2013年2月26日火曜日

inappropriate relation 不適切な関係とは何か?

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


   inappropriateはappropriate(適切な、適当な)の否定形で「不適切な」。relation(あるいはrelationship)は「関係」。そこで、inappropriate relationは「不適切な関係」。この言葉の前には、sexually(性的に)が〝意図的〟に省略されており、配偶者以外の異性との性的関係を指す場合が多い。
   国際通貨基金(IMF)のストロスカーン前専務理事は、2011年5月にニューヨークのホテルで女性従業員に性的暴行を働いた疑いで逮捕、起訴。その後、女性側の証言内容に疑念が持たれて公訴が棄却された。ストロスカーン氏は9月18日、フランスの民放テレビに出演し、事件の顛末について語った。英インディペンデント(2011年9月20日付)は、彼の発言をこう報じた。“What happened (in the hotel in New York) was more than an inappropriate relation. It was an error…I displayed a moral failing, which was hurtful to my wife.”(ニューヨークのホテルで起こったことは、不適切な関係以上だった。それは間違いだった。私は道徳上の過ちを犯し、妻を傷つけた)。つまり、ストロスカーン氏は、女性従業員と性的関係を持ったことを認めた。その上で、“I will regret it all my life.”(一生後悔するだろう)と述べた。
   さて、「不適切な関係」が一躍世界的に有名になったのは、1998年初めに発覚したクリントン元米大統領とホワイトハウスの研修生モニカ・ルインスキーさんとの不倫スキャンダル。クリントン氏は当初、“I did not have sexual relations with that woman, Miss Lewinsky.”(私は、その女性、ルインスキー嬢と性的関係は持たなかった)と否定した。だが、法廷での偽証容疑で追及されるに至って、同年8月にラジオで国民に演説し、“I did have a relationship with Ms. Lewinsky that was not appropriate. In fact, it was wrong.”(私はルインスキーさんと適切でない関係を持った。実際、それは誤りだった)と白状した。
 以後、この言葉は政治家などが不倫を暴露された場合に、謝罪の常套句となった。

2013年2月23日土曜日

mademoiselle 「お嬢さん」などくそくらえ?

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 mademoiselleは、日本語でも「マドモアゼル」といい、「お嬢さん」と訳される。英語のmissに相当するフランス語の敬称。既婚女性に対するmadameと同様に英語では外来語となった。語尾のeが脱落して英語化しmadamは今も一般的に使われるが、mademoiselleは英語世界では誰もが知っている〝死語〟でとなった。
 米NPR(米公共ラジオ放送)は2011年9月29日、“French Feminists Say 'Non' To 'Mademoiselle'”(フランスのフェミニストが「マドモアゼル」にノン)と報じた。フランスの男女同権運動で今最大の障害がMademoiselleの呼び名であるという。たとえば就活でも、mademoiselleかmadameとかならず問われる。”My marital status is nobody’s business.”(私の婚姻状態が誰に関係があるのか)といいたくなるというわけ。
 女性解放運動の活動家は、"In old days, women went from the domination of their father to the domination of their husband. They were 'mademoiselle' when they were girls and 'madame' when they were married.”(かつて、女性は父親の支配から夫の支配へとゆだねられた。少女のときは「マドモワゼル」で、結婚すると「マダム」になる)と述べ、男性が生涯monsieur(ムッシュー)と呼ばれることを考えると、男性支配の観念は今も社会に根強いと指摘した。
 英ガーディアン(2011年9月30日付ブログ)は、“Does 'mademoiselle' matter? Yes, if you're a French feminist”(「マドモアゼル」は問題なのか?そう、フランスのフェミニストならば)の記事で、“The French debate comes a half a century after British feminists began chafing at being called Miss and started using Ms.”(このフランスの議論は、英国のフェミニストがMissと呼ばれるのにいら立って、Msを使い始めてから半世紀後のことだ)と指摘。だが、フランス語には英語のMs(MissとMrs.の混成語)に相当する言葉がないのが問題であるという。それだけに、フランスではmadame(おばさん)ばかりの社会が来るのか?




2013年2月20日水曜日

Peak people 頂点に達したら後は下り坂さ

Illustrated by Kazuhiro Kawakita



 peakは日本語でも「ピーク」、または「頂点」。peopleは「人々」だが、ここでは「人口」の意味で使う。そこで、peak peopleは「頂点に達した人口」。とくにworking-age people(就労年代人口)が最大になると、その後は少子化や食料、エネルギー不足の影響で減少の一途をたどるという。
 Peak peopleはpeak oil(ピーク・オイル)のアナロジーとして生まれた言葉。peak oilは、米国の地質学者マリオン・キング・ハバートが1956年に発表した米国内の石油生産に関する予測モデルで、生産量は1960年代後半から70年代前半にピークを迎えた後、減少に転じるとした。その後、予測通り1970年ごろピークとなり、再びその生産量を回復することはなかった。
 カナダのグローブ・アンド・メール(2012年2月11日付)は、“The world's losing its workers. How will we compete?”(世界は働き手を失っていく。われわれはどう対処するのか)と報じた。少子化は日本だけの問題ではなく、“Around the world, people are living longer and having far fewer children.” (世界中で人々は長生きするようになり、子供はどんどん少なくなっている)と述べる。その傾向はバングラディッシュやインドネシア、イランにも及び、人口減少への瀬戸際にあるという。“The world is on the threshold of what might be called ‘peak people’.”(世界はいわゆる〝ピーク・ピープル〟の玄関口にある)と指摘した。
 記事によると、現在世界人口の約11%が60歳を超えており、その割合は今後25年で倍増し、その内の6人に1人が80歳を超えるという。とくに、労働市場への影響は大きく、働き手の〝争奪戦〟が起こり、cheap labor(安価な労働力)は過去の物語になる。また、“Peak people will be an age when countries will be competing for immigrants rather than trying to limit them.”(ピーク・ピープルは、各国が移民を制限するよりも、競って受け入れる時代になるだろう)との〝ご託宣〟。移民を積極的に受け入れてきたカナダは、時代に一歩先んじているそうだ。

