつてベトナム戦争への召集を嫌い、家族のコネでインディアナの州兵に入隊したことを非難された。その時のジョークに、“What do you get when you combine a chicken with a hawk?”(chickenとhawkを掛け合わせると何になる?)、答えは、“A Quayle.”(同音異義語にquail=鳥の「ウズラ」)というのがあった。
 2000年の大統領選挙では、息子のブッシュ大統領とチェイニー副大統領がともにchicken hawkと批判されている。チェイニー氏は大学在籍と結婚を理由にベトナム戦争を回避、ブッシュ氏は同戦争中にテキサス州の空軍に着任して海外行きを免れた、というのがその理由。実際、2003年のイラク戦争以降、この2人は、民主党の戦争反対派から「偽善者」と非難された。
 だが、非難された側にも言い分がある。そもそも民主主義政治はシビリアン・コントロールが原則。戦時において、戦争に行ったことのない政治家をchicken hawkと罵るのは、軍人の優位を認め、この原則を否定することになりかねない。南北戦争時のリンカーン大統領、第一次大戦時のウィルソン大統領、そして第二次大戦時のフランクリン・ルーズベルト大統領は、自身は戦争に行かなかった。では、みんなchicken hawkなのか?
 保守派のコラムニスト、ジェフ・ジャコビー氏は、2006年7月23日付のボストン・グローブで“Chicken hawk isn’t an argument. It is a slur.”(chicken hawkは〝議論の対象〟ではなく、単なる悪口だ)と批判している。The Sankei Shimbun(August 20 2006)

pet sitter ペットの世話は大変だね

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 pet sitterは、petの飼い主が家を留守にした場合に、代わりに面倒を見る人をいう。カタカナ読みは「ペット・シッター」で、babysitter(子守)の連想から生まれた言葉であろう。ペットの種類によって、dog sitterとかcat sitterとかいう。アメリカン・ヘリテージ辞書によると、babysitterの初出は1937年であるが、pet sitterは21世紀に入って随所で見かけるようになった。
 sitterは「座る人」の意味で、子守をする人が赤ちゃんのそばに座ったことからbabysitterというわけだが、petの場合は、そばに座っているだけでは仕事にならない。犬の場合、飼い主に代わって犬を散歩させる人をdog walkerと呼び、子供の小遣い稼ぎとしても人気がある。
 だが、猫に首輪をつけて散歩させるのは至難の業。cat walkerにはほとんどお目にかかれない。なお、catwalkといえば、ファッションショーで客席に突き出した細長い舞台のこと。モデルが猫足立ちで歩く所だ。
 cat sitterは、動詞にするとcat sit。プロが行うサービス内容は、indoor cat(室内で飼っている猫)の場合、1日2回のえさやりとlitter tray(砂のトイレ)の掃除。最近では生活習慣病にかかる猫も多く、糖尿病の場合にはインシュリンの投与も請け負う。
 ペットを日中に専用の施設で預かるのは、pet daycare。一方、日本にも出現したペット専用のホテルや宿泊所は、すでに20年以上前から営業。ここでも犬には散歩や運動のメニューがあるが、猫は宿泊とえさやりだけのcat boarding。ただ、grooming(毛の手入れ)は犬猫ともに主要サービスの一つで、ブラッシングからシャンプー、カット、シェービングなど人間並みに扱われるのは、日本にあるペットの美容室と変わりはない。
 アメリカの飼い犬の数は6000万匹以上、飼い猫はそれよりも多く7600万匹以上。アメリカ獣医学会(AVMA)の2001年の調査によると、35歳以下の一人暮らしの半数が、またルームメートのいる独身者の70%以上がペットを飼っているという。彼らは、ペットと過ごす幸福なひと時に癒しを求める。アメリカ人が1年間にペットに費やす金額は過去5年間で3割以上の伸びで、今や400億㌦市場に成長。animal loverは年々増加している。
 そこで、ペットを飼うためのアドバイス。
 “Don’t think your pet is a person in a fur coat.”(ペットを毛皮のコートを着た〝人〟と考えないこと)。“Don’t overcorrect your pet.”(過度にしつけようとしてはいけない)。かといって、“Don’t praise your dog unless he earns it.”(ちゃんと命令通りにできなけば褒めてはいけない)。要するに、“Do get down on the floor and communicate on an animal’s level.”(こちらが床にかがんで、動物のレベルで付き合うこと)。以上、“Words of Wisdom”(1989年)から。The Sankei Shimbun(September 3 2006)

2012年11月13日火曜日

stunt 映画だけではない。political stuntも・・・

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 stuntは映画のスタントマンの「スタント」に当たり、「離れ業」「妙技」を意味する名詞。子供たちの間でよく「こんなことできるかい?」といって、とんぼ返りをやったりする。あれがstunt。自分の力や技を他人に見せつけて挑発する意味合いがある。語源は分らないが、アメリカを肌で実感することができる言葉であろう。
 映画のstuntに戻ると、俳優の身代わりになって肉体的に困難な業や危険をともなう行為をするstunt doubleは、アクション映画の撮影に欠かせない。ハリウッドでは、悪魔の島から脱獄する「パピヨン」(1973年)で主役のスティーブ・マックイーンの代わりに断崖から海に飛び込むシーンを撮ったのが、最初の大掛かりなstuntであるという。
 stuntをする男性はstuntmanであり、女性はstuntwomanだが、最近はgender sensitive(性差別に敏感)な世の中なので、stunt performerというのがよいだろう。もっとも、ジャッキー・チェンのようにstunt performerを使わず、自分でstuntを演じることにこだわるアクション俳優もいる。“A lot of people ask me when I do a stunt, are you scared? Of course I’m scared. I’m not Superman.”(多くの人が俺にスタントをするとき怖くないかと尋ねるが、もちろん怖いさ。俺はスーパーマンじゃないからね)と彼は語っているが、最近のハリウッドはComputer Generated Imagery(CGI)が大流行だけに、彼でさえstuntの機会は減ったという。
 さて、まったく衰えを知らないのはpolitical stunt(政治的人気取り)。米国で政治はdog-and-pony show(サーカス)だと言われ、メディアが発達するに従って、年々その傾向は強まっている。サーカスにstuntは付きものだが、米国政治もstuntなくして語れない。
たとえば、2006年7月末にイラク北部に住むクルドの役人が訪米し、サンフランシスコなどで「サダム・フセイン(元イラク大統領)を倒してくれてありがとう」というキャンペーンを展開した。その模様はコマーシャルとして全米でテレビ放映されたが、クルドの子供たちが星条旗の小旗を振り、「アメリカよ、ありがとう」「民主主義をありがとう」と歓声を上げていた。実は、これには共和党関係のPR会社が関わっていたという。
 political stuntは、選挙の年にはさらに激しさを増す。ニューヨーク・タイムズ(6月9日付)の社説は、“election-year stunt”という言葉を使ったが、2012年の大統領選挙前も嫌と言うほどとpolitical stuntを見せつけられ、有権者はあきれたろう。
 第32代大統領のフランクリン・ルーズベルトは、有権者をこう戒めている。“In politics, nothing happens by accident. If it happens, you can bet it was planned that way.”(政治上の出来事は何1つ偶然ではない。もし、何かが起れば、それは必ず仕組まれたものと考えられる)The Sankei Shimbun(september 3 2006)

