2011年12月31日土曜日

cut the cheese


Illustrated by Kazuhiro Kawakit


 cutは「切る」という動詞。cheeseは「チーズ」。文字通りでは「チーズを切る」だが、熟成チーズのかたまりに付いた堅い皮(rind)をナイフで切ると、ぷーんとにおう。そこでアメリカ人が連想するのはfart(屁、おなら)。cut the cheeseは「おならをする」の婉曲表現で、カタカナ読みは「カッザ・チーズ」。
 ランダムハウスの米俗語歴史辞書によると、1811 年にcheeserをstrong-smelling fartの意味で使い始めた。1959年にニューヨークの学生の間で、おならをした〝犯人〟をとがめて“Who cut the cheese?”と言ったのが、熟語表現の始まりという。学生俗語だったのが、1960年代には米軍で流行。今では日常的に使われる。ちなみに、臭気ではなく「ガス」に焦点を当てた婉曲的な言い方は、break wind(風を吹かせる)、もう少し上品にするとpass air(空気を出す)。
 ジム・ドーソン著“Who cut the cheese?”(1999年)は、“A Cultural History of the Fart”(おならの文化史)の副題がつく労作。古今東西の話題を満載しているが、それによると、fartの語は古英語(700~1150年)の時代からあるが、卑語として蔑まれ、長い間辞書に取り上げられなかった。1755年にサミュエル・ジョンソンが「英語辞典」で動詞として掲載、“to break wind behind”(後ろに風を吹かせる)と定義したのが画期的であった。米国では、ウェブスターのNew International Dictionary(新国際辞書)で、第1版(1909年)と第2版(1934年)までは無視されて、第3版(1961年)でやっと認知されるに至った、と解説している。
今でもfartはfuck(ファック)、shit(糞)、piss(小便)などと並ぶfour-letter word(4文字で綴る下品な言葉)とされる。辞書においても厚遇されているとは言いがたい。そこで辞書に載っていない用法を上記の本から紹介する。fartは名詞、動詞であるが、“One doesn’t just fart.”(人は単におならをするのではない)。“One lets, leaves, lays, cracks, claps, cuts, or rips a fart.”(どの動詞を使っても「おならをする」)。
 ところで最近、医学の分野でfartが注目を集めている。ライヴサイエンス(2008年10月23日付)は、“The Stink in Farts Controls Blood Pressure”(おならの臭気が血圧をコントロールする)との記事を掲載。ジョンズ・ホプキンス大学のソロモン・スナイダー博士(神経科学)の研究によると、おならの不快臭の原因は腸内バクテリアの作り出すhydrogen sulfide(硫化水素)だが、実はこの硫化水素には血圧を制御する働きが認められるという。博士はこの結果を、ネズミを使った遺伝子の実験によって突き止め、今後、高血圧症の薬への応用が期待できる、と語っている。〝屁のようなもの〟とバカにすべきではない。The Sankei Shimbun (November 30 2008)

blooper


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

                       
blooperは「へま」や「ドジ」。とくに公衆の面前で恥をかくような失敗。ウィリアム・サファイア氏の「政治辞書」(2008年)では、反対派からヤリ玉に挙げられる政治家のslip of the tongue(失言)やunthinking comment(うっかり発言)を指す。カタカナ読みは「ブルーパー」。
政治家のblooperは、日本でも枚挙に暇がない。たとえば、麻生首相が「(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い」と発言して、言葉が不適切だったと謝罪したのもblooper。
米国ではブッシュ大統領が、歴代大統領の中でも群を抜いてblooperを連発。インターネット上には“Funny Bush Quotes and Bush Bloopers”(おもしろブッシュの引用句とブッシュの失言)などのサイトも開設され、“Bushisms”(ブッシュ語)という言葉も生まれた。
ブッシュ氏のblooperは、大統領就任前から始まる。“They misunderestimated me.”(2000年11月発言)。これは、misunderstand(誤解する)とunderestimate(過小評価する)をごちゃ混ぜにして使ったもので、「かれら(批評家)は私を、間違って過小評価した」と言いたかったようだ。
教育者から問題視されたのは、“Rarely is the question asked: Is our children learning?”(2000年1月)。ブッシュ氏が言いたかったのは、「この質問はめったにされない。つまり、子供たちは学習しているか?」だが、childrenはchildの複数形だから、動詞はareになる。確かに、isで受けるこの質問はめったにないだろうが…。
大統領になっても“Border relations between Canada and Mexico have never been better.”(カナダとメキシコの国境の関係は決して好転していない=2001年9月)と発言。そりゃそうだ。カナダとメキシコは国境で接していないから。
blooperの語源はbloop。電波障害によって、ラジオの音声が乱れて変に聞こえることをさす。この音の連想から、野球でテキサスヒットをblooperという。
ブッシュ大統領は、2008年11月11日付のCNNのインタビューで在任8年間を振り返り、“I regret saying some things I shouldn’t have said.”(私は、言うべきでなかったことを言ったのを後悔している)と述べた。大統領が自ら挙げたbloopersは、9・11中枢同時テロ直後の会見で、オサマ・ビンラーディンを主犯だと名指しして、“There’s an old poster out West that said, ‘Wanted, dead or alive.”(西部の古いポスターにあるように、「生死に関わらず、指名手配」だ)。もう1つは、2003年7月にイラクで米兵への武装勢力の攻撃が激化したのに対して、“Bring ’em on.”(かかってこい)と感情的になったこと。「家内から、『大統領は発言に気をつけないといけない』と注意された」と明かした。Bush Bloopersは、数々の笑いを提供した。The Sankei Shimbun (December 7 2008)

2011年12月26日月曜日

formula


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 formulaはカタカナ読みで「フォーミュラ」。数学や化学では「公式」。Formula 1といえば、「F1」の自動車レースのこと。ところが、この前にinfant(乳幼児)が付いてinfant formulaとなると、アメリカ英語では液状のベビーフードを指す。今日では主に、溶かして使う「粉ミルク」のこと。
 ニューヨーク・タイムズ(2008年11月26日付)は、“Melamine Traces Found in U.S. Infant Formula”(米国の粉ミルクにメラミンの痕跡発見)と報じた。粉ミルクへのメラミン混入は中国で発覚、日本をはじめ世界各国でメラミン入りの牛乳を使用した食品が出回り、グローバルな社会問題となった。ところが、米食品医薬品局(FDA)は、米国の大手メーカーが製造した粉ミルクにもメラミンが混じっていたと発表した。
「アメリカよ、お前もか」とメディアは一時、騒然となったが、FDAの説明によると、製造過程での混入か、ミルク缶に施されたコーティング剤の影響というもので、意図的な混入ではない。また、見つかったメラミンの量も〝痕跡〟程度ということだった。
 さて、数学の公式と自動車レースと粉ミルクが、なぜ同じformulaなのか?
 語源は、字面から連想できるようにform(形式)を指すラテン語formulaで、オックスフォード英語大辞典(OED)によると、1638年ごろには、儀式・典礼で述べる式辞を意味した。それが転じて「公式」となり、method(方法)、prescription(処方箋)、recipe(レシピ)などを指すようになった。
 “Infant formula is an artificial substitute for human breast milk, designed for baby consumption.”(粉ミルクは、赤ちゃんのために作られた母乳の人工的な代替品)ということで、母乳の成分を詳しく分析し、非常に近いものが作られている。その成分の割合が一定のformulaで、FDAはガイドラインを設定しており、メーカーはそれ以外の成分を勝手に混入してはならない。混入すれば、罰則が科せられる。
 また、F1はFormula Racingで、文字通り「公式レース」の1つ。その意味は、エンジンからタイヤまで車両の仕様が逐一規定されているだけでなく、ドライバーの行動までルールが設けられている。ルール違反にはペナルティだ。
 さて、数学の公式と言えば、勉強嫌いにとっては、ろくろく理解せずに丸暗記するものとして、あまり評判がよくない。
 そこで、偉大な物理学者アインシュタインの唱えた「成功の公式」を披露しておく。
 “If A equals success, then the formula is A equals X plus Y and Z, with X being work, Y play, and Z keeping your mouth shut.”(Aが成功に等しいとすれば、AはXとYとZを足したものに等しい。Xは仕事、Yは遊び。そしてZは、口をつぐんで要らないことはしゃべらないこと)The Sankei Shimbun (December 14 2008)「グローバル・English」はこちらへ

2011年12月24日土曜日

Toys for Tots


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 toyは「おもちゃ」でtotは「小さい子供」。Toys for Totsは「子供たちにおもちゃを」という意味。貧しい家庭の子供たちにクリスマス・プレゼントを贈る、United States Marine Corps Reserve(米海兵隊予備軍)の慈善事業を指す。カタカナ読みは「トイズフォトッツ」。
 Toys for Totsは、1947年にロサンゼルスで、ビル・ヘンドリクス少佐が地域の子供たちのために約5000個のおもちゃを集めたのが始まり。その後、海兵隊予備軍の事業として全米各地に広まった。
“The mission of the program is to collect new, unwrapped toys during October, November and December each year, and distribute those toys as Christmas gifts to needy children in the community in which the campaign is conducted.”(その使命は、毎年10・11・12月に包んでいない新品のおもちゃを集め、クリスマス・プレゼントとして、キャンペーンが行われる地域の恵まれない子供たちに配ることである)
 ところが、2008年の金融危機以降の大不況で、過去3年間に渡って恵まれない子供が増える一方、おもちゃの寄付は激減。Toys for Tots suffers donation shortageが続いている。2011年12月に入っても各地のToys for Totsの保管所は空きが目立し、関係者は声をからして寄付を呼びかけた。
 さて、米国では昔からクリスマスが近づくと、貧しい家庭の子供たちはサンタクロースに宛てて「うちにも来て」と手紙を書いた。だが、それらの行き着く先は、サンタではなく郵便局の宛先不明ボックス。1920年代に、その手紙を見たニューヨークの郵便局員たちが、金を貯めてプレゼントを買い、差出人の子供たちに届け始めたという。これは後に“Operation Santa Claus”(オペレーション・サンタクロース)と呼ばれ、人々の善意に支えられて全国に広がっていく。今では米国郵政公社(USPS)が、各地の郵便局で〝サンタ志願者〟を募集。サンタ宛の手紙を数通ずつ受け取ってプレゼントを用意し、子供たちに配るシステムが出来上がった。今年はイブまでに、ニューヨークだけで75万通の手紙が来ると見込んでいる。
 そこで、往年のジャズ&ポップ・シンガー、ペギー・リーと、ジャズの大御所、ナット・キング・コールの“Toys for Tots”をどうぞ。
 The joy of living is in the giving
  So let’s give lots of toys for tots
  Toys, toys, toys for tots.
  You can be a Santa if you will lend a hand.
  Yessirree, there never will be an empty stocking in the land.
(生きる喜びは与えることにある。
だから、子供たちにたくさんおもちゃをあげよう。トイズ、トイズ、トイズフォトッツ。
 あなたも手を差し伸べれば、サンタになれる。
 そうさ、この地に空っぽの靴下はなくなるだろう)The Sankei Simbun(December 21 2008, Update Dec 23 2011)「グローバル・English」はこちらへ

2011年12月23日金曜日

go green


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 goは一般的には「行く」だが、ここではcome to be in a certain condition(ある状態になる)という意味。たとえば、go mad(激怒する)といった使い方をする。greenは「緑の」という形容詞だが、ここでは「自然環境」としての緑色を指し、「環境保護の」「自然回帰の」という意味。go greenは「自然環境を守る」「環境にやさしくする」。カタカナ読みは「ゴゥ・グリーン」。
 米国の環境保護庁(EPA)は、“America is shifting to a ‘green culture’  where all 300 million citizens are embracing the fact that environmental responsibility is everyone’s responsibility.”(アメリカは〝緑の文化〟にシフトしつつある。そこでは3億人の市民が環境への責任は個々の責任であることを認める)と述べて、“Go green!”を提唱している。
 ビジネス重視で、地球温暖化を防ごうというKyoto Protocol(京都議定書)からも離脱したブッシュ政権から、環境保護を重視するオバマ政権へ交代。EPAの“Go green!”のキャッチフレーズが、実質をともなうことが期待された。(注:だが、オバマ政権もブッシュ政権と結局同じだった。2011年12月に南アフリカ・ダーバンで行われた国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)でも、米国は京都議定書から離脱したままで、何一つ積極的な動きは示さなかった)
 オバマ大統領は、今後2年間の経済刺激策として、“building wind farms and solar panels; fuel-efficient cars and the alternative energy technologies that can free us from our dependence on foreign oil.”(風力発電基地や太陽光パネル発電、燃費効率のよい車、代替エネルギー技術の開発を進め、海外への石油依存から自立できるようにする)と述べた。(注:これも巨額の財政赤字のために頓挫する危険がある)
 これに対して、ウォールストリート・ジャーナル(2008年11月22日付)は、“Trying to Go Green as Gas Prices Fall”(石油価格下落でも、あえてゴー・グリーン)で、原油価格が1バレル50㌦を切った今、“Is the momentum lost for solving the nation’s energy problem?”(国家的なエネルギー問題解決の弾みは失われたのでは)と書いた。つまり、ここでのgo greenは、エネルギー対策の意味である。
 ところで、greenの語源は、成長を意味するgrow。つまり、“Green is life.”(緑は生命)で、春の芽生えといった良い意味で使うことが多い。だが、日本語の「青い」と同じで、 immature(未熟の)とかinexperienced(経験不足の)など悪い意味にも使う。さらに、green-eyed(緑色の目をした)となるとjealous(嫉妬深い)という意味になる。シェークスピアの造語と言われ、『オセロ』には、“O, beware, my lord, of jealousy; It is the green-eyed monster which doth mock the meat it feeds on.”(お気を付けなさいませ。ご主人様、嫉妬こそ〝緑色の目をした怪物〟。その身を餌食にしてもてあそびます)とあって、今でもよく使われる表現。実は、この怪物は獲物をおもちゃにするネコを指しているという。なるほど、自然や生命は時として残酷である。The Sankei Shimbun (January 11 2009)「グローバル・English」はこちらへ