2013年2月19日火曜日

privacy fears 失って初めて分かるprivacyの大切さ

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 privacyは日本語でも「プライバシー」。オックスフォード英語大辞典(OED)によると、語源は形容詞のprivateで、「公的生活から退いた」という意味。転じて、「私的、個人的な事情や秘密」を指す。fears(恐れ、恐怖、複数形に注意)。privacy issues(問題)、privacy concerns(心配)といえば、最近頻繁に起こる「個人情報の漏えい」によるプライバシーの侵害とぴんと来るが、privacy fearsは、危険性に根拠があるだけに恐い。
 Inquire(2013年2月15日付)に、“Facebook sparks fresh privacy fears with updated Promote feature”(フェイスブックの新しいプロモーションの機能が、プライバシー侵害に対する恐れに火を注ぐ)と書いてあった。中を読んでみると、米ドルで7㌦から10㌦を払うと、友人のアップしたポストを許可なしで宣伝できるという。友人がチャリティ・コンサートなんか計画しているとなると、加勢できるというわけ。ところが、うっかりプライベートの写真をアップしたとしよう。こいつを、知らない人が勝手にばらまけることにもなる。だから、ファイスブックには、パブリックにされてもよい写真以外載せることはできなくなった・・・。
 IT PRO(2013年1月25日付)は、“Microsoft ordered to clarify Skype privacy fears”(マイクロソフトは、スカイプのプライバシー侵害の恐れを晴らせ、と要求)と述べている。米国では2001年の9/11同時中枢テロ以来、司法当局の通信傍受やメールの盗み読みが合法化されているが、プライバシーの保護を求める人たちは、ネットの通信に関わる大手企業のgoogleやskypeにその実情の開示を求めている。マイクロソフトはプライバシー保護に積極的で、かねてからgoogleのプライバシー政策を批判してきたが、skypeを傘下において以来、今度は追求される側に立つことになった。
 ところで、ジャーナリストのボブ・サリバン氏が書いた“Online privacy fears are real”(オンラインのプライバシーの恐れは現実、MSNBC)と題する記事によると、ネット上には、“There are a lot more people tracking you than you think.”(あなたが考えている以上に多くの人があなたを追跡している)というのだ。企業は、消費者の嗜好調査などマーケティングにネットを利用している。また、社会保険番号、クレジットカード番号などのidentity theft(個人情報盗難)も後を絶たない。だが、“Privacy is like freedom. You don’t appreciate it until it’s gone. ”(プライバシーは自由のようなものだ。それが失われるまで、あなたはその大切さが分からない)のが現実だという。
(February 19, 2013)

















2013年2月18日月曜日

Chindia 両雄並び立ちそうにないな

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 Chindiaは、China(中国)とIndia(インド)を合成した言葉。両国をアジアの経済的パワーとして、一体で捉えようとする見解を反映したもの。カタカナ読みは「チンディア」。形容詞はChindian。
 この語が欧米で注目され始めたのは、経済のグローバル化のなかで、中国とインドの経済発展が注目を集めるようになった2004年ごろから。とくに、インドのエコノミストで政治家ジャイラム・ラメシュ氏が著書“Making sense of Chindia” (〝中印〟を理解する=2005)で、中国とインドの協力関係への熱い期待を述べたことが大きい。
 タイム誌(2011年11月21日号)は、“The Chindian Century”(〝中印〟の世紀)と題する記事を特集。“With so many of the world's economies in tatters, the combined might of China and India could spearhead global growth in the coming decades. Are they up to the job?”(世界の多くの国の経済がボロボロになる一方で、中国とインドが力を合わせれば今後数十年間、地球の経済成長を率先して引っ張っていけるだろう。両国は、その仕事に取り組むのか?)という内容である。
 欧州の国家債務危機や先進諸国の景気低迷で、中国とインドに対する期待は大きく、こうした議論が起こるが、一方で否定的な見方もある。
 とくに、両国民の間にある敵対意識。記事のなかで、“To the Chinese, the Indians were poor, superstitious and dirty; to the Indians, the Chinese were crass, godless — and dirty.”(中国人にとって、インド人は貧しく、迷信深く、汚かった。インド人にとって、中国人は粗野で、神を信じず、そして汚かった)と述べ、両国民がお互いに抱いている人種的偏見を紹介。さらに、中印国境紛争に見られるように、両者の間には根強い不信感があると指摘し、中国とインドの経済的な協力関係は、両国の著しい発展に比べると、思ったほどは進展していないのが現実だという。
 インドが力強い“elephant”(象)のイメージであるならば、中国は激しく気を吐く“dragon”(竜)。両雄並び立つのは、容易ではなさそうだ。(December 5, 2011)

2013年2月16日土曜日

occupy 99% protest!


