pay backは借金などを「返済する」ことだが、日本語で「借りを返す」というように、「仕返しする」(retaliate)意味でも使う。名詞形はpayback。
ロサンゼルス・タイムズ(2013年11月13日付)は、“Calderon says investigation is payback”(カルデロン氏は、捜査は仕返しだと述べる)と報じた。本文にはこうある。“State Sen. Ronald S. Calderon, who is being investigated by the FBI on suspicion that he accepted bribes, accused federal authorities Wednesday of trying to smear him for refusing to wear a wire in a sting operation against two other senators.”(カリフォルニア州上院議員のロナルド・カルデロン氏は、FBIに賄賂を受け取った容疑で捜査されているが、水曜日に、ほかの2人の上院議員に対しておとり捜査をするために盗聴器を身につけることを拒絶したとして、自分を中傷しようとしている、と捜査当局を非難した)sting operationはおとり捜査で、米国では正当な捜査手法と見なされている。カルデロン氏の主張が正しいとすれば、このpaybackはまさに「意趣返し」(revenge)であろう。
さて、今年の流行語にドラマ・半沢直樹で有名になった「倍返し」がある。これをどう訳すか?ネットを調べてみると、ウォールストリート・ジャーナル(2013年9月4日付)のブログで、筆者のAtsuko Fukaseさんは、“Fictional Japanese TV banker takes double the payback”と訳していた。ここでpaybackが登場する。これをもう一度日本語に直訳すると、「虚構の日本のテレビドラマの銀行員は、倍にして仕返しする」となる。“Hanzawa’s signature expression, ‘take double the payback’ is now showing up everywhere–in magazines, newspapers and conversations.”(半沢の決め台詞「倍返し」は今や雑誌、新聞、日常会話で、ありとあらゆるところに登場している)と述べている。pay back(動詞形)を使って、pay back double (倍にして返す)ともいえる。
このpaybackをおなじみのrevenge(リベンジ)に替えてtake double the revengeでもいい。定冠詞のtheがあるのは、「あの借りを返す」の「あの」に当たる。前にとる動詞はtake、have、getなどで、共同通信社は、「やられたらやり返す。倍返しだ!」を、“An eye for an eye. I'm gonna get double revenge!”と訳していた。一般的な言い方として定冠詞は省略。もちろん、double revenge(倍返し)だけでもよい。
ところで、“an eye for an eye” は文字通りでは「目には目を」で、“An eye for an eye, and a tooth for a tooth”(目には目を、歯には歯を)と続き、旧約聖書の出エジプト記にあることわざだが、古くはメソポタミア文明で栄えたバビロニアのハムラビ法典に起源をもつ“lex talio”(ラテン語で、同害報復)の原則を指す。Retaliate(報復する)の語源はこのtalio。
だが、なぜこんな法律が生まれたのか?実はそれ以前の未開の時代は、倍返し以上が普通だった。やられたら怒りにまかせて滅茶苦茶にやっつける世界であったが、それでは秩序が保たれないからだ。しかし、偉大なキリストは、「やられたらやりかえす」でもダメだとおっしゃったのである。新約聖書のマタイ伝にこうある。
You have heard that it was said, “An eye for an eye and a tooth for a tooth.” But I say to you, do not resist an evildoer. If anyone strikes you on the right cheek, turn to him the other also.(あなたは、目には目を、歯には歯をといわれるのを聞いた。しかし、私はあなたに言おう。悪人を拒んではならない。誰かがあなたの右の頬を打ったならば、もう一方の頬も向けなさい)
仏教にいう。恨みに対するに恨みをもってしたならば、永久に恨みの絶えることはない。恨みに対して、恨みを捨てよ、と。いずれも、忍耐と強い精神力を要求する教えである。それに比べれば、「倍返し」は先祖帰りともいえる激情の発露であろう。
さて、ネットを調べていたら以下の表現に行き当たった。
You will see! 今に見てろ!
Keep your guard up! ガードを上げておけよ
You’ll pay for this! ただじゃおかないぞ!
Watch your back! 背中に気ぃつけぇやぁ
最後の決め台詞。
“I will pay you back double!”(倍返しだ!)
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