2012年4月24日火曜日

win-win


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 
 win-winはカタカナ読みで「ウィンウィン」。win(勝つ)という動詞が2つ並び「勝ち、勝ち」で、双方とも「勝ち組」であることを示す形容詞になる。「状態」を意味する名詞situationを付けて、win-win situationと言えば、まさに「双方に有利な状態」である。
 たとえば、米国人の友達から英会話を習うかわりに、その友達に日本語を教えることで、それぞれ別々に語学学校に通う費用をチャラにできる-という提案はwin-win proposition。
 さて、2008年の米大統領選挙では、共和党の大統領候補はジョン・マケイン上院議員で一本化されたが、民主党の予備選では、ヒラリー・クリントン上院議員とバラック・オバマ上院議員の熾烈な指名争いが続いた。民主党では当初、これほど混戦になると予想した人は少なく、適当なところで決着がつくか、“The joint Clinton-Obama ticket is a win-win-win solution.”(クリントンとオバマが正副大統領候補としてコンビを組むことが、3者に有利な解決策)との妥協が生まれる、と見込んでいたという。3者とは、クリントン、オバマ両氏、そして民主党。だが、両氏のどちらが主導権を取るかが問題となった。そこで、クリントン元大統領が3月初め、オバマ氏に副大統領候補となるよう打診。だが、勢いに乗るオバマ氏は“I’m not running for vice president. I’m running for president of the United States of America.”(私は副大統領ではなく、合衆国の大統領を目指す)と断固拒否、戦いの続行を宣言した。
 win-winと違って勝敗が決まるのがzero-sum(ゼロサム)。一方の得点は他方の失点となり、その総和がゼロという状態。民主党の予備選について言えば、代議員の総投票数は決まっているから、クリントン氏かオバマ氏か、一方が勝てば他方は敗れる。この現状は、zero-sum game(ゼロサムゲーム)だ。この言葉は、20世紀半ばに数学の「ゲームの理論」として登場。その後、拡大しないマーケットでの競争を意味する経済用語としても流行した。だが、実際の経済は成長し拡大するから、zero-sumよりもnon-zero-sum(非ゼロサム)の状況の方が圧倒的に多い。とくに、ビジネスは売り手も買い手も双方に有利となる交渉、win-win negotiationが基本だ。
 では、“How do you do win-win?”(どうやって双方有利にするか?)〝交渉の専門家〟ジム・トーマス氏は著書“Negotiate to Win”(交渉して勝つ)で、そのコツを“To get what you want, you’re going to have to trade for it.”(欲しい物を得ようとするならば、交換できるものを提供すべし)という。もっとも“Another way to get what you want is to take someone outside and give them a real good kicking.”(もう1つの方法は、相手を外に引きずり出して、一発蹴りを入れること)だが、これは〝場外乱闘〟になる。The Sankei shimbun(April 20 2008) 「グローバル・English」はこちらへ

2012年4月23日月曜日

all-you-can-eat



 all-you-can-eatは、カタカナ読みは「オール・ユー・キャン・イート」。文字通りの意味は「あなたが食べられるすべて」だが、単語を全部ハイフンでつなぐと「食べ放題」となる。食べ放題のバイキングは日本でも大流行だが、英語では、all-you-can-eat buffet(ビュッフェ)と呼び、今ではbuffetといえば、食べ放題を指すまでになった。
 米国では、この「食べ放題」がballpark(野球場)にも登場した。大リーグがシーズン入りし、USA  TODAYは“All-you-can-eat seats for 2008”(2008年の食べ放題シート)と題して、サービス内容を紹介している。それによると、今シーズンは大リーグ30球団のうち13球団以上が食べ放題の〝特別座席〟を設置。値段はアトランタ・ブレーブスの30㌦からセントルイス・カージナルスの200㌦まであって、大半は30-55㌦。では、何が食べ放題かというと、ホットドック、ナチョス、ピーナッツ、そしてソフト・ドリンク。高額になるほどハンバーガーやピザなど品数が増えて、一部にはビールの飲み放題もある。
 all-you-can-eat seatsは、オークランド・アスレチックスが2006年にホーム・グランドのスタジアム改修工事にともない、ファン・サービスの一環として設けたのが始まりとされる。昨シーズンは6球団で試験的に行われたが、今シーズンは倍増。席数も格段に増えているという。“A hot dog at the ballpark is better than a steak at the Ritz.”(球場で食べるホットドッグはリッツ・カールトン=高級ホテルのレストランで食べるステーキよりうまい)と言われるぐらい、手に汗握りながらゲームを観戦しつつ、もう一方の手でホットドッグをむしゃむしゃ食べ、コーラをガブ飲みするのが醍醐味だ。いくら食べても飲んでも、値段は同じ。“Baseball and gluttony are two of American’s favorite pastimes.”(野球と大食いはアメリカ人お気に入りの娯楽)というわけだ。
 これに対して、米ダイエット協会(ADA)は“It’s disgusting. Why can’t people just enjoy game and eat sensibly?”(胸が悪くなる話だ。なぜ、ゲームを楽しむだけにして、分別ある食べ方ができないのか?)と渋い顔。 ダイエットや健康問題の関係者は、「食べ放題」に当然批判的だ。米疾病対策センター(CDC)は、「今や米国の成人の3人に1人が肥満という〝危機〟にある」としたうえで、高カロリーの食事をむやみに提供することが肥満を助長すると、口をすっぱくして警告する。
 だが、それでもall-you-can-eatの試みは、減るどころか増える一方だ。なぜか?多くの米国人にとって、何を食べようと自分の勝手だ、というのが本音だから。そこで今日も“Help yourself to all you can eat!”(セルフサービスで食べ放題!)。“Fear of obesity? Mind your own business!”(肥満の恐れ?大きなお世話だ!)The Sankei Shimbun (April 27 2008)