Illustrated by Kazuhiro Kawakita



 occupyは「占拠する」「占有する」という動詞。
 この言葉を、米タイム誌(2011年12月7日付)はTop 10 Buzzwords(トップ10の流行語)の1位に選んだほか、米グローバル・ランゲージ・モニター(テキサス州)も12月6日、2011 Word of the Year(2011年の単語)に決めた。
 NPR(米公共ラジオ)では12月7日、言語学者のジェフ・ナンバーグ氏が、“If the word of the year is supposed to be an item that has actually shaped the perception of important events, I can't see going with anything but occupy.”(その年の言葉が、実際に重要な出来事の概念を表したものとされるならば、私はoccupy以外に考えられない)と述べている。
 9月中旬にニューヨークのウォール街にあるズコッティ公園で、若者を中心に失業問題の解決と格差社会の是正を訴える抗議デモが起こり、“Occupy Wall Street”(ウォール街を占拠せよ)がスローガンとなった。その主張は“We are the 99%.”で、最も裕福な1%の金持ちが富を独占し腐敗していることに、99%の一般大衆が抗議するというもの。これが、occupy movement(占拠運動)となり、Occupy Boston(ボストンを占拠せよ)、Occupy Los Angeles(ロサンゼルスを占拠せよ)など、あっという間に全米に波及。さらにOccupy London(ロンドンを占拠せよ)、Occupy Hong Kong(香港を占拠せよ)と、世界中に拡大した。10月15日付のAFP通信によると、フェイスブックやツイッターでglobal protests(地球規模の抗議)の呼び掛けがあり、同日に北米、中南米、ヨーロッパ、アジア、アフリカの82カ国、951都市で同様の抗議デモが行われたという。
 タイム誌は、“In 2011, occupy became this generation's sit-in, a word connoting peaceful but uncompromising objections to the status quo.”(2011年にoccupyは、この時代の人々の座り込み、現状に対して平和的だが妥協することのない反対の意味を含む言葉となった)と述べている。
 

2013年2月14日木曜日

99% We are the 99%

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 99%(ninety-nine percent)は文字通り「99㌫」だが、定冠詞のtheを付けると、特定の意味になる。米国でこの秋に始まったOccupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ=略称OWS)運動のキャッチフレーズは、“We are the 99%.”。この場合、the richest 1% of Americans(最も裕福な1㌫のアメリカ人)に対して、「私たちは残りの99㌫だ」という意味。99 percentersとかrank-and-file 99 percenters(99㌫の一般大衆)ともいう。
 AP通信(2011年10月26日付)は、“The richest 1 percent of Americans have been getting far richer over the last three decades.”(最も裕福な1㌫のアメリカ人は、この30年間にさらに裕福になった)と報道。その半面、中間層や貧困層の所得は伸び悩んでいるという。1%の金持ちと残り99%との格差の一方的な拡大を背景に、the 99 percent movement(99㌫の人々の運動)という大衆運動が生まれつつある。
 とくに、2008年秋のリーマンショック以来の金融危機で、政府が巨額の公的資金を投入した金融機関は業績が回復、幹部は多額のボーナスを受け取るまでになったが、他方、長引く不況で失業や家を失う者が続出する事態が続く。これら金融機関の中心地であるウォール街への抗議デモOccupy Wall Streetが9月に起こり、さらにOccupy LA (Los Angeles)など全米各地にデモが波及。occupy movement(占拠せよ運動)の流れが出来上がって、今や世界に拡大し始めている。
 英国ではOccupy London Stock Exchange(ロンドン証券取引所を占拠せよ)が2011年10月15日から始まり、抗議デモ参加者が近くのセントポール大聖堂の前でテントを張ったために、聖堂は閉鎖に追い込まれた。BBC(2011年11月3日付)は、“St. Paul's protest 'can stay until new year'” (聖堂前の抗議は新年まで続く可能性がある)と報じた。
 デモ参加者は叫ぶ。“We are getting nothing while the other 1 percent is getting everything.”(他の1㌫がすべてを得ているのに私たちは何も得ていない)。だから、“We are the 99 %.”




2013年2月13日水曜日

doormat  あかんたれってどう訳す?


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 door「扉」の所に敷くmat「マット」で、文字通りの意味は「玄関マット」。だが、ランダムハウスの米俗語歴史辞典によると、“a weak-willed person who is frequently exploited or dominated by others”(他人にいつも利用され、牛耳られる意思の弱い人)を指す。つまり、踏まれても黙っているからdoormatというわけ。
 この意味での使い方は、19世紀半ばの英国に始まるという。doormatは男女ともに形容するが、最近は、米国などで女性が付き合っていた彼氏と別れた理由について、“He is a doormat.”(あいつ、あかんたれ)などと批評する。
 交際するならnice guy(素敵な人、この語も今は男女ともに使う)、つまりfriendly(親切な)、unassertive(控えめな)人物というのが昔から通り相場だが、nice guyは往々にしてdoormatと紙一重であるという。“Nice guys finish last.”(ナイスガイは最後にゴールイン)ということわざがあるように、魅力的なbad boy(悪い男)に先を越されることが多い。“Why do women ignore nice guy?”(なぜ女性はナイスガイを敬遠するのか)
 近年は“doormat disease”(ドアマット病)なる病気があるそうで、nice guyと思われたいばかりに、“I should always do what others want, expect, or need from me.”(他人が自分に望み、期待し、必要とすることは、いつもしなければならない)と考え、他人の評価ばかり気にし、己を見失ってしまう人が結構いるという。だが、せっかく期待した人の評価はdoormatに…。
 “Heartless Bitches International”(心ないあばずれインターナショナル)というカナダの女性のユーモアサイトには、“Self-confident, caring, decent-hearted women find ‘Nice Guys’ to be too clingy, self-abasing, and insecure.”(自信があり、思いやりがあって、上品な女性は、〝ナイスガイ〟を、依頼心が強く、自分を卑下し、自信がないと見なす)という。間もなくバレンタインデーだが、“Doormat, Bleah!”(あかんべー)。

