pardonは「許し」。許しを請うという意味で“I beg your pardon.”は、最初に習う英語のフレーズのひとつ。「ごめんなさい」「もう一度言って下さい」など状況に応じていろいろな訳が付く。が、ここでは「恩赦」、とくにPresidential Pardon(大統領の恩赦)。
米国大統領は、海外に軍隊を派遣する権限や、連邦議会で可決された法案が気に入らなければ拒否(veto)する権限などのほかに、絶大な恩赦の権限を持つ。すなわち、弾劾(impeachment)以外、ほとんどどんな犯罪者でも赦免や減刑できる権限を合衆国憲法で保障されている。大統領への恩赦の陳情は絶えず、司法省には専門の“Office of Pardon Attorney”(恩赦法務官室)があり、審査を行っている。
どの大統領も任期の最後の年には寛大になる傾向があり、ニューヨーク・タイムズ(2008年2月4日付)の“Begging Bush’s Pardon”の記事は、ブッシュ大統領の最終年に当たる今年も恩赦への期待が膨らんでいる、と報じた。
ブッシュ大統領は就任当時、「恩赦は公正に行いたい。私の基準は高い上にも高い」と公言し、無闇に恩赦を与えないことを表明した。それだけに、戦後の歴代大統領の中では最も恩赦請願の却下件数が多い。これまで7年間の在任期間に5966件を却下、これはクリントン政権の2倍、レーガン政権の5倍という。2008年1月1日現在、2501件が未審査のままで、恩赦請願者からすれば「大統領はしみったれ」と評判はよくない。
ブッシュ大統領は2007年7月、CIA(中央情報局)工作員の実名漏洩事件で禁固2年6カ月の実刑判決を受けたリビー元副大統領主席補佐官に対し、「実刑判決は重すぎる」として、禁固刑を免除する決定をした。この恩赦には、民主党から権力濫用だとの批判が続出した。
米国史上評判が悪かった恩赦は1974年、ウォーター・ゲート事件で辞任したニクソン大統領に、後継者となったフォード大統領が赦免を与えたケース。この結果、フォード大統領は1976年の選挙で敗北したと言われている。
評判が悪いのは、共和党大統領の場合に限らない。民主党のクリントン大統領は2001年1月、退任直前に一挙に140人を赦免したが、その中に脱税容疑で国外逃亡していた億万長者のマーク・リッチ氏が含まれていた。リッチ氏は、前妻を通じて大統領図書館に多額の寄付をし、ヒラリー・クリントン上院議員にも献金していた、という。このため、恩赦権限を濫用したと批判された。
恩赦はもともと専制君主が行ったもので、恣意的になりやすく、濫用の危険性が指摘されてきた。大統領の恩赦もその弊害を免れない。だが、恩赦権限を制限するためには憲法修正という大手続きが必要だ。民主・共和両党とも自ら権力を手放すわけがないから、“Mr. President, I beg your pardon.”の陳情は続く。The Sankei shimbun (March 9 2008)
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