Illustrated by Kazuhiro Kawakita |
newsは「ニュース」。fastは形容詞では「速い」という意味だが、ここでは名詞で「断食」「絶食」のこと。「断食を中止する」というbreakfastが転じて「朝食」となったが、そのfast。そこで、news fastは「ニュースの断食」。カタカナ読みは「ニューズ・ファスト」。テレビ、ラジオのスイッチを切り、新聞も読まない。インターネットでニュースのチェックもしない。一切のニュースを遮断して、疲れ切った脳細胞を休めようというものだ。
この言葉は、information revolution(情報革命)が本格的になった1990年代から登場した。世界中で過去30年間に発信されたニュース、情報の量は、それ以前に人類が蓄積した5000年分を越えてしまい、幾何級数的に増加しているという。そのため、最近では健康面からも情報過多の環境が問題視されるようになった。
健康的ライフスタイルの提唱者として有名なアンドリュー・ワイル博士は、ベストセラーの著書“8 Weeks to Optimum Health” (2006年改訂版、邦題『心身自在』)で、 “Unfortunately, most of the reported news is bad news. The emotional content of TV news can affect mood and aggravate sadness and depression.”(不幸にして報道されるニュースは総じて悪いニュース。TVニュースの内容は、われわれの気持ちに悪影響を与え憂鬱にさせる)と指摘。健全な精神を保つためには、ニュースからのday off(休日)を取ることを勧める。
だが、これがなかなかできない。とくにニュースを商売のネタにする新聞記者は、ほとんどがnews addiction(ニュース中毒)に陥ったnews junkie(中毒患者)。半日もニュースを見ないと、何か起こっていないか知りたくてムズムズしてくる。さらにnews fastが続くと、心配になって寝られなくなる。〝ほとんどビョーキ〟だが、この傾向は実際にInformation Fatigue Syndrome(IFS=情報疲労症候群)と呼ばれているのだ。
IFSは、英国の心理学者、デイビッド・ルイス博士が1996年、ロイター通信社の“Dying for Information”(情報飢餓)と題する報告書をまとめたときに初めて使った。過剰な情報に曝され、その処理に追われて疲れ果てる。その結果、「分析能力は麻痺してしまう。だが、情報に対する飢餓感はなくならず、不安感や不眠症に悩まされるようになる」という。
IFSに対する処方箋もinformation fast(情報断食)。technostress(テクノストレス)を軽減するため、コンピューターのスイッチを切って、奔流のように押し寄せる情報の波から一時的にでも避難し休息をとることが必要だ。コンピューター・ソフトウェアの巨人、マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏も、パソコンから離れて思索にふける“think week”(考える週)を設け、information fastしているそうだ。The Sankei Simbun(October 29 2006)
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