2013年2月12日火曜日

disarray  まったく先が見えない混乱状態



 disarrayは、否定の接頭辞dis-とarray(整列)を組み合わせた語。動詞は、to throw into disorder(混乱させる)という意味。名詞は「混乱」「無秩序」。カタカナ読みは「ディサレイ」。“in disarray”(混乱状態に)の形で用いられることが多い。
 The Fiscal Times(2013年2月11日付)は、"Pope Leaves Financial Disarray in His Wake” (法王の引退の後には財政の混乱が残る)と報じた。ローマ法王ベネディクト16世の引退発表は世界に驚きをもって受け止められた。
 しかしながら、知る人ぞ知る。バチカンの〝金庫〟は混乱の極みという。全世界12億人の信者から多額の寄付を集め、40億㌦の資産を持つとされるが、マネーロンダリングの疑いがつきまとい、イタリア当局は一昨年3000万㌦を差し押さえた。また、昨年5月にはVatileaksと呼ばれるスキャンダルが起こり、法王の執事が逮捕されるにいたって、ずさんな金銭管理と腐敗が明るみに出た。
 カトリック教会は、欧米各国で性的虐待が明るみに出て、賠償金の支払い請求で財政難に追い込まれており、スキャンダルに嫌気して信徒の数も激減しているという。法王が、体力と気力の衰えで、これ以上執務を果たせないというのは、なるほどと思える。
 ところで、ウォールストリート・ジャーナル(2011年7月7日付)は、“Japan nuclear ‘stress test’ plan leaves policy in disarray”(日本の原子力発電所への〝ストレステスト〟の導入計画が政策の混乱をもたらす)と報じた。
 ストレステスト(耐性検査)は、“stricter safety standards needed for nuclear power plants”(原子力発電所にとって必要なより厳しい安全基準)となるもので、政府が運転停止中の原発の再稼働を進める中、民主党の菅元首相が言い出した。“The proposal baffled local governments hosting nuclear plants as to where the central government is headed with its energy policy.”(その提案は、中央政府のエネルギー政策がどこへ向かって行くのか、原発を抱える地元自治体を困惑させることになった)と述べている。このbaffleの語には、to defeat someone's efforts(人の努力をくじく)という意味のほか、語源をさかのぼるとto disgrace(顔に泥を塗る)という含意がある。いったん原発の再稼働を容認した自治体の首長らが受けた仕打ちを表現している。
 再稼働問題は今また、原子力規制委員会の取り挙げた原発立地の活断層の認定をめぐって、一段と混乱に拍車が掛かっている。
 しかも、肝心の福島第一原発の事故処理も遅々として進まず、廃炉への道筋も見えない。国民は、原発問題に関して、何一つ正しいことを知らされないまま時間だけが過ぎていく。まさに、in disarrayである。(July 25, 2011)

2013年2月11日月曜日

off limits と on limits このlimitsは何か?

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 off limitsは「立ち入り禁止」。ハイフンでつないでoff-limitsとすると「立ち入り禁止の」という形容詞。だが、このlimitsは何か、疑問が残る。実は、limitは米俗語で「境界」を表し、複数形はthe premises or region enclosed within boundaries(境界で囲まれた敷地とか地域)のこと。 We found them on school limits after hours.(数時間後に学校の敷地で彼らを見つけた)というように使う。そこで、offを付けて、境界に近づくな、という意味でoff limits。onを付けると、入ってもよろしいで、on limitsは立ち入り自由。
 もっとも、人は禁止が好きなのか、off-limitsがよく使われる。
 たとえば、AP通信(2011年4月21日付)は、福島第1原発の事故に関して“Japan declares 12-mile zone around nuclear plant off-limits”(日本政府は原発の半径12㍄=20㌔の範囲を立ち入り禁止に)と報じた。また、off limitsは議論することを許さない「聖域」という意味でも使う。
 連邦赤字削減の議論が白熱する米国議会では、共和党が“deep spending cuts without any tax increases”(増税なき大幅な支出削減)を求めて大攻勢をかける。それに対してオバマ大統領は、税控除や富裕層に対する優遇税制を含め、すべての予算案を見直す考えを表明した。大統領は7月2日のラジオ演説で、“Nothing can be off-limits, including spending in the tax code, particularly the loopholes that benefit very few individuals and corporations.”(税法上の支出、とくに極少数の個人や企業にメリットがある抜け穴を含め、いかなる支出も〝聖域〟とはしない)と語った。
 Nothing can be off-limits for the reformation.
は「聖域なき改革」であろう。
 一方、英ガーディアン(2011年6月27日付)は、“Human rights not off limits in discussions with China, says Cameron”(人権問題は中国との議論において〝聖域〟ではない、とキャメロン首相は語る)と報道。欧州を歴訪していた温家宝首相はデイビッド・キャメロン首相と会談後、記者会見で中英両国が14億ポンドの商談に合意したと発表した。人権問題を取り上げたか、との質問にキャメロン首相は、“We have a dialogue that covers all these issues.”(両国の対話はこれらすべての事案に及ぶ)と回答。一方、温首相は、“On human rights, China and the UK should respect each other, …engage in more co-operation than finger-pointing and resolve our differences through dialogue.”(人権問題については、中国と英国はお互いを尊重し、…指弾するよりもさらに協力し、対話を通じてわれわれの相違を解決すべきだ)とはぐらかした。“Money talks or not?”― 果たして、金がモノをいったかどうか…。(July 18, 2011)