savvy この言葉を知らずにいられない・・・

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 “Savvy?”と訊かれたら“Savvy.”と答える。これが流行の表現。savvyは、ここでは「理解する」という意味の動詞。つまり、「分かったか?」と訊かれて「分かった」と答えたわけだ。発音は「サヴィ」で「サ」にアクセントを置く。オックスフォード英語辞書(OED)によると、1785年に西インド諸島のpidgin English(混成英語)として登場。フランス語の“Savez vous?”、あるいはスペイン語の“Sabe (usted)?”(いずれも“Do you know?”の意味)に由来するという。
 西インド諸島海域を舞台にした海賊映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」(第1作=2003年)で、ジョニー・デップ扮するジャック・スパロウ船長がしばしば“Savvy?”というので、ついに子供たちまで真似するようになった。
 「分かったか?」という意味の表現は、英語では“Do you understand?”か、もっとくだけて“Get it?”というのが日常会話での普通の言い方。なかには”Do I make myself clear?”などという嫌味たらしい表現もある。SF映画「マトリックス」(1999年)で、キアヌ・リーブス扮するコンピューター技師のアンダーソン氏が会社に遅刻した際、上司が叱責して、そう付け加えた。「私の言うことが分かるかね?」
 さて、savvyは形容詞、名詞としても使われる。この場合の意味は少し違って、実際的な知識があるとか、物事に精通していることを指す。street wise(世知にたける)という言い方にも通じる。
 「賢い消費者」を英訳すると、savvy consumer。米国銀行協会の消費者調査によると、銀行の各種手数料が高すぎるとヤリ玉に挙がるなかで、savvy consumersは「手数料が掛からないように遣り繰りしている」と指摘。手数料回避のためのknow howはsavvyというわけ。また、皆が損をしているときでもちゃっかり儲ける「賢い投資家」はsavvy investor。安い飛行機やホテルなどを探して計画する「賢い旅行」はsavvy travelという。
 情報化社会では、tech-savvy(ハイテク通)がキーワード。USA TODAY(2006年8月16日付)の記事“Colleges Adapt to Tech-savvy New Students”(ハイテク通の新入生に対応を迫られる大学)によると、最近の新入生はノートパソコンやPDAも自由に使いこなすので、学校側も講義の録音をデジタル・ファイルにしてダウンロードできるサービスを提供、学生は時間があるときにiPodで講義を聴くという具合だ。
 ABCニュース(同年8月11日付)によると、ホームレスの人たちでさえtech-savvyになることで、インターネットを通じて職探しやチャットをするなど「世間とのコンタクト」を取って生き残れるという。ゴミ箱に食べ残しを漁るだけでなく、捨てられたパソコンの部品を拾って自分で組み立てて使うホームレスも登場し始めた、とレポートしている。まさに「知は力なり」。“Savvy?”The Sankei Shimbun(September 17 2006)

2012年11月12日月曜日

retro running 後方に走るランニング

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 retroは「レトロ」であるが、「復古調」ではなく「後方」という意味。runningは「走ること」だから、retro runningは「後方へ走ること」。カタカナ読みは「レトロ・ランニング」。別の表現ではbackward running。
 runningは、広い意味でjogging(軽い駆け足)からsprint(全力疾走)まで含む。後ろ向きに速く走るのは至難の業なので、一般的にはjogging程度の速度。だが、練習次第でスピードアップできる。ちなみに、米国で著名なbackward runnerのティモシー・〝バッド〟・バディーナ氏は、2001年に200㍍走で32.78秒のギネス記録を打ち立てた。また、後ろ向きにマラソンを走るスゴイ人もおり、さまざまな距離で世界大会もある。
 ところで、この運動自体は新しいものではない。一説には、1970年代からランニングの選手がhamstring(膝の後ろの腱)を痛めた際などに、補完的なトレーニングとしてやっていたという。今日では、アスリートのウォーミングアップや練習メニューに広く取り入れられている。また、retro runningは、普通に前方へ走る場合とは筋肉の働きや関節の可動範囲が異なる。しかも、前方へ走るより20%よけいにカロリーを消費するというので、フィットネスクラブなどがaerobic exercise(有酸素運動)の1つとして採用、ランニングマシンで手軽に行えるので、愛好者が増えている。
 オレゴン大学の生体力学・スポーツ医学研究所では、長年にわたってretro runningを研究。リーダーの同大名誉教授バリー・ベイツ博士によると、体の平衡感覚やmuscle balance(筋肉バランス)を向上させ、転倒事故の防止などにつながるという。さらに、hip joint(股関節)やknee joint(膝関節)の障害、ankle sprain(足首の捻挫)など、下肢のケガの回復や手術後のリハビリテーションにも有効。ミシガン州の理学療法士ゲイリー・グレイ氏はリハビリ向けretro running の草分け的存在。「足腰だけでなく心肺機能も強化される」として、30年以上前から患者に指導を続けている。
 もっとも、retro runningは、他の運動よりも多少危険がともなう。人間は残念ながら後ろに目がついていないので、外でretro runningするときに、後方から車が来ないか、人がいないか、マンホールの蓋が開けっ放しになっていないか、などと気が気ではない。後ろを振り返りながら身体のバランスを保つのも一苦労である。だから、ランニングの指導者は、まずretro walkingから始めて後ろ向きの動きに体をならし、「よく知っている道で、障害物がないことを確認したうえでretro runすべきだ」とアドバイスしている。
 さて、最後に1つ。retro running shoesとあるときは、「復古調のランニング・シューズ」と理解するのが一般的だが、将来は「retro running専用のシューズ」との解釈が生まれるかもしれない。The Sankei Simbun(October 8 2006)

