2012年5月26日土曜日

tree hugger


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 treeは「樹木」、huggerは動詞形がhug(抱く)で「抱く人」。tree huggerは文字通り「樹木を抱く人」で、樹木を抱いて守ろうとするようなenvironmentalist(環境保護派)を指す。
 ニュー・パートリッジの俗語辞書(2006)によると、tree huggerの初出は1977年。この何々huggerという表現は、親中国派の人をpanda hugger(パンダを抱く人)というように、軽蔑的な意味合いで使われることが多い。tree huggerも、当初は開発優先の風潮が強く、環境保護派に対する蔑称として登場。ところが、最近では環境保護が世界的な課題になり、tree huggerはむしろ〝正義の味方〟になりつつある。言葉自体も軽蔑的な意味合いが減り、中立性を獲得し始めた。
 米国には、“I’m a tree hugger.”と主張する人たちが増加している。ロッキー山脈の麓にあるコロラド州ボルダー市は、近年マラソン選手の高地トレーニングで知られるところ。ここには、earth-loving people(地球を愛する人々=地球環境保護派)が集まっている。地球温暖化問題がクローズアップされる中、2002年に市議会が率先して「京都議定書」が掲げる目標を採択。2012年までにgreenhouse gas emission(温暖化ガス排出量)を1990年代レベルより7%削減することを決め、2006年に、全米に先駆けて“Climate Action Plan Tax”(気候変動に対する行動計画税)を導入した。これは、carbon tax(炭素税)と呼ばれるもので、具体的にはenergy tax(エネルギー税)として電気代に加算される。一般家庭で月額1・33㌦(150円程度)の課税になる。市はこの税金で、2012年まで毎年100万ドルずつ環境対策の資金を積み立てていくという。
 ところで、本当に樹木を抱いて開発・伐採から守ろうとする運動が、1970年代にチベットに近いインド北部ウッタラーカンド州チャモリで起っている。この運動は“Chipko”と呼ばれ、原義はヒンズー語で「しがみつく」。文字通りのtree huggerだ。森の中で自然と一体の暮らしをしていた村に開発の嵐が押し寄せ、樹木の伐採が始まった。それに対して薪拾いを生活の資にしていた村の女性らが立ち上がり、手をつないで樹木を取り囲み、森林資源の保護を訴えたのだ。この運動は、商業目的の伐採に対する州政府の禁止を勝ち取った。その後も、インド全土に拡大し、自然破壊を伴うダム建設の反対運動などに発展。世界的な環境保護運動に大きな影響を与えている。
 tree hugger が目指すのは、“harmonious relationship between man and nature”(人間と自然の共生)というが、これこそ文明社会が直面しているジレンマだ。われわれは、文明的な生活のために開発を進め、自然を破壊してきた。だが、そのしっぺ返しがわれわれに降りかかるようになった今、自然との〝仲直り〟を模索しなければならない。The Sankei Shimbun (February 24 2008)