2013年2月10日日曜日

succeed テロリストの系譜

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 succeed(動詞)、success(名詞)というと「成功する」「成功」の訳語を思い出す。だが、語源はラテン語のsuccedereで、別の英語ではcome after(~の後から来る)。つまり、「あとを継ぐ」「後任になる」が本来の意味である。
 AFP通信(2011年6月16日付)は、“Al-Qaeda names Zawahiri to succeed bin Laden”(国際テロ組織アルカーイダは、指導者ビンラーディンの後継にザワヒリを指名)と報じた。ビンラーディン容疑者は、5月初め米軍特殊部隊にパキスタン北部で殺害されたが、ザワヒリ容疑者は組織のナンバー2。エジプトで1981年に起きたサダト大統領暗殺事件と1997年のルクソール外国人観光客襲撃事件に関与したとされ、“now Washington’s most wanted man”(当今米政府が指名手配リストの第1に挙げる男)という。“Al-Qaeda, it said, would relentlessly pursue its ‘jihad’(holy war) against the United States and Israel.”(アルカーイダは、米国とイスラエルに対するジハード=聖戦を容赦なく遂行するだろう、と語った)とされ、国際テロの続行を宣言した。
 一方、AP通信(6月15日付)は、“Senate committee approves CIA Director Panetta to succeed Gates as secretary of defense”(米議会上院の委員会は、ゲイツ国防長官の後任にパネッタCIA長官を承認)と報道。その1週間前の公聴会で、“Panetta said the killing of Osama bin Laden gives the U.S. its best chance to defeat al-Qaeda since 9/11.”(パネッタ氏は、ウサマ・ビンラーディンの殺害が、9・11以来アルカーイダを壊滅する最高のチャンスを米国に与える、と述べた=同9日付USA TODAY)。そして、インドの共同ニュースPTI(同11日付)は、“CIA chief confronts Pak over collusion with militants”(CIA長官は、武装勢力との結託をめぐりパキスタンと対決)との記事で、パネッタ氏が10日にイスラマバード入りし、ビンラーディン殺害以後こじれたパキスタンとの関係修復に乗り出した、と報じた。7月1日には国防長官に就任、テロとの戦いも続行される。successors(後継者同士)の戦いは永遠に続くのだとうか。(2011年7月4日)

2013年2月9日土曜日

Middle Kingdom  世界中で資源を漁る中国

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 middleは「真ん中の」「中間の」という形容詞。kingdomは「王国」。固有名詞のMiddle Kingdomは歴史用語で、紀元前2000年前後の古代エジプトの「中王国時代」を指す。また、「世界の真ん中にある国」としての「中国」の直訳でformer Chinese empire(昔の中国王朝)を意味するが、近年の経済発展と国際的なプレゼンスの拡大にともない、現代中国もMiddle Kingdomと呼ばれつつある。
 Energy Tribune(2013年1月29日付)は、
“The Middle Kingdom’s Offshore Oil Offensive”(中国は沖合の油田探索に積極的)と報じた。中国は南シナ会での油田開発活動に力を入れているが、“The Middle Kingdom really has no choice.” (中国には選択肢がない)と分析している。
 その理由は、“China’s oil fields are maturing and production has already peaked, leading domestic companies to focus on developing largely untapped reserves in China’s Western interior and offshore field.”(中国の石油埋蔵地帯は開発し尽くして、すでにピークに達している。そこで、国内石油会社はまだ手つかずの西方の内陸部と沖合の海底油田の開発に目を付けている)という。実は、尖閣諸島をめぐる日本への攻勢も〝石油〟が目当てと指摘している。
 タイム誌(2011年6月13日号)は、“China’s mining pit”(中国の鉱山採掘場)の記事で、“Since China will get even hungrier for natural resources as its economy roars ahead, Australia is likely to become more and more dependent on the Middle Kingdom.”(中国は、経済の爆発的発展にともない天然資源を貪欲に求めるようになり、オーストラリアはますます〝中国王朝〟に依存するようになる)と報じた。資源輸出国であるオーストラリアは、中国からの投資を仰いで表題のように中国の鉱山採掘場となり、どんどん輸出を拡大して好景気を迎えているが、このままでは中国経済に隷属させられるのではないかと危機感を抱いている。そこで、市場での中国の専横ぶりを皮肉ってMiddle Kingdomと呼んだ。
 実際、中国の資源漁りは世界各地に及び、英インディペンデント(2011年3月2日付)も“The Middle Kingdom comes to the Dark Continent”(中国王朝が暗黒大陸にやって来る)との記事で、2000年以降アフリカで経済攻勢を強めていると指摘する。
 さて、中国経済を国内で牽引するのが、改革開放で台頭するようになったmiddle class(中流層)。米国のネット新聞ハフィントンポスト(2011年5月20日付)は、“Car crazy China: where ego and anxiety collide”(車狂いの中国:エゴと心配がぶつかるところ)と報道。“Throughout the Middle Kingdom, approximately 20 million passenger cars are sold every year.”(中国では毎年約2000万台の乗用車が売れる)とした上で、中流層の狙いはステータスであり、カネの心配をしながら大型車を買いたがる、と述べる。Middle Kingdom では、middle class脱却の戦いが繰り広げられている。(2011年6月27日)

2013年2月8日金曜日

passport-free 国境がなくなる日がくるだろうか?