2012年11月11日日曜日

bad day ついてない日って、あるよね。

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 bad dayはgood dayに対する語。米国では人と別れるときなどに、“Have a good day!”と声をかける。あなたにとって「よい日でありますように」という意味。bad dayは「悪い日」だが、すべての人にとって悪い日というのはないから、ある人にとってのunlucky day(ついてない日)である。
“A bad day fishing is better than a good day working.”(釣りに行って何も釣れない厄日でも、バリバリ働く好調な日よりもましだ)ということわざがある。人によって意見の分かれるところだが、bad dayのニュアンスはまさにこれ。
 bad dayには先駆けの語として1990年代に流行ったbad hair dayがある。“You have a bad hair day.”というと「今日は髪がクシャクシャじゃないか」という意味から転じて「すべてがうまく行かない日」になった。
さて、2006年に欧米、日本でも大ヒットしたのが“Bad Day”。カナダ生まれのミュージシャン、ダニエル・パウターのポップソングだ。日本では「ついてない日の応援歌」という副題がつけられている。何もかもうまくいかなくて落ち込んでいる友人を“You had a bad day”(ついてなかっただけさ)と励ます内容で、「この曲を聴いていると元気が出てくる」というのが圧倒的なファン評。米国では2006年、Billboard Hot 100をはじめヒット・チャートの一位を軒並み独占、テレビやラジオでこの曲が流れない日はなかった。
“Sometimes the system goes on the blink/ And the whole things turns out wrong/ You might not make it back and you know/ That you could be well oh that strong/ And I’m not wrong”
 systemは、多くのものが組み合わさってできた体系が原義で、ここではthe systemで世間とか世の中の意味。
「時には、世の中うまくいかないこともあるさ。何もかも裏目に出る事だって。挽回できないかもしれないけれど、強気を出せばうまくやれる、と君は分かっているじゃないか。僕の言う事は間違っちゃいないさ」
 Bad Dayは、プロ・スポーツの試合でチームが敗退するたびに競技場で流される定番の曲にもなった。
 米国人の生き方は、常にpositive(前向き)が尊ばれ、逆境に陥った時にnegative(後ろ向き)になる人間はunderdog(負け犬)として軽蔑される。厳しい競争社会を生き残るためには、自力でbad dayをgood dayに変える強い精神力が求められるのだ。
 米プロバスケットボール協会(NBA)の元スーパースターで、1991年にHIVの感染を告白して大きな話題を呼んだマジック・ジョンソン氏は、実業家として活躍する現在の心境をこう語る。「私はビジネスマンであることが好きだ。働くことが好きなんだ。I never have a bad day.(私には決して“ついてない日”などない)」。The Sankei Shimbun (October 1 2006)

 

2012年11月8日木曜日

leak A small leak can sink a great ship!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 leakは「漏れる」「漏らす」、または名詞で「漏洩」。カタカナ読みは「リーク」。ここでは、漏れるのは情報でnews leak(ニュース漏洩)。新聞記者からすればscoop(すっぱ抜き)となるが、抜かれた側では、「漏らしたのは誰だ」と大騒ぎになる。
 イラク戦争後、ブッシュ政権を揺るがしたのが、“Plame affair”(プレイム事件)。またの名を“CIA leak case”(CIA工作員実名漏洩事件)。ブッシュ政権は2003年3月19日、大量破壊兵器の存在を理由にイラクに侵攻したが、結局大量破壊兵器は発見されなかった。事前調査を担当したジョセフ・ウィルソン元駐ガボン大使は、同年7月6日付のニューヨーク・タイムズに寄稿、イラクの核開発に関する報告が歪曲されたと世論に訴えた。ホワイトハウスの面子は丸潰れ。その後、7月14日に政治評論家のロバート・ノバック氏が書いたコラムに、ウィルソン氏の妻バレリー・プレイムさんがCIA(中央情報局)の工作員であり、その縁故でウィルソン氏は調査を担当したと暴露された。これは情報部員の身分を保護する法律に違反する。情報提供者としてアーミテージ前国務副長官、大統領のカール・ローブ次席補佐官、ルイス・リビー副大統領首席補佐官らブッシュ政権高官の名前が浮上。特別検察官が置かれて捜査の結果、2007年3月にリビー氏が偽証罪などで起訴され、罰金25万㌦と禁固2年6カ月の実刑判決を受けた。
 ところで、leakする人はsecret source(秘密の情報源)。取材源の秘匿はジャーナリストの基本的モラルであり、それが表面に現れることはまれ。その最大の例外が、ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件(1972年)で、ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード記者に情報を提供した“Deep Throat”。30年以上に渡って身元が秘匿されが、事件当時FBI(連邦捜査局)の副長官だったマーク・フェルト氏が2005年5月に、“I’m the guy they used to call Deep Throat.”と名乗り出た。世紀のスクープ記事の情報源が明らかになり、世間は再び驚かされた。
 だが、leakが不注意による場合もある。第二次大戦中の「メイ事件」は、米国では悪名高い。1943年、米議会下院の軍事委員会メンバーのアンドリュー・メイ議員は、太平洋艦隊を視察した後、「日本軍の対潜用爆雷は非常に浅いところで爆発するので、米海軍の潜水艦は攻撃を免れている」と記者会見で発言。通信各社がこれを打電し、多くの新聞がニュースとして報じた。日本軍が早速、起爆深度を変更したのは言うまでもない。米潜水艦部隊の司令官、チャールズ・ロックウッド海軍中将は、その結果、潜水艦10隻と乗員800人が犠牲になったと推定。当時のルーズベルト政権は、メイ議員の暴露にカンカンになった。
“A small leak can sink a great ship.”(小さなleakが大船を沈める)と言ったのは、建国の父、ベンジャミン・フランクリン。まさに至言である。The Saneki Simbun(October 15 2006)

2012年11月7日水曜日

househusband 家庭を守る夫は平和の象徴だ

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 houseは「家」でhusbandは「夫」。housewife(家庭の主婦)が伝統的に行ってきた家事・育児を専業にする夫を指すのがhousehusband。カタカナ読みは「ハウスハズバンド」で、日本語では「主夫」。アメリカでは20世紀の後半から急増し、今では珍しくない。
 ウーマンリブの活動家らは、housewifeが性差別を助長する言葉だと糾弾し、それに代わってhomemakerという言葉を採用した。男女を問わず家事をする者という中立的な言葉で、英和辞書には「家政担当者」の訳が載っている。political correctness(差別廃止を訴える政治的正当性、 ㌻)からすると、househusbandも「差別用語」である。
 househusbandは、嘲笑や自嘲をともなって使われることが多い。Wordreference Forumsというネットの意見交換では、「unemployed(失業)のことだ」という指摘があった。つまり、失業した夫の代わりに妻が働きに出て、結果的に夫が家事・育児を引き受けることになる、というわけだ。これは、一面の真理である。
 米国では共働き夫婦において、妻の方が夫よりも昇進し高給を取るケースが少なくない。長期出張や単身赴任など第一線で妻が活躍するには、夫の理解と援助が必要。househusbandはその1つの表れだ。家事に対しても若い世代では、女性の仕事だという伝統的な考えが薄れてきている。最近は、日本でも子供の教育を女房に任せきりにせず、自ら買って出る男性が増えているが、この傾向は米国が先行している。
 CNNのキャシー・スロボギン記者は、“For a working mother, it’s a fantasy.”(働く母親には夢だ)と語っている。職場から帰宅すると、家の中は掃除が行き届き、洗濯も終わって、台所には暖かい夕食が用意されている。子供の宿題もすでに完了しているから、小言をいう必要もない…。
元新聞記者のアド・ハドラー氏は、妻が昇進したため主夫になった経験をもとに、小説“Househusband”(2004年)を出版。家事の楽しさを描いて、一躍人気作家となった。CNNのインタビューに対して、“My job is the toughest I’ve ever done.”(仕事は今までで一番大変)というのが主夫の感想。だが、よい面もある。“I don’t carry the stress with me every day of earning the money that keeps the family going.”(家庭生活を維持するために毎日カネを稼がねばならないストレスから解放される)ということ。
もっとも、“Sometimes I forget I’m a man. And she forgets she’s a woman. And we’ll be laying in the bed and looking at each other and go, ‘Oh yeah.’”(時に私は自分が男であることを忘れ、妻は自分が女であることを忘れている。ベッドに横になり、見つめ合って初めて『ああ、そうなんだ』と思う)と告白している。The Sankei Shimbun(September 24 2006)

