Illustrated by Kazuhiro Kawakita |
fatigueは「疲れ」とか「疲労」と訳される名詞。動詞としても使う。カタカナ読みは「ファティーグ」。日常会話でよく使うのは“I’m tired.”(私は疲れている)のtire(動詞)だが、両者のニュアンスは少し違う。
tireは疲れて物事に飽き、うんざりした状態を指す。18世紀に「英語辞典」を編纂したサミュエル・ジョンソンの有名な警句に、“When a man is tired of London, he is tired of life.”(ロンドンに飽きた人は、人生に飽きた人だ)というのがある。理由は、当時のロンドンには人生が与えてくれるものが何でもあったからだという。だが、現在の都市生活には何でもあり過ぎて、余計なことに追いかけ回され、ストレスと過労で疲れ切った状態に追い込まれる。それがfatigueである。
fatigueは健康や精神衛生の分野では、「特定の病気ではないが、symptom(徴候)を示すもの」とされる。だが、肉体的・精神的に強い疲労感が長期間にわたって続くようになると、Chronic Fatigue Syndrome(CFS=慢性疲労症候群)という本当の病気になってしまう。
ところで、インターネットをはじめIT分野で、fatigueのついた言葉が続々登場している。例えばpassword fatigue(パスワード疲れ)。ネットの会員サイトへのアクセス番号から、クレジットカードの暗証番号、さらに自分の住んでいるアパートに入るためのopen-sesame(開けゴマ)まで、たくさんのパスワードを憶えなくてはならないうえに、絶えず誰かにパスワードをskimming(掠め取り)されないかと戦々恐々とし、疲れ果ててしまうことを指す。また、インターネットで毎日、大量のjunk mail(くずメール)を受け取り、うんざりしてしまうe-mail fatigue(電子メール疲れ)や、ブログが溢れんばかりに増え続け、見るのも書くのも飽き飽きするというblog fatigue(ブログ疲れ)も他人事ではなくなっている。
オックスフォード英語辞書(OED)によると、fatigueの語源はフランス語のfatigueで、初出は1669年。フランス語では“Je suis fatigué.”(私は疲れている)というが、これは英語のtireと同じ使い方。元はラテン語のfatigare(働き続けて消耗する)から来た。英語では18世紀に、軍隊で兵士が嫌がる「雑役」を指すことになり、そのときに着る「作業服」は、今もfatigue(ファティーグ)と呼ばれている。飛行機事故などで問題になるmetal fatigue(金属疲労)は、19世紀からの使い方である。
さて、9.11中枢同時テロ事件から時間が経つにつれて、米国社会にthreat fatigue(脅威疲れ)が見え始めた。政府当局などがひっきりなしに発表するテロの脅威や警告に慣れっこになってしまい、今では国民の間からは“Danger? What danger?”(危険?何の危険なんだ?)と、脅威を侮る声も聞こえてくる。The sankei Shimbun(July 1 2007) 「グローバル・English」はこちらへ
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