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 freeは「自由な」「無料の」という形容詞で、「束縛されていない」状態を指す。ハイフンで名詞の後ろにつなげると「~なしの」という意味になる。たとえばlead-free petrolは「無鉛ガソリン」で、duty-freeは「免税」。そこで、passport-freeは「パスポートなし」で、実際にはパスポートの検査や押印など出入国管理事務の省略を意味する。
 国際化の進展でvisa-free travel(ビザなし=査証免除旅行)はかなり普及。ロシアのモスコウ・ニュース(2011年6月1日付)は、“Visa free Russia by 2014?”(2014 年までにロシアは査証免除に?)と題する記事で、ロシアと欧州連合(EU)が歩み寄り、2014年のソチ冬季五輪には、欧州からビザなしで行けるようになるだろうと述べた。
 さて、トルコのトゥデイズ・ザマン(2011年5月31日付)は、“Travel between Turkey and Georgia now passport-free”(トルコとグルジア間の旅行は今やパスポートなし)と報じた。グルジアは旧ソ連邦の1つで、トルコ東北部で国境を接する。両国間では90日以内の旅行は査証免除だが、“Turkey and Georgia took their visa-free travel policy a step further, initiating a passport-free travel regime under which their nationals will be able to visit each other's country with national identity cards alone.”(トルコとグルジアはビザなし旅行方針を一歩進め、パスポートなし制度を開始、そこで両国民は、国籍証明カードの携帯だけで双方の国を訪れることができる)という。
 一方、EUでは欧州の経済統合にともない、1985年に各国民の自由な移動を許可するシェンゲン協定を締結、国境での検査を廃止している。だが、英国のインディペンダント(5月14日付)は、“Flood of North African refugees to Italy ends EU passport-free travel”(イタリアへの北アフリカからの難民の大量流入がEUのパスポートなし旅行を終わらせる)と報道。チュニジアやリビアでの反政府運動の混乱で生じた難民が、欧州各国へ逃げて不法移民化するのを危惧しての対策だ。
今はborderless(国境なし)の時代というけれども、国境自体はなくならない。
(June 20, 2011)

2013年2月7日木曜日

airborne 空からの攻撃は防ぎようがない

Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 airは「空気」「空中」であり、borneはbearの過去分詞(注:ただし「生まれる」の意味ではbornと綴る)。airborneは、“carried by or through the air”(空気によって、または空中を運ばれる)という意味の形容詞である。初出は17世紀で、鳥などが空を飛ぶことを指したが、20世紀になって飛行機が登場すると、それにも使用。さらに、軍隊の空挺部隊などを指すようになった。
 2011年3月11日の東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、世界中が心配しているのが“airborne radiation from Japan”(日本から飛来する放射性物質)。“Everyday the news stations discuss the effects of airborne radiation drifting overseas.”(毎日のようにニュースメディアは、海外に流れて行く空中放射性物質の影響について議論している)という状況。太平洋を挟んだ米国の西海岸などでも、空中の放射線量の監視を続けているとされる。もっとも、NPR(米公共ラジオ)は5月17日、“Airborne radiation poses minuscule risk for U.S.”(空中放射性物質は米国にとって極少のリスク)と報じた。「放射性物質を運ぶ雲が汚染源となるが、西海岸までは遠く離れているので、その量は少ない」と専門家は話しているという。
 空中を飛んで来るものは、防ぎようがない。そのよい例がairborne allergen(空中アレルゲン、英語の読み方は「アラジャン」)、つまり空気中に飛散してアレルギー(allergy、同「アラジー」)を引き起こす物質のこと。花粉症(pollen allergy)が最もよく知られているが、tree(樹木) grass(草) weed(雑草) hay(枯れ草)などが原因になり、airborne allergy(空中飛散物質によるアレルギー)と総称される。対策は、“Reduce your exposure to airborne allergens, such as pollens.”(花粉のような空気中のアレルゲンへの露出を減らすこと)。一番よいのは、“Stay indoors. Keep windows and doors closed.”(屋内にいて、窓や戸を閉めておくこと)。これは、airborne radiation の対策でもあるようだ。
 さて、airborne attack(空からの攻撃)が成功したのが、米軍特殊部隊による国際テロ組織アルカーイダの指導者ウサマ・ビンラーディン容疑者の急襲作戦。パキスタン北部アボタバードにあった隠れ家を5月初め、4機のヘリコプターで襲撃し、40分の銃撃戦の末に同容疑者を殺害したという。オバマ大統領は、ケンタッキー州フォートキャンベルにある米軍のThe 101st Airborne Division(第101空挺師団)を訪問。ポリティコ(2011年5月6日付)によると、“Paying tribute to the special teams who brought down Osama bin Laden, President Barack Obama told thousands of cheering troops here, ‘Job well done.’”(ウサマ・ビンラーディンを倒した特殊部隊に敬意を払うとともに、大統領は当地で喜びにわく数千人の部隊に「よくやった」と語った)と述べている。(June 6, 2011)