2012年11月5日月曜日

ticket Obama defeats Romney!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 ticketは日本語でも「チケット」、一般的には切符や入場券のこと。だが、政治用語では選挙における政党の公認候補者、とくに1組になって立候補する者を指す。勝てると予想される候補の組み合わせがdream ticket。
 米大統領選挙では、大統領と副大統領は一緒に選ばれるので、今回の民主党はthe Obama-Biden ticket(オバマ大統領とバイデン副大統領の組み合わせ)。
 共和党についてワシントン・ポスト(10月20日付)は、“The Romney-Ryan ticket is the first Republican presidential campaign in history without a Protestant candidate.”(ロムニー大統領候補とライアン副大統領候補の組み合わせは、共和党史上初のプロテスタント候補のいない大統領選挙戦である)と報じた。
 ロムニー氏はモルモン教徒で、ライアン氏はカトリック教徒。米国の支配層とされてきたWASP (White Anglo-Saxon Protestant =アングロサクソン系白人新教徒)から大統領候補の組み合わせを選ぶという暗黙の了解の伝統は、保守派においても宗教の側面から崩れてしまった。保守派の大票田であるevangelicals(福音主義者)が、果たして彼らに投票するかが焦点の1つとなった。
 ところで、ウイリアム・サファイアの政治辞典によると、ticketはballot(投票用紙)の意味がある。政治においてto have the tickets(チケットをもっている)は、「勝つだけの票がある」という意味。さて、今回の選挙、the Obama-Biden  ticketがthe ticketsを確保、オバマ大統領が再選を果たした。






quackery 自分の欲望に負けてだまされる

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 quackeryは、英和辞書を見ると「いんちき療法」。カタカナ読みは「クワッカリー」。その元になった語はquack。アヒルの鳴き声を表す擬音で、動詞として使うと「クワッ(ク)、クワッ(ク)」と鳴く、という意味。これが名詞になると「にせ医者」「いかさま師」となる。その語源は16世紀のオランダ語のkwaksalver。「salve(膏薬)の行商人」という意味で、アヒルのように声高に膏薬の効能を唱えたが、ちっとも効き目がなかったから、「にせ医者」と蔑まれることになったのだろう。
 quackeryは厳密にいうと、医学的に治療できる根拠がない療法や薬のことで、効能を誇張した詐欺まがいの薬なども含まれ、米国では1916年にPure Food and Drug Act(食品医薬品・品質法)が成立するまで野放しだった。17、18世紀には、何にでも効くDuffy’s Elixir(ダフィーの万能薬)などが英国から輸入され大評判になった。そもそも何にでも効く薬などあるはずないが、その時代の人は素直に信じて騙された。そのなごりで、当時、万能薬として喧伝されたsnake oilは、今も「いんちき薬」の代名詞として使う。
 さて現在では、quackeryはalternative medicine(民間療法)や健康食品の分野に紛れ込んで蔓延している。いわくmiracle cures(奇跡の治癒)、psychic surgery(心霊手術)、faith healing(信じれば治る)など。また、インターネットや雑誌の広告では、女性向けにweight-loss(減量)が、男性向けにはpenis-enlargement(ペニス増大)が、それぞれいんちき商品を売りつけるための格好のテーマとなっている。とくに流行のダイエット関連の健康食品では、危険な薬剤として米食品医薬品局(FDA)が使用を禁じているものも売られていて、死亡被害まで出ている。
 そこで、quackeryを監視するために設立されたNPOの老舗が、Quackwatch。1997年からはウェブサイトも運営しており、問題のある療法や健康食品などを調査し、結果を公表するとともに、被害に遭わないように注意を呼びかけている。
 だが、quackeryの被害は後を絶たない。最近は、科学技術の急速な進歩で、「新しく開発された療法」と言われると、よほどの専門家でない限り判断がつきかねて、だまされるケースが多い。science(科学)にもとづくという謳い文句も、うっかり信用できない。科学に名を借りただけのpseudo-science(似非科学)が横行しているのだ。
 似非科学の特徴は、科学的な根拠を示さず、証明もなしに超常現象や神秘的な理論を説くところにある。とくに、~energy(~エネルギー)には要注意。いわく“psycho-spiritual energy”(心霊的エネルギー?)とか、“biocosmic energy”(生物宇宙エネルギー?)とか。“Science cannot explain.”(科学では説明できない)などと効能が説明してある場合は、似非科学に間違いなく、眉につばを付けてかからなくてはいけない。The Sankei Shimbun(October 22 2006)

