Illustrated by Kazuhiro Kawakita |
embezzlementは、「使い込み」「横領」「着服」。カタカナ読みは「エンべズルメント」。動詞はembezzle。「横領する人」はembezzler。
embezzlementは、米国のカトリック教会のスキャンダルになった。タイム誌(2007年2月26日号)は“Pilfering Priests”(くすねる聖職者)という記事を掲載、カトリック教会は2002年の児童へのsexual abuse(性的虐待)の事件についで、もう一つの〝危機〟に直面している、と報じた。
embezzleの語源は15世紀、ノルマンフランス語のembeseiller。em-は強調の接頭辞で、古フランス語のbesseller(snatch=強奪する、かっぱらう)に由来。法律の定義からすると、embezzlementはlarceny(窃盗)ではない。委託されたカネや財産を、人の信頼を裏切って自分のために使うこと(misappropriate)。だが、その本質がtheft(泥棒)であることを、語源は明確に物語っている。
タイム誌によると、フロリダ州パームビーチ教区のセント・ビンセント・フェラー教会では、ジョン・スキハン司祭が40年間に渡って勤め、2003年に新司祭に交代。ところが、2005年の会計監査で、新旧両司祭は42年間で860万ドルを横領していたことが分かった。79歳のスキハン司祭は、〝女友達〟に13万ドル以上を渡していたほか、45万ドルもする海辺のマンションを所有していたという。両人は、grand theft(巨額窃盗罪)の容疑で逮捕された。
米カトリック教会のembezzlementはこの事件以外にも、バージニア・コネチカット・ニュージャージー州で相次いで発覚。ペンシルベニア州ビラノバ大学の教会経営研究センターのチャック・ゼッチ所長らが調べたところ、「調査に応じた78カトリック教区の85%が横領を報告、11%が50万ドル以上の巨額に及んでいる」という。
バージニア州リッチモンドのセント・ピーター教会の場合は、日曜日のミサで集める信者らの献金の中から10ドル札、20ドル札が消える。おかしいと思った帳簿係が教会のオフィスに隠しカメラを設置して見張っていたところ、何と60歳の女性事務員が献金箱からカネを盗んでいる現場が撮影された。タイム誌の記事の見出しに使われたpilferという語は、同じ「盗む」でも「小額ずつチビチビ盗む」ことで、ここでは「くすねる」と訳した。embezzleと同様に、15世紀以前に遡る古い言葉だ。思うに、信者からの献金や賽銭といった善意のカネは、大昔から横領され、くすねられて来た証しかもしれない。
ただ、盗んだ司祭の側にも言い分がある。celibate(宗教的禁欲)を強いられ、「セックスも家族も犠牲にして神に奉仕しているのに、報酬が安すぎる」というのだ。教区民は中流以上なのに、聖職者の平均年俸は住居と賄い付きで3万5000㌦。「決して満足できるものではない」という弁解を、神様はいかに聞くだろうか。The Sankei Shimbun(April 1 2007)
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