2012年8月13日月曜日

gringo


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 gringoはスペイン語で「よそ者」を意味する。中南米諸国では、白人、とくにアメリカ人の蔑称だ。カタカナ読みは「グリンゴ」。
  この言葉が、久しぶりに米国の主要メディアで取り上げられた。ベネズエラのチャべス大統領が2007年1月21日、国民向けのラジオ・テレビ演説で、“Go to hell, gringos! Go home!”(消えうせろ、よそ者は帰れ)と罵声を上げたからだ。大統領は、ライス米国務長官を“missy”(お嬢さん)と茶化したうえ、ブッシュ政権の役人たちをgringosと呼んだが、それには米国の石油資本も含まれる。8日前の国会演説で石油開発をめぐり、「われわれは収奪されてきた。儲けたのは外国企業ばかりだ」と述べ、国内の全エネルギー産業の国有化を宣言したのだ。その後、国営ベネズエラ石油(PDVSA)が、オリノコ油田の事業を掌握、米国の石油資本は撤退を余儀なくされた。
 チャべス大統領の反米姿勢は社会主義の信条に基づくものだが、2002年4月に軍のクーデターで一時政権を追われたことが大きい。大統領は、自分を引きずり下ろすためにCIA(米中央情報局)と米軍が仕組んだものだと主張し続けており、その積年の恨みから、2006年9月の国連総会でブッシュ大統領をdevil(悪魔)と罵り、今回の「帰れ、よそ者」になった、と言える。
 さて、gringoの語源は諸説紛々としている。最も信頼できるのは、アメリカン・ヘリテージ辞書の「ギリシャ人を表わすgraecusというラテン語が、スペイン語のgriegoになった」というもの。“It’s Greek to me.”(私にとってはギリシャ語だ)という表現は、スペイン語・英語ともに「意味不明の言葉」という意味合いで、それから転じて「よそ者」になったという。
 だが、メキシコでは別の起源説がある。米国とメキシコが、米国内のメキシコ領をめぐって争った米墨戦争(1846~48)のおり、米兵が行進しながら“Green Grow the Rushes, Oh!”と歌っていたのが伝えられ、訛ったという。この説は、ジャーナリストで言語学者のボイエ・デ・メント氏も著書“NTC’s Dictionary of Mexican Cultural Code Words”(1996年)の中で取り上げている。
 米墨戦争は今もメキシコで「北米の干渉戦争」と呼ばれる。メキシコはかつて、現カリフォルニア州など米南西部一帯を領有していたが、この戦争に敗れて、これらの土地を失い、メキシコ人は締め出されてしまった。彼らはスペイン語を話すため、米国に移住すればHispanic(ヒスパニック=スペイン語を話す者)として民族的に色分けされた。
gringoは、語源がどうであれ、中南米の人々にとって北米の〝白人〟との根深い対立感情を表わす言葉として、今も生きている。ヒスパニック系米国人も、白人を罵るときに口にする差別用語である。The Sankei Shimbun(February 11 2007)