2012年11月4日日曜日

news fast ニュースの断食

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 newsは「ニュース」。fastは形容詞では「速い」という意味だが、ここでは名詞で「断食」「絶食」のこと。「断食を中止する」というbreakfastが転じて「朝食」となったが、そのfast。そこで、news fastは「ニュースの断食」。カタカナ読みは「ニューズ・ファスト」。テレビ、ラジオのスイッチを切り、新聞も読まない。インターネットでニュースのチェックもしない。一切のニュースを遮断して、疲れ切った脳細胞を休めようというものだ。
 この言葉は、information revolution(情報革命)が本格的になった1990年代から登場した。世界中で過去30年間に発信されたニュース、情報の量は、それ以前に人類が蓄積した5000年分を越えてしまい、幾何級数的に増加しているという。そのため、最近では健康面からも情報過多の環境が問題視されるようになった。
健康的ライフスタイルの提唱者として有名なアンドリュー・ワイル博士は、ベストセラーの著書“8 Weeks to Optimum Health” (2006年改訂版、邦題『心身自在』)で、 “Unfortunately, most of the reported news is bad news. The emotional content of TV news can affect mood and aggravate sadness and depression.”(不幸にして報道されるニュースは総じて悪いニュース。TVニュースの内容は、われわれの気持ちに悪影響を与え憂鬱にさせる)と指摘。健全な精神を保つためには、ニュースからのday off(休日)を取ることを勧める。
 だが、これがなかなかできない。とくにニュースを商売のネタにする新聞記者は、ほとんどがnews addiction(ニュース中毒)に陥ったnews junkie(中毒患者)。半日もニュースを見ないと、何か起こっていないか知りたくてムズムズしてくる。さらにnews fastが続くと、心配になって寝られなくなる。〝ほとんどビョーキ〟だが、この傾向は実際にInformation Fatigue Syndrome(IFS=情報疲労症候群)と呼ばれているのだ。
 IFSは、英国の心理学者、デイビッド・ルイス博士が1996年、ロイター通信社の“Dying for Information”(情報飢餓)と題する報告書をまとめたときに初めて使った。過剰な情報に曝され、その処理に追われて疲れ果てる。その結果、「分析能力は麻痺してしまう。だが、情報に対する飢餓感はなくならず、不安感や不眠症に悩まされるようになる」という。
 IFSに対する処方箋もinformation fast(情報断食)。technostress(テクノストレス)を軽減するため、コンピューターのスイッチを切って、奔流のように押し寄せる情報の波から一時的にでも避難し休息をとることが必要だ。コンピューター・ソフトウェアの巨人、マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏も、パソコンから離れて思索にふける“think week”(考える週)を設け、information fastしているそうだ。The Sankei Simbun(October 29 2006)

2012年11月3日土曜日

adopted child 子供が大好き!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 adopted childは「養子」。カタカナ読みは「アドプティッド・チャイルド」。動詞のadoptは、英和辞書では「採用する」「採択する」の意味が最初に書いてある。たとえば、議会で決議を採択するのは、adopt a resolution。だが、アメリカン・ヘリテージ辞書など米国の辞書では、“take into one’s family through legal means”(正式な方法=養子縁組で家族にする)が最初に来る。こちらの意味の方が身近なためだ。「養子縁組」という名詞はadoption。「養親」はadoptive parentsだ。
2006年には、人気歌手マドンナがアフリカ南部のマラウイから黒人の男児を養子として迎え、世界的な話題になったが、米国ではこのようなcelebrity adoption(有名人の養子縁組)が盛んだ。映画俳優では、アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットのカップル。また、日米関係で著名なリチャード・アーミテージ元国務副長官も6人の養子を迎えている。
 移民同士の混血が進む米国では、血筋にこだわりを持たない人が多く、養子を持つ家庭は8軒に1軒。さらに、毎年約12万人が養子縁組されるという。そのうち海外から子供をもらう国際養子縁組は、2005年に約2万3000人。国別では中国がトップで、以下ロシア、グアテマラ、韓国と続く。
 子供を養子に出す側としては、経済的理由が大きい。最近ではシングルマザーで養育できないケースが増えている。国際養子縁組の場合、貧困にあえぐ国々では、子供を養子に出すことが「口減らし」になるという現実がある。
 養子を取る最大の理由は、夫婦間の不妊。だが、実子がいる場合でも、養子縁組するケースが少なくない。そのなかには、宗教的な使命感や博愛主義の立場から孤児や障害児を養育する人がかなりいる。また、家族は多いほうがいい、と考える人もいて、理由は様々。養子をもらった世帯には1万ドルの税額控除があり、州によっては同性カップルの養子縁組も可能だ。
 これだけ養子縁組が盛んな米国だが、養子に対する「告知」という大問題は避けて通れない。“You were adopted.”(お前はもらわれてきた子だ)とは、簡単に言えることではない。青少年心理の専門家は、子供たちが養子とは何かを理解できるようになったときに、養親が直接告白するのが最もよい、と指摘している。
 告知の際の言葉使いは微妙である。real mother、father、parents(本当の母、父、親)という言い方は好ましくない。養親はfalse(にせもの)という印象を与えるからだ。そこでbirth mother(生みの母)、biological parents(生物学上の親)などの表現を使うべきだとしている。また、養子に行った子供と生みの親との「再会」をreunion(動詞はreunite)と呼ぶが、子供だけでなく生みの親にも育ての親にも心理的葛藤をもたらす難しい問題である。The Sankei Shimbun (November 5 2006)

2012年10月31日水曜日

eat out 俗語の意味には要注意!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 eat outは「外で食べる」で、外食の意味。「オンライン語源辞書」によると、“dine away from home”(家庭から離れてご馳走を食べる)という意味で1933年に登場したという。当時は外食が特別の日に限られていたが、現代のアメリカでは日常のこと。それで、これに対応する言い方としてeat in(内で食べる)という表現もあらわれた。
 クリスチャン・サイエンス・モニター紙(2006年10月6日付)の“Americans opting to eat out”(外食を選択するアメリカ人)と題する記事では、“Eating out is the new eating in”(外食は新しい家庭食だ)という。米国の母親の60%が主婦業以外に職を持ち、その多くが料理をする時間がなくて外食している、といったことがその背景にある。
 コストの面では、以前は材料を買って家庭で調理した方が外食するより安い、と考えるのが常識だった。だが、最近では「自分の時給と家庭で料理に費やす時間を掛け合わせて計算すると、その時間を働いて金を稼ぎ、家族と一緒に外食する方が経済的」とする人が増えているという。まさに“the capitalism of the kitchen”(台所の資本主義)だ。かくして、一般家庭の全食費に対する外食の割合は、一九五五年には平均25%だったが、今では50%を超えたという。
 米レストラン協会(NRA)の統計によると、今年、全米のレストランの総売上は初めて5000億ドル(約60兆円)を突破。また、同協会の調査では、テレビが設置してあるテーブル席を好む客が多いとしており、「顧客はレストランを家庭の延長と見ている」と分析している。
 外食の方が家庭で料理するよりも安上がりと実感できるのは、ファストフード。ハンバーガーのセットメニューでもピザの食べ放題でも、満腹するまで食べて5ドル(600円)以下というのが、今や通り相場だ。しかも、ソフトドリンクは飲み放題というところが多い。だが、ファストフードはトランスファットが問題にされるなど、高脂肪、高カロリーのメニューが肥満の原因になると批判されている。
 また、一般のレストランでも、「出される量が多過ぎる。減らすべきだ」との声が、健康や医療の関係者の間で高まっている。だがレストラン側は、「もし量を減らしたら、顧客から文句が出る」と訴える。健康的な少量メニューはまだまだ遠い先の話のようだ。
 そこで、外食の場合、big eater(大食い)はさて置き、small eater(少食の人)は、left-over(食べ残し)を家に持って帰る習慣が出来上がっている。相当の高級レストランでもその辺を心得ており、to-go box(お持ち帰り用容器)やdoggy bag(犬のエサ用の袋、中身は人間が食べるとしても)を用意している。
さて、最後に一言。eat outには、俗語として女性に対するオーラル・セックスの意味があるので、使用にはご用心。The Sankei Shimbun(November 19 2006)

