Illustrated by Kazuhiro Kawakita |
coolは暖かくもなく、さほど寒くもない状態を指す形容詞。日本語では「涼しい」だが、最近は音読みして「クール」ということが多い。ただし、米語の発音では、lは舌先を上前歯の内側に当てるだけなので、「クォ」と聞こえる。
環境省が提唱する「クール・ビズ」(cool biz)は和製英語。bizはビジネス(business)の略称だが、日本のことを知らない外国人にはちょっと、省エネ運動のキャッチフレーズだとは分からない。
米国でも省エネは大きな課題で、coolは頻繁に登場する。USA TODAY(2007年4月25日付)に“Use the Sun to Cool Down Our Planet”(太陽を利用して地球を冷やせ)という記事が出ていた。ここでのcoolは動詞。記事の内容は、地球温暖化の防止が叫ばれるなかで二酸化炭素の放出を削減するため、solar power(太陽エネルギー)を活用して石油など埋蔵資源の消費量を減らそうというもの。とくに、最大の電力使用は夏場のエアコンで、その発電のために火力を使えば気温をさらに上昇させることになる。火力の代わりに太陽発電を行えば、気温を上げることなくcool down summers(夏を涼しくする)という。
さて、coolは俗語として「カッコいい」の意味でも使われる。アメリカン・ヘリテージ辞書によると、1930年代に黒人英語でexcellent(優れた)やsuperlative(最高)の意味として登場。40年代にジャズ・ミュージシャンによって広められた。戦後は英語圏の国々だけでなく、フランスやドイツでもそのままcoolで通用するようになり、日本でも「クール」で定着した。
では、何がカッコいいのか?coolにはnot excited(興奮していない)、composed(落ち着いた)、under control(感情を抑制した)などの意味がある。“to remain cool in the face of disaster”(災難に直面しても冷静であること)は、誰にでもできることではなく「カッコいい」ことなのだ。
この俗語の生まれた背景には、もう少し深いものがある。言語学者ジニーバ・スミザマン女史の著書“Black Talk”(黒人の話し言葉)によると、奴隷制の時代に黒人はたびたび白人の集団からリンチを受け、酷い目に遭わされた。リンチを遠巻きにして見守る黒人の仲間は、はらわたが煮えくり返る思いだったが、止めに入れば、今度は自分たちがリンチを受けるハメになる。彼らは屈辱を忍んで、平静を装わねばならなかった。“to maintain your cool as a survival strategy”(クールに振舞うことが生き残る道)だったと述べる。
だが、coolは今や歴史の闇から飛び出して、ファッションの最先端にある。cool-hunterなどという商売もあり、流行のトレンドをいち早くキャッチして、斬新なアイデアをアパレルメーカーなどに売り込むという。流行に敏感な人をcool catなどと呼ぶ。どの世界でも生き残りのカギは、coolであることのようだ。The Sankei Shimbun(May 13 2007) 「グローバル・English」はこちらへ
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