2013年2月6日水曜日

alternative shale gasは環境問題を引き起こす

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 alternativeは形容詞であるが、今では名詞として「代替案」を指すことも多い。オックスフォード英語大辞典(OED)によると、16世紀の終わりには、“stating or offering either of two things”(2つのうちどちらかを提示するか、提供すること)を言った。つまり、「二者択一の」という意味。後に選択肢は2つ以上に拡大する。名詞としての用法の拡大にともない、形容詞はalternateがalternativeの〝代替案〟となってきている。
 中東諸国に広がる反政府運動の余波で原油価格が高騰。しかも、福島第1原子力発電所の事故によって原発の安全神話が崩壊したことで、世界中で石油に代わるalternative energy(代替エネルギー)を模索する動きに拍車がかかっている。
 英BBC(2010年12月21日付)は、“Energy alternative: Shale gas extraction in the US”(エネルギーの代替案:米国でシェールガスの採取)と報じた。shale gasとは、泥が水中に堆積してできたshale(頁岩)から採れる天然ガスで、北米からヨーロッパ、アジア、オーストラリアにかけて広く分布する資源として注目され、米国で採掘が始まったという。
 タイム誌(2011年4月11日号)は、“The gas dilemma”(ガスのジレンマ)との記事で、ペンシルベニア州での採掘の実態をリポート。シェールガスの将来性を認めながらも、“But there’s a catch. It could come with significant environmental and social costs.”(だが、落とし穴がある。それは著しい環境的・社会的な費用がともなう)と指摘した。現行のhydraulic fracturing(水圧破砕)と呼ばれる採取方法では、地中深くの頁岩層に高圧の水を注入してガスを採取するが、その排水が地下水を汚染するなど環境問題を引き起こすという。
 やはりgreen alternative(環境にやさしい代替案)は、solar energy(太陽エネルギー)、wind energy(風力エネルギー)などrenewable energy(再生可能エネルギー)である。
ところで、医療の世界で注目されているのがalternative medicine(代替医療)。世界的に主流である西洋医療に対する代替という意味。complementary and alternative medicine(CAM、補完代替医療)とも呼ばれる。EUオブザーバー・ドット・コム(4月29日付)は、“EU alternative-medicine safety rules will slim down access”(欧州連合の代替医療に対する安全規則で市場アクセスは減少へ)と報道。ここでalternative medicineは漢方薬やハーブ系の薬剤を指すが、EUでは5月1日から安全性のチェックを強化。域内での危険な薬剤の販売を制限するのが狙いだ。
 さて、かつて〝鉄の女〟と呼ばれたサッチャー元英国首相は、free market(自由市場)、free trade(自由貿易)など自由主義経済を強力に推進した。彼女のモットーは、“There is no alternative.”つまり、自由主義経済の「代替案はない」。 (May 30, 2011)

2013年2月5日火曜日

mastermind これが黒幕だ

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 masterは、日本語でも「マスター」、「親方」「名人」などトップクラスの人物を指し、動詞として「支配する」などの意味で使う。mindは、「知性」「知力」。オックスフォード英語大辞典(OED)によると、mastermindは“an outstanding or commanding mind or intellect”(ずば抜けた、支配的な知性)または、そうした知性を備えた人物。本来はよい意味で使われたが、こんな人物が犯罪に加担した場合、とんでもない悪事を企むことになり、今度は悪い意味で「黒幕」になる。また、mastermindは動詞として「黒幕として背後で画策する」という意味でも使う。
 米ABCニュースは2011年5月1日、“Osama bin Laden, hunted as the mastermind behind the worst terrorist attack on U.S. soil, has been killed, President Obama announced tonight.”(米本土での最悪のテロ攻撃の背後にいる黒幕として追われていたウサマ・ビンラーディンが殺害された、とオバマ大統領が今夜発表した)と報じた。米国での最悪のテロ攻撃とは、もちろん2001年の9・11中枢同時テロ事件。それまではMr. bin Laden(ビンラーディン氏)と呼ばれたが、あの事件の容疑者と認定されてからは、“9/11 mastermind”(9・11の黒幕)“terrorist mastermind” (テロリストの黒幕)などと称されるようになった。後者は、事件の実行犯とされる国際テロ組織アルカーイダの黒幕という意味である。
 トルコの英字紙ヒュリエット・デイリー・ニューズ(2011年5月3日付)は、オピニオン面で、“Why bin Laden had his fans?”(なぜ、ビンラーディンにはファンがいたのか)との記事を掲載した。“The death of bin Laden was comforting news for the billions around the world who saw him as the mastermind of terror.”(ビンラーディンの死は、彼をテロの黒幕と見なす世界中の何十億の人にとってほっとさせるニュースだった)。とくにアメリカ人で、9・11の犠牲者の遺族らが歓喜する気持ちは理解できる。しかし、世界はそんな人ばかりではない。“News from Pakistan and Afghanistan in fact indicate quite a few people in those countries mourn for the man, whom they regarded as a hero who bravely stood up against ‘the imperialists’.”(実際、パキスタンやアフガニスタンからのニュースによると、これらの国々ではかなりの人々が彼の死を悼んだ。彼らは、その人を〝帝国主義者〟に対して敢然と立ち上がったヒーローと見なしていたのだ)と指摘した。
 そして、ニュージーランドのサンデー・スター・タイムズ(2011年5月8日付)は、“Osama bin Laden is dead, but the legacy of the 9/11 terrorist attacks he masterminded live on around the globe.”(ウサマ・ビンラーディンは死んだが、彼が企てた9・11テロ事件の遺産は地球全体で生き続けている)と述べた。「テロとの戦い」は終わりそうにない。(May 20、2011)

2013年2月4日月曜日

revolution We ca change the world?

