2012年8月6日月曜日

skid row

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 skid rowは、英和辞書では「ドヤ街」とか「スラム街」との訳語がつけられている。カタカナ読みは「スキッド・ロウ」。
この言葉が注目されるのは、米国でも格差社会の象徴ともいうべきhomeless(ホームレス)が大きな社会問題になっている背景がある。ロサンゼルスの下町にもSkid Rowという地区があり、高層ビルディングがそそり立つビジネス街のすぐ裏手の歩道にはダンボールの〝家〟やテントがずらりと並び、社会救済事業の事務所も置かれている。
2007年2月初め、ここにライトバンが来て、両脚が麻痺した男性を放置して立ち去った。soiled gown(汚れたガウン)にbroken colostomy bag(壊れた人工肛門バッグ)以外何一つ身に付けず、路上を這っているのを発見された。AP通信など米メディアは“homeless dumping”(ホームレス遺棄)事件として報じた。ロサンゼルス・タイムズは、ライトバンはキリスト教系病院のものだったと指摘したが、金もなく、医療保険にも入れないホームレスは、どれほど重病であっても民間病院から相手にされないのが実情で、こうした遺棄事件は、ロス以外のskid rowでも起っている。
 さて、アメリカン・ヘリテージ辞書によると、skidは名詞で「厚板」や「丸太」、とくに重い物を動かすための「ころ」を指す。動詞では「横滑りする」という意味。rowは「列」とか「並び」のほか「通り」を意味するので、skid rowは「丸太通り」となる。カナダや米国北部で盛んな林業に由来する言葉で、1900年ごろには、山から材木を切り出す人夫がたむろするskid roadとなり、大恐慌を経た1930年ごろに今の「ドヤ街」に転じた。
 では、なぜ「丸太通り」が「ドヤ街」になったのか?ジャーナリストで郷土史家のマレー・モーガンが、1951年に出版した“Skid Road, An Informal Portrait of Seattle”( スキッド・ロード、シアトルの素顔)によると、ワシントン州シアトルは材木の集積地で、Skid Roadと呼ばれる通りがある。かつて、夏場には伐採人夫たちで賑わい、酒場や売春宿が繁盛したが、冬場は仕事を失った彼らが物乞いをして歩いたという。その日暮らしの貧しい季節労働者にあふれた通りは、現在のホームレスが集まるskid rowに転換。全米の大都市に出現することになった。
 1980年代にホームレスから億万長者の株式仲買人に成り上がったクリス・ガードナーを俳優のウィル・スミスが演じた映画“The Pursuit of Happyness”(2006年、Happinessでないところがミソ、邦題「幸せのちから」)では、クリスが1人息子を連れてサンフランシスコのskid row のshelter(救済施設)に宿泊する場面が出てくる。努力すればホームレスでも大金持ちになれるというアメリカン・ドリームを謳う物語であるが、現実のskid rowで暮らす大多数のホームレスには、夢のまた夢である。The Sankei Shimbun(March 11 2007)「グローバル・English」はこちらへ