2011年12月21日水曜日

freedom


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 freedomは「自由」。カタカナ読みは「フリーダム」。形容詞はfree。自由を表す一般的な語で、アメリカ人が最も好きな言葉の1つだ。
 オバマ新大統領の就任式が2009年1月20日ワシントンで開催された。そのテーマが、“A new birth of freedom”(自由の新たな誕生)。2009年はリンカーン大統領(1809~65)の生誕200年に当たり、南北戦争で北軍の勝利が決定的になったゲティスバーグで、1863年11月19日に行った演説からの引用だ。原文では“This nation, under God, shall have a new birth of freedom.”(この国は神の下に、自由の新たな誕生を迎える)とあり、その後、“Government of the people, by the people, for the people, shall not perish from the earth.”(人民の、人民による、人民のための政治を地上より消滅させてはならない)という有名な一文に続く。
 freedomの大義名分は、アメリカ人の琴線に触れる。一般市民向け勲章の最高位が、Presidential Medal of Freedom(大統領自由勲章)。トルーマン大統領が1945年に制定し、第2次大戦の戦争功労者に授与した。その後、ケネディ大統領が1963年に復活させ、「米国の安全保障、国益、世界平和や文化に貢献した人」を対象とした。授与式は、毎年7月4日の独立記念日前後である。
 独立記念日はIndependence Day。アメリカ合衆国が1776年に大英帝国からfreedomを勝ち取った日である。その100周年を記念して、フランス人が募金を集めて制作、1886年にニューヨークの港湾に完成させたのがThe Statue of Liberty(自由の女神像)。libertyも「自由」を意味するが、この語はフランス語のlibertéが起源。“the power of free choice”(自由な選択権)を強調する。自由の女神像は2001年の9・11中枢同時テロ以降、内部への立ち入り禁止措置が取られてきたが、オバマ新政権は、これを解除する意向という。
 さて、アメリカ英語では、independenceはfreedomの類義語と見なされる(ランダムハウス辞書)。つまり、freedomとはin-(否定を表す接頭辞)dependence(依存すること)で、「依存しない」ということが基本。逆に言えば、独立していないものに自由はない、というのがアメリカ人の根本的な考え方である。そこで、individual freedom(個人の自由)にとって最も重要なのがself-reliance。日本語では「独立独行」と訳される。
 米作家のサム・レべンソンは5歳の誕生日に父親からこう言われたという。“Remember, my son, if you ever need a helping hand, you’ll find one at the end of your arm.”(憶えておくのだよ。もしも手助けが必要になったなら、それはお前の腕の先についている手だということを)。
“The more people in America become self-reliant, the freer America becomes as a nation.”(独立独行の人が増えれば、アメリカは国としてより自由になる)-米国民の意識である。The Sankei Shimbun (January 18 2009)「グローバル・English」はこちら

2011年12月17日土曜日

netroots


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


netはinternet(インターネット)。rootsはgrassroots(草の根、複数形)のroots(根)と同じ。netrootsはgrassrootsのネット版で、「ネットの草の根」。カタカナ読みは「ネットルーツ」。netroots movementはネットを使ったgrassroots movement(草の根運動)で、ネットの一般ユーザーを対象にしたPRや勧誘、資金集めなどの活動を指す。
ナショナル・ジャーナル(2009年1月6日付)のブログに“The Netroots Heart Panetta”(ネットの草の根支持者らはパネッタ氏を〝心に留める〟=heartは「心」だが、dここでは動詞として用いる。ちょっと古臭い表現)と出ていた。パネッタ氏は、クリントン政権時代の大統領主席補佐官で、オバマ大統領がCIA(中央情報局)の長官に指名した人物。だが、諜報分野の経験はゼロ。なぜ、そんな人物を指名したのかというと、民主党の草の根支持者らが、ブッシュ政権下のテロとの戦いで、イスラム系の容疑者をwaterboarding(板に縛り付けて水責めにするプロの尋問方法)などの拷問にかけて自白を迫ったCIAの幹部の一掃を求めているからだ。そこで、パネッタ氏の登用で、上記の見出しの表現が登場したわけ。(注:結果的には、パネッタ長官の指揮下で、米軍は2011年5月1日、パキスタンでウサマ・ビンラーディンを殺害。その後、パネッタ氏は国防長官に就任した)
オバマ政権にとって、netrootsは大統領選挙の勝利をもたらした大切な支持母体の1つ。ワシントンポスト(2008年12月28日)は“Will He Bring Change.gov We Can Believe In?”(オバマ氏は、信頼できる政府の変革をもたらせるか)の記事で、“He can also look to the netroots movement that helped turn the tide against conservatism over the last six years.”(彼は、過去6年間保守派の一掃を手伝ったネットの草の根運動に再び期待できる)と述べている。
ウイリアム・サファイア氏の「政治辞典」(2008年)によると、grassrootsが政治用語になったのは1912年ごろ。この言葉が脚光を浴びるようになったのは、民主党のルーズベルト大統領(1882~1945年)を引きずり降ろそうと、共和党が大衆動員を掛けたことから。呼びかけには、当時のニューメディアであるラジオが効果を挙げたという。
netrootsは、もちろんインターネットの普及と密接な関係があるが、1993年が初出という。こちらは、民主党が圧倒的に先行。2004年の大統領選挙のときに、ハワード・ディーン氏が、ブロガーを動員して多額の選挙資金を集めたことで、一躍政界で注目されるようになった。
さて、ここでいつものPL(punch line=落ち)の替わりにPR。このコラムは2006年6月からスタート、netrootsの読者から多数の意見や感想をいただきました。今回、それらを参考にして、2008年11月までの掲載分に加筆、修正。産経新聞出版から「アメリカの今がわかる本、Today’s English Usage」(定価、税込み1500円)として発売しました。カワキタ・カズヒロ氏のイラストも満載。楽しい1冊になりました。The Sankei Shimbun (January 25 2009)

2011年12月12日月曜日

smart power


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


smartは「賢い」「利口な」という意味。powerは「力」であるが、ここでは「国力」としてのパワーを指す。smart powerは文字通りでは「賢明なパワー」。カタカナ読みは「スマート・パワー」。
オバマ政権の国務長官に就任したヒラリー・クリントン氏が2009年1月に、米上院外交委員会で承認を求める公聴会で、“We must use what has been called ‘smart power,’”(われわれは、いわゆるスマート・パワーを使う必要がある)と、今後の外交方針を述べた。その上で、“the full range of tools at our disposal-diplomatic, economic, military, political, legal, and cultural-picking the right tool, or combination of tools, for each situation.”(使えるあらゆる手段、つまり外交、経済、軍事、政治、法律、文化的な手段のことで、ケース・バイ・ケースによって適切な手段を選び、また手段を組み合わせて用いる)と説明した。
実は、この言葉は、ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の「スマート・パワー委員会」の造語。委員会の共同議長を務めるのは、日本でも著名なブッシュ政権の国務副長官だったリチャード・アーミテージ氏と、ハーバード大学大学院ケネディスクール教授のジョセフ・ナイ氏。smart powerとは、軍事力などのhard powerと、ナイ氏が提唱するlegitimacy(正当性)を核にした文化的、政治的な影響力などのsoft powerをミックスしたもの、と定義している。
だが、なぜ今smart powerなのか?
コラムニストのロジャー・コーエン氏は、ニューヨーク・タイムズ(2009年1月14日付)の“Magic and Realism”(マジックと現実主義)で、smart powerについて“It’s better than dumb power, of which we’ve had a large dose.”(それは、われわれが嫌というほど味わった〝ダム・パワー〟よりはましだ)と書いた。dumbは「バカ」の意味で、ダム・パワーを、「友人関係を壊し、軍事力をかさに来て、合衆国への信望を損ない、終わりなき戦争を宣言するもの」と〝定義〟した。
なるほど、ブッシュ政権は「悪の枢軸」(Axis of Evil)と対峙し、ゴリ押しのunilateralism(一方主義?)でイラク戦争に突入、ふたを開けてみれば大量破壊兵器はなく、国際社会におけるlegitimacy(正当性)を踏みにじってしまった。
CSISの報告書は、こう説明する。“America’s image and influence are in decline around the world. To maintain a leading role in global affairs, the United States must move from eliciting fear and anger to inspiring optimism and hope.”(アメリカのイメージと影響力は、世界中で落ち目になっている。世界的な問題でリーダーシップを発揮するためには、合衆国は恐怖や怒りを引き出すのではなく、楽天主義や希望を吹き込まなければならない)。どうか、クリントン国務長官がいつまでもsmartでありますように!The sankei Shimbun (February 2 2009) 「グローバル・English」はこちら

2011年12月11日日曜日

job security


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 jobは「仕事」で、security は「安全」または「安定確保」。job securityは、「仕事の確保」つまり“Keep your job.”(仕事を確保しろ)という意味。カタカナ読みは「ジョブ・セキュリティー」。
 2008年9月の金融危機以降の雇用情勢は生易しいものではない。AP通信(2009年1月26日付)は、“Job-killing Recession Racks Up More Layoff Victims”(〝仕事を抹殺する〟景気後退で、解雇の犠牲者が続出)と報じた。経営危機に見舞われたウォール街の大銀行をはじめ、大企業が相次いでlayoffを発表。エコノミストは今年200万人以上が職を失うと予測するだけに、“The recession is killing jobs.”(景気後退が仕事を殺す)というわけ。“The unemployment rate, now at a 17-year high of 7.6 percent, could hit 10 percent or higher later this year or early next year.”(1月時点で、17年ぶりに7.6%の高水準にある失業率は、今年末か来年初めに10%に上るだろう)という。(注:米国の失業率は2009年10月に10.1%に達し、その後2010年10月まで9%台の後半に高止まり。2011年11月になって8.6%まで回復した)
 自由経済では、景気がよいと、企業は利益を上げて投資を増やす。雇用は拡大し、仕事は増え、job securityは高まる。逆に、景気が悪くなると、企業はコスト削減のため従業員を解雇。仕事は減り、今度はjob insecurity(就業の不安定)が高まる。米国は企業利益優先の傾向が年々大きくなっており、業績低迷によるlayoffも頻繁になっている。とくに、昨今はblue-collar(ブルーカラー)だけでなく、white-collar(ホワイトカラー)も容赦なく解雇される。ウォールストリート・ジャーナル(同1月26日付)は、元バンク・オブ・アメリカ副社長の1人がブログで、“Nowadays, an M.B.A. Doesn’t Equal Job Security”(今日では、MBA=経営学修士の資格を持っていても仕事を確保できない)と告白していた。
 ところが、layoffを言い渡されるのは常に弱い立場にある従業員で、経営危機を招いた経営陣は〝お手盛り〟で多額の報酬を得ているという例が枚挙に暇がない。
 AP通信(2009年1月29日付)は、“Obama Calls $18B in Wall St. Bonuses ‘Shameful’”(オバマ大統領は、ウォール街の180億㌦のボーナスを〝恥ずべきこと〟と呼ぶ)と報じた。経営破たんした上に公的資金の注入を受けることになった金融機関の役員報酬が昨年、総額で180億㌦以上に上ることを受けて、オバマ氏は“the height of irresponsibility for employees”(従業員に対する無責任の極み)と批判した。また、政府の救済を求めているビッグ3をはじめとする企業トップの報酬も、危機が露見する以前の2007年には、800万~2100万㌦の高額に上る。バイデン副大統領ならずとも、“I’d like to throw these guys in the brig.”(こいつらを留置所にぶち込んでやりたい)と言いたくなるだろう。“We don’t need you anymore.”(わが社は君をこれ以上必要としない)と言い渡されるべきは、どちらか?従業員か、経営陣か?
The Sankei Shimbun (February 16 2009)
PS: Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)が2011年9月に勃発した原因はここにあるのだ。

2011年12月10日土曜日

pot charge


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 potは一般的には料理用の「なべ」「ポット」だが、ここではmarijuana(マリファナ、大麻)の俗称。これをタバコのように吸うのがsmoke pot。chargeは「容疑」で、pot chargeは「大麻の容疑」だ。カタカナ読みは「ポット・チャージ」。
 AP通信(2009年2月3日付)は、“Pot Charge Possible After Phelps’ Pipe Photo”(フェルプスのパイプの写真で、大麻の容疑が出てきた)と報じた。北京五輪で史上最多の8つの金メダルを獲得した競泳のマイケル・フェルプス選手が、昨年11月にサウスカロライナ大学のパーティでマリファナ吸引用のパイプをくわえている写真が1日付の英国のタブロイド紙に掲載された。pot smoking(大麻吸引)の疑惑が浮上、警察が捜査を進めるという内容。
 疑惑が報道され、フェルプス選手は、“I engaged in behavior which was regrettable and demonstrated bad judgment.”(後悔すべき行動を取った。判断を誤った)とコメント。もっとも、容疑事実は直接の大麻吸引ではない。大学のあるサウスカロライナ州の法律に照らして大麻所持の容疑。初犯の場合、200㌦以下の罰金と30日の禁固刑に処せられるといが、結局、証拠不十分で立件は見送られた。
 さて、marijuanaのもう1つポピュラーな俗称は、grassで「草」。つまり、“It is a dry, shredded green and brown mix of flowers, stems, seeds, and leaves derived from the hemp plant.”(それは、大麻草の花、茎、種、葉を乾して刻んだ緑や茶色の混合物)だから。
 大麻を吸えば、どんな影響があるのか?国立薬物乱用研究所(NIDA)などによると、THCという成分が脳神経に作用し、一時的に高揚した気分になり、ストレスや不安感から解放されるという。しかし、常用した場合、記憶や思考、感覚器官に悪影響が出る。その度合いは個人差が大きい。若い人の場合、mental illness(精神病)を引き起こす危険性があると指摘されている。そのため、米政府は大麻を禁止薬物に指定し、毎年約77億㌦の費用をかけて取り締まっている。
 けれども、大麻の乱用は止まない。アメリカ国内では年間に推計220万人が吸引し、その6割以上が18歳以下の若者であるとされる。
 ABCニュース(2006年12月18日付)は“Marijuana Called Top U.S. Cash Crop”(大麻は、アメリカで最高の〝換金作物〟)と報じた。大麻は非合法であるだけに、〝闇市場価格〟が高く、全国的に栽培する人が増えている。その結果、年間生産高は金額ベースで358億㌦に達し、トウモロコシ(233億㌦)と小麦(75億㌦)を合わせたよりも高いという。
 そこで、大麻をタバコやアルコール並みに合法化してしまえ、という声もある。そうすれば、取締り費用が削減され、約62億㌦の“pot tax”(大麻税)が入る見込み。財政困難な連邦政府にとっては抗しがたい〝皮算用〟ではないか。The Sankei Shimbun (February 23 2009)