2012年10月28日日曜日

school bullying 人間はどこまでも卑劣になれる

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 schoolは「学校」で、bullyingは「いじめること」。school bullyingは「学校でのいじめ」。カタカナ読みは「スクール・ブリィング」。米国でもこの言葉が普通名詞化しているのは、いじめが教育現場で深刻な問題となっているからだ。
 動詞のbullyは、more powerfulな(より強い)者がweaker peer(弱い仲間)をverbal harassment(言葉でのいやがらせ)やphysical assault(肉体的攻撃)などでtormentする(苦しめる)ことを指す。学校でのいじめは、手口としてhitting(殴る)、slapping(ひっぱたく)、teasing(からかう)、taunting(あざける)、stealing or damaging belongings(持ち物を盗んだり壊したりする)という直接的な方法と、spreading rumors(噂を流す)とかrejecting or excluding someone(仲間はずれにする)という間接的な方法がある。
全米の6~10年生(日本の小学6年~高校1年)1万5千人以上を対象とした2001年の調査では、全体の13%が他の生徒をいじめ、11%がいじめの対象になり、さらに別の6%がその双方に該当。また、いじめは6~8年生に集中し、女子生徒より男子生徒の間で頻発する傾向があるという。
 学校でのいじめの結果は重大だ。アイオワ州の8年生だったカーティス・テーラー君は、3年間に渡って様々ないじめを受け、1993年3月に自宅で拳銃自殺した。この事件は、著名コラムニストのボブ・グリーンがコラムで取り上げたこともあって、学校関係者に大きな衝撃を与えた。以後、bullyとsuicide(自殺)を組み合わせたbullycide(いじめ自殺)という言葉が生まれた。
 1990年代以降、米国ではschool shooting(学校での銃乱射事件)が頻発するようになる。コロラド州コロンバイン高校での乱射事件(1999年)では、生徒の多くが事件の背景にいじめがあったと指摘。学校でのいじめが暴力をともなう復讐に発展して、大惨事を引き起こすことにもなりかねないのだ。
 いじめは、かつて成長過程の1現象と見なされていたが、メディアが大々的に報じた結果、被害者への世間の同情が高まってきた。最近では、いじめを受けた生徒の家族が、いじめた生徒やその家族を相手取って損害賠償請求訴訟を起したり、学校や教師の監督責任を追及したりするケースが増加している。
 ところで、オックスフォード英語辞書(OED)によると、bullyの語源は中世オランダ語のboeleで、1538年に遡る。sweetheart(愛人)やbrother(兄弟)を表す名詞だったが、17世紀を通して意味が劣化。最後はruffian(悪漢)やpimp(売春婦のヒモ)にまで成り下がり、1710年には「弱い者いじめをする」という動詞になった。「可愛さ余って憎さ百倍」といったところだが、人間は環境に従って堕落し、いかに卑劣になれるかを象徴しているようでもある。The Sankei Shimbun(November 12 2006)

2012年10月5日金曜日

brink 瀬戸際政策とは・・・

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 brinkは「縁」とか「がけっぷち」、あるいは「間際」「瀬戸際」を意味する名詞。カタカナ読みは「ブリンク」。英語ではedge、marginなどと言い換えられる。つまり、ぎりぎりの際どいところという意味だ。この言葉はon the brink of ~、できるだけ短い表現を好む新聞の見出しではtheを省いてon brink of ~で頻繁に登場する。
 たとえば、中東のイスラエルとパレスチナの一触即発の危機的な状態は“On Brink of Explosion”(爆発寸前)などの見出しが躍る。会社が倒産寸前の状態は、on the brink of bankruptcy。
2006年11月7日に行われた米中間選挙の結果、民主党は下院で早々に過半数を制したが、上院では共和党の49議席に対して48議席まで肉薄。無所属の2議席を加えて50とし、激戦のバージニア州の1議席を獲得できるかどうかが過半数制覇の決め手となった。当時インターネットでは、この際どい状況を“Democrats Win House, on Brink of Senate Power”(民主下院に勝利、上院も掌握間際)、“On Brink of Controlling Senate”(上院支配寸前)と表現。その後、民主党は勝利し、上下両院で過半数を制するに至った。
  選挙戦で最大の争点となったのは、イラク問題。投票前の5日、イラク高等法廷はサダム・フセイン元大統領に死刑を言い渡したが、共和党の追い風にならなかったばかりか、イラクはto the brink of civil war(内戦の際)に追いやられた。
 brinkの派生語で、日本の安全保障に重くのしかかるのが、北朝鮮のbrinkmanship。これは「瀬戸際政策」と訳されるが、国際政治で有利な立場に立つために、わざと危機的な状況を演出して交渉相手から譲歩を引き出す戦術だ。金正日総書記の支配する北朝鮮は、1990年代から“Nuclear Brinkmanship”(核の瀬戸際政策)によって、クリントン前政権や日本、韓国を脅迫し米や重油、原子力発電の設備までせしめて来た。
 北朝鮮は瀬戸際政策をエスカレートさせ、ついに2006年10月初めに核実験を強行。その後も、再三にわたって6カ国協議を頓挫させ、ついに2008年10月には、ブッシュ政権からテロ指定国家解除をもぎ取った。北朝鮮は常にto the brink of nuke crisis(核危機の瀬戸際)まで突っ走る可能性があり、予断を許さない。
 brinkmanshipの語源は冷戦時代の1956年に遡る。米国の核抑止政策について、当時のJ.F.ダレス国務長官がbrinkmanshipを提唱、“the ability to get to the verge without getting into the war”(戦争を起さないでぎりぎりのところまで行く能力)と定義したのに始まる。その年に民主党の大統領候補になったアドライ・スティーブンソン氏は、「彼(ダレス長官)が自慢するbrinkmanshipは、われわれを核の深淵の縁に追いやる戦術だ」と厳しく批判した。今日の北朝鮮の瀬戸際政策の本家本元は、実は米国である。The Sankei Shimbun(November 26 2006)

