Illustrated by Kazuhiro Kawakita |
chicken は「ニワトリ」でhawkは「タカ」。chicken hawkは「ニワトリのタカ」では何のことか分からないが、chickenには「臆病者」の意味がある。hawkはwar hawkで「軍事強硬派」。つまり「臆病者のタカ派」のことだ。
chickenを「臆病者」の意味で使うのは、14世紀以前にさかのぼる。オックスフォード英語辞書(OED)によると、chicken-heart(ニワトリの心臓)は「怖がり」のことで、chicken-heartedと形容詞にもなった。20世紀半ばになると、米国でchicken gameが登場。2人のドライバーが車を運転して同一車線を真っ向から走ってくるゲームだ。そのままでは正面衝突。怖くなって先に車線を変更した方が負けで、chickenと揶揄される。「臆病な敗者」というわけ。負けず嫌いの米国の男に“Are you chicken? ”(怖気づいたか)などというと、それこそ大喧嘩になるから、要注意。
そこで、chicken hawkとは、兵役を逃れた臆病者なのに、今では戦争を支持している者を意味し、「自分は戦争に行かないくせに、人を戦争に追いやる卑怯者だ」と、政敵を挑発する言葉として使われてきた。とくに民主党のdove(ハト派)が共和党の保守・強硬派を非難する常套語となった。
1988年、先代のブッシュ氏が大統領に選ばれた際、副大統領になったダン・クエール(Dan Quayle)氏は、かつてベトナム戦争への召集を嫌い、家族のコネでインディアナの州兵に入隊したことを非難された。その時のジョークに、“What do you get when you combine a chicken with a hawk?”(chickenとhawkを掛け合わせると何になる?)、答えは、“A Quayle.”(同音異義語にquail=鳥の「ウズラ」)というのがあった。
2000年の大統領選挙では、息子のブッシュ大統領とチェイニー副大統領がともにchicken hawkと批判されている。チェイニー氏は大学在籍と結婚を理由にベトナム戦争を回避、ブッシュ氏は同戦争中にテキサス州の空軍に着任して海外行きを免れた、というのがその理由。実際、2003年のイラク戦争以降、この2人は、民主党の戦争反対派から「偽善者」と非難された。
だが、非難された側にも言い分がある。そもそも民主主義政治はシビリアン・コントロールが原則。戦時において、戦争に行ったことのない政治家をchicken hawkと罵るのは、軍人の優位を認め、この原則を否定することになりかねない。南北戦争時のリンカーン大統領、第一次大戦時のウィルソン大統領、そして第二次大戦時のフランクリン・ルーズベルト大統領は、自身は戦争に行かなかった。では、みんなchicken hawkなのか?
保守派のコラムニスト、ジェフ・ジャコビー氏は、2006年7月23日付のボストン・グローブで“Chicken hawk isn’t an argument. It is a slur.”(chicken hawkは〝議論の対象〟ではなく、単なる悪口だ)と批判している。The Sankei Shimbun(August 20 2006)
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