lifelong mate


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 lifelongはカタカナ読みで「ライフロング」。分解すると「人生」の「長さ」で、「一生の」とか「生涯の」という形容詞。mateは「メイト」。「友達」「仲間」のほかに、「対の一方」を意味し「パートナー」のことをいう。lifelong mateは「生涯のパートナー」、あるいは「一生の連れ合い」。つまり、wife(妻)であり、husband(夫)である。
 ライヴサイエンス(2008年4月10日付)は、“Why Beautiful Women Marry Less Attractive Men”(美女がブオトコと結婚するワケ)という見出しで、“Women seeking a lifelong mate might do well to choose the guy a notch below them in the looks category.”(生涯のパートナーを求める女性は、〝ルックス〟で一段落ちる男を選ぶ)との最近の調査結果を報じた。テネシー大学の研究者が、過去半年に結婚した82組のカップルを調べたもので、調査対象は平均20歳代前半。 理由は、“Men place great value on beauty, whereas women are more interested in having a supportive husband.”(男性は美形を重視するが、女性は協力的な夫をより好む)というものだった。
 男性が選んだ美形とは、large eyes(大きな目)、“baby face”(ベイビーフェイス)でsymmetric face(釣り合いのとれた顔)、ウェストとヒップのバランスがいいという〝平均的な美人〟だった。
 一方、協力的な夫とはどういうものか?たとえば、女性側に何か問題が起こった場合、“This is your problem, you deal with it.”(これはお前の問題だ、自分でやれ)などと突き放すのはもってのほか。“Hey, I’m here for you; what do you want me to do? ; how can I help you?”(ほら、僕がいるじゃないか。何をして欲しいの?どうしようか?)など〝男の優しさ〟がなくてはいけない。
 調査は、「女性側がbetter looking(見かけがよい)のカップルの方が概してうまくいっているようだ」とし、「ルックスに自信のない男は、2人の関係の維持に努力する」と見ている。つまり、いい女を手中にし続けるには、いつの時代もそれなりの努力が必要という“Trophy wife”(戦利品としての妻)の論理である。
 さて、米国のカップルはお互いをどう呼んでいるか?Baby(ベイビー)、Sweetheart(スイートハート)、Darling(ダーリン)、Honey(ハニー)などは“gender free”(性差に関係なし)で男女共通。女性向けには、ズバリBeautiful(きれい)、Baby Doll(ベイビー・ドール)、Cinderella(シンデレラ)などがある。一方、男性は、ブオトコでもHandsome(ハンサム)とかMovie Star(ムービー・スター)と呼ばれて悪い気はしない。背が高くマッチョならば、Honey Bear(いとしの熊)。男には強くなりたいという願望があるので、Tiger(トラ)なども琴線に触れるという。lifelong mateであり続けるには、romantic nickname(2人だけの愛称)も大切なようだ。The Sankei Shimbun (May 4 2008) 「グローバル・English」はこちらへ
 

