Illustrated by Kazuhiro Kawakita |
bullshitは、アメリカ生まれの俗語。最も近い日本語は「でたらめ」、あるいは「与太話」。カタカナ読みは「ブルシット」。名詞だけでなく動詞としても使う。間投詞としては、fuckと並んで、日常会話で頻繁に耳にする罵り言葉。日本語でいう「ウッソー!」に当たる。「でたらめを言う人」はbullshitter。
オックスフォード英語辞書(OED)によると、初出は1915年。古いフランス語のboul(欺瞞)が語源で、16世紀ごろからbullと表記されるようになり「たわごと」の意味で使われてきた。
だが、多くのアメリカ人は、bullを「牡牛」、shitは「糞」だと思い込んでおり、“Bullshit!”と間投詞として使うときには、「牛の糞」を連想するようだ。面白いのは、言葉は誤解に基づいて使われても、みんながそう信じればそれなりに通用するようになる。そこからhorseshit(馬の糞)、chikenshit(鶏の糞)などの派生語も生まれた。
英和辞書のなかにはbullshitに、名詞として「うそ」とか、動詞として「だます」とかいう訳を当てているが、厳密には正しくない。
プリンストン大学哲学科のハリー・フランクファート教授は、2005年に“On Bullshit”(ブルシットについて)という著書を出版。その中で「うそをつくためには、真実を知っているという認識がなくては不可能だが、bullshit にはそうした確信は必要ない」と述べている。つまり、bullshitterにとって、自分の言っていることが真実であろうがなかろうが関係ない。「目的を達するためには、うそも本当もごちゃまぜにしてしゃべりまくる」というニュアンスなのだ。
与太話をするのにもノウハウがある。オンライン・サイトの“How to Bullshit”によると、「当意即妙に話す」。じっくり考えていては、相手は〝企み〟を察知して信じなくなるからだ。それから、自分がすでに持っている知識を総動員して、「言っていることはすべて真実であると信じさせ、それから自分の知らないことをあたかも知っているかのように話す」のがコツだそうだ。
そこで、非常に巧妙でもっともらしい与太話をする人をbullshit artistという。作家のロン・シャロー氏は著書“Bullshit Artist : The 9/11 Leadership Myth”(2006年)で、ブッシュ大統領こそがbullshit artistだと指摘する。すなわち、2001年の9.11中枢同時テロ事件の当日、大統領はテロとの戦いのため、ありとあらゆる対策を講じたと信じられているが、実際に動いたのはチェイニー副大統領とホワイトハウスの高官たち。「大統領個人が何をしたかを逐一検証していくと、実はほとんど何もしなかった」と述べている。
だが、政治家は、往々にしてそうした人物が成功するようだ。人の失敗は人の失敗ときっぱりとはねつけ、人の手柄は自分の手柄と断固主張する。誰にでもできることじゃない。The Sankei Shimbun(December 24 2006)