Illustrated by Kazuhiro Kawakita |
pro-は「賛成」「尊重」を意味する接頭辞で、lifeは「生命」。pro-lifeは「生命尊重の」という形容詞。カタカナ読みは「プロライフ」。主にhuman embryo(人間の胎芽)とfetus(胎児)を法的に守ろうという主義・主張に用いられる。その狙いはanti-abortion(合法的妊娠中絶に反対)。だが、pro-lifeと聞いて直ちに「妊娠中絶」を思い出すのは、かなりの政治通。多くの人は、説明されて意味を理解しても、何となく腑に落ちないのではないか。pro-lifeは実際、意図的にあいまいな表現にしたweasel word(イタチ言葉)である。
pro-lifeの主張は、もともとキリスト教の道徳観に深く結びつき、保守層に根強い。なかでもカトリック教会は、妊娠中絶を〝自然の摂理に反する重大な罪〟と位置づける。米国では、福音派や原理主義派のキリスト教グループがこれに同調。これらの宗派は共和党の支持団体で、pro-life はレーガン政権下の1984年以来、共和党の綱領に盛り込まれた。
pro-lifeは、政治的スローガンに止まらない。ブッシュ大統領は2001年8月、胎芽から新たなembryonic stem cell(胚性幹細胞)を創り出す研究には政府の補助金を拠出しないことを決定。その後も決定への反対法案に対し、大統領拒否権を2度発動している。その影響は大きく、新たな胎芽の研究利用はストップした。
さて、pro-lifeの反対がpro-choiceで、「選択権尊重の」。これも何のchoice(選択権)なのか、字面から分からないweasel word。“the legal right of women and girls to choose whether or not to continue a pregnancy to term”(子供が生まれるまで妊娠を継続するかどうか、選択する女性の法的権利)であって、「産む産まないは女の権利」と言われてやっと分かる。つまりpro-abortion(妊娠中絶に賛成)の立場である。pro-choiceは言うまでもなく、女性解放運動から生まれた主張。1973年にテキサス州の中絶禁止法に対する違憲訴訟の結果、妊娠中絶を女性の権利と認める憲法判断が下された。民主党はpro-choiceの立場だ。
pro-lifeかpro-choiceか、論争になるや否や、weasel wordsの本領を発揮する。pro-lifeの主張は、暗に対立相手をpro-death(胎児の死に賛成)あるいはanti-life(生命無視)に追い込むのがミソ。また、pro-choiceの主張は、相手をanti-choice(女性の選択権に反対)と批判することになる。ところで、2007年5月、CNNとギャラップの世論調査で、「あなたは pro-choiceかpro-lifeか」と尋ねたところ、CNNの調査では45%がpro-choiceと回答し、pro-lifeは50%だった。一方、ギャラップ調査では、両者の比率はCNNとほぼ反対の結果。世論はまさに2分している。The Sankei Shimbun(December 16 2007) 「グローバル・English」はこちらへ
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