2012年1月15日日曜日

weasel words


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 weaselは「イタチ」でwordsは「言葉」。2つ合わさると、カタカナ読みが「ウィーズル・ワーズ」で「イタチ言葉」となるが、直訳では何のことか分からない。これは、実体をずばり示さず、あいまいで、ときに2枚舌で、相手をミスリードする言葉。その狙いは、to try to hide the truth(真実の隠蔽をはかること)。政治家や役所、企業のPR用語に多く見られる。
 weasel wordsは、1900年にアメリカのセンチュリー・マガジンに掲載された短編小説に登場したのがはじまり。“words that suck the life out of the words next to them, just as a weasel sucks the egg and leaves the shell”(イタチがタマゴの中身を吸い取って殻だけ残すように、言葉の〝生命〟を吸い取った言葉)と説明される。言い換えれば、「名が体を表さない言葉」だ。
 さて、政治家がより多くの有権者にアピールしようとすると、発言にweasel wordsが増える。2008年の大統領選挙でもabortion(妊娠中絶)をめぐって保守派は反対、リベラル派は「女性の権利」と主張して世論は2分。そこで、民主党のオバマ大統領は発言した。“I think it’s entirely appropriate for states to restrict or even prohibit late-term abortions as long as there is a strict, well-defined exception for the health of the mother.”(州政府が妊娠後期の中絶を制限、禁止するのは適切であると思う。ただし、母親の健康について厳格に定義した例外がある限りにおいて)。ここで問題になったweasel wordsはlate-term abortions(妊娠後期の中絶)。文脈からすると、オバマ氏は基本的にlate-term abortionsに反対。だが、母親の健康状態によって例外はある、という。また、彼はearly-term abortions(妊娠初期の中絶)について言及を避けた。
 オバマ氏の発言は、保守・リベラル双方に配慮したものと言える。だが案に相違し、フェミニストからは「女性の中絶する権利にオバマ氏は反対だ!」と批判が上がり、キリスト教右派は「オバマ氏は“Abortion President”(中絶大統領)」と糾弾。weasel wordsは逆効果となってしまった。
 ところで、weasel wordsは政治に限らず、われわれの日常生活にも蔓延する傾向にある。たとえば、“People say…”(人々は~と言っている)という表現。peopleとは一体誰のことなのか? “I heard that…”(私は~と聞いた)、どこで誰から聞いたのか? “It is mentioned that…”(~と言われている)も、誰が言ったのか不明だ。受身形(passive voice)はとくに要注意。“Permission was refused.”(許可は認められなかった)は、誰が許可を拒絶したのか分からないが、役人の責任回避の常套語である。われわれ自身も、“I made a mistake.”(私は間違いを犯した)というべきところを、“Mistakes were made.”(間違いが起こった)などと、ごまかしてはいけない。
The sankei Shimbun (November 2 2008)

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