2011年12月9日金曜日

too big to fail


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


bigは「大きい」だが、too bigは「余りに大きい」「大き過ぎる」。“Big is good.”(大きいことはいいことだ)は遠い過去のキャッチフレーズになり、今やアメリカを代表する“big business”(大企業)に対しても“too big”という批判が巻き起こっている。
最初は勝ち組(winners)の話。ニューヨーク・タイムズ(2009年2月22日付)は、“Everyone Loves Google, Until It’s Too Big”(みんなグーグルが大好き、大きくなり過ぎるまでは)と報じた。Googleはサーチエンジンの最大手。アメリカではYahooやマイクロソフトのMSNなどを圧倒して、70%以上の市場シェアを占める。「ネットサーチ」の代名詞ともなり、まさに“big name”(大きな名前=有名という意味)にのし上がった。だが、ここで待ったがかかり始めた。同社とYahooの広告提携が反トラスト法(日本の独占禁止法)違反で流れたうえ、“street view”(ストリートビュー)によるプライバシーの侵害問題が多発した。
一方、負け組(losers)のtoo bigは、さらに問題が深刻化。2008年9月、米大手証券のリーマン・ブラザーズの経営破綻以来、アメリカを代表する大手銀行が相次いで経営危機に陥り、オバマ政権は発足以来、不良資産の買い取りや公的資金の投入など支援に乗り出した。90年代日本におけるバブル崩壊後の金融機関への公的支援と同じく、“The Too Big to Fail Policy”(「大き過ぎて潰せない」政策)である。つまり、問題の銀行を潰すと、金融市場や経済全体への影響があまりに大きい、と判断して、政府が支援に乗り出したわけ。
だが、ここでも待ったがかかった。どの銀行も儲けるだけ儲けて規模を拡大したくせに、経営が行き詰まると政府に助けを求めるとは、何とも身勝手な話だ、という反発。しかも、救済資金は巨額に上り、そのツケは税金でまかなわれるとあって、“They are too big to bail.”(救済するには大き過ぎる)との批判は絶えない。
さらに、かつて世界に威容を誇った大手自動車メーカー3社の“Big3”(ビッグスリー)まで“We are too big to fail.”(われわれは潰れるには大き過ぎる)と言わんばかりに、政府に泣き付いた。
これらのbig businessを支援するのにいったいどれだけの税金を投入しなければならないのか?最後に残されるのは“big deficit”(大きな赤字)だけということにもなりかねない。
オバマ大統領は就任式で“a new era of responsibility”(責任の新たな時代)を求めたが、実際にやって来そうなのは、“the era of big government”(大きな政府の時代)である、と共和党側は非難する。“Government is not the solution to our problem, government is the problem.”(政府はわれわれの問題の解決策ではない。政府こそが問題だ)と1981年の就任式で述べたのは、共和党のレーガン大統領である。The Sankei Simbun (March 9 2009) 「グローバル・English」はこちら

2011年12月7日水曜日

grandparents scam


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 grandparentsは「祖父母」。scamは「詐欺」。そこで、grandparents scamは「おじいさんやおばあさんを狙った詐欺」となる。お年寄りに対して、あんたの孫だ、などと偽って電話をかけて送金を要求するという、日本の「振り込め詐欺」と全く同じ手口。カタカナ読みは「グランドペアレンツ・スカム」。
 アイオワ州のトム・ミラー司法長官は2008年12月、同州でgrandparents scamが頻発していることで警戒を呼びかけた。その被害例として“A southwest Iowa grandmother lost $2,900 to the scam last week.”(先週、アイオワ州南西部に住むおばあさんが詐欺に引っかかって2900㌦を失った)という。“She got a call purporting to be her grandson, who said he was in trouble with the law and asked ‘Gramma’ to send money.”(孫と称する男から電話がかかり、「法に触れることをしてしまった。おばあちゃんカネを送ってくれ」と言ってきた)。そこで、“She wired the money to Canada. It was a hoax.”(彼女はカナダに送金した。それは詐欺だった)と紹介している。ミラー氏は、「こうした詐欺の電話が最近アイオワ州で急増し、だまされる人が続出している」と警告した。
 実は、アイオワ州だけでなく、grandparents scamは全米で問題になっており、とくに、カナダから詐欺の電話がかかって、越境の送金を要求するケースが多いという。昨年の春以降、各州の司法長官やFBI(連邦捜査局)の支部も相次いで警戒を呼びかけている。
 興味深いのは、詐欺の電話のやりとり。“It’s your grandson.”(あんたの孫だよ)とか“It’s me.”(オレだよ)とか、詐欺師が曖昧な表現を使うのが特徴。“Is that you, Sam?”(お前、サムかい)などと問い返すや、“Yes, It’s Sam.”(うん、サムだ)と詐欺師は答え、様々な口実をもうけて送金を要求してくる。「振り込め詐欺」は、かつて「オレオレ詐欺」と呼ばれたが、そのやりとりと酷似する。「オレオレ詐欺」は、“It’s me! It’s me! Scam”と英訳されている。
  さて、grandparents scam は“granny scam”(おばあちゃんを狙った詐欺)とも呼ばれ、女性の被害者が多いのも特徴。ミズーリ州のジェイ・ニクソン司法長官は、“It attempts to play upon the love and generosity seniors have for their grandchildren.”(それは、お年寄りが孫に対して抱く愛情や寛容さに付け込むもの)で、“It does nothing more than take away the hard-earned savings they can not afford to lose.”(彼らが汗水たらして貯めた虎の子の金をむしり取る以外の何物でもない)と述べている。
 詐欺対策を呼びかけるScambusters.orgによると、この種の詐欺は日本を筆頭にニュージーランドやイギリスでも被害が報告されており、世界を席巻し始めている。The Sankei Shimbun (March 16 2009)
PS: ご意見、ご感想をお待ちしております。

2011年12月6日火曜日

great opportunity


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 great は「大きい」「偉大な」という形容詞。opportunityは「機会」「好機」、外来語の「チャンス」とも訳せる。そこで、great opportunityは「大きなチャンス」。カタカナ読みは「グレイト・オポチュニティ」。
 オバマ大統領は2009年3月7日のラジオ演説で“Time of crisis can be great opportunity.”(危機は大きなチャンスとなり得る=AP通信の見出し)と語った。オバマ氏は、深刻な経済危機の中で四半世紀ぶりに失業率が8%を超え、数百万人が住む家を失って、その日の生活にも困窮しているという厳しい現実を語った上で、こう言って国民を鼓舞した。“With every test, each generation has found the capacity to discover great opportunity in the midst of great crisis. That is what we can and must do today.”(様々な試練に際し、どの世代もこれまで、大きな危機の最中に大きなチャンスを発見する力を見出してきた。それはわれわれにも可能であり、今日やらねばならないことだ)
 では、どこにチャンスを発見すればよいのか。残案ながら、演説はそこで終わり。(注:その後も何も示されないままで、2011年の秋以降、Occupy Movementが全米で起こることになった)
 だが、歴史を振り返ると、ヒントがある。ケネディ大統領は1959年4月、冷戦の危機について演説した中で、こう述べた。“When written in Chinese, the word ‘crisis’ is composed of two characters-one represents danger and the other represents opportunity.”(中国語で「危機」という言葉を書くと、1つは「危」であるが、もう一方は「機」である)。1957年にソ連の人工衛星スプートニク1号の打ち上げが成功して、米国がショックを受けた後だが、彼はこのとき“The space age offers the opportunity for new voyages of discovery.”(宇宙時代は新たな発見への旅の機会を与えてくれる)と語った。その言葉通り、以後の宇宙開発競争が、アポロ計画と人類初の月面着陸成功につながっていく。
 ところで、アメリカのまたの呼び名は“land of opportunity”(機会の国)。16世紀に始まった欧州各国からの移民は、当時の王政・貴族制度でがんじがらめになった階級社会を嫌い、新大陸にopportunityを求めた結果である。移民たちの多くがゼロからスタートして一生懸命働き、多くの苦難と戦った。それを乗り切った人々が、アメリカ合衆国を建国したのだ。
 偉大な物理学者アルベルト・アインシュタインは、“In the middle of every difficulty lies opportunity.”(どんな困難の中にもチャンスがある)と述べている。チャンスを見出せるか否かは、各人に掛かっている。危機に遭遇してすぐに投げ出してしまう人もいれば、「なにくそ!」と歯を食いしばってがんばる人もいる。そういう意味では、“The economic crisis is a test of character.”(経済危機は、人の〝本性〟が試される機会である)と言えるだろう。The Sankei shimbun (March 23 2009)

2011年12月5日月曜日

stem cell


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 stemは「茎」あるいは「幹」で、cellは「細胞」。stem cellは「幹細胞」。木の幹から枝分かれするように、そこから特別な細胞が分化していくので、その名がついた。カタカナ読みは「ステム・セル」。とくに、人間の受精卵から発達するのがhuman embryonic stem cell(ヒト胚性幹細胞=ES細胞)。
 ニューヨーク・タイムズ(2009年3月10日付)は、“Obama Lifts Bush’s Strict Limits on Stem Cell Research”(幹細胞研究について、オバマはブッシュの厳しい制限を緩和)と報じた。ここでのstem cellはES細胞を指す。オバマ大統領はブッシュ大統領が制限してきたES細胞の研究について、human cloning(クローン人間の製造)以外は〝解禁〟し、連邦政府の研究助成にゴー・サインを出した。この決定によって、ようやくオバマ政権とブッシュ前政権の違いが鮮明になった。
その結果、これまで水面下でくすぶってきたリベラル派と保守派の対立が表面化、ES細胞研究をめぐって激しい議論が巻き起こっている。
 USニュース・アンド・ワールドリポート(同年3月14日付)は、“Embryonic stem cell research is poised to expand. Could an array of treatments or cures come next?”(ES細胞研究はさあ拡大へ。治療方法に道が開けるか)と前向きの見方を紹介した。つまり、この研究が前進することで、パーキンソン病やアルツハイマー病など10に上る難病治療の可能性に期待が持てるという。
 ブッシュ政権下でES細胞研究が制限され、アメリカでのstem cellの研究は、世界の競争から著しく遅れてしまった。ES細胞に代わって、induced pluripotent stem cell(人工多能性幹細胞=iPS細胞)が注目を集めたが、本来、ES細胞とiPS細胞は、両方とも研究する必要がある。アメリカは今後〝追撃〟を開始すると、研究者は意気込む。
 これに対して、ニューヨーク・タイムズ(同年3月14日付)は、共和党が州議会の多数派をおさえている州で、大学での研究に州政府の助成を禁止する法案が可決される動きが出ており、“Some states are considering legislation that would define an embryo as a person.”(胎芽を〝ひとりの人間〟と定義する法律を検討している州もある)と報じた。
 これは、共和党のanti-abortion(妊娠中絶に反対)の路線と軌を1つにする。胎芽はやがて胎児(fetus)に成長するので、議論の争点は、“the value of human embryonic life”(人の胎芽生命の価値評価)をめぐる倫理。さらに、キリスト教右派は、“President Obama made the wrong move by opening the door to human cloning.”(オバマ大統領は、クローン人間製造に道を開くという誤った一歩を踏み出した)と非難している。
 だが、研究者サイドでは、リベラル、保守派を問わず、口角泡を飛ばす政治家の多くが、embryoとは何か、さらにstem cellとは何か、さっぱりわかっていないなあ、という批判もある…。The Sankei Shimbun (March 30 2009)

