2012年10月31日水曜日

eat out 俗語の意味には要注意!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 eat outは「外で食べる」で、外食の意味。「オンライン語源辞書」によると、“dine away from home”(家庭から離れてご馳走を食べる)という意味で1933年に登場したという。当時は外食が特別の日に限られていたが、現代のアメリカでは日常のこと。それで、これに対応する言い方としてeat in(内で食べる)という表現もあらわれた。
 クリスチャン・サイエンス・モニター紙(2006年10月6日付)の“Americans opting to eat out”(外食を選択するアメリカ人)と題する記事では、“Eating out is the new eating in”(外食は新しい家庭食だ)という。米国の母親の60%が主婦業以外に職を持ち、その多くが料理をする時間がなくて外食している、といったことがその背景にある。
 コストの面では、以前は材料を買って家庭で調理した方が外食するより安い、と考えるのが常識だった。だが、最近では「自分の時給と家庭で料理に費やす時間を掛け合わせて計算すると、その時間を働いて金を稼ぎ、家族と一緒に外食する方が経済的」とする人が増えているという。まさに“the capitalism of the kitchen”(台所の資本主義)だ。かくして、一般家庭の全食費に対する外食の割合は、一九五五年には平均25%だったが、今では50%を超えたという。
 米レストラン協会(NRA)の統計によると、今年、全米のレストランの総売上は初めて5000億ドル(約60兆円)を突破。また、同協会の調査では、テレビが設置してあるテーブル席を好む客が多いとしており、「顧客はレストランを家庭の延長と見ている」と分析している。
 外食の方が家庭で料理するよりも安上がりと実感できるのは、ファストフード。ハンバーガーのセットメニューでもピザの食べ放題でも、満腹するまで食べて5ドル(600円)以下というのが、今や通り相場だ。しかも、ソフトドリンクは飲み放題というところが多い。だが、ファストフードはトランスファットが問題にされるなど、高脂肪、高カロリーのメニューが肥満の原因になると批判されている。
 また、一般のレストランでも、「出される量が多過ぎる。減らすべきだ」との声が、健康や医療の関係者の間で高まっている。だがレストラン側は、「もし量を減らしたら、顧客から文句が出る」と訴える。健康的な少量メニューはまだまだ遠い先の話のようだ。
 そこで、外食の場合、big eater(大食い)はさて置き、small eater(少食の人)は、left-over(食べ残し)を家に持って帰る習慣が出来上がっている。相当の高級レストランでもその辺を心得ており、to-go box(お持ち帰り用容器)やdoggy bag(犬のエサ用の袋、中身は人間が食べるとしても)を用意している。
さて、最後に一言。eat outには、俗語として女性に対するオーラル・セックスの意味があるので、使用にはご用心。The Sankei Shimbun(November 19 2006)

2012年10月28日日曜日

school bullying 人間はどこまでも卑劣になれる

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 schoolは「学校」で、bullyingは「いじめること」。school bullyingは「学校でのいじめ」。カタカナ読みは「スクール・ブリィング」。米国でもこの言葉が普通名詞化しているのは、いじめが教育現場で深刻な問題となっているからだ。
 動詞のbullyは、more powerfulな(より強い)者がweaker peer(弱い仲間)をverbal harassment(言葉でのいやがらせ)やphysical assault(肉体的攻撃)などでtormentする(苦しめる)ことを指す。学校でのいじめは、手口としてhitting(殴る)、slapping(ひっぱたく)、teasing(からかう)、taunting(あざける)、stealing or damaging belongings(持ち物を盗んだり壊したりする)という直接的な方法と、spreading rumors(噂を流す)とかrejecting or excluding someone(仲間はずれにする)という間接的な方法がある。
全米の6~10年生(日本の小学6年~高校1年)1万5千人以上を対象とした2001年の調査では、全体の13%が他の生徒をいじめ、11%がいじめの対象になり、さらに別の6%がその双方に該当。また、いじめは6~8年生に集中し、女子生徒より男子生徒の間で頻発する傾向があるという。
 学校でのいじめの結果は重大だ。アイオワ州の8年生だったカーティス・テーラー君は、3年間に渡って様々ないじめを受け、1993年3月に自宅で拳銃自殺した。この事件は、著名コラムニストのボブ・グリーンがコラムで取り上げたこともあって、学校関係者に大きな衝撃を与えた。以後、bullyとsuicide(自殺)を組み合わせたbullycide(いじめ自殺)という言葉が生まれた。
 1990年代以降、米国ではschool shooting(学校での銃乱射事件)が頻発するようになる。コロラド州コロンバイン高校での乱射事件(1999年)では、生徒の多くが事件の背景にいじめがあったと指摘。学校でのいじめが暴力をともなう復讐に発展して、大惨事を引き起こすことにもなりかねないのだ。
 いじめは、かつて成長過程の1現象と見なされていたが、メディアが大々的に報じた結果、被害者への世間の同情が高まってきた。最近では、いじめを受けた生徒の家族が、いじめた生徒やその家族を相手取って損害賠償請求訴訟を起したり、学校や教師の監督責任を追及したりするケースが増加している。
 ところで、オックスフォード英語辞書(OED)によると、bullyの語源は中世オランダ語のboeleで、1538年に遡る。sweetheart(愛人)やbrother(兄弟)を表す名詞だったが、17世紀を通して意味が劣化。最後はruffian(悪漢)やpimp(売春婦のヒモ)にまで成り下がり、1710年には「弱い者いじめをする」という動詞になった。「可愛さ余って憎さ百倍」といったところだが、人間は環境に従って堕落し、いかに卑劣になれるかを象徴しているようでもある。The Sankei Shimbun(November 12 2006)

