iPodは、米アップル社が販売する携帯型デジタル音楽プレーヤーだが、ここでは象徴的に使われている。oblivionは「忘れること」「忘却」。iPod oblivionは、「iPodによる忘却」。ニューヨーク・タイムズ(7月12日付)の新語欄は、“the inattentiveness of those engrossed with MP3 players, cell phones and other similar devices”(MP3プレーヤーやケータイなどに夢中になり、不注意になること)と説明している。カタカナ読みは「アイポッド・オブリヴィァン」。
iPodは今や広く普及し、日常会話では固有名詞の枠を越えて、普通名詞扱いになってきた。すでに、2002年ごろからiPodder(カタカナ読み=アイポダー)という単語も登場。「iPodを使う人」という意味で、白いイヤホンのコードを耳から垂らして音楽を楽しむ若者たちを指すようになった。
だが、今度は音楽に夢中になるあまり、周囲で起こっていることに気がつかない現象が、divided attention(注意力の分散)として問題になってきた。音楽を聴くだけでなく、ケータイで話しながら、メールをしながら―などの〝ながら族〟の不注意な運転による交通事故が続出するに至って、“Distracted driving is a huge problem in America.”(不注意運転はアメリカで大きな問題である)という状況。distract は「注意をそらす」という動詞で、distracted drivingは、かつては「わき見運転」と訳されたが、今では上記のように「わき見」だけが原因ではないのだ。
ところで、iPod oblivionが問題になるのは、車の運転だけではない。BBCニュース(7月1日付)は、シドニー発で、“How dangerous is it to walk, talk and listen?”(歩き、話し、聴くことはいかに危険か)とのリポートを報じた。その中で、オーストラリアの警察は“iPod oblivion can be lethal for pedestrians and cyclists, alike.”(〝ながら族〟の不注意は、歩行者や自転車に乗る人にとっても、同様に致命的だ)と指摘する。
豪ヴィクトリア州では、近年、歩行中の交通事故による死傷者が増加、その多くが歩行者側の〝ながら族〟の不注意によるという。“Some of the worst offenders are pedestrians who not only listen to music with headphones plugged into both ears, but simultaneously punch out text messages or check e-mails as they pound the pavement.”(最悪の違反者の中には、道路を歩きまわるときに、両耳にヘッドホンを付けて音楽を聴きながら、同時にメッセージを打ったりメールをチェックしている歩行者がいる)という。また、iPodを聴きながら、ペダルをこいでいるサイクリストの事故も増えている。警察官はこういう。“You call it ‘iPod oblivion’, I just call it stupidity.”(あなたはそれをアイポッド・オブリヴィァンと呼ぶが、私は単にそれをバカと呼ぶ)。The Sankei Shimbun
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