2011年12月4日日曜日

reassurance


Illustrated by Kazuhiro Kawakita
reassurance(名詞)は動詞形がreassure。re-(再び)の後ろに assure(make sure=確かめる)が連結したもので「再確認する」という意味。人は再確認し、大丈夫だとわかるとほっと安心する。そこで、「安心させる」「元気付ける」という意味になる。reassuranceは、大丈夫だという保証、結果としての安心。カタカナ読みは「リアシュアランス」。
 昨年来の経済危機でアメリカ人も、うちの会社は大丈夫だろうか、銀行の預金は、年金は、と心配の種は尽きない。そこで今、みんなが求めて止まないのが、reassurance。とくに、オバマ政権の景気対策への期待は大きい。
 だが、ワシントン・ポスト(2009年2月27日付)は、“A Limited Dose of Reassurance”(安心感は限定的)との記事で、“Obama’s rhetoric was reassuring. But on the economy, many of us are only partially reassured.”(オバマ大統領の美辞麗句は元気付けるものだったが、経済に関してわれわれの多くは、半信半疑である)と述べている。
 時間が経つにつれて、メディアの苛立ちが募り、その矢面に立ったのが、ガイトナー財務長官。南フロリダのサン・センチネル(2009年3月20日付)は、“No one is asking him to save the global economy in a month. What we’re asking for is reassurance that he can.”(誰もガイトナー長官に1カ月で世界経済を救ってくれと求めているわけではない。われわれが求めているのは、彼ができる、という保証である)。
 ところで、すでに失業したり、退職金で買った株式が暴落して貯えを失ったり、住宅ローンが払えずに家を追い出されたりして将来に不安を抱える人々は、どこへreassuranceを求めるのか?
実は、占い師に頼る人々が増えているという。USA TODAY(2009年3月15日付)は、“Psychics Make a Fortune during Uncertain Economic Times”(経済不安の時に霊能者が一儲け)と報じた。盛況なのはpsychic(霊能者)だけでなく、astrologer(占星術師)、palm reader(手相見)、tarot card shuffler(タロットカード占い師)まで、fortuneteller(占い師)全般。
 電話相談で〝占い〟をする予知能力者のネットワーク、「サイキック・ソース」のマリアン・フィードラー・マーケティング部長は、“We’re trying to ease their anxieties by offering ‘reassurance.’”(私たちは、元気付けることで、不安を和らげる)と話しており、再就職先や投資のアドバイスをするのではない、という。
 つまり、みんなが求めているのは、こういう言葉である。“Your life isn’t over. Things look really bad, but hang in there!Everything is going to be OK.”(あなたの人生は終わったわけじゃない。ものごとは本当に悪く見えるが、しかし、がんばれ!すべてうまく行くさ)The Sankei Shimbun (April 6 2009)

2011年12月2日金曜日

battery


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 batteryはカタカナ読みでは「バッテリー」。すぐに思い浮かぶのは、野球の投手と捕手。だが、ここでは「電池」を指す。
 電池は今や、科学ニュースの分野ではホットなトピックスの1つ。ロイター通信(2009年4月2日付)は、“Gene-Engineered Viruses Build a Better Battery”(遺伝子を組み換えたウイルスがより性能のよい電池を作る)と報じた。Gene-engineering(遺伝子組み換え)といえば、バイオテクノロジー。電池は素材科学など工学であるが、その2つの分野の技術交流によって開発された素材で作った電極を使って、“a more efficient and powerful lithium battery”(より効率的で出力の大きなリチウム電池)が作れたという。マサチューセッツ工科大学のアンジェラ・ベルチャー教授ら素材科学研究チームの成果である。
 こうした研究は、new clean-energy technology(新たなクリーン・エネルギー技術)として、オバマ政権のGreen New Deal(グリーン・ニュー・ディール=環境重視の経済再建計画)に位置づけられている。つまり、石油依存からクリーン・エネルギーである電気に転換していくためには、高性能の電池の開発がカギを握るというわけ。
 さて、その電池の材料として注目を集めているのがリチウム。タイム誌(2009年2月2日付)は、“Power Play”(攻撃的行動作戦)と題して、“Automakers need lithium for the next generation of battery-driven cars. That will mean talking to Bolivia.”(自動車メーカーでは、次世代の電池で動く自動車にリチウムが必要。それはボリビアとの交渉を意味する)と報じた。ボリビアは南米の最貧国だが、実はリチウムの産出量では、世界の約半分を占めるという。モラレス大統領は、この資源を国有化し、リチウム電池を生産する体制づくりを進めている。それだけに、世界の自動車メーカーは、その計画に何とか参入するために厳しい交渉を迫られているという。今後、エレクトロニクスや家電メーカーなども加わり、激しいリチウム争奪戦が繰り広げられるだろう。
 ところで、batteryの語源は、古仏語のbatterieで英語ではbeating。つまり、「打ち続ける」といった意味。戦争で砲弾を撃ち続けるためには、大砲を並べた砲列が必要であり、砲列、砲兵隊の意味で使うようになった。batteryの語を「電池」の意味で最初に使ったのは、米国建国の父であり、電気の研究で名声を博したベンジャミン・フランクリン(1706~90)。1752年には、稲妻が電気であることを証明するため、雷雨の中で凧を揚げて、落雷によって生じた電気を、「ライデンびん」と呼ばれる初期の〝電池〟に導いて蓄える実験に成功した。命がけの挑戦であり、電気の歴史の偉大な瞬間であった。フランクリンはこう言う。“Energy and persistence conquer all things.”(エネルギーと粘り強さがすべてを克服する)The Sankei Shimbun (april 20 2009)

2011年12月1日木曜日

recession chic


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 recessionは「景気後退」「不景気」。chicはフランス語から入った言葉で、「粋」「上品」という意味。recession chicは「不景気の粋」、つまり不景気で予算が限られる中で、追求する「粋」「上品」ということ。カタカナ読みは「リセッション・シーク」。
 ニューヨーク・タイムズ(2008年10月26日付)は、“A Label for a Pleather Economy”(〝合成皮革〟経済のレッテル)の記事で、“Welcome to ‘recession chic’ and its personification, the ‘recessionista,’ the new name for the style maven on a budget.”(ようこそ「リセッション・シック」へ。そして、その擬人化である「リセッショニスタ」、つまり限られた予算でのファッションの達人へ)と書いた。ここで、pleatherは、ポリウレタン・フィルムの頭文字のpがleather(皮革)の上に付いたので「合成皮革」。見かけは皮革で豪華だが、実は値段は安い、というわけ。
 辞書編纂者のグラント・バレット氏は、recession chicについて、“The idea is, because they are spending less or getting more value, it is still O.K. to shop.”(出費を抑え、よりよいものが手に入るなら、買い物をするのも、なおOKだという考え方)と看破する。
 recessionistaは、recession(不景気)とfashionistaを組み合わせた言葉。後者はfashion(ファッション)にスペイン語で「人」を表す連結形-ista(英語の-ist)が付いたもの。意味は、リセッション・シックを実践する人。
 どちらの言葉も1990年代から2000年初めに登場したようだが、昨秋以降にわかに脚光を浴びて、今や新たなトレンドとなった。
 では、具体的にはどんなファッションか?
 タイム誌(2008年3月27日付)は、“Recession Chic”の記事で、“Fashion trends and tastes often serve as early harbingers of economic change.”(ファッションの傾向と嗜好がしばしば経済的変化の予兆を示す)として、“back to black”(黒への回帰)と書いた。景気の悪い時には黒が流行するという。今回の不景気は世界規模だから、確かに、われわれの周囲にも昨秋以降、黒のファッションがあふれた。
 もっとも、不景気が長引くにつれて、この限りでなくなる。ワシントン・ポスト(2009年3月15日付)には、ケリー・マラゲス記者が“I’m Not Buying Recession Chic”(私はリセッション・シックなんて買わない)と書いた。生活費をどんどん切り詰めなければならない人も大勢増えている。そんな人たちには、recession chicでさえ高嶺の花。
 だが、言葉は使い方一つだ。デパートの店員に高価な品物を押し付けられそうになったとき、“I can’t afford it.”(それは買えない)などというのはしゃくだから、“I’m a recessionista.”(リセッショニスタよ)と軽くかわそう。The Sankei Shimbun (April 27 2009)

pink slip


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 pinkは「桃色」「ピンク色」、slipは「紙片」で、「ピンクの紙片」だが、実は“discharge notice”(解雇通告)を指す。“They are pink-slipped.”と動詞の受身形で使うと、「pink slipを渡された」、つまり“They are fired.”(解雇された)という意味になる。カタカナ読みは「ピンク・スリップ」。
 不景気で、lay-off(解雇)の嵐が吹き荒れる中、タイム誌(2009年4月20日号)は、“5 Tips Post-Pink Slip”(ピンク・スリップを受け取った後の5つの助言)を紹介している。まずは、“Cry, Scream and throw things at the wall…in the safety of your own home.”(泣き叫んで、壁に物をぶつける。ただし自分の家で安全に)そして、気持ちが落ち着いたら、解雇した会社と交渉する手立てを考えよ、という。
 交渉の対象になるのは、つまるところ“severance money”(手切れ金)。今後、告訴したり、会社の悪口を新聞社に言わない、と約束する代わりに受け取るカネだが、次の職の斡旋などの便宜も入る。泣き寝入りをしてはいけない、取れるだけのものは取れ、というサバイバルの指南である。さらに、交渉に際しては、“If you say you’ve got a lawyer, it’s almost like a threat, and the other party gets defensive.”(弁護士を呼んだと言われるならば、それは一種の脅しですな。それなら、こっちとしては自衛することになりますな)と、やんわりすごむように教えている。
 もっとも、実際の解雇に当たってpink slipが渡されたのは20世紀の初めのこと。当時、週給で働いていた労働者の給料袋にピンク色の明細書が入っていると、それは最後の給料を意味するとされた。実に情け容赦のない通告のし方であるが、最近の派遣社員の一方的な解雇などもpink slipと言えるだろう。
 さて、オックスフォード英語大辞典(OED)によると、pink の語源は1573年にさかのぼり、dianthus(ナデシコ)科の花の一般名称だったが、転じて美しい花や、その色彩の呼び名になった。アメリカでは、一般的に女性や愛情、健康を象徴する意味で使われるが、日本の「ピンク映画」のようなポルノの意味合いはない。たとえば、乳がんの早期発見、早期治療を訴える“Pink Ribbon”(ピンクリボン運動)も、1990年に米国から始まった。
 ピンクはまた、「最高」の意味にも使う。ジョギングですっかりリフレッシュしたような場合に、“I’m in the pink.”(元気一杯だよ)という言い方をするが、これはin the pink of health(最高の健康状態)という意味である。
 それでは、喫茶店などに入って“a black and pink”というと何を意味するでしょう?このblackはブラック・コーヒーのことで、pinkはピンク色の袋に入った合成甘味料を指す。生活習慣病が気になる方のダイエット・メニューでした。The sankei Shimbun (May 4 2009)

2011年11月30日水曜日

jump-start


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 jump-startは、jump(ジャンプ)してstart(スタート)する、という文字通りの言い方。エンジンがガツンとかかって、自動車が躍り上がって走り出す様を想像してほしい。つまり、バッテリーが上がったdead car(死んだ車)を、booster cable(ブースター・ケーブル)でもう一台の車のバッテリーにつないで蘇生させること。あるいは、坂道を転がしてエンジンをスタートさせる「押しかけ」。そこから転じて、停止状態にあるものに「活」を入れて蘇らせることをいう。
 2008年9月の金融危機以来、米国だけでなく世界各国の緊急課題は、“to jump-start the economy”(経済をジャンプスタートさせること)。タイム誌(2009年1月8日付)は、“Obama’s Stimulus: Jump-Starting His Long-Term Agenda”(オバマ氏の景気刺激策、長期的課題をジャンプスタート)と報じたが、新政権が発足して100日を経過、ようやく景気対策が動き出した。だが、景気回復への道のりは平坦ではない。(注:これまで3年近く手を変え品を変え景気対策を打ってきたが、米国の景気は悪化の一途をたどっている)
 さて、景気回復のカギを握ってきたのが自動車メーカーのビッグ3。ワシントン・ポスト(2009年3月14日付)は、“Could the Volt Jump-Start GM?”(ボルトはGMをジャンプスタートさせられるか?)と報じた。このVoltは、GM が2010年に投入を検討している電気自動車Chevrolet Voltで、果たしてそれがGMの起死回生策になるか、という意味。今回の景気後退の背景には、石油依存からクリーン・エネルギーへの経済システムの転換という大きな課題があるだけに、GMだけでなく自動車産業全体がその矢面に立たされている。
 さて、ジャンプスタートさせねばならないのは、自動車や経済だけではない。“Jump-start your brain!”(頭脳に活を入れろ)というのが、「脳ブーム」に沸く昨今のポピュラーな表現。つまり、発想の転換をはかって、マンネリから抜け出そう、という意味で使う。
 フォードの創業者であるヘンリー・フォード(1863~1947)は、発想の転換について、こう述べている。“When everything seems to be going against you, remember that the airplane takes off against the wind, not with it.”(すべてのことが、あなたに逆行するように思われる時には、思い出せ。飛行機は追い風ではなく、向かい風で飛び立つということを)。この飛行機は無論、昔のタイプで、向かい風にこそ揚力が働く、という航空力学の原理を指摘。
 また、彼はこうも言う。“Don’t find fault, find a remedy.”remedyは病気の治療法とか、欠点の改善策。粗探しは止めて、前向きに解決策を探そうという意味。そのココロは?“Jump-start your motivation!”(やる気を出そう)。The Sankei Shimbun (May 11 2009)


flaming


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

flameは「炎」(名詞)で、「燃える」あるいは「カッカする」という動詞としても使う。だが、コンピューター関連の俗語では、インターネット上などで侮辱、挑発する行為を指す。その結果、起こるのがflame war(非難の応酬)で、無用の論争に発展するのがflaming。いわゆる、日本語でもネットの流行語になった「炎上」である。カタカナ読みは「フレイミング」。
日本では、ブログに挑発的なメッセージが掲示され、反発するコメントが殺到する現象が目立つ。 わざと挑発的なメッセージを送ることをtroll(トロール)という。元の意味は「流し釣り」だが、挑発に乗ってくる者を探す目的で行なわれる。これは確信犯である。
flameは1960 年代に学生俗語として登場。ランダムハウス米俗語歴史辞典によると、1968年には、酒を飲んでわめき散らすことを意味した。電子メールやオンライン・フォーラムが本格的に普及し始めた1990年代から、ネット上でflamingが問題になる。ハイテク難語辞典Jargon File 4.2.0は、flame(動詞)を“to post an e-mail message intended to insult and provoke”(侮辱や挑発をする電子メールを送ること)と定義している。
ところで、電子メール、あるいはデジタル・メッセージは、本人が挑発を意図したわけではなくても、誤解される場合が多々ある。
シカゴ大学のニコラス・イプレイ教授(行動心理学)らは、2004年に“When what you type isn’t what they read: The perseverance of stereotypes and expectancies over e-mail”(あなたが書いたものが、その通り読まれるとは限らない時:電子メールをめぐる根強い固定観念と期待の影響)と題する論文を発表した。
たとえば、“Don’t work too hard.”(あまり働きすぎるなよ)というメールが今朝同僚から届いたとする。このメッセージは「真面目」なのか、「皮肉」なのか。同僚がいつも〝皮肉屋〟だったら、「あまり、要らんことをして迷惑をかけるなよ」と、イヤミに受け取られる場合がある。面と向かっての会話ならば、相手の表情や態度から言葉のニュアンスを誤ることは少ないが、唐突なテキストのメッセージでは、むしろこちらの固定観念や期待に左右されて誤解を招きやすい。これが、flame war の原因の1つであるという。
さらに、ネット上では、匿名が横行しているから、面と向かえば決して言えないような悪口にもブレーキが掛からなくなり、頭に血がのぼると言いたい放題になりやすい。そんな場合には、誰かが声を掛けて沈静化を図る必要がある、とJargon File 4.2.0は述べる。“Now you’re just flaming.”(お前ら燃え上がっているだけだ)とか“Stop all that flamage!”(「炎上」を止めろ)。つまり、ネットのfirefighter(消防士)の出番だ。The sankei Shimbun (May 18 2009)