2012年10月5日金曜日

brink 瀬戸際政策とは・・・

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 brinkは「縁」とか「がけっぷち」、あるいは「間際」「瀬戸際」を意味する名詞。カタカナ読みは「ブリンク」。英語ではedge、marginなどと言い換えられる。つまり、ぎりぎりの際どいところという意味だ。この言葉はon the brink of ~、できるだけ短い表現を好む新聞の見出しではtheを省いてon brink of ~で頻繁に登場する。
 たとえば、中東のイスラエルとパレスチナの一触即発の危機的な状態は“On Brink of Explosion”(爆発寸前)などの見出しが躍る。会社が倒産寸前の状態は、on the brink of bankruptcy。
2006年11月7日に行われた米中間選挙の結果、民主党は下院で早々に過半数を制したが、上院では共和党の49議席に対して48議席まで肉薄。無所属の2議席を加えて50とし、激戦のバージニア州の1議席を獲得できるかどうかが過半数制覇の決め手となった。当時インターネットでは、この際どい状況を“Democrats Win House, on Brink of Senate Power”(民主下院に勝利、上院も掌握間際)、“On Brink of Controlling Senate”(上院支配寸前)と表現。その後、民主党は勝利し、上下両院で過半数を制するに至った。
  選挙戦で最大の争点となったのは、イラク問題。投票前の5日、イラク高等法廷はサダム・フセイン元大統領に死刑を言い渡したが、共和党の追い風にならなかったばかりか、イラクはto the brink of civil war(内戦の際)に追いやられた。
 brinkの派生語で、日本の安全保障に重くのしかかるのが、北朝鮮のbrinkmanship。これは「瀬戸際政策」と訳されるが、国際政治で有利な立場に立つために、わざと危機的な状況を演出して交渉相手から譲歩を引き出す戦術だ。金正日総書記の支配する北朝鮮は、1990年代から“Nuclear Brinkmanship”(核の瀬戸際政策)によって、クリントン前政権や日本、韓国を脅迫し米や重油、原子力発電の設備までせしめて来た。
 北朝鮮は瀬戸際政策をエスカレートさせ、ついに2006年10月初めに核実験を強行。その後も、再三にわたって6カ国協議を頓挫させ、ついに2008年10月には、ブッシュ政権からテロ指定国家解除をもぎ取った。北朝鮮は常にto the brink of nuke crisis(核危機の瀬戸際)まで突っ走る可能性があり、予断を許さない。
 brinkmanshipの語源は冷戦時代の1956年に遡る。米国の核抑止政策について、当時のJ.F.ダレス国務長官がbrinkmanshipを提唱、“the ability to get to the verge without getting into the war”(戦争を起さないでぎりぎりのところまで行く能力)と定義したのに始まる。その年に民主党の大統領候補になったアドライ・スティーブンソン氏は、「彼(ダレス長官)が自慢するbrinkmanshipは、われわれを核の深淵の縁に追いやる戦術だ」と厳しく批判した。今日の北朝鮮の瀬戸際政策の本家本元は、実は米国である。The Sankei Shimbun(November 26 2006)

