2012年3月24日土曜日

hocus-pocus



 hocus-pocusはカタカナ読みで「ホウカス・ポウカス」。手品師やマジシャンが観客の目をそらすために唱える呪文。そこから、マジックそのものも指し、転じて、「まやかし」とか「インチキ」を意味する。
 最近話題になったのが、米国の人気プロレスラー、ジョン・“ブラッドショー”・レイフィールド氏が発売した精力強壮ドリンク“Mamajuana Energy”(カタカナ読みで「ママジャワナ・エナジー」)。いかにも魔法の呪文のような商品名で、「液体のバイアグラ」と銘打った。彼はプロレスで大成功を収め、金融アドバイザーとしてメディアで大活躍。“Have More Money Now”(もっと金をつかめ)というベストセラーの著者でもある。ニューヨークタイムズ(2008年4月21日付)は、“Selling Chat on Fox, and a Sex-Enhancing Potion on the Side”(Foxテレビでチャットを売りながら〝セックス強化薬〟の副業)との記事で、“Is Mr. Layfield a 21st century snake-oil salesman?”(レイフィールド氏は21世紀の〝スネーク・オイル〟売りか)と問いかけた。snake-oilは、20世紀初めまでアメリカで横行した〝万能薬〟と称するインチキ薬の代名詞。
「ママジャワナ」はもともとドミニカ共和国に伝わるハーブ酒で、レイフィールド氏はこれをノン・アルコールの「精力強壮ドリンク」に作りかえたという。だが、セクシャル・ヘルスの専門家、ニューヨーク大学のA・マッカロー博士は、「ED(勃起障害)には効果はない」と断言、“marketing hocus-pocus”(マーケティングのマジック)と指摘した。それでも、男らしい強さとたくましさに憧れるプロレスファンらは、この1本約5㌦のイチゴ味ドリンクを愛飲し続けることだろう。
 hocus-pocusの出現は17世紀の初め。オックスフォード英語辞書(OED)によると、中世の魔術師が唱えたニセのラテン語という。カトリックの儀式で、ワインとパンをキリストの血と肉体に見立て、“hoc est(enim)corpus(meum)”(これはわが肉体)とラテン語で唱えるそうだが、それがなまった、との説もある。
 これと似ているのがabracadabra(アブラカダブラ)。起源は古いが、英語の世界に登場するのは17世紀末。「ハリー・ポッター」にも出てくる魔法の呪文だ。この文字を逆三角形に並べて書いた羊皮紙を首にかけると、熱病が治るというまじない。さらに、もう1つの呪文がpresto(プレスト)。これも元はラテン語で、「急いで」という意味。
 金儲けに縁のない者には、大金を稼ぐ人たちがマジシャンのように見えてくるものだ。もっとも、冷凍のフライポテトと半導体チップの事業で米国の億万長者となり、このほど99歳で死去したJ・R・シンプロット氏は、現実主義がモットー。“I don’t believe in hocus-pocus.”(私はまやかしを信じない)と断言しているのだが…。The Sankei Shimbun(Jun 15 2008)

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