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2011年11月29日火曜日

stress test


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

stressは「圧力」「緊張」、また、カタカナ読みのままで「ストレス」。testは「テスト」「検査」。stress testは文字通り、stressに対するテストである。だが、テストの対象によって内容は異なる。
この言葉から連想するのは、心臓の検査(cardiac stress test)。循環器系の病院ではtreadmill test とかexercise testと呼ばれ、マシンを使って歩くなどの運動をしながら、心拍数や血圧・心電図を計測する。つまり、運動によって心臓にstress(負荷)をかけて、心臓の働きをチェックするところから、その名称が生まれた。
ところで、昨年秋の金融危機以来、懸念されるのが銀行の経営状態。アメリカの金融当局は2009年5月7日に、銀行の健全性を調査した“Bank Stress Test”(銀行のストレス・テスト)の結果を公表した。ウオールストリート・ジャーナル(同5月8日付)によると、“The federal government projected that 19 of the nation’s biggest banks could suffer losses of up to $599 billion through the end of next year if the economy does worse than expected.”(大手銀行のうち19社は、もし経済が予想以上に悪くなれば、来年の末までに最大5990億㌦の損失を被ることになるだろう、と連邦政府は推計した)
銀行の健全性とは、銀行がどれだけしっかりした資産を保有しているか、ということ。今後さらに景気が悪化して株価が下がり、貸付が焦げつくなどのstressがかかる場合を想定し、各銀行の被る損失を推計して、経営破綻を回避できる資産保有の下限を割り出すのが、stress test。だから、日本語では「資産査定」と訳された。
その結果、“It ordered 10 of them to raise a combined $74.6 billion in capital to cushion themselves.”(連邦政府は10社に対して、そのダメージから保護するために、計746億ドルの資本の増強を命じた)という。
さて、一般的にストレスといえば、mental stress(精神的ストレス)。“How stressed are you?”(あなたはどれぐらいストレスがかかっているか)というわけで、stress test(あるいはstress quiz)は、インターネット上で人気のプログラム。
よくあるのが以下の質問。“Do you get angry when you are kept waiting?”(あなたは待たされると腹が立つか)“Do you keep everything inside?”(あなたは何でも内に背負い込む方か)“Do you spend a lot of time complaining about the past?”(過去のことについて長々と愚痴をいうか)、そして“Do you get too little rest?”(全然くつろげないか)―。Yesの答えが多くなるほど、あなたのストレス・レベルは上がっていく。
では、ストレスに苦しむ人に、次の言葉をどうぞ。“Give your stress wings and let it fly away.”(あなたのストレスに翼を与え、飛ばしてしまえ=カリン・ハートネス)。The Sankei Shimbun (May 25 2009)

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wake-up call


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

“Wake up!”は「起きろ!」で、callは「電話のコール」。カタカナ読みは「ウエイカップ・コール」。ホテルのモーニングコールのこと。“Will you give me a wake-up call at six?”(6時にモーニングコールをお願いします)などという。転じて、危険などを知らせるsign(予兆)やwarning(警告)の意味で比喩的に使う。
メキシコから発生した新型インフルエンザについて、タイム誌(2009年5月18日号)は“How to Prepare for a Pandemic”(世界的大流行にいかに備えるか)の記事を掲載。その中で、コロンビア大学にある米防災センター(NCDP)のアーウィン・リドリナー所長は“We should look at this as a wake-up call, not one more snooze alarm.”と語った。snoozeは「居眠り」でalarmは「目覚まし」。目覚まし時計で、もうちょっと寝るため一時的にベルの音を止めるスイッチをsnooze buttonと呼ぶ。つまり「今回の出来事は、単なる目覚まし時計の〝まどろみ〟用ベルの一回ではなく、『起きろ!』という警鐘だ」。
同誌は、「H1N1ウイルスはいずれ終息するかもしれない。だが、地球規模の警告システムを強化しなければ、新しい病気が常にわれわれを脅かすことになるだろう」と警告する。つまり、今回のインフルエンザは幸いに「弱毒性」で、重症に陥るケースは少ないが、今後、もっと毒性の強い感染症の流行に備える必要がある、という。将来の流行には、“H1N1 could return next winter in a more lethal form―just as the virus that caused the catastrophic 1918 pandemic did.”(1918年に「スペイン風邪」の大流行の原因となったウイルスとちょうど同じように、H1N1がより致死的な形で今冬戻ってくる)との可能性も含まれると指摘する。
ところで、スタンフォード大学フーバー研究所のヘンリー・ミラー博士も、シカゴ・トリビューン(2009年5月8日付)に“The Flu Leaves Us With a Wake-Up Call”(インフルエンザはわれわれに警鐘を残す)との論文を寄稿した。だが、その内容は少し違う。WHO(世界保健機関)が、今回のケースで警戒を「レベル5」まで引き上げたのは、現実のデータを無視したものだ、という。その結果、各国の政府や国民に、不必要な休校措置や抗インフル薬のネットでの売買を助長するなど、無用の混乱を巻き起こしている、と批判した。新型よりも通常の“seasonal flu”(季節性のインフルエンザ)の方が、被害の可能性が大きく、ワクチンをはじめ十分な備えが必要であると指摘する。
ミラー博士によると、今回の流行は、別の意味でのwake-up callになる。なぜなら、“It could make us think critically about who will be entrusted with public health policy decisions in the future.”(将来の公衆衛生の政策決定で、誰を信用すべきかをわれわれに考えさせるものだ)。The Sankei Shimbun (June 1 2009)

PS: 2009年の豚インフルは世界的な騒ぎを引き起こしたことは記憶に新しい。だが、グローバル化の時代だけに、新たな感染症の脅威は去らない。

New swine flu virus alarms health officials

According to the Centers for Disease Control and Prevention (CDC), three cases of a new flu virus have been confirmed. These originated in pigs but apparently spread from person to person, in three Iowa children.

According to Arnold Monto, a flu expert and professor at the University of Michigan School of Public Health, there is no reason to fear the beginning of a new pandemic. He said, “I don't think this is anything to worry about for the moment… We have known that swine viruses get into humans occasionally, transmit for a generation or two and then stop. The issue is whether there will be sustained transmission (from person to person) - and that nearly never happens.”

The CDC has counted a total of 18 cases of this new virus, an influenza A strain known as S-OtrH3N2, in two years. That suggests that it's not spreading quickly or easily, explained William Schaffner, a professor at the Vanderbilt University School of Medicine and spokesman for the Infectious Diseases Society of America.

Schaffner added that that flu viruses mutate and swap genes all the time. Infectious disease experts may only be noticing these new viruses because of better technology, he said.

The children, who live in rural Webster and Hamilton counties, did not become seriously ill, said Dr. Patricia Quinlisk, medical director for the Iowa Department of Public Health. “We have pretty good evidence of person-to-person spread,” Quinlisk said. “None of the children or anyone around them had exposure to swine, turkeys or other sources.”

In the new cases, it appears that one of the children transmitted the flu to the other two, and none of them had any animal exposure, Quinlisk said. She declined to identify the children or their ages, saying only they were younger than 18. No further cases have been identified in the past week, she said.

The H1N1 swine flu pandemic began in 2009 after flu viruses mutated to create a new strain that humans had never encountered before, leaving everyone vulnerable to infection. Although the H1N1 pandemic proved to be relatively mild, doctors fear new flu strains because of their lethal history. In 1918, a new flu strain killed more than 20 million people.

All three of the Iowa children had mild illness, the CDC reports. The virus also seems treatable with standard anti-viral drugs, Schaffner noted. The 10 cases of H3N2 in 2011 also have been spread throughout the USA - in Pennsylvania, Maine, Indiana and Iowa - which doesn't indicate a disease “cluster” or outbreak, Schaffner further added.

“People need to be most concerned about the regular, everyday seasonal flu,” Quinlisk said. CDC officials have asked states across the country to be vigilant in looking for it, said Dr. Joe Bresee, the agency's influenza and epidemiology branch chief.

The current seasonal flu vaccine being offered by doctors and clinics was not developed to protect against the H3N2 virus. It contains some antigens similar to a flu virus that circulated in the 1990s, so some people who had the flu then or were vaccinated could have some immunity, but it's not clear how much, Quinlisk said. The Iowa children apparently had not been vaccinated, she added.

The best prevention for the new flu, as with any flu, is to wash hands frequently, cover coughs and sneezes and limit spread of germs by staying home when one is sick, health officials said.
News medicl Net (November 28, 2011)

2011年11月28日月曜日

cap


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

capは「縁なしの帽子」「野球帽」。カタカナ読みは「キャップ」。先端にかぶせるものという意味で、万年筆などの「キャップ」や、転じて「最高限度」「上限」を表す。また、「かぶせる」、「上限を定める」など、動詞としても使う。
昨秋の金融危機以来、ウォール街の金融機関に対する風当たりは強い。とくに、危機の最中に、経営幹部が巨額の報酬を受け取っていたことに、米国民の怒りが爆発。ウォールストリート・ジャーナル(2009年2月14日付)は、“Bankers Face Strict New Pay Cap”と報じた。Pay Capは「報酬支払の上限」の意味で、「(公的資金の投入を受けた)銀行家は、厳しい新たな報酬の制限に直面する」。
ところが、6月10日付のAP通信は一転して、“Geithner: No Caps on Pay for Corporate Executives”(ガイトナー財務長官は「企業の役員に対する報酬制限はない」と語る)と報じ、当初の激しい意気込みは尻すぼみに終わった。長官は会見で、「政府は、企業の株主が役員の報酬額に対して是非を問う採決の法制化を求めるが、その結果は役員会の決定を拘束しないだろう」と述べた。長年の懸案であった株主たちの“say on pay”(報酬についての意見)は、ウォール街の圧力に屈し、結局骨抜きにされてしまった。
さて、米下院エネルギー・商業委員会は2009年5月21日、温室効果ガスの排出権取引を認める法案を可決。ブッシュ前政権の消極的な環境政策から、環境保護重視へ大きく舵を切ることになった。タイム誌(5月22日付)は、“Greens Celebrate Cap-and-Trade Victory-Cautiously”と報じた。このcap-and-trade(キャップアンドトレード)は、排出権取引の1方式。つまり、capとは国や企業に温室効果ガスの排出量を割り当てること。tradeはその枠内で排出権を売買する仕組み。Greensは「環境保護派」。そこで、「環境保護派は排出権取引の勝利を祝う―ただし、慎重に」となる。
地球温暖化問題を訴えた“An Inconvenient Truth”(邦題「不都合な真実」)の映画や著書で、ノーベル平和賞を受賞したゴア元副大統領は、“The bill represents a crucial step forward in addressing the global climate crisis.”(法案は、地球の気象危機に対応するための重要な一歩だ)と語った。だが、急進派の環境保護団体は法案について、「こんなものでは環境破壊を防ぐことはできない」と批判。一方、「エネルギー価格の上昇を招く」との業界筋の主張も根強く、その行方はなお不透明で、「慎重に」という但し書きが付いた。
最後に、“Seven Ten Cap”というジョークをどうぞ。ある婦人がオートショップに来て、Seven Ten Capを求めた。店員は“What’s a seven ten cap? ”(セブン・テン・キャップって何ですか)とたずねると、婦人は○を描いて、その中に710と書いた。そのココロは?710を逆さまにすると、「OIL」。つまり、エンジンのoil capでした。The sankei Shimbun (June 22 2009)

hangover


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

hangoverは「二日酔い」。カタカナ読みは「ハンゴーヴァー」。語源はhang (ぶら下がる)とoverで「決着せずに続いている」という意味だが、持続するのはafter-effects of drinking too much(飲みすぎた後の影響)。朝まで続くことが多いからmorning afterともいう。日本語の「二日酔い」と違って、「残った悪影響」という意味で比喩的にも使う。
今も世界中でひしひしと感じられるのが、“Wall Street’s hangover”(ウォール街の〝二日酔い〟)。つまり、マネーゲームの末に招いた金融危機による悪影響だ。これを最初に指摘したのは、何とブッシュ前大統領。危機が表面化し始める2008年7月、共和党の資金集めのパーティーで、“Wall Street got drunk and now it’s got a hangover.”(ウォール街は酔っ払って、今や二日酔いだ=2008年7月24日付の英・インディペンダント)と内々に語ったという。ブッシュ氏は、米経済のバブルが弾けて不況に陥ることを知らされていた。その上で、“The question is how long will it sober up.”(問題は、醒めるのにどれだけ掛かるかだ)と言っているのが、心憎い。
だが、前大統領がそんな調子だから、共和党は民主党に議会の多数派を譲り、オバマ大統領に政権を追われた。そして、共和党にとって今も深刻なのが、“The Bush Hangover”(ブッシュ政権の〝二日酔い〟)。以後は、景気刺激策をはじめオバマ政権が打ち出す政策には、何でも反対の野党に成り下がり、ついにペンシルベニア州の共和党ベテラン上院議員のアーレン・スペクター氏が民主党にswitch(くら替え)する始末。タイム誌(2009年5月18日号)は、“Is the Party Over?”(党の終わりか)との記事を掲載した。大統領選挙でジョン・マケイン候補が敗北して以来、共和党はリーダーシップを取る者がなく、政治を刷新する力を失っている。“Most of this is just a hangover from the Bush years. Time heals all wounds.”(このほとんどは、ブッシュ時代の悪影響だ。時が傷をいやすだろう)と関係者はつぶやく。(注:住宅バブルの崩壊で手傷を負った金融機関は、公的資金の投入で息を吹き返したが、米経済はどん底の低迷からいまだに立ち直ることはできない。その意味では、hangoverは今なお続いているといえるのだ) 
ところで、実際の“How to Cure a Hangover”(二日酔いの治し方)。まず、第1に“sleep”(眠る)。“Rest is your best friend.”(休息は最高の友)であり、疲労回復の最適な手段だ。第2に、“take a shower”(シャワーを浴びる)。これは、刺激療法の一つで、水とお湯を交互に浴びると効果的。第3に“drink water”(水を飲む)。これは水分補給。そして、第4に、“get some exercise”(運動をする)。つまり、汗を流すまで動けば、次第に力はよみがえって来る…。
だが、二日酔いになる前に手をうつに越したことはない。つまりは酒の飲み方。“Drink the first. Sip the second slowly. Skip the third.”(1杯目を飲む。2杯目はちびちび飲む。3杯目は避ける)。何事もほどほどに、という教訓である。The Sankei Shimbun (June 29 2009) 

