Illustrated by Kazuhiro Kawakita |
retroは「レトロ」であるが、「復古調」ではなく「後方」という意味。runningは「走ること」だから、retro runningは「後方へ走ること」。カタカナ読みは「レトロ・ランニング」。別の表現ではbackward running。
runningは、広い意味でjogging(軽い駆け足)からsprint(全力疾走)まで含む。後ろ向きに速く走るのは至難の業なので、一般的にはjogging程度の速度。だが、練習次第でスピードアップできる。ちなみに、米国で著名なbackward runnerのティモシー・〝バッド〟・バディーナ氏は、2001年に200㍍走で32.78秒のギネス記録を打ち立てた。また、後ろ向きにマラソンを走るスゴイ人もおり、さまざまな距離で世界大会もある。
ところで、この運動自体は新しいものではない。一説には、1970年代からランニングの選手がhamstring(膝の後ろの腱)を痛めた際などに、補完的なトレーニングとしてやっていたという。今日では、アスリートのウォーミングアップや練習メニューに広く取り入れられている。また、retro runningは、普通に前方へ走る場合とは筋肉の働きや関節の可動範囲が異なる。しかも、前方へ走るより20%よけいにカロリーを消費するというので、フィットネスクラブなどがaerobic exercise(有酸素運動)の1つとして採用、ランニングマシンで手軽に行えるので、愛好者が増えている。
オレゴン大学の生体力学・スポーツ医学研究所では、長年にわたってretro runningを研究。リーダーの同大名誉教授バリー・ベイツ博士によると、体の平衡感覚やmuscle balance(筋肉バランス)を向上させ、転倒事故の防止などにつながるという。さらに、hip joint(股関節)やknee joint(膝関節)の障害、ankle sprain(足首の捻挫)など、下肢のケガの回復や手術後のリハビリテーションにも有効。ミシガン州の理学療法士ゲイリー・グレイ氏はリハビリ向けretro running の草分け的存在。「足腰だけでなく心肺機能も強化される」として、30年以上前から患者に指導を続けている。
もっとも、retro runningは、他の運動よりも多少危険がともなう。人間は残念ながら後ろに目がついていないので、外でretro runningするときに、後方から車が来ないか、人がいないか、マンホールの蓋が開けっ放しになっていないか、などと気が気ではない。後ろを振り返りながら身体のバランスを保つのも一苦労である。だから、ランニングの指導者は、まずretro walkingから始めて後ろ向きの動きに体をならし、「よく知っている道で、障害物がないことを確認したうえでretro runすべきだ」とアドバイスしている。
さて、最後に1つ。retro running shoesとあるときは、「復古調のランニング・シューズ」と理解するのが一般的だが、将来は「retro running専用のシューズ」との解釈が生まれるかもしれない。The Sankei Simbun(October 8 2006)
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