2012年10月4日木曜日

Happy Holidays

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 happyは「幸せな」という形容詞、holidayは「祝祭日」。中世の英語ではholidaiでholy day(聖なる日)、つまり宗教的に重要な日。Happy Holidaysは「幸せな祝祭日を」という挨拶の言葉で、カタカナ読みは「ハッピー・ホリデイズ」。
 この言葉をめぐる米国社会の考え方を知るには、次のジョークがよい。
 A: Hey, Happy Holidays!
    B: Oh my God, you anti-Christian heretic demon!(おやおや、君はキリスト教に反対する異端の悪魔だ)
 A: Uh, Merry Christmas?(じゃあ、メリー・クリスマス?)
 B: There, now Jesus loves you again.(それでこそ、キリストも再び君を愛するよ)
 11月の第4木曜日のThanksgiving Day(感謝祭)から12月25日のクリスマスにかけてホリデー・シーズンだが、お祝いの挨拶言葉をめぐって、ここ10年以上も政治的対立が絶えないのだ。
 クリスマスは、ChristのMass(ミサの儀式)という意味で、言うまでもなくイエス・キリストの生誕を祝うキリスト教の行事。昨今では、米国でも宗教的な意味合いが薄まり、百貨店のプレゼント商戦の印象が濃くなっているが、キリスト教以外の宗教を信じる人たちは当然、「メリー・クリスマス」と声を掛けることにも、掛けられることにも抵抗がある。
世界各国から来た人々が暮らしている米国では、宗教もさまざま。ユダヤ教では、このシーズンにハヌカー祭(Hanukkah)を祝う伝統があり、アフリカ系アメリカ人の間では12月26日から1月1日にかけて、クワンザ(Kwanzaa)という比較的新しい祝祭行事を迎える。こうした他宗教の行事にも配慮した結果、Happy Holidaysという一般的な挨拶が登場。political correctness(差別廃止を訴える政治的正当性)の立場からも喧しく言われるようになり、公立学校や百貨店が率先して、挨拶状などで使うようになった。
 ホワイトハウスも慎重で、カーター、レーガン大統領のころから、あえて「メリー・クリスマス」と書かないholiday cardを送っていたそうだ。その慣例に従って、ブッシュ大統領も2005年末に、“Best Wishes for the Holiday Season”(素晴らしいホリデー・シーズンを)と書いて送ったら、今度はキリスト教の右派から「なぜメリー・クリスマスと言わないのか」とクレームが付いた。
 CNNとUSA TODAY、ギャラップが実施したアンケート調査によると、Happy Holidays派は44%で、反対派は43%、まさに拮抗していた。これは、米国の保守派とリベラル派の対立を象徴しているようだ。だが、この対立はあくまで表向きの政治の話。一般の人々にとっては言い方などどうでもよいことで、みんなで祝日を楽しく過ごすことができればそれでよいのである。The Sankei Shimbun(December 3 2006)