2011年11月27日日曜日

mindcasting


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

mindは「心」「精神」と訳されるが、本来は「記憶する」「考える」など心の知的な働きを指す。castingはcast(投げる)の動名詞形だが、ここではインターネットのブログなどにメッセージをpost(掲示)すること。そこで、mindcastingは、考えや思想、感情などをメッセージにしてネット掲載することだ。カタカナ読みは「マインドキャスティング」。
mindcastingは、今や流行の“Twitter(ツイッター)”の出現とともに注目を集め始めた言葉。twitterの元の意味は鳥のさえずりで、人の場合は「つぶやき」を表す。従来のブログは、普通1日1回〝更新〟されるが、そこからケータイなどを使って短いメッセージを次々に掲示するmicro-blog(小型ブログ)という考えが生まれた。これが、social networking(ソーシャル・ネットワーキング) 機能と結びついて利用されるのがTwitter。米Obvious社(現Twitter社)が2006年7月からサービスを始めた。
では、Twitterで何ができるのか?
同社のPRによると、“What are you doing?”(いま何をしている?)などの簡単な質問に対し、140 字以内の短い文章で答えることで、コミュニケーションの輪が広がるという。
その利用例として注目されたのが、イラン大統領選挙後の混乱についての市民報道。フォックス・ニュース(2009年6月16日付)は、“Twitter Links Iran Protesters to Outside World”(ツイッターがイランの抗議者と外部の世界を結ぶ)と報じた。大統領選挙の結果に抗議する人たちに対する政府当局の弾圧の模様が、イラン市民によってTwitterを通して、実況中継のごとく世界に報じられた。
ところで、Twitterの参加者の多くは、自分の身の回りや日常生活について話し始める。つまり、自分のlifeに関するメッセージを掲示するからlifecastingという言葉が誕生。これがさらに考えや思想にまで対象が拡大し、時々刻々メッセージを流すのがmindcastingだ。ロサンゼルス・タイムズ(2009年3月11日付)は、“On Twitter, Mindcasting Is The New Lifecasting”(ツイッターにおいてマインドキャスティングは新たなライフキャステイング)と述べて、その可能性に注目する。
mindcastingによって、自分の見たこと、聞いたこと、さらにそれに対する意見や感想などを即座に編集して多くの参加者に流すことができるから、“Twitter is the most minimal newspaper.”(ツイッターは、最も小さな新聞)となり、〝マイ新聞〟ができるというわけ。
だが、たとえ〝マイ新聞〟でも新聞と名が付く以上、途中で止めてはならず、発行し続ける必要がある。吉田兼好の徒然草ではないが、「心に移りゆくよしなし事」をメッセージにしてケータイで四六時中送り続けるというのは、本当にもの狂おしい作業のようにも思える…。The Sankei Shimbun (July 6 2009)

PS: この記事を書いてから2年以上たち、Twitterが有力なメディアであることが、中東におけるアラブの春の民主化運動でも証明された。だが、一方でinternet addictionに拍車を掛けるものであることも確かになってきた。最近の精神病の増加との因果関係にも注意したい。

painkiller


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

painは「痛み」で、killerは「殺し屋」「殺すもの」。painkillerは「痛みを殺すもの」という意味で「痛み止め」「鎮痛剤」。カタカナ読みは「ペインキラー」。
“The King of Pop”(ポップの王様)と呼ばれたマイケル・ジャクソンさんが2009年6月25日、自宅で急死した。米メディアは、“Michael Jackson was heavily addicted to the powerful painkiller Oxycontin and received daily doses of it.”(強力な鎮痛剤オキシコンチンの重症中毒で、毎日服用していた=6月26日付のABCニュース)などと報じ、死亡原因に関連して、鎮痛剤の中毒による健康問題があったことを指摘した。
AP通信(2009年6月28日付)は、“Thread of Pain Ran Through Jackson’s Career”(ジャクソンさんの生涯は痛みの連続)と報じた。1984年、コマーシャルの撮影中に事故で頭部を火傷した際の痛み。その2年後、白斑ができる皮膚病を発症してから、度重なる整形手術による痛み。さらに、厳しいダンスの訓練にともなう筋肉痛。“Physical agony was the unshakable problem with being Michael Jackson.”(肉体的苦痛は、マイケル・ジャクソンであるために、逃れられない問題だった)という。ジャクソンさんはpainkillersを常用するようになり、その結果、様々な副作用に悩まされて、入退院を繰り返していたという。
(注:マイケル・ジャクソンの死亡事故に関して、ロサンゼルス郡地裁の陪審団は2011年11月7日、過失致死罪に問われていた元専属医のコンラッド・マーレー被告(58)に対し、有罪評決を下した。死因は、複数のpainkillerの使用である)
ところで、オキシコンチンは、アヘンの成分を化学合成したオキシコドン(oxycodone)という麻薬系鎮痛剤の商品名。米国では1995年に処方箋薬として認可された。ガンなどの耐え難い痛みを緩和する効果が大きく、2001年には年間売上高が10億㌦を超えるベストセラーとなった。だが、医療目的以外の乱用が表面化。中毒、過剰服用、挙句の果てに死亡事故が起こり、2003年には薬の宣伝内容が違法として、連邦議会で取り上げられた。
米国では、オキシコンチンをはじめprescription painkillers(処方箋鎮痛剤)の医療目的外での使用者は年々増加。2006年には520万人と推定され、とくに10代の若者にまでpainkiller addiction(鎮痛剤中毒)が広がっている(2008年1月4日のABCニュース)。子どもたちは、医師が処方した親の薬を盗んで使うことから始め、友達と薬のやりとりをしたり、インターネットでの売買にはまるという。つまり、〝合法的麻薬〟として流通し始めているのだ。
“These drugs both prevent pain and stimulate the pleasure center in the brain.”(これらの薬は痛みを妨ぐとともに、脳内の快楽中枢を刺激する)からで、強力で、よく効く鎮痛剤は、それだけ中毒性が強い。中毒に陥り、乱用の果てにあるのは、麻薬と同じく健康被害、人間関係の破綻、そして副作用による死である。“Painkillers can kill you.”(痛み止めは、君の息の根を止めることができる)というのは笑い事ではない。The Sankei Shimbun (July 13 2009)


2011年11月24日木曜日

mission


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

missionは「使命」「任務」と訳される。語源は、キリスト教の布教団体が宣教師を海外へ派遣したことに由来、act of sending(送る行為)を意味する。カタカナ読みは「ミッション」。そこで、宇宙飛行ならばspace mission、軍隊の派遣ならばmilitary missionである。
7月20日は“moon landing mission”(月面着陸ミッション)の記念日。“On July 20, 1969, at 10: 56 p.m. ET, Apollo 11 astronaut Neil Armstrong stepped off the Eagle onto the surface of the moon.”(1969年7月20日、米東部時間の午後10時56分、アポロ11号の宇宙飛行士ニール・アームストロングは、着陸船イーグル号から月面に降り立った)。彼は言った、“That’ s one small step for man, one giant leap for mankind.”(それは1人の人間にとって小さな1歩だが、人類にとっては大きな飛躍である)。ここに、宇宙開発の歴史の新たなページが開かれた。
さて、オバマ大統領は、テロとの戦いの主戦場をイラクからアフガニスタンに移すことを決めた。ワシントンポスト(2009年7月2日付)は、“Marines Deploy on Major Mission”と報じた。marinesは、対テロ戦の主力部隊である海兵隊、deployは「配備する」。major missionは大規模な軍事ミッション。そのoperation(作戦)の内容は、約4000人の海兵隊員を南西部のヘルマンド川流域の渓谷に投入、イスラム原理主義勢力タリバンを掃討すること。この地域は、世界に流通するアヘンの約半分を生産、タリバンの重要な資金源になっており、ケシの栽培を撲滅するのが狙いだ。“The mission is the Marine’s largest operation since the 2004 invasion of Fallujah, Iraq.”(そのミッションは、海兵隊にとって2004年のイラク・ファルージャ侵攻以来の大規模作戦だ)という。
では、Iraq mission(イラクのミッション)はどうなったか?米軍の戦闘部隊が主要都市部から撤退を完了した2009年6月30日付のワシントンポストに、イラクのジャワド・ボラニ内相が、“Iraq: Mission Not Yet Accomplished”(イラクの主張:ミッションはいまだ達成せず)との論文を寄稿。その中で、米軍の撤退について“It is the beginning of a highly uncertain chapter in Iraqi democracy and self-governance.”(イラクの民主主義と自治にとってまったく不確実な章の始まりである)と将来に対する不安を吐露している。
ところで、われわれ1人ひとりにも人生というmissionがある。「かもめのジョナサン」の著者、リチャード・バック氏は、こう述べている。“Here is the test to find whether your mission on earth is finished. If you’re alive, it isn’t.”(この地球上におけるあなたのミッションが完了したかどうか、確かめるテストはこうだ。あなたが生きているとすれば、それはなお未完である)。Mission Accomplishedまで、闘いは続く。The Sankei Shimbun (July 20 2009)

2011年11月23日水曜日

cell yell


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

cellはcellphoneで「ケータイ」。yellは 「叫ぶ」「大声を出す」。cell yellは、excessively loud cell phone conversation(大声のケータイ通話)で、カタカナ読みは「セル・イェル」。
米国で7月は“National Cellphone Courtesy Month”(ケータイ・マナー月間)。これはケータイの普及にともない2002年に始まった運動で、その課題の中心が耳障りな着信音とcell yell。“Many cellphone users have a tendency to speak into their phones more loudly than necessary.”(多くのケータイ使用者は必要以上に大きな声で話す傾向がある)。電車の中などで、聞きたくもない他人の会話を強制的に聞かされるのがイヤだというcell-yell hater(セル・イェル嫌い)は多い。
2006年2月にABCニュースが実施した“Rudeness in America”(アメリカにおける無礼)という調査では、“making annoying cellphone calls”(迷惑なケータイ通話)に関して、87%の人が時々、57%の人がよく出遭うと回答している。
ケータイの会話はなぜ大声になるのか?小さなケータイのマイクに、ちゃんと声が届いているか心配な上に、周囲の騒音が気になるからだ。
だが、それだけではない。ニューヨーク・タイムズ(2001年11月22日付)の“Cell Yell: Thanks for (Not) sharing”(セル・イェル:共にする(しない)ことの有難さ)での分析はこうだ。
公衆電話が登場した1950年代には、通話のプライバシーを守るために電話ボックスが置かれた。もし、当時ケータイが発明されていたら、人はやはりプライバシーを気にしてボックスからケータイを掛けたであろう。ところが今日、社会はオープンになり、“Many relish the idea of speaking in open spaces, oblivious to the presence of others, and often in too loud a voice.”(多くの人が、公開の場で他人の存在を気に留めず、しばしば大声で話すことを好む)。cell yellはその結果というわけ。
ところで、cell-yell haterの感情を逆なでするのが、いかにも楽しそうに大声でケータイ通話する連中だ。こうした意図的な行動をstage-phoning(スティジ・フォーニング)という。2001年に英国の学者が指摘した現象で、一種の虚栄心から劇場の舞台に立って電話するように、“The caller is effectively performing for innocent bystanders.”(電話の掛け手は、何も知らない傍観者に見せつけるように振舞う)というタチの悪いタイプ。
では、cell yellに直面したら、アメリカ人はどうするか?“No need to shout. Be aware of how loudly you’re speaking.”(叫ばなくてもいい。どれだけ大声で話しているか気を付けなさい)と注意する?それとも、“Don’t cell yell!”(大声で通話するな)、または“Turn it off!”(ケータイを切れ)と怒鳴る?実は、多くの人は見て見ぬふりをして、“Fuck yourself!”(こん畜生)と心の中で罵るのだとか。The Sankei Shimbun (July 27 2009)