2012年10月4日木曜日

Happy Holidays

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 happyは「幸せな」という形容詞、holidayは「祝祭日」。中世の英語ではholidaiでholy day(聖なる日)、つまり宗教的に重要な日。Happy Holidaysは「幸せな祝祭日を」という挨拶の言葉で、カタカナ読みは「ハッピー・ホリデイズ」。
 この言葉をめぐる米国社会の考え方を知るには、次のジョークがよい。
 A: Hey, Happy Holidays!
    B: Oh my God, you anti-Christian heretic demon!(おやおや、君はキリスト教に反対する異端の悪魔だ)
 A: Uh, Merry Christmas?(じゃあ、メリー・クリスマス?)
 B: There, now Jesus loves you again.(それでこそ、キリストも再び君を愛するよ)
 11月の第4木曜日のThanksgiving Day(感謝祭)から12月25日のクリスマスにかけてホリデー・シーズンだが、お祝いの挨拶言葉をめぐって、ここ10年以上も政治的対立が絶えないのだ。
 クリスマスは、ChristのMass(ミサの儀式)という意味で、言うまでもなくイエス・キリストの生誕を祝うキリスト教の行事。昨今では、米国でも宗教的な意味合いが薄まり、百貨店のプレゼント商戦の印象が濃くなっているが、キリスト教以外の宗教を信じる人たちは当然、「メリー・クリスマス」と声を掛けることにも、掛けられることにも抵抗がある。
世界各国から来た人々が暮らしている米国では、宗教もさまざま。ユダヤ教では、このシーズンにハヌカー祭(Hanukkah)を祝う伝統があり、アフリカ系アメリカ人の間では12月26日から1月1日にかけて、クワンザ(Kwanzaa)という比較的新しい祝祭行事を迎える。こうした他宗教の行事にも配慮した結果、Happy Holidaysという一般的な挨拶が登場。political correctness(差別廃止を訴える政治的正当性)の立場からも喧しく言われるようになり、公立学校や百貨店が率先して、挨拶状などで使うようになった。
 ホワイトハウスも慎重で、カーター、レーガン大統領のころから、あえて「メリー・クリスマス」と書かないholiday cardを送っていたそうだ。その慣例に従って、ブッシュ大統領も2005年末に、“Best Wishes for the Holiday Season”(素晴らしいホリデー・シーズンを)と書いて送ったら、今度はキリスト教の右派から「なぜメリー・クリスマスと言わないのか」とクレームが付いた。
 CNNとUSA TODAY、ギャラップが実施したアンケート調査によると、Happy Holidays派は44%で、反対派は43%、まさに拮抗していた。これは、米国の保守派とリベラル派の対立を象徴しているようだ。だが、この対立はあくまで表向きの政治の話。一般の人々にとっては言い方などどうでもよいことで、みんなで祝日を楽しく過ごすことができればそれでよいのである。The Sankei Shimbun(December 3 2006)

2012年10月3日水曜日

insurgent

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


insurgentは、「暴徒」「反乱兵」。カタカナ読みは「インサージェント」。語源はラテン語で18世紀に遡り、in-はagainst(~に対して)という意味の接頭辞、surgereする(rise=立ち上がる)人で、「反対して立ち上がる人」を意味する。今では、政府に反対して武装蜂起する「反政府分子」を指す。insurgencyは「反政府暴動」だ。
insurgentや insurgencyは2003年のイラク戦争以来、米メディアをにぎわし続けた。とくに“Iraqi insurgency”(イラクの反政府暴動)は、言葉としてすっかり定着。イラク国内の武装襲撃や自爆攻撃は当初、米軍を中心とする連合軍、新政府の軍隊や警察、とくに新たな兵士や警察官の募集現場などが主要な標的にされてきた。「反米」、「反政府」の意思が明らかなだけに、米国の政治家やマスコミは彼ら攻撃者をinsurgentと呼んできた。当事国であるイラク新政府のマリキ首相は、さらにmilitia(民兵)、terrorist(テロリスト)と非難、ブッシュ大統領はIraqi insurgencyに対する米軍の戦闘行為を“war on terrorism”(テロとの戦い)と言い切った。もっとも、ロイター通信は、距離を置いてgunman(ガンマン)と呼び、日本のメディアも、「武装勢力」と呼んできた。
ところが、Iraqi insurgencyの中身となると、非常に複雑で一筋縄ではいかない。
イスラム教には、スンニ派とシーア派の二大宗派がある。世界的に見るとスンニ派が9割を占めるが、イラクではシーア派が多数派、スンニ派は少数派と逆転している。フセイン旧政権を支持したのは、少数派であるスンニ派で、イラク戦争で旧政権が崩壊するとともに〝下野〟。そのためinsurgentは、旧政権を支えたバース党の残党、スンニ派の国粋主義者や過激派、さらに米国に対してジハド(聖戦)を唱える外国からのスンニ派義勇兵などと見られてきた。
 一方、新政府を主導するのはシーア派。その政府軍と米軍の兵士がスンニ派の非武装の民間人まで無差別に攻撃したことで、国内は大混乱に陥った。国連の発表によると、2006年10月には3709人のイラク市民が殺害されたという。11月23日には首都バグダッド東部のシーア派居住地区で、スンニ派武装勢力が自動車爆弾による白昼堂々の大攻撃を仕掛け、450人以上の死傷者が出た。その後も両派の報復合戦が続き、毎月10万人以上が国外へ脱出する危機的な状況が続いた。
 この事態について、イラク戦争開戦時に国務長官を務めたコリン・パウエル氏は11月29日、アラブ首長国連邦で講演した際、“Iraq’s violence meets the standard of civil war.”(イラクの暴力は内戦の段階)と表現した。civil warの定義は「国内の派閥・党派や地域間の紛争」で、ここでは、「シーア派とスンニ派の紛争」。ブッシュ政権はこの見解を否定したが、これを機にイラク駐留米軍の撤退が焦眉の政治課題に浮上した。The Sankei Shimbun(December 10 2006)

2012年10月2日火曜日

autism

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 autismは日本では「自閉症」と訳されている。カタカナ読みは「オーティズム」。
この言葉が最近、米メディアに頻繁に登場するようになった。その背景には患者の増加がある。米疾病対策センター(CDC)の調査によると、新生児の166人中1人に自閉症が見つかるという。この割合は10年前の2倍、25年前の10倍に上ると推定されるから、驚くべきことだ。
 autismは先天的な脳機能障害が主原因で、視覚的な認知能力や言語能力の発達が遅れる発達障害だ。3歳ごろまでに現れ、▽物事への関心が限定され同一行動を繰り返す▽対人関係でコミュニケーションができない▽言葉で自分の意思を表現できない-などの症状が特徴。現代医学では根本的な治療法はないとされ、社会適応するための技能トレーニングが行われている。
 autismの語源はドイツ語のAutismus。ギリシャ語のautos-(自己)と-ismos(状態)を組み合わせた造語で、スイスの精神科医、オイゲン・ブロイラーが「統合失調症患者が他人とコミュニケーションができない症状」を記述するために、1912年に用いた。「自閉症」はこのドイツ語の訳語だが、原語には本来「閉」の意味はない。だが、日本では「自閉」のイメージが一人歩きし、「ひきこもり」や「鬱状態」などと混同され、さまざまな誤解を招いている。
 現在、医学用語として用いられるautismは、1943年に米ジョンズ・ホプキンス病院のレオ・カナー博士が、11人の小児に共通の「他人とコミュニケーションができない症状」を発見したことに始まる。カナー博士は当時、「refrigerator moms(冷蔵庫ママ=子供に冷たい母親)に責任がある」として母親の愛情不足を原因に挙げた。
 しかし、母親の愛情不足説は1960年代に覆され、現在の脳機能障害説への道を開くことになる。その契機となったのが、精神測定学者ベルナール・リムランド博士の研究。ニューヨーク・タイムズ(2006年11月28日付)によると、リムランド博士は自分の息子がautismと診断され、担当の医師から親の愛情不足を責められたのに反発。自ら原因究明に乗り出し、ついに「研究の方向を親から脳に転換する重要な役割を果たした」。
 タイム誌は2006年5月29日号でautismを特集。最近の患者急増について「理由はまったく分からない」としながらも、「早期診断を促進する保健キャンペーンによって、一般の意識が高まっており、昔に比べて多くの子供たちが診断を受けるようになり、患者の掘り起しが進んでいる結果ではないか」と指摘。その一方で、「環境的要因があるのかもしれない」とも述べている。
ただ、疫学研究者の間では、autismの診断基準が現在のように拡大したことが、患者認定急増の大きな要因だとの指摘がある。「自閉症」という日本語訳もこの辺で見直す必要があるだろう。The Sankei Simbun(December 17 2006)