2012年4月12日木曜日

dumb down


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 dumbは、本来は「口がきけない」という形容詞だが、米語では「愚鈍な」「バカな」という意味。これを動詞にしてdownを付けるとdumb down。カタカナ読みで「ダム・ダウン」。文字通りでは「バカでも分かるようにする」だが、必ずしも悪い意味で使われるわけではない。別の言い方はsimplify(単純化する、平易にする)。たとえば、複雑で難しい話題の場合に「分かりやすく説明してよ」と言うのは“Dumb it down for me.”
 dumbの派生語の一つがdummy(バカ)。コンピュータ関連の解説書シリーズ“For Dummies books”(ダミーのための本)はベストセラー。ハイテク用語だらけのマニュアルについて、dumb down the instructions(指示内容を誰にでも分かるように説明する)というのが売り物だ。
 米国の教育、文化、メディアの歴史は、大衆化のための“dumbing down”の歴史でもある。その理由をダム・ダウンすると、「難しいものはダメ」ということ。ヒップ・ホップの世界でさえそうだ。偉大なラッパーのジェイ・Zはいう。“I dumb down for my audience and double my dollars.”(ファンのためにダム・ダウンしたら、おれの稼ぎは倍になる)。「ブルックリンのドヤに生まれ、ガキのころに親父に捨てられ、ドラッグやってムショ暮らし、だがおれにはラップがあったぜ」というわけで、1990年代後半からメキメキ頭角を現し、ブームに乗って一気に頂点に。フォーブス誌によると、2006年の所得は3400万㌦でラッパーのトップ。
 さて、dumb downには、over-simplification(単純化し過ぎ)のマイナス面がつきまとう。たとえば、数学教育において円周率πは3.14159…であるが、dumb downπto be 3(πを3に単純化)すれば、計算は楽にできるだろうが、円周率の本来の意味は理解されないとの批判が出てきた。マスメディアは、大衆受けを狙ってdumb down news for sensationalism(センセーショナリズムのためにニュースを〝面白可笑しく〟する)が、事実が歪曲されて正しく伝えられない危険性がある。インターネット上では、YouTube、MySpace、Wikipedia、そしてブログなど大衆化が一挙に進み、プロや専門家は素人に圧倒され、“the cult of the amateur”(アマチュア信仰)まで各業界に生まれた。だが、“Is the Internet dumbing us down?”(インターネットがわれわれをバカに変えるのか?)との反発があるのも、無視できない。
 そこで登場したのがdumb up。難しくてもいい、文化的、知的レベルを引き上げろ、という意味。“Time to dumb up!”(レベル・アップの時だ)との声が上がる一方、〝改革には痛みをともなう〟と尻込みするのが大勢のようだ。
われわれメディアも、決断の淵に立たされている。“To dumb down or to dumb up, that is the question.”(レベルを下げるべきか、上げるべきか、それが問題だ)
The Sankei Shimbun (May 11 2008)

high prices


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 
 priceはカタカナ読みでは「プライス」。英米の辞書では一般的に“The price is what you pay if you buy something.”(何かを買う場合に支払うもの)で、「代価」と定義される。支払いに使われるのはもっぱら金銭であるから、「価格」「値段」となるわけ。
 米国の最近のメディア報道でhigh prices(高値)という言葉が登場しない日はない。pricesとsをつけたのは、上がっている価格が1つではないからだ。oil(石油)の値上がりにともないgasoline(ガソリン)が値上げ。それに、ガソリン税が追い討ちをかける。 wheat(小麦)、rice(米)、corn(トウモロコシ)などの食糧の値上がりも世界規模だ。単にrise(上がる)といった生易しいものではなく、soar (舞い上がる)、skyrocket(うなぎのぼり)と手がつけられない状態。タイム誌は2008年2月末に“The World’s Growing Food-Price Crisis”(世界的な食糧価格危機)と報じたが、とくに惨状を呈しているのは開発途上国である。米国でfall(下落する)、decline(低下する)のは、home prices (住宅価格)とinterest rate(金利)だけ。
“Who is responsible for these price hikes?”(こんなに何もかも値上がりして、責任者出てこい!)と怒鳴りたくもなろう。
ウォールストリート・ジャーナル紙(2008年4月29日付)は、“High Oil Prices Boost Shell Profit, Offsetting Lower Refining Margins”(石油価格の高騰でシェル石油は、精製の利益低下を埋合せて増益)と報じた(oilにも種類があるのでpriceにsが付く)。今年に入ってから原油価格は最高値を更新し続け、これまでに25%も値上がり。この結果、世界第2位の英・オランダのロイヤル・ダッチ・シェルの第1・四半期(1-3月)の純利益は、昨年同期比で25%増の90億㌦以上となった。
 同紙の5月2日付は、“Exxon’s $10.89 Billion Net Disappoints Investors, Fuels Gathering Political Storm”という見出し。最大手の米エクソンモービルの第1・四半期の純利益は、108億9000万㌦。もっとも、予想よりも少なかったので、投資家をがっかりさせた、というのが前半の意味。それでも日本円で1兆円以上の巨額の利益を上げたのは明白で、国民の不満は増大、政治的な嵐に〝火に油を注ぐ〟というのが後半である。
 実際、ここに来てガソリン税を一時的に〝棚上げ〟にするかどうかが、米大統領選挙戦の大きな争点になりそうだ。
 だが、ロイター通信(4月29日)は、“Bush says no magic wand to lower fuel prices”(ブッシュ大統領は、燃料価格を下げる〝魔法の杖〟はないと語る)と報じた。大統領は、“If there was a magic wand to wave, I’d be waving it, of course.”(振るべき魔法の杖があれば、振るに決まっている)と言ったそうだが、そんな便利なものがあるのなら、大統領も要らないだろう。The Sankei Shimbun (May 18 2008) (注:この記事はそっくり2012年にも通用するところが怖い)