2011年11月22日火曜日

bottom out


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

bottomは「底」だが、動詞としても使い、bottom outは最低レベルに達することをいう。20世紀半ばからは経済用語として、景気や相場が「底を打つ」という意味に使う。カタカナ読みは「ボトマウト」。アメリカン・ヘリテージ辞典によると、“To descend to the lowest point possible, after which only a rise may occur.”(最低まで落ちて、後は上がるだけ)と定義している。
経済開発協力機構(OECD)は2009年6月24日、“A severe U.S. recession will bottom out this year, but any recovery will be weak due to anemic markets and shrunken consumer wealth.”(米国の厳しい景気後退は年内に底を打つだろうが、市場は活力がなく、消費者の資産も縮小しているため、回復は弱い=ロイター通信)と予想した。
米国景気のカギを握るのが、バブル崩壊後低迷し続けるhousing market(住宅市場)。有力格付機関のフィッチ・レーティングズは2009年7月15日、“The long-awaited bottoming of the U.S. housing market may be in sight, but a recovery could take as long as 18 months.”(長く待ち望まれた米国の住宅市場の〝底打ち〟が実現間近となったようだ。しかし、回復までには18カ月の長期間を要するだろう=ロイター通信)と判断。本格的な景気回復に至らないまでも、最悪期を脱する兆しが見えてきたと指摘した。
また、2008年秋以来の金融危機を見事に予測した“Dr. Doom”(ドクター・ドゥーム)ことヌリエル・ルービニ・ニューヨーク大学教授の新たな〝ご託宣〟。ブルームバーグ(7月16日付)によると、ルービニ教授はニューヨークでの講演で、“We might be at the bottom or close to the bottom.”(今が底か、あるいはもうすぐ底だ)と述べ、“In many ways the worst is behind us in terms of economic and financial conditions.”(経済・金融の状況においては、多くの点で最悪を脱した)と述べた。
では、回復基調に転じるのは何月ごろか?
ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏は2009年6月9日、ロンドン大学で講演し、“The oh-my-God-the-world-is-ending phase of the economic downturn is over.”(「おお神様、世界は終わりだ」という経済下降の段階は過ぎ去った)と述べた上で、“The economy will probably emerge from the recession by September.”(経済はたぶん9月までに景気後退から抜け出すだろう)との予測を示した。
だが、2011年11月の時点から振り返って言えることは、OECDのエコノミストも、格付け会社も、預言者もノーベル賞経済学者もどこに眼をつけていたのか、とあらためて考えさせられるということである。今や世界経済は、二番底をぶち抜いて、果てしない不確実性の時代に突入したようだ。おそらく、1929年の大恐慌もこうして世界経済を混乱に陥れたのではないかと思う。
それでは、われわれの未来はどうなるか?
われわれはなおも底を探る以外にはない。第二次世界大戦で米軍の機甲軍団を指揮したジョージ・パットン将軍はこう述べている。“Success is how high you bounce when you hit bottom.”(成功は、あなたがどん底に達したとき、そこからどれだけ高く跳ね上がるかにかかっている)。諸君の健闘を祈って、Bottoms up!(乾杯)The Sankei Shimbun (August 3 2009)

2011年11月21日月曜日

age barriers


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

ageは「年齢」でbarrierは「障壁」。age barriersは「年齢の障壁」。障壁にはいろいろあるので、複数形をとることが多い。カタカナ読みは「エイジ・バリアーズ」。
age barriersは、若年にも老年にも存在する。若い方では、USA TODAY(2009年3月23日付)が“Judge: Lift Age Barriers on Morning-After Pill”と報じた。morning-after pillは事後に服用する経口避妊薬の“Plan B”。米国では、2006年から18 歳以上ならば処方箋なしで、店頭で購入できるが、ニューヨーク東部地裁の判事は、「直ちに17歳にも許可したうえで年齢障壁を取り払え」との判断を示した。FDA(食品医薬品局)は、これを受けて、年齢制限の撤廃について検討していくという。
年配の方に目を向けると、このところage barriersが高くなってきたのが、雇用条件。AP通信(2009年7月6日付)は、“Jobless Tackle Age Barriers in U.S.”(米国の失業者は年齢障壁と格闘)と配信した。米労働省の調査によると、55歳以下の失業者は再就職まで平均21週、それ以上では30週かかるという。高齢になればなるほど、再就職へのハードルが高くなるのは、日本と同じ。
法律上は、雇用におけるage discrimination(年齢による差別)は許されない。企業は、求人募集条件に年齢制限を設けることはできないし、応募者も履歴書に年齢を記す必要はない。しかし、実際には高齢者が応募しても、人事担当者が顔を見るや否や、“The people applying for this job are young.”(この仕事に応募してくる人は若いですよ)と容赦なく拒絶する、といったケースが頻繁に起こっている。そこで、再就職のために“Botox injections”(ボトックス注射)によって顔のシワを伸ばして、少しでも若く見せようと涙ぐましい努力をする中高年は少なくないという。
シカゴ・サンタイムズ(2009年7月9日付)は、“How Mature Men Can Beat Age Barriers to Hiring”(熟年はいかにして雇用の年齢障壁を打ち砕けるか)という記事を掲載。“Many employers believe seasoned workers will cost more and know less about technology.”(ベテラン労働者は賃金が高いわりに、ハイテクについて知らない、と信じている雇用主が多い)ことがage barriersの大きな要因であると指摘した上で、これはまったくの偏見だ、と述べている。実際、50代、60代でも積極的に新しいことを学ぼうとする人は多いのだ。しかも、若い連中に負けない根性だってある。
米プロゴルファーのトム・ワトソンを見よ。今年の全英オープンで選手権では、世界ランク1位のタイガー・ウッズも、17歳の新鋭石川遼も予選落ちだった。だが、ワトソンは59歳という年齢で、大会史上最年長の優勝を狙い、最終ラウンドまで激闘。惜しくもプレーオフで敗れたとはいえ、堂々2位の成績を残したのだ。“Age is certainly not a barrier.”(年齢は決して障壁ではない)。The Sankei Shimbun (August 10 2009)

2011年11月20日日曜日

status quo


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

statusは、日本語でも「ステータス」という。元はラテン語で「立っているところ」を意味し、別の英語ではstate(状態)。status quoは“the state in which …”(~という状態)で、「現状」を意味する。カタカナ読みは「ステイタス・クォ」。“To maintain the status quo is to keep the things the way they presently are.”(現状維持とは、物事を今のまま維持することである)
政治用語では、いわゆる「体制」。ポール・ワッサーマンの『イタチ言葉-アメリカの2枚舌辞典』によると、status quoの本質を、“Those with money and power like to hold on both.”(金や権力を握る者たちは、その2つにしがみつきたがる)と看破する。金も無く、権力の中枢から外れた人々は、体制の変革(change)を訴える。ここにconservatives(保守派)とliberals(リベラル派)の政治闘争が生まれる。
さて、アメリカで2009年秋の最大の政治課題は、health care reform(医療保険制度改革)。これこそ、health insurance(健康保険)をhaves(持つ者)とhave-nots(持たざる者)のstatus quoをめぐる戦いだった。
オバマ政権は、日本と同じようなuniversal health care system(国民皆保健制度)の創設を最終目標に掲げ、have-nots のために改革を断行する考えだ。ワシントン・ポスト(2009年7月22日付)は“Imperfect Health Reform Still Beats the Status Quo”(不完全な改革でも現状を打破する)と、エールを送った。実際、アメリカでは健康保険は民間企業が販売しており、保険料を支払えない貧困層は加入できず、国民の6人に1人が無保険という。オバマ大統領は、その人々の救済策として公的な健康保険の導入を検討している。
だが、これに対して「現状維持」を訴える体制擁護派は、阻止に乗り出す。タイム誌(8月10日号)は、“Can Obama Find a Cure?”(オバマは解決策を見い出せるか?)の記事で、“The U.S. Chamber of Commerce has already allocated $2 million to fight the idea of a public plan that would compete with private insurers.”(米商業会議所は、民間保険業者に対抗する公的プラン案と戦うための資金200万㌦を予算割当てした)と述べた。つまり、「民業圧迫反対」によって、既存利益を確保しようという。
そこに、民主党の進撃を阻止し、巻き返しを図りたい共和党が同調する。“If we’ re able to stop Obama on this, it will be his Waterloo. It will break him.”(もし、これでオバマを止めることができれば、それはやつのワーテルロー=大敗北になるだろう。やつを潰せる)と意気込んだ。
“Status quo, you know, that is Latin for the mess we’re in.”(現状とは、ご存知の通り、われわれのいる混乱の状態を指すラテン語だ)と指摘したのは、ロナルド・レーガン大統領でした。The Sankei Shimbun (August 24 2009)

The Patient Protection and Affordable Care Act (Public Law 111-148) was signed into law by President Barack Obama on March 23, 2010. Along with the Health Care and Education Reconciliation Act of 2010 (signed March 30), the Act is a product of the health care reform efforts of the Democratic 111th Congress and the Obama administration. The law includes health-related provisions to take effect over the next four years, including expanding Medicaid eligibility for people making up to 133% of the federal poverty level (FPL),[9] subsidizing insurance premiums for people making up to 400% of the FPL ($88,000 for family of 4 in 2010) so their maximum "out-of-pocket" payment for annual premiums will be from 2% to 9.8% of income,[10][11] providing incentives for businesses to provide health care benefits, prohibiting denial of coverage and denial of claims based on pre-existing conditions, establishing health insurance exchanges, prohibiting insurers from establishing annual coverage caps, and support for medical research. The costs of these provisions are offset by a variety of taxes, fees, and cost-saving measures, such as new Medicare taxes for those in high-income brackets, taxes on indoor tanning, cuts to the Medicare Advantage program in favor of traditional Medicare, and fees on medical devices and pharmaceutical companies;[12] there is also a tax penalty for those who do not obtain health insurance, unless they are exempt due to low income or other reasons.[13] The Congressional Budget Office estimates that the net effect of both laws will be a reduction in the federal deficit by $143 billion over the first decade.[14](Health care reform from Wikipedia)

mountain of debt


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

mountainは「山」で、debtは「債務」「負債」「借金」。mountain of debtは文字通り「借金の山」。カタカナ読みは「マウンテン・オブ・デット」。
バブル経済崩壊の尻拭いは政府の役割で、大盤振る舞いの景気対策のつけは、結局のところbudget deficit(財政赤字)という名の借金として残される。その額が小さいうちは問題にならないが、“Mountain of Debt: Rising Debt May Be Next Crisis”(借金の山、増え続ける負債が新たな危機になるかもしれない)とAP通信(7月3日付)は報じている。
アメリカの場合、“The debt soared with the wars in Iraq and Afghanistan and economic stimulus spending under President George W. Bush and now Obama.”(ブッシュ前大統領と今のオバマ大統領の下で、イラク・アフガニスタン戦争と景気対策の支出のため負債は急増した)。1989年に2兆7000億㌦だった連邦政府の債務残高は、2008年には10兆㌦を超えた。
ところが、AP通信の続報(2009年8月13日付)によると、“The annual deficit was already heading above $1 trillion when Obama took office.”(オバマが大統領に就任したとき、すでに年間財政赤字は1兆㌦を超えようとしていた)のが、現実となり、債務残高は今や11兆8000億㌦に。
(注:During the presidency of George W. Bush, the gross public debt increased from $5.7 trillion in January 2001 to $10.7 trillion by December 2008. Under President Barack Obama, the debt increased from $10.7 trillion in 2008 to $14.2 trillion by February 2011.)
オバマ政権は「財政健全化のために医療保険制度改革が重要」と訴えているが、保守派は、その改革が財政赤字をさらに拡大させると、反発を強めた。
しかも、公的年金制度にあたるSocial Security(社会保障制度)が、危機的状況を迎えつつあるという。戦後のベビー・ブーマー世代の大量定年退職が始まり、old-age benefits(老齢給付金)と若い世代のcontributions(負担金)のギャップが問題になり始めているのだ。制度を破たんさせないためには、結局、政府が負担を肩代わりすることになるが、それもまたmountain of debtとなってのしかかることになる。
ワシントン・ポスト(2009年3月29日付)は、“Hiding a Mountain of Debt”(借金の山隠し)の記事で、ブッシュ前政権もそうだが、オバマ政権に対しても“the absence of any serious strategy for paying it all back”(借金をすべて返すための真剣な計画の欠如)を批判。 “The larger price will be paid by your children and grandchildren, who will inherit a future-blighting mountain of debt.”(その大きなツケを支払うのは、あなたの子供や孫である。彼らは未来を打ち砕くような借金の山を相続するのだ)と結んでいる。
オバマ氏は、“This(mountain of debt)is something that keeps me awake at night.”(この借金の山を考えると、夜も眠れない)と真情を吐露しているが、政府の借金の山は、日本にとっても、対岸の火事ではないのだ。The Sankei Shimbun (September 7 2009)