2012年10月3日水曜日

insurgent

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


insurgentは、「暴徒」「反乱兵」。カタカナ読みは「インサージェント」。語源はラテン語で18世紀に遡り、in-はagainst(~に対して)という意味の接頭辞、surgereする(rise=立ち上がる)人で、「反対して立ち上がる人」を意味する。今では、政府に反対して武装蜂起する「反政府分子」を指す。insurgencyは「反政府暴動」だ。
insurgentや insurgencyは2003年のイラク戦争以来、米メディアをにぎわし続けた。とくに“Iraqi insurgency”(イラクの反政府暴動)は、言葉としてすっかり定着。イラク国内の武装襲撃や自爆攻撃は当初、米軍を中心とする連合軍、新政府の軍隊や警察、とくに新たな兵士や警察官の募集現場などが主要な標的にされてきた。「反米」、「反政府」の意思が明らかなだけに、米国の政治家やマスコミは彼ら攻撃者をinsurgentと呼んできた。当事国であるイラク新政府のマリキ首相は、さらにmilitia(民兵)、terrorist(テロリスト)と非難、ブッシュ大統領はIraqi insurgencyに対する米軍の戦闘行為を“war on terrorism”(テロとの戦い)と言い切った。もっとも、ロイター通信は、距離を置いてgunman(ガンマン)と呼び、日本のメディアも、「武装勢力」と呼んできた。
ところが、Iraqi insurgencyの中身となると、非常に複雑で一筋縄ではいかない。
イスラム教には、スンニ派とシーア派の二大宗派がある。世界的に見るとスンニ派が9割を占めるが、イラクではシーア派が多数派、スンニ派は少数派と逆転している。フセイン旧政権を支持したのは、少数派であるスンニ派で、イラク戦争で旧政権が崩壊するとともに〝下野〟。そのためinsurgentは、旧政権を支えたバース党の残党、スンニ派の国粋主義者や過激派、さらに米国に対してジハド(聖戦)を唱える外国からのスンニ派義勇兵などと見られてきた。
 一方、新政府を主導するのはシーア派。その政府軍と米軍の兵士がスンニ派の非武装の民間人まで無差別に攻撃したことで、国内は大混乱に陥った。国連の発表によると、2006年10月には3709人のイラク市民が殺害されたという。11月23日には首都バグダッド東部のシーア派居住地区で、スンニ派武装勢力が自動車爆弾による白昼堂々の大攻撃を仕掛け、450人以上の死傷者が出た。その後も両派の報復合戦が続き、毎月10万人以上が国外へ脱出する危機的な状況が続いた。
 この事態について、イラク戦争開戦時に国務長官を務めたコリン・パウエル氏は11月29日、アラブ首長国連邦で講演した際、“Iraq’s violence meets the standard of civil war.”(イラクの暴力は内戦の段階)と表現した。civil warの定義は「国内の派閥・党派や地域間の紛争」で、ここでは、「シーア派とスンニ派の紛争」。ブッシュ政権はこの見解を否定したが、これを機にイラク駐留米軍の撤退が焦眉の政治課題に浮上した。The Sankei Shimbun(December 10 2006)

2012年10月2日火曜日

autism

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 autismは日本では「自閉症」と訳されている。カタカナ読みは「オーティズム」。
この言葉が最近、米メディアに頻繁に登場するようになった。その背景には患者の増加がある。米疾病対策センター(CDC)の調査によると、新生児の166人中1人に自閉症が見つかるという。この割合は10年前の2倍、25年前の10倍に上ると推定されるから、驚くべきことだ。
 autismは先天的な脳機能障害が主原因で、視覚的な認知能力や言語能力の発達が遅れる発達障害だ。3歳ごろまでに現れ、▽物事への関心が限定され同一行動を繰り返す▽対人関係でコミュニケーションができない▽言葉で自分の意思を表現できない-などの症状が特徴。現代医学では根本的な治療法はないとされ、社会適応するための技能トレーニングが行われている。
 autismの語源はドイツ語のAutismus。ギリシャ語のautos-(自己)と-ismos(状態)を組み合わせた造語で、スイスの精神科医、オイゲン・ブロイラーが「統合失調症患者が他人とコミュニケーションができない症状」を記述するために、1912年に用いた。「自閉症」はこのドイツ語の訳語だが、原語には本来「閉」の意味はない。だが、日本では「自閉」のイメージが一人歩きし、「ひきこもり」や「鬱状態」などと混同され、さまざまな誤解を招いている。
 現在、医学用語として用いられるautismは、1943年に米ジョンズ・ホプキンス病院のレオ・カナー博士が、11人の小児に共通の「他人とコミュニケーションができない症状」を発見したことに始まる。カナー博士は当時、「refrigerator moms(冷蔵庫ママ=子供に冷たい母親)に責任がある」として母親の愛情不足を原因に挙げた。
 しかし、母親の愛情不足説は1960年代に覆され、現在の脳機能障害説への道を開くことになる。その契機となったのが、精神測定学者ベルナール・リムランド博士の研究。ニューヨーク・タイムズ(2006年11月28日付)によると、リムランド博士は自分の息子がautismと診断され、担当の医師から親の愛情不足を責められたのに反発。自ら原因究明に乗り出し、ついに「研究の方向を親から脳に転換する重要な役割を果たした」。
 タイム誌は2006年5月29日号でautismを特集。最近の患者急増について「理由はまったく分からない」としながらも、「早期診断を促進する保健キャンペーンによって、一般の意識が高まっており、昔に比べて多くの子供たちが診断を受けるようになり、患者の掘り起しが進んでいる結果ではないか」と指摘。その一方で、「環境的要因があるのかもしれない」とも述べている。
ただ、疫学研究者の間では、autismの診断基準が現在のように拡大したことが、患者認定急増の大きな要因だとの指摘がある。「自閉症」という日本語訳もこの辺で見直す必要があるだろう。The Sankei Simbun(December 17 2006)