2012年8月26日日曜日

bullshit

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 bullshitは、アメリカ生まれの俗語。最も近い日本語は「でたらめ」、あるいは「与太話」。カタカナ読みは「ブルシット」。名詞だけでなく動詞としても使う。間投詞としては、fuckと並んで、日常会話で頻繁に耳にする罵り言葉。日本語でいう「ウッソー!」に当たる。「でたらめを言う人」はbullshitter。
 オックスフォード英語辞書(OED)によると、初出は1915年。古いフランス語のboul(欺瞞)が語源で、16世紀ごろからbullと表記されるようになり「たわごと」の意味で使われてきた。
だが、多くのアメリカ人は、bullを「牡牛」、shitは「糞」だと思い込んでおり、“Bullshit!”と間投詞として使うときには、「牛の糞」を連想するようだ。面白いのは、言葉は誤解に基づいて使われても、みんながそう信じればそれなりに通用するようになる。そこからhorseshit(馬の糞)、chikenshit(鶏の糞)などの派生語も生まれた。
 英和辞書のなかにはbullshitに、名詞として「うそ」とか、動詞として「だます」とかいう訳を当てているが、厳密には正しくない。
 プリンストン大学哲学科のハリー・フランクファート教授は、2005年に“On Bullshit”(ブルシットについて)という著書を出版。その中で「うそをつくためには、真実を知っているという認識がなくては不可能だが、bullshit にはそうした確信は必要ない」と述べている。つまり、bullshitterにとって、自分の言っていることが真実であろうがなかろうが関係ない。「目的を達するためには、うそも本当もごちゃまぜにしてしゃべりまくる」というニュアンスなのだ。
 与太話をするのにもノウハウがある。オンライン・サイトの“How to Bullshit”によると、「当意即妙に話す」。じっくり考えていては、相手は〝企み〟を察知して信じなくなるからだ。それから、自分がすでに持っている知識を総動員して、「言っていることはすべて真実であると信じさせ、それから自分の知らないことをあたかも知っているかのように話す」のがコツだそうだ。
 そこで、非常に巧妙でもっともらしい与太話をする人をbullshit artistという。作家のロン・シャロー氏は著書“Bullshit Artist : The 9/11 Leadership Myth”(2006年)で、ブッシュ大統領こそがbullshit artistだと指摘する。すなわち、2001年の9.11中枢同時テロ事件の当日、大統領はテロとの戦いのため、ありとあらゆる対策を講じたと信じられているが、実際に動いたのはチェイニー副大統領とホワイトハウスの高官たち。「大統領個人が何をしたかを逐一検証していくと、実はほとんど何もしなかった」と述べている。
 だが、政治家は、往々にしてそうした人物が成功するようだ。人の失敗は人の失敗ときっぱりとはねつけ、人の手柄は自分の手柄と断固主張する。誰にでもできることじゃない。The Sankei Shimbun(December 24 2006)

2012年8月25日土曜日

geek

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 geekは、カタカナ読みで「ギーク」。英和辞書では「奇人」「変人」などの訳語が当てられている。だが、現代のアメリカ人がこの言葉からすぐに思い浮かべるのは、computer geekだろう。この場合のgeekは単なる変人ではない。変人に見えるほど熱心に1つのことに打ち込む専門家。日本語の「おたく」と解釈して、「コンピューターおたく」である。
 geekの語源は16世紀のドイツ語のgeck(バカ者)まで遡り、シェークスピアの「十二夜」にもgeckの語が出てくる。アメリカン・ヘリテージ辞書によると、geekがアメリカ英語に最初に登場するのは、サーカスの用語として。米国では19世紀以来、旅回りのサーカスの伝統がある。町にサーカスがやってくると、big topと呼ばれるテントが建てられて催しが始まるが、見世物の中に、生きた鶏の頭を食いちぎったり、剣を飲み込んだり、蛇を手なずけるなど、グロテスクな技を披露する芸人がいる。彼らがcircus geekと呼ばれたのだ。
 そこから転じて、geekは特定の分野に一途な興味を示す人を指すようになった。コンピューターに限らず、music(音楽)geek、movie(映画)geek、manga(漫画)geek、Star Wars(スターウォーズ)geekなど、何にでも使われるところは「おたく」と同じ。侮蔑的なニュアンスをともなって使われるところも似ている。
 だが、geekが単なる「おたく」と違うのは、IT分野において専門的な技術や知識を生かして社会的地位を確立した人たちがいることだ。かつてはhacker(ハッカー)と呼ばれ、主流から外れていると見られたが、彼らが開拓した新しい技術が現代IT産業の主流となっている。たとえば、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は、「ハッカーの親玉」などと陰口を叩かれ、メディアはgeekと書き立てたが、今日では世界一の大富豪になり、慈善事業家としても有名。geekがgeek自体の価値を高めたとも言え、最近ではある種の尊敬の念をともなって使われる場合が増えた。
 さて、computer geekに関し、最近流行しているのが“Geek Squad”。squadはpolice squad(警察部隊)でおなじみで、いわば「コンピューターおたく部隊」。米国の大手家電量販店「ベスト・バイ」が運営するコンピューター・サポートチームのことで、家庭や事務所でコンピューター関連のトラブルが発生したときに電話すると、いつでも修理に駆けつけてくれる。黒と白のパトロールカーに乗り、白の半袖シャツに黒のネクタイとズボンといった独特のユニホーム姿で登場するのが、なかなか小粋で人気の秘密でもあるようだ。
 もとは「バカ」を意味したgeekは、「変人」「貴人」の域を脱し、ついに「おたく」の専門家として社会をリード、大金持ちまで出現する―というまさにアメリカン・ドリームを地で行った単語と言えよう。The Sankei Shimbun(January 14 2007)