2012年8月25日土曜日

geek

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 geekは、カタカナ読みで「ギーク」。英和辞書では「奇人」「変人」などの訳語が当てられている。だが、現代のアメリカ人がこの言葉からすぐに思い浮かべるのは、computer geekだろう。この場合のgeekは単なる変人ではない。変人に見えるほど熱心に1つのことに打ち込む専門家。日本語の「おたく」と解釈して、「コンピューターおたく」である。
 geekの語源は16世紀のドイツ語のgeck(バカ者)まで遡り、シェークスピアの「十二夜」にもgeckの語が出てくる。アメリカン・ヘリテージ辞書によると、geekがアメリカ英語に最初に登場するのは、サーカスの用語として。米国では19世紀以来、旅回りのサーカスの伝統がある。町にサーカスがやってくると、big topと呼ばれるテントが建てられて催しが始まるが、見世物の中に、生きた鶏の頭を食いちぎったり、剣を飲み込んだり、蛇を手なずけるなど、グロテスクな技を披露する芸人がいる。彼らがcircus geekと呼ばれたのだ。
 そこから転じて、geekは特定の分野に一途な興味を示す人を指すようになった。コンピューターに限らず、music(音楽)geek、movie(映画)geek、manga(漫画)geek、Star Wars(スターウォーズ)geekなど、何にでも使われるところは「おたく」と同じ。侮蔑的なニュアンスをともなって使われるところも似ている。
 だが、geekが単なる「おたく」と違うのは、IT分野において専門的な技術や知識を生かして社会的地位を確立した人たちがいることだ。かつてはhacker(ハッカー)と呼ばれ、主流から外れていると見られたが、彼らが開拓した新しい技術が現代IT産業の主流となっている。たとえば、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は、「ハッカーの親玉」などと陰口を叩かれ、メディアはgeekと書き立てたが、今日では世界一の大富豪になり、慈善事業家としても有名。geekがgeek自体の価値を高めたとも言え、最近ではある種の尊敬の念をともなって使われる場合が増えた。
 さて、computer geekに関し、最近流行しているのが“Geek Squad”。squadはpolice squad(警察部隊)でおなじみで、いわば「コンピューターおたく部隊」。米国の大手家電量販店「ベスト・バイ」が運営するコンピューター・サポートチームのことで、家庭や事務所でコンピューター関連のトラブルが発生したときに電話すると、いつでも修理に駆けつけてくれる。黒と白のパトロールカーに乗り、白の半袖シャツに黒のネクタイとズボンといった独特のユニホーム姿で登場するのが、なかなか小粋で人気の秘密でもあるようだ。
 もとは「バカ」を意味したgeekは、「変人」「貴人」の域を脱し、ついに「おたく」の専門家として社会をリード、大金持ちまで出現する―というまさにアメリカン・ドリームを地で行った単語と言えよう。The Sankei Shimbun(January 14 2007)