2012年2月27日月曜日

rap


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 rapはカタカナ読みで「ラップ」。ヒップホップの1つであるrap music(ラップ・ミュージック)の略。言語学者のジニーバ・スミザマン女史の著書“Black Talk”(「黒人の話し言葉」1994年)によると、talk-singing(話すように歌う)という“Black verbal tradition”(黒人言葉の伝統)に根ざした音楽と定義。その上で「失業と貧困、抑圧に対する同時代の黒人の答えだ」という。ラップ・ミュージシャンはrapper。
 民主党のバラック・オバマは、2008年の大統領選挙で当選し史上初の黒人大統領となったが、黒人ラッパーたちは選挙の前からいっせいに“Pro-Obama rap song”(オバマ応援歌)を歌い出した。
 ワシントンポスト(2008年8月1日付)は“Rapper’s Shout-Outs Make Obama Skip a Beat”(ラッパーの叫び声にオバマがドキッ)と題する記事で、その辺の事情を伝えている。
 ニューヨーク・ブルックリン出身のジョエル・オーティズは、“Memories / Letter to Obama”(思い出、オバマへの手紙)という曲で、社会問題について語った後、“It’s time for a change, and that change is Obama. Dear future president, I hope you heard this letter”(今や変革の時。その変革こそオバマ。未来の大統領よ、この手紙を聞いてくれたと思う)と歌う。また、同じブルックリン出身のナズは、“Yes, we can change the world.”(そうだ、われわれは世界を変えることができる)というオバマ氏の主張に共鳴、“Black President”(黒人大統領)で、“America surprised us and let a black man guide us.”(アメリカがみんなを驚かせた。黒人がみんなを率いるのさ:過去形に注意)と歌った。
 ここまでは普通。オバマ氏をドキッとさせたのは、同氏の地元、イリノイ州出身のリュダクリスが歌う“Politics”(政治)だ。その中で共和党の大統領候補のジョン・マケイン上院議員について、“McCain doesn’t belong in any chair unless he’s paralyzed.”(マケインは麻痺しない限り、座る椅子はないぜ=つまり車椅子以外は)とマケイン氏の〝高齢〟を揶揄。さらに、オバマ氏の対抗馬だったヒラリー・クリントン上院議員を、“Hillary hated on you, so that bitch is irrelevant.”(ヒラリーはあんた=オバマ氏を憎んでいた。だから、あんな〝あばずれ〟はお呼びじゃない)と非難した。オバマ氏はリュダクリスのファンだったが、その“毒気”ぶりに、広報担当を通じて「こんな歌詞を作って恥じるべきだ」とコメントを出した。
 文化史家ローレンス・レビン著“Black Culture and Black Consciousness”(「黒人文化と黒人意識」1977年)によると、rapの淵源となった黒人のtalk-singingは、奴隷制時代の黒人の即興歌にさかのぼり、彼らは日ごろ白人の前では口にできない心の本音を歌に託したという。偉大なラッパー、ジェイ・Zはこう言う。“I rock with Obama.”(おれはオバマといっしょにノッてみるさ)。The Sankei shimbun (September 7 2008) 「グローバル・English」はこちらへ