face は顔。detectionは、detective(探偵)と同じ語源で、detect(探し出す、検出する)の名詞形。face detectionは「顔を探し出すこと」、「顔の検出」。カメラが顔の位置を特定し、その部分を四角く囲ってデジタルイメージにスキャンするコンピューター技術のことだ。
実は、1月7日にパリで発生した仏紙シャルリー・エブド襲撃テロ事件以降、フランス国内をはじめ欧州各国の空港や国境、街角のsurveillance camera(監視カメラ)で、テロリスト追跡のためこの技術がフル稼働している。
この技術は、facial recognition system(顔認証システム)の一部で、データーベースにある容疑者の画像と照合し、一致すれば、「それ、犯人逮捕に出動せよ」ということになる。
顔は、指紋や目の虹彩と同じように一人ひとり皆違い、個人を特定するのに最も便利な身体の部分だ。顔を隠して歩く人は民主主義の国では少なく、我々の顔も知らないうちに監視カメラで捉えられている。
おまけに、FacebookなどSNS(social network service)では顔をcoming out(公開)するのが今や当たり前、smartphoneでselfie(自分撮り)してアップするなど、捜査当局にしてみれば、顔を追跡しない手はない、というわけだろう。
2001年1月にスーパーボウルが行われた米国フロリダ州のタンパで、捜査当局は街角に36台の監視カメラを設置し、Faceitというアプリを使って犯罪者を捜査する実験を行い、超満員のスタジアムで19人の犯罪容疑者を特定できたという。
それから14年経った今、世界中の空港、公共施設、ショッピングセンター、さらには地下鉄、エレベーターの中やトイレの出入り口まで、カメラが目を光らしており、face detectionが作動し、我々の顔はスキャンされていると考えてよい。
もちろん、こうした映像を恣意的に使用することはプライバシーの侵害になり法的に問題であるが、現実には顔を隠して外出しない限り、プライバシーを防衛するすべはないのだ。
今回テロ事件が起こったフランスでは、2010年にサルコジ大統領が「フランスでは(全身をすっぽり覆う)ブルカを受け入れない」と主張し、イスラムの女性が公共の場でスカーフで顔を覆い隠すことを禁止した。当時、仏マスコミは「ブルカは女性抑圧の象徴だ」などと賛同の声を上げたが、よく考えてみると、その禁止は信仰と表現の自由という根本的な権利の侵害である。それでも法律は可決、施行された。ここに来て、公共の場にはかならず監視カメラがあることを考えれば、テロ対策だった、と納得がいく。
もっとも、今回のテロ事件で一人残った女性容疑者は、face detectionのフル稼働以前に国外へ逃走、その後シリア入りしたとされるのだが・・・。