2011年11月17日木曜日

investment porn


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

investmentは「投資」、pornはpornographyの略で「ポルノ」だが、直訳して「投資ポルノ」では何のことかわからない。だが、pornにはlurid or sensational material(けばい、扇情的な材料)という別の意味がある。そこで、investment pornは、投資を煽るような金儲けの成功談をいう。カタカナ読みは「インヴェストメント・ポーン」。
景気の底打ち(bottom out)がいよいよ本物になって、株式市場に活気が戻ってくると、よく聞く質問は、“What are you buying in this market?”で「あなたはこの相場で何を買うのか」、端的に言うと「この相場では何が〝買い〟?」。質問する側が目論んでいるのは、他人の尻馬に乗って儲けようというget-rich-quick scheme(てっとり早い金儲け法)。こうした連中が眼の色を変えて読むのがinvestment porn。株式に限らず、流行のFX、金投資、急成長の某国の投資信託など、儲かるのなら投資対象は何でもOK。
よく似た言葉にfinancial porn(ファイナンシャル・ポルノ)がある。1998年にアメリカの株式市場がバブル相場に盛り上がっていた時、ニューズウィークの編集者が造語。“Short-term focus by the media on a financial topic can create excitement that does little to help investors make smart long-term decisions.”(熱狂を作り出すが、投資家に賢明な長期的決断をさせるには程遠い金融の話題についてのメディアの短期的な焦点)と定義し、「多くの場合、むしろ決断能力を曇らせる」としている。つまり、「誇張やウソがある」というのがpornの本質である。
これと同様のpornの使い方をする新語に、eco-porn(エコ・ポルノ)がある。ecoはecological(環境保護的な)の省略形。企業が自社の環境政策を宣伝する場合、往々にしてeco-pornがはびこる。たとえば、このキャッチ、“For Us, Every Day Is Earth Day”(われわれにとって、毎日が〝地球の日〟)。使われているのが、製材、製紙の組合や土地開発業者などの広告となれば、“Really?”(ほんまかいな)ということになる。
さて、オックスフォード英語大辞典(OED)によると、pornographyの語源は1864年にさかのぼる。pornoは「売春婦」、graphyは「記述」を指し、売春用の品書きを意味した。そこから、性行為の描写を売り物にしたわいせつな読み物や絵画、さらに映像などを意味するようになった。
日本で、著書「チャタレイ夫人の恋人」がわいせつ文書として発禁処分にもなった英作家、D・H・ローレンスは、“Pornography is the attempt to insult sex, to do dirt on it.”(ポルノはセックスを侮辱し汚すものだ)と、真の芸術と一線を画すが、米ポルノ女優グロリア・レオナードは、こう語る。
“The difference between pornography and erotica is lighting.”(ポルノとエロチカの違いは、照明だけよ)The Sankei Shimbun (September 14 2009)

2011年11月16日水曜日

exodus


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

exodusは「出て行くこと」、とくに集団の「移動」「出国」を指す。カタカナ読みは「エクサダス」。集団が大規模になる場合は、mass(多数の)を付けてmass exodus (大移動、大出国)という。
アメリカの国土は広く、何かのきっかけで、ある州から他の州へと人口のexodusが起こる。
かつてゴールドラッシュで人口急増にわき、豊かな州の代表であったカリフォルニア州は、いまや、シュワルツェネッガー知事の下で財政破綻の危機に追い込まれた。実は2000年以降、その異変を察知し、沈む船からネズミが逃げ出すように、California’s exodus(カリフォルニア脱出)が進行してきた。AP通信(2009年1月13日付)によると、2008年7月1日時点で、過去1年間に流出人口から流入人口を引いた純減は14万4000人に上ったという。中南米からの不法移民が増加して生活環境が年々悪化し、長らく住んでいた人々が逃げ出すという現象だ。とくに、数年前は住宅バブルで家が高騰。安い家を求めてアリゾナ、ネバダ州に移る人が多かった。最近は、バブルがはじけて州経済が低迷。そのしわ寄せによる増税と、学校教育の質の低下がexodusに拍車をかけているという。
また、タイム誌(2009年9月2日付)は、“Behind Florida’s Exodus: Rising Taxes, Political Ineptitude”(フロリダ脱出の背景に増税と政治的無能)と報じた。“The region-Miami-Dade, Broward, Palm Beach counties-lost 27,400 residents between 2008 and 2009, while Florida as a whole lost 58,000.”(2008年から09年にかけてマイアミデード、ブロワード、パームビーチ3郡で2万7400人、フロリダ州全体で5万8000人減少した)。同州は人口約1800万人だから比率としては大きくないが、第2次大戦後では初めての現象だ。その背景には、景気後退によるしわ寄せで、マイアミデード郡で財産税を大幅にアップ。また、フロリダ州では、州が運営する保険会社がハリケーンに対する損害保険料を大幅値上げしたことなどが影響しているという。
さて、The Exodusというと“the going out of Egypt”、つまり「出エジプト」。『旧約聖書』第2巻の「出エジプト記」によると、古代エジプトにおいて迫害に苦しんできたイスラエル人が、大預言者モーゼに率いられてエジプトを脱出、約束の地であるカナンに導かれた。その途中、シナイ山で神がモーゼに授けたのが「十戒」である。
「十戒」は英語では、“The Ten Commandments”。アメリカでは、“exodus to freedom”(自由への脱出)とよく言われるが、“Freedom is the will to be responsible to ourselves.”(自由とは自己責任を負う意思=ニーチェの言葉)でもある。そこで、殺されたくなければ“Thou shalt not kill.”(汝、殺すなかれ)、盗まれたくなければ、“Thou shalt not steal.”(汝、盗むなかれ)という律法が生まれるのであろう。The Sankei Shimbun (September 21 2009)

Radiation fears trigger Tokyo exodus

Fears of another earthquake combined with growing alarm about radiation leaks from nuclear plants in Fukushima have triggered an exodus from Tokyo.

Executives with domestic and foreign companies told the FT on Sunday that many expatriate and a number of Japanese staff were intending to relocate, some with their families, either to cities west of Tokyo, including Fukuoka and Osaka, or overseas.

Some foreign companies said their staff would stay away until fears of radioactive leaks and further earthquakes had abated.

Fukuoka and Osaka, both of which have international airports, are favoured destinations for temporary relocation because of the availability of flights abroad, which, one consulting company executive noted, “might be useful if the situation gets worse”.

Most flights from Tokyo to key regional destinations such as Singapore, Bangkok, Hong Kong and Sydney are fully booked for at least two weeks, prompting some nervous expatriates to move their families to hotels in Osaka or elsewhere.The Financial Times (March 13 2011)

shot


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

shotは日本語でも「ナイスショット」などと、そのまま使う。テニスや卓球では「打球」、銃砲やミサイルは「発射」。さらに、一杯の強い酒もshotで、take a shot of whiskey(ウイスキーを一杯やる)などといい、この用法は古く17世紀にさかのぼる。だが、ここではhypodermic injection(皮下注射)を指す。
世界で今最も関心が高まっているのがflu shot(インフルエンザの予防注射)。ワシントン・ポスト(2009年9月10日付)は、“Single Swine-Flu Vaccine Shot Effective, Study Finds”(豚インフルのワクチン接種は一回で効果、研究で判明)と報じた。米国のメディアは、新型インフル(H1N1)のことを今でもswine-fluと呼ぶ。“Preliminary data from a study involving 240 adults in Australia found that a single standard dose of vaccine produced an immune response within 21 days that appeared easily adequate to protect against the new virus.”(オーストラリアで240人の成人で実験した予備データによると、一回の標準ワクチンの接種で、新型ウイルスに対して容易に抵抗できると見られる免疫反応が、3週間以内に生まれた)としている。
一方、タイム誌(2009年9月14日号)は、“A Shot at Cancer”(がんに予防注射)という見出しで、米国でのがん治療の最前線をレポートした。この“New Therapy”(新しい療法)には、がんに対するワクチンの開発が前提となる。その接種よって、“to educate a body to, in essence, recognize and round up tumor cells the same way it polices viruses and bacteria.”(ウイルスやバクテリアを取り締まるのと同じように、本質的に、腫瘍を認知して捕捉するよう、体に教え込む)という。
その原理について、“The immune system may be fooled by the homegrown nature of cancer, recognizing the cells as part of the body.”(われわれの免疫システムは、がんの自生する性質によってバカになっており、がんの細胞を体の一部と認めてしまう)。そこで、ワクチンによって免疫システムを刺激し、がんを見つけ出すように仕向けて、攻撃させようという。うまくいくかどうか。
さて、a shot in the armといえば、「腕に一発」という俗語表現。ここで注射するのは刺激剤で、“Swine Flu Concerns Give Biotechs Shot in the Arm”(新型インフル懸念がバイオテク産業に刺激=サンディエゴ・ビジネス・ジャーナル)などと一般にも使う。だが、注射するのがnarcotic(麻薬)で、“All I need is a shot in the arm.”(腕に一発お願いよ)などとせがむようになれば、これはもう立派なjunky(drug addict=麻薬中毒患者)。待っているのは、ジョン・レノンとプラスティック・オノ・バンドの曲でおなじみ、“Cold Turkey”(冷たい七面鳥=冷汗が流れて、鳥肌の立つような禁断症状)である。The Sankei Shimbun (September 28 2009)

2011年11月15日火曜日

take a hike


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

hikeは-ingを付けてhikingとすると、日本語でも「ハイキング」。つまり、hikeはhikingの原形で、動詞・名詞。オックスフォード英語大辞典(OED)によると、語源は1809年にさかのぼり、walk vigorously(元気よく歩く)こと。タラタラ歩いていては、hikeにはならない。take a hikeはtake a walk(散歩する)と同様の言い方で、「ハイキングに出かける」。ちなみに、どちらも命令形で使うと「失せろ!」という意味になるので、要注意。 カタカナ読みは「テイカ・ハイク」。
ウォールストリート・ジャーナル(2009年9月21日付)は、“Out of a Job, Some Decide to Take a Hike”(職を失くして、ハイキングに出かける人がいる)と、最近のアメリカのoutdoor activity(屋外活動)の様子を紹介している。
だが、ここでいうhikingは、日本での日帰りハイキング(英語ではa day hike)とは違って、thru(or through)-hiking(スルーハイキング)のこと。つまり、長距離を何日もかけて端から端まで踏破するハイキングだ。その典型がAppalachian Trail(米東部のアパラチア山脈にそって南北に縦走する長距離自然歩道)を歩くもので、総延長は2175マイル(3500㌔)に達する。
ジャーナル紙によると、アパラチアン・トレイルを最南端のジョージア州から出発するハイカーは毎春1000人程度。だが、今年は1400人近くに上り、初夏にかけてさらに数百人が加わったという。その中で目立つのは、失業者。
“Hikers say they budget $1 a mile for food and the rare motel stay, making life on the trail cheaper than life in town.”(ハイカーたちは、食費を1マイル1ドルに抑え、ホテル宿泊もめったになく、都会にいるより自然歩道での生活は安上がり、という)。つまり、同じことを都会でやれば浮浪者とみなされるが、“If you do this on the trail, you’re a hiker.”(ハイキング・トレールでやる限り、あなたはハイカーである)。
さて、米国でthru-hikerのパイオニアとされるのが、ロシア移民女性のリリアン・エイリング。カルビン・ラツトラム著の“The New Way of the Wilderness”(荒野の新たな道、1958)によると、1927年夏、ニューヨークで働いていた27歳のリリアンはホームシックに陥り、ロシアへ帰る決心をする。しかし、旅費はなく、ロシアまでざっと1万2000マイルを極力歩こうと決意。シカゴ、ミネアポリスなど北部を歩いて、カナダのブリティッシュコロンビアに至る。そこからアラスカに入ってスワード半島に達し、最後に、シベリアへ向けてベーリング海峡を渡るために、エスキモーと舟の交渉をしているのが目撃されたという…。
“If you are seeking creative ideas, go out walking.”(創造的なアイデアを探すならば、表に出て歩け)と言われるだけに、職を離れたら自分探しの旅に、歩いて出るのも一考である。The Sankei Shimbun (October 5 2009)

go sleeveless


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

sleevelessはwithout sleeves(袖なし)という意味の形容詞。go sleevelessは「袖なしでいく」。つまり、wear sleeveless clothes(袖なしの服を着る)という意味だが、この表現には、腕や肩をたくましく鍛えてあるので、袖なしの服を着ても恥ずかしくない、という含みがあり、いまや女性フィットネスの合言葉になってきた。カタカナ読みは「ゴー・スリーブレス」。
公の場に袖なしのドレスで登場し注目を集めたのが、ミシェル・オバマ大統領夫人。“How to get Michelle Obama’s toned arms and go sleeveless”(彼女のような丈夫な腕になり、袖なしでいく方法=2009年9月6日付のイグザミナー)が、女性の間で大きな関心を呼んだ。
“Women’s Health Magazine”(9月22日付)は、“The First Lady’s Fitness Secrets”(大統領夫人のフィットネスの秘密)と題して、長年の専属トレーナーの話を伝えた。彼女の腕は、1997年以来シカゴのフィットネス・クラブに通い、これまで1872回に渡って、全身をシェイプアップする総合的なトレーニングを積んできたからという。
現在は、“She works out for 90 minutes, 3 days each week. She and President Obama wake up these mornings at 5:30 a.m. to workout.”(彼女は週3回、90分ずつトレーニングする。その日の朝は、オバマ大統領と2人で午前5時半に起きてトレーニングに行く)そうだ。
ジャーナル・ガゼット(9月12日付)によると、“Work Triceps, Biceps for Obama Arms”(「ミシェル・オバマの腕」を手に入れるには、(上腕の)三頭筋と二頭筋を鍛えろ)。flabby and saggy arms(振袖のようにたるんだ腕)を引き締めるには、hammer curls (ダンベルを使う二の腕の運動)などが有効だとアドバイスしている。
ところでオバマ大統領も、バスケットボールだけでなく、fitness enthusiast(フィットネスに熱心な人)である。“Usually I get in about 45 minutes, six days a week. I’ll lift weights one day, do cardio the next.”(通常、私は週に6日間、大体45分やっています。1日はウエイトを上げ、次の日は、カーディオをやります)と“Man’s Health Magazine”のインタビューに答えている。このcardio(カーディオ)は、cardiovascular exercise(心臓血管を強化するための運動)で、aerobic exercise(エアロビクス運動)のこと。つまり、ジョギングやtreadmill(トレッドミル)による運動だ。実は、大統領専用機のAir Force Oneにも、トレッドミルが備え付けてあるという。
さて、世界のリーダーを見渡すと、ロシアのプーチン首相は柔道、フランスのサルコジ大統領はジョッギング(ただし、2009年の夏はジョギング中に倒れたが)など、フィットネス志向はますます強まっている。サミット(首脳会議)もgo sleevelessで、各国首脳が腕っ節の強さを誇示してみせる時代が来ている。The Sankei Shimbun (October 12 2009)