「恐縮する」というのは「恐れて身がすくむ」ことだが、一般的に「恐縮しています」「恐縮です」と言えば「ありがとう」の言い換えである。こういう表現が英語にあるのか、というと、学校英語では「ない」と教える。理由は「欧米人は恐縮することはない」などと説明する。そして、和英辞書では「恐縮する」の訳語として “I am sorry to trouble you…”(邪魔してゴメンなさい)などしている。あるいは、意訳して “I am much obliged to a person.”(原義は「大変な負債をつくってしまった」=感謝に堪えない)とする。
だが、これは真っ赤なウソ。欧米人でもちゃんと「恐縮する」ことがある。
米大統領選挙の共和党の候補者である、ジョンズホプキンズ大学の脳神経外科医だったベン・カーソン氏は、10月の1ヶ月間で1000万ドル(約12億円)の献金を集め、11月1日のツイッターで、以下のように語った。
In the month of October, we raised $10 million and today we'll receive our 800,000th donation. I am humbled by your support. Thank you.
(10月に、われわれは1000万ドル募りました。そして、今日80万件目の寄付をいただきました。あなた方の支持を受けて恐縮です。ありがとう)
I am humbled by ~こそ「恐縮している」という表現である。humbleは通常形容詞として使い、not proud or arrogant; modest(誇らない、偉ぶらない、謙虚)という意味。だが、ここでは他動詞(卑下させる、謙虚にさせる)としての古い用法。「アメリカ人は自分が悪いことをしても、決して謝らない。謙虚な人間はいない。だから、そんな表現はない」などと、今でも教える英語教師がいるが、それは偏見である。政治家に「謙譲の美徳」を求めるのは間違いだとしても、表現上はちゃんとあるのです。
カーソン氏はこの人柄で、誰が見ても傲慢不遜なトランプ氏を支持率で圧倒して、今のところ共和党の大統領候補の首位に立った。
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