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 revolutionは、一般的に「革命」と訳され、まず政治的革命を連想する。だが、オックスフォード英語大辞典(OED)によると、revolutionの語源は元の動詞がrevolve(回転する)で、“the action or fact, on the part of celestial bodies, of moving around in an orbit or circular course” (天体に関して軌道や円周上を運行する動きやその事実)など物理的な回転(rotation)を指した。政府の転覆を意味するのは1600年代から。さらに“change a thing completely or fundamentally” (完全に、または根本的に物事を変える)という意味でrevolutionizeが登場するのは、18世紀末である。
 タイム誌(2011年2月14日)は、エジプトのムバラク政権崩壊の特集記事を掲載した中で、独裁体制に対する反政府運動をrevolutionと呼び、その本質をdemocracy(民主主義)であると強調した。そして、“Even with counterrevolutionary forces challenging change in Egypt, democracy can still work.”(反革命勢力がエジプトの変革に挑戦したとしても、民主主義はなお機能し得る)と述べた。ここでcounterrevolutionaryは、revolutionary(革命的な)にcounter-(対立する)という接頭辞を付けたもので、democracyを抑圧する立場。民主化運動はアラブ世界全体に拡大し、Arab revolutionと呼ばれるようになった。
 ところで、メディアの世界を席巻するのが、digital revolution(デジタル革命)。これは、internet revolutionでもある。豪シドニー・モーニング・ヘラルド(2011年3月29日付)は、“Fashion embracing, not combating, the digital revolution”(ファッション業界は、デジタル革命と争わず、喜んで受け入れ)と報じた。その内容は容易に想像がつくが、店頭からネットを通じたファッションショウやオンライン・ショッピングへのシフトで、販路を拡大しようということ。
 一方、インドネシアのジャカルタ・ポスト(2011年4月4日付)は、“Energy revolution can power Indonesia if policy barrier lifted”(政策の障害がなくなれば、エネルギー革命がインドネシアに電力を供給できる)という環境派の論評を掲載した。energy revolutionとは、石油などの化石燃料から太陽、風、波などのrenewables(複数形に注意、再生可能エネルギー源)への転換を指す。インドネシアの電力の供給は国民の65%に留まっているが、そのエネルギー革命によって電力不足を補うことができるというわけだ。
 さて、いずれの場合も革命は大きな変化をともなうが、米哲学者のエリック・ホファー(1902-83)は、こう指摘する。“We used to think that revolutions are the cause of change. Actually it is the other way around: change prepares the ground for revolution.”(われわれは、革命が変化の原因であると考えがちだが、実際には逆である。変化が革命の土壌を準備するのである)
The Sankei Shumbun (May 16, 2011)

2013年2月3日日曜日

escape 語源を知れば意味を忘れない

Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 escapeは「逃げる」「のがれる」「脱出する」という動詞で、名詞としても使う。オックスフォード英語大辞典(OED)によると、語源は古ノルマンフランス語のescaper、ex-(out of =外へ)+cappa(cape=フード付きのマント、日本でいうカッパの語源)。つまり、逃げるときに、“get out of one's cape, leave a pursuer with just one's cape”(自分のマントから抜け出して、追跡者にマントだけつかませて置き去りにする)というわけ。
 英ガーディアン(2011年4月25日付)は、“Hundreds of Taliban escape from Kandahar jail”(数百人のタリバンがカンダハールの刑務所を脱走)と報じた。タリバンは、イスラム原理主義者として知られるアフガニスタンの旧支配勢力。2001年9・11米中枢同時テロ以来、国際テロ組織アルカーイダを支援したとして米英軍が〝テロとの戦い〟を開始したが、頑強な抵抗を続けて今に至っている。ところが、米英軍らが拘束したタリバンの戦闘員約480人がトンネルを掘って脱獄。“A spokesman for President Karzai described the escape as a ‘disaster’.”(カルザイ大統領の報道官は脱獄を〝災厄〟だと述べた)という。
 英BBC(同)は、“Taliban reveal details of daring Kandahar prison escape”(タリバン側が大胆なカンダハールの刑務所脱走の詳細を明かす)と報道。その中で「トンネルは360㍍で完成に5カ月かかった」と説明、“The escapees were taken in vehicles to a ‘safe place’.”(脱走者は車で安全な場所に運ばれた)と述べている。
 ここで思い出すのが、1963年に公開されたアメリカ映画 “The Great Escape”(「大脱走」)。これは第2次大戦中、ドイツの戦争捕虜収容所から連合国軍の捕虜がmass escape(集団脱走)した史実に基づいて制作され、日本でもヒットした。
 さて、2011年4月29日には英国でウィリアム王子の結婚式が行われた。それを前に仏AFP通信は、“The great escape: Brits flee royal wedding”(大脱走:英国人はロイヤル・ウェディングを避ける)との記事を配信した。BritとはBritish personの俗語でからかいを含めた言葉。それからして記事のシニカルな意図が透けて見えるが、多くの英国人(?)は、ロイヤル・ウェディングによるロンドンの喧騒を避けてバカンスに出かける計画を立てていたという。このescapeは避難の意味である。
 これがひどくなると、“the tendency to escape from daily reality by indulging in daydreaming, fantasy, or entertainment” (夢想や空想、娯楽にふけって日常の現実から逃げる傾向)が生まれる。これをescapism(現実逃避)と呼び、さらに高じると、立派な病気になるのだ。現実の嫌なことからは誰しも逃れたいものである。しかし、“The best way to escape from your problem is to solve it.”(問題から逃れる最善の方法は、それを解決することである)と付け加えておく。
The Sankei Shimbun(May 9, 2011)