Illustrated by Kazuhiro Kawakita |
dopeは、スポーツや競馬の世界で問題になっている成績を上げるためのドーピング(doping=禁止薬物使用)のdope。カタカナ読みは「ドゥプ」。語源は「濃くしたたるようなソース(sauce)」を意味するオランダ語のdoopで、そこから派生して実に多様な意味を持つに至った。典型的なアメリカ英語で、名詞・動詞として用いる。
アメリカン・ヘリテージ辞書によると、19世紀にはgravy(肉汁、グレービーソース)の意味で使われた。五大湖地方のオハイオ州辺りでは、アイスクリームにかけるチョコレートソースやシロップを指す。ところが、米南部では飲み物のコーラのことで、Coca-Colaの商品名から、dope はcocaine(コカイン)を連想させるようになった。
オックスフォード英語辞書(OED)では、dopeは1889年から黒く粘ったアヘンを意味し、麻薬・薬物の総称になったという。dopingはこれに由来するが、使用される禁止薬物は覚醒剤、コカインなどの麻薬類に止まらず、anabolic steroidなどの筋肉増強剤、さらに赤血球を増やして酸素摂取量を上げるEPOと呼ばれる血液ドーピングなどにも及ぶ。ドーピングが見つかれば、スポーツ選手は選手生命を失うが、見つからなければ〝やり得〟で、検査をめぐってイタチごっこが繰り返される。最近では遺伝子治療の技術を使った、検出不可能な新手のドーピングも予想される。スポーツが本来の意味を離れてビッグ・ビジネスになり、大金が絡むようになったための弊害だ。
dopeには、inside information(内部情報)の意味がある。1901年に、競馬に出走する馬が薬物を使っているかどうか、事前情報を得ることから使われ始め、転じて「勝ち馬の予想」になった。2006年10月、フランスの凱旋門賞レースで日本中央競馬会のディープインパクトが失格になったが、すでに100年以上も前から競馬のdopingは常態化していたのである。ちなみに「情報」の意味のdopeでは、Chicago Readerという新聞に“The Straight Dope“という著名コラムがあり、セシル・アダムスという天才が、読者のどんな問いにも答えてくれるというので人気を博している。
このほか、航空工学の用語として、飛行機の翼に塗る強化用コーティング剤という意味や、電子工学では、半導体製造時に混ぜ物をする、といった使い方もある。いずれもドロッとした粘液的な感じを受けるのが面白い。
さて、d黒人の英語では、dopeは形容詞として用いることがある。これは、比較的新しい用法で、Rap Musicで使われる。その意味は、excellent, wonderful, superb, very enjoyableなどで、coolと同義と考え られる。
Historical Dictionary of American Slang, Random Houseによると、この単語の文献上の初出は1981年で、J.Spencer, in Stanley Rap 301に、Yo, man, them boys is dope...This record is dope. とある。これは、明らかに音楽を指していったもので、This music is dope!という表現はclicheになったようだ。日本語に訳せば、「この音はいけてるネ!」
ただ、言葉は常に変化していく。dopeはすぐに他の物の形容にも使われるようになった。
1989年のHarper'sの3月号には、That studded bra is kinda dope-I could go for that.と出ており、音楽以外のものにも使われるようになった。
最後に、dopeにはstupid person(バカ者)の意味があり、起源は19世紀に遡る。イラクで処刑されたサダム・フセイン元大統領の絞首刑人形が米国で発売され、首にロープが巻きつけてあり、“Dope On A Rope“と書かれたTシャツを着せられていた。一方、ブッシュ大統領の頭部をかたどったヒモ付き石けんも同じ名前で販売され、“The more you use it, the smaller it is.”(使えば使うほど小さくなる)と書いてあった。The Sankei Shimbun(February 4 2007)「